あれは確か、半年ほど経った辺りだったろうか。
普段ブロリーが外に出るときといえば、悟空に誘われて修行に行くか俺と買い出しや散策などに出るかで大抵どっちかと共に行動することがほとんどだったんだけど。
この頃からぽつぽつとだが、ブロリーひとりだけで外出することが増えてきた。
元々誰かと一緒じゃないと嫌なんてタイプじゃないし、プライバシーは大事にするべきだから独りになりたい時もそりゃあるだろう。
俺はそう思い、さほど気にも留めていなかった。
そして小説の執筆をちまちま進めつつ、残ったお金をやりくりしながらも減っていく残高にぴぃぴぃ言ってたとある日のこと。
外出から帰ってきたブロリーが、俺の目の前に突如バサッと札束を置いた。
・・・・・はい??
あまりに唐突だったために理解が追い付かず、かじっていたお菓子をポロリと取り落とす。
ぱちぱちと瞬きして、目をゴシゴシしてみて、それでも変わらず目の前に鎮座しているその大金に一拍どころか数拍遅れて俺は盛大にパニクった。
「えまってまってまってまってなになになになにどうしたのこれ!!!??」
テンパっている俺にブロリーは「稼いだ」とただ一言だけ。
「え、えーとえーと・・・と、とりあえずひとつだけ確認・・・!!法に触れるようなことは・・・」
「してない。・・・・・多分」
即答してくれたのは良いが若干不安になる語尾がついているのがなんとも。
なにせあのブロリーである。だんだん倫理観と常識がちょ~っぴりずつでも身についてきているとはいえ、まだまだズレた部分は多い。
仮に『銀行に行ったらたくさんあったから持ってきた』とか言い出しても不思議ではない気がする。いややめてほしいけど。信じたいけども!
「えぇ・・・な、なにしたの・・・・・??」
恐々としながら訊くとブロリーは一度口を開きかけたが、何かを言う前に思い直したのか視線を逸らして濁されてしまった。
え~~~~~気になりすぎるというか不安なんだが~~~~~!?短時間でこんな大金手に入る仕事ってなに~~~??
どうしよう。俺の知らないところでホストとか始めちゃってたら。いやムリか・・・顔面偏差値はバカ高いけど基本他人には塩対応だからな・・・・・。
それから何度か聞きだしてみようとはしたんだが口を噤んだまま、詮索するなと言わんばかりに話題が触れそうになると逃げる。
怪しさはあるものの・・・でもなんとなく後ろめたい感じじゃないんだよなあ・・・・・。なにしてんだほんとに・・・??
嫌がってるのをそこまで突っ込んで暴こうとも思わないので、一旦は探りを入れるのをやめた。
それ以降もブロリーは不定期にだが時折まとまった額を渡してくる。
助かるのは助かるので一応受け取っていたが、念のため極力手はつけないようにとっておくことにした。
モヤモヤしつつもそのまま時は流れ、さらにそこから数か月ほど経った頃。
その日もブロリーは外出してしまって、家にひとりぽつんと残された俺はなんとなーくテレビを眺めていた。
何か面白い番組やってないかなあとチャンネルをくりくり回していたんだが、その途中何か変なものが見えて一度過ぎ去った画面へ戻す。
「・・・んん・・・・・???」
それはどっかでやってる格闘大会か何かの生放送だったんだが、大盛り上がりする会場の中心に妙ちくりんな恰好の奴が映っていた。
2メートル超えてそうな長身の、半裸の男。
細身だが均整の取れた筋肉質な体躯、薄手のスラックス以外には素手に裸足で何も身につけてないんだが・・・、
頭から、でっかい紙袋を被っていた。なんで??
たぶん顔を隠しているつもりなんだろうけど、その・・・あの・・・・・、
・・・どっからどう見てもアレ、ブロリーでは・・・・・?????
思わずポカンとしたまま呆けてしまった。
歓声の中響き渡る実況では『彗星の如く現れた怪人紙袋ーーーッ!!』とか呼ばれてる。画面表示のリングネームは『B』となっているが誰もその名前で呼ばない。いやどっちもそれぞれの意味まんまな名前してんな・・・。
ここ数か月で彼が持ってきた金の正体はこれで察しがついたが、それよりも俺が真っ先に考えたのは対戦相手の心配である。
こ、殺さないよな・・・!?大丈夫だよな!!??
画面の中の怪人紙袋は周囲の野次も歓声も煽りまくる実況も全く意に介さず無視したまま一言も発さない。
対峙している筋骨隆々のでっかいおっさんも中指立てながら大いに挑発かましまくっている。
『今日こそそのズダ袋剥ぎ取ってどんな不細工なツラしてるのか全世界に晒してやらぁ!!』
・・・残念ながらあの下に隠れてるのはドチャクソイケメンだよ。
大して効果もなさそうな煽りセリフだったが、紙袋のほうはその言葉を聞いてピクリと何かに反応したのか辺りを見回し始める。
そしてカメラ、つまりこっちのほうを見ると何やらギョッとしたように少し固まった。
あ~さてはTVカメラ入ってるのに気付いてなかったんだな。お~い見てるよ~。
その様子からすると、普段は放映なんてされない小規模な大会ばかりに参加してたんじゃなかろうか。実際今までは見たことなかったし、なおかつ対戦相手は初対面じゃないっぽいこと言ってたしな。
この世界って、俺がいた世界よりもなんというか『格闘』というものの比重がかなり大きい。
世界チャンピオンであるミスターサタンの人気ぶりも俺からすると異常なほどに見えていたが、各種メディアでの取り扱われ方であったりそのエンタメ性の大きさは相当なものだ。
それに街中でちょくちょくやってるストリートファイトであったりとか、今テレビでやってる大会もそう。世界大会くらいの大きさのものは俺の世界でもあったけど、規模の小さめのものも含めるとその数がめちゃくちゃ多いのだ。・・・みんなどんだけ闘うの好きなん?
そしてそこにブロリーは目をつけたわけだ。まあ、確かに一番らしいっちゃらしい稼ぎ方ではある。
てっきりドカタか何かの日雇いにでも行ってんのかと思ってたが・・・にしては額が大きかったからな。納得。
・・・しかしそれにしても。それにしてもだ。
なんでブロリーってさあ!!!俺の見てないとこでばっかりこーゆー面白いことしてんの!!!???
たぶん本人にとってはボケてるつもりは一切ないんだろうが、俺が目を離した隙に限って愉快なことになっている。
だってこの見た目・・・恐らく自分なりに一生懸命考えたんだろうが・・・・・。
身バレなどで目立つのは避けたほうがいい、というのは普段からよく言っていたことだからとりあえず顔を隠すための紙袋。
いやそもそもなんで紙袋・・・??アレたぶんいつも買い出しでよく行ってるスーパーで商品入れてくれるでっかい紙袋だよな。たしかに被るのに丁度いいっちゃいいけど・・・。あ、片目のとこだけ穴あけてある。
あと下に履いてるやつ、あれなんだ・・・?見覚えはある気がするんだが・・・・・。
・・・あ!!わかった!!!夜寝るときに着てる寝巻の下のとこだけ履いてんだ!!なんで!?
普段外出るときに絶対着ないやつだからか?察するにそうだろう。たぶん。
『なんで?』を十数回繰り返しながら観察している俺をよそに、試合は始まった。
掴み掛ってくるおっさんを華麗に躱し、どてっぱらに拳を一発。セル戦を思い出すなあ・・・いや殺さない?大丈夫?ほんとに。
吹っ飛んでポールに衝突したおっさんは案の定立ち上がれもしない。一撃KOである。
見たところなんとか生きているようでとりあえず安心した。試合時間10秒もなかったぞ・・・。こういうのってエンタメ性重視するんじゃないの?ミもフタもなかったが。
ゴングが鳴り終わるより先に紙袋もといブロリーは颯爽と立ち去っていった。終始一言も発しないし何かしらのアピールも一切無し。
実況の煽りだけがいつまでも延々と続いている。ほぇ~・・・。
一部始終を見届けたあと、即座に俺はネットで検索をかけた。すぐに情報はヒットした。
数か月前からローカルな大会を中心に突如として現れた謎の人物。初回からあの紙袋を引っ被っていたらしく、通称『瞬殺の怪人紙袋』として認知されている。
顔を隠していることに加え、出た試合は徹底して"一撃で"相手を仕留めることを貫いているという。
本来観客を楽しませるため、魅せることを重視するああいう大会においては最初顰蹙も買っていたが・・・圧倒的な強さでそのまま貫き通した結果、"そういうスタイル"のキャラと認識されその風体と共に界隈でのファンから徐々に人気を博しているらしい。
そりゃ見るからにおもしれー男だもんな。その上無敗となりゃ人気も出るでしょ。
ちなみに一撃のみと貫いているところからも見るに、ブロリーは意識的にかなり手加減をしている。俺と共に過ごしてきた一年弱の間、かなり頑張って"普通の生活"を送るべく手加減の練習をしてきたのが目に見えて効果に現れているのだ。
ちなみに家事を手伝ってもらっているのもその一環である。元々飲食の際など、グラスを握り砕いたりもしないし過去によくあげていたりんごだって粉砕していなかったことから無意識レベルでちゃんと力の制御を行えている部分は生活の中で部分的に見て取れていた。だからその範囲を広げて、意識的にも適切な力加減を調整できるように日常の中で慣れさせつつ訓練していたんだ。
・・・そういや結構前に、樹の幹をへし折らないギリギリのパンチに成功したのを喜んでいたことがあった。時期的にはあの後からだな、たぶん試合出始めたの。
これまでの試合での対戦相手も皆、あばら全折してたり全身複雑骨折になったりで病院送りにはしているが今のところ死者は出ていないようだ。なんとか上手くやっているらしい。
以上の情報にひと通り目を通し終え、なんだか不思議な感慨深さにしみじみする。
ブロリーはブロリーなりにがんばっていたんだなあ・・・。
しかし俺に対して言い出せなかったあたり、ブロリーにも一応恥ずかしいという感情はあったということだろうか。意外だ。
だって普段暮らしてて素っ裸見ちゃった時でも普通に堂々としてたのに。いやカテゴリが違うってことか・・・?まあこれも情緒が成長してきた一面ではあるんだろう。うんうん。
そしてそれから数時間の後、帰宅したブロリーは少し気まずそうな顔をしながら開口一番に訊いてきた。
「・・・・・見たか?」
「うん」
ニュアンス的には『見てくれたか?』ではなく『見てしまったのか』だろう。
頷くとさすがに観念したように溜息を吐いた。
「・・・まあ、そういうことだ」
「あやしいことしてるわけじゃないってわかってあんしんしたよ」
見た目はだいぶあやしいけどな。
そこは言及しないでおこう。本人は精一杯考えてかんばってんだから。
お金の出所もハッキリしたし、やましいものではないとちゃんと判ったのでそれ以降は受け取ったお金も活用させてもらうことにした。
かなり心許なくなっていた資金は潤ったし、俺が本を出すときにも助けになってくれたので感謝しかない。
ちなみに怪人紙袋は普段ファンサも交流も一切せず、インタビューなどにも全く答えない。試合のときも終われば即座に帰るしでとり付く島もなかったようだが、大会関係者のあちこちからせめて連絡先だけでも開示しろと詰められていたらしい。
そこで適当にメールアドレスをひとつ作って俺が管理することにした。
取材の申し込みだのテレビの特集番組に出てくれだのそういう連絡は全てお断りして、ちらほら来る大会への参加招待だとかそういう試合関連ものにだけ反応を返す。
そして出る大会の取捨選択にも俺も一枚噛ませてもらうことにした。
ブロリーが格闘関連の大会に出ているとわかって、懸念した事柄のうちのひとつがミスターサタンのこと。
ここまで好成績を出し無敗の人物として名前が広まり続ける現状、放っておけば世界チャンピオンであるあのおっちゃんともいつかはぶつかる羽目になる。
今のところは小規模な大会ばかりに絞って出ているため、まだ躱せているが時間の問題だ。
仮に闘うことになれば、当然ブロリーが圧勝するに決まっている。
そしてミスターサタンの名声には陰りが出るだろう。・・・正直、それは避けたい気持ちがあった。
原作ファンとしてミスターサタンにはヒーローでいてほしいと思ってしまったし、それに実問題としてブウ編への影響も懸念される。
だから、出来る限り・・・というか極力一切サタンとブロリーがバッティングしないよう、ある程度俺のほうで調節できるところは調節させてもらった。
しかしなかなか思うようにはいかないもので・・・ブロリーもそうだがなにより周囲はそんな背景事情は一切知らないため、怪人紙袋の名声が上がるにつれて各種メディアがそれはもう煽り散らしてくれたのである。
無敗のその成績からミスターサタンに匹敵するだのなんだので対戦を望む声も上がり始め、なによりそういう騒ぎが目に入ってしまったのか当のミスターサタンにこっちを認知されてしまった。
意図的にサタンを避けていることも察してしまったのか、向こうは『いつでもかかってこい』的なスタンスでこっちを煽ってくるがなんとか回避し続け徹底的に無視を続けることさらに数か月。
移住してから一年半と少しくらい経ったあたりで俺のほうの収入が完全に安定し、ブロリーの稼ぎが必要なくなったところで彼は試合に出るのをすっぱり辞めた。
怪人紙袋、正体不明のまま引退である。
その去り際もさっぱりしたものだった。
最期の試合が終わったとき、普段応じないインタビューのマイクを奪い取り『これ以降一切試合には出ない』と一言だけ宣言してそれっきり。
理由も何も一切明かさず、痕跡も全て消して表舞台から姿を消した。
嵐のように突然現れて嵐のように突然去ったその謎過ぎる無敵の怪人に界隈ではずいぶんと騒ぎになっていたようだが、ブロリーはネットには疎いし俺も一切連絡を返すこともなくそのまま人々の記憶から風化して消えてくれることを願って放置することに。
稼ぐ必要がなくなり、ブロリーはまた悟空と修行しつつのんびりするだけの平穏な生活へ戻った。
―――――以上が、俺達の金銭事情に絡む一連の出来事である。
てんやわんやしつつも、今は再び穏やかな日常に戻ることが出来た。
このままブウ編まで何事もなく過ごしていけたらいいんだけど・・・。
・・・そんなことを考えていたのがフラグになってしまったのかどうかはわからないが。
俺達二人にとって重大な転機となる出来事が、すぐそこにまで迫っていた。
次回はシリアスめになるはず。たぶん。