二人を送り届けた後、トランクスが刻蔵庫へ戻るとそこには背を向けて伸びをする時の界王神の姿があった。
「ん~~~~~・・・・・あぁ、おかえりなさい。ちゃんと送ってきてくれた?」
「はい、つつがなく。時の界王神様もお疲れ様でした」
労うようなトランクスの様子に、時の界王神は軽く溜息を吐く。
「ほんと、妙に気疲れしちゃった。・・・でも良かったわ、土壇場でワガママ言い出すような子じゃなくて」
「・・・そんな人には、思えませんでしたが」
「普段はそうね、ちゃんと自制心も持ってる人物だってわかってるけど。あの子、ブロリーのことになると手段を選ばなくなりそうな危うさもあるから」
「ああ・・・しかし、それはこちらが危害を加えようとした場合のみじゃないですか?そこまで心配するほどのことでしょうか」
「万が一ってことも一応あったもの。時間移動の件だって、気軽にはもうしないって約束してはくれたけど・・・逆に言えば何かしらの危機が訪れて、必要に駆られればその限りではないってことだし。仮にそれがあのブロリーの生死に関わる事態ともなれば、もう考える余地すらなく実行するでしょう。さっきの話が少しでもストッパーになってくれたらいいけど」
「・・・今のところ、そんな様子は・・・・・」
トランクスは出しっぱなしになっていた巻物を台座の上で軽く広げた。
"正しい歴史"を歩んでいる現在、特に改変などの異常は見受けられず・・・その歴史の中でも、シロが時間移動に手を出そうとする様子は見られない。
「あくまで、『今のところ』っていうのがミソね。彼女の周りではまだまだ何が起こるかわからないから、注視だけはしておかないと」
「はい。・・・あの、時の界王神様。ひとつ気になったんですが」
「なに?」
「先程のお話で、正しい歴史そのものがシロさんの存在を含んだ内容へ再編された・・・と仰ってましたよね。ということは、元々オレがいた・・・人造人間に荒らされていたあの時代にも、彼女は居たんでしょうか。タイムマシンで過去へ行くまで、全く見かけたことすらなかったんですが」
首を傾げるトランクスに、時の界王神は何ら隠すこともなく頷いてみせる。
「もちろん。ただ、あの時代に地球へは来ていないから会う機会も無かったのよ」
「となると、宇宙のどこかに?」
「ええ、ブロリーとパラガスと一緒に放浪の旅に出たみたいね。パラガスの目的はベジータ王子への復讐と地球への拠点作成だったでしょ?でも計画を実行しようと地球に行ったときにはもう人造人間によって地球はどこもメチャクチャだし、肝心のベジータ王子も既に死亡しているしで・・・計画はそこで頓挫したからそのまま引き返して、三人揃って別の道を歩み始めたってワケ」
「・・・そうだったんですか。確かに、ブロリーさんは計画へは反対していたようですしね」
「そういうこと。まあ、向こうは向こうで元気にやっているわよ」
それ以上のことは時の界王神はトランクスへ伝えることは無かった。
タイムパトロールの職務に身を捧げた彼は、恐らく元の時代へ戻ることはもう無い。とはいえ、その未来に関わる事柄についてはひとまず伏せておいたほうが良いだろうと思ってのこと。
彼の元居た時間軸でのシロは、ただアテもなく旅に出たわけではなかった。
宇宙のどこかにある、"とある星"を探しているのだ。
彼女がそれを見つけたとき、荒廃した地球も居なくなった人々も・・・その全てが息を吹き返し、状況が劇的に変わる。
・・・しかし、それをトランクスが目にすることは恐らく無い。
もし改変があの歴史にも及べば介入することもあるかもしれないが、今のところはそれも無さそうだ。
話を終えた二人は片づけて職務へ戻ろうとするが、そのさなか広げられたままの巻物へ目を落としたトランクスがぽつりと呟く。
「・・・でも、本当に今日の内容を伝えて良かったんでしょうか」
「何が?」
「今のこの流れが"正しい歴史"なのだということは理解しています。・・・しかしこのままだと、あの二人はいずれ・・・・・」
「・・・まあ、気持ちはわかるけどね。私が彼女にあの内容を伝えること、それを織り込んだ上で今の歴史は成り立っているわ。・・・そこから意図的に何かを変えようとするのは、あなたであっても許されないことよ」
・・・"正しい歴史"というのは、その内容の良し悪しで決まるものではない。あくまで、"定められた本来の流れから外れていないかどうか"ということだ。
わかっているはずでしょう?と少し困ったように肩を竦める時の界王神へ、トランクスは眉尻を下げたまま頷いた。
そして今度こそ、出しっぱなしにしていた巻物を片付けにかかる。
―――――そこには、あの二人の行く末。そう遠くない未来のどこかで、"少女の首へ手を掛ける青年の姿"が映し出されていた。
そんなことは露知らず、当の二人はといえば。
「めーがみっさまーーー!!こっちむーいてーーーーー!!!」
とある山腹の開けた場所。
家の傍らで空へ向かって大声で何かを叫んでいる少女と、それをどこか生暖かい目で見守っている青年がひとり。
「くそぅ、ぜんぜん反応なしッ・・・!!」
「・・・もうそろそろいいんじゃないのか?」
「やだぃやだぃ!まだあきらめないもん!!わたしならできるって時の界王神様もゆってたもん!」
ぴー!と駄々を捏ねているシロへ、ブロリーは「いや、そうではなく」と自身が火の番をしていた足元の焚き火を指した。
「え?あ、ほんとだ焼けてる・・・たべよ・・・・・」
火に充てていた銀色の塊を取り出して開き、出来たてほやほやのジャガバタやらキノコのホイル焼きやらを二人でハフハフしつつ齧り付く。
季節は秋へと移り変わり、いろいろと豊富に手に入り始めた山の幸をせっかくだからと今日はキャンプ飯風にして堪能しようという試みだ。
あちぃよぅ美ん味いよぅとぼやきつつも舌鼓を打つ少女の姿に、ブロリーは内心思うところはありつつもそれを口には出さずただ自分のぶんを咀嚼していく。
・・・件のタイムパトローラーとの話し合いから、およそひと月ほど。
シロはあれ以来、日常の中で暇を見つけては試行錯誤という名の奇行を繰り返していた。
上位存在とのコンタクトをとれるのは自分だけだと言われはしたものの、肝心のその方法がわからない。
時たまこうやって空に向かって呼び掛けてみても応答は無いし、定番である夢の中での邂逅なども特にそれらしきイベントが起きる気配もなかった。
「せっとあっぷー!こんふぃぐー!!しすてむせっていーーー!!!」
そして、ブロリーからすればわけのわからない呪文のようなナニカをしきりに叫んでいるその様子にもすっかり見慣れてきたとある日のこと。
偶然にも正解をひいたのか、"それ"は唐突に訪れた。
どの単語が引っかかったのかはわからないが、世界の時が凍り付く。
「・・・え、あれ?」
周りの景色が固まったかと思ったのもつかの間、一瞬の後には気付けばシロはどこかの真っ白な空間にいた。
忘れもしない、転生したあの時と似たような場所。
ぱちぱちと瞬きしながら見回してみると、すぐに見覚えのある女性の姿が目に付く。
「・・・あら。お久しぶりですね」
「あー!!やっと会えたー!!ごぶさたしてます!!」
駆け寄るシロに、白い装束を身に纏った女は無表情ながらも意外だとばかりに呟いた。
「何かご用でしょうか」
「あの、もらった転生特典・・・不老不死を無効化したいんですけど」
「設定の変更ですね。承りました」
淡々と事務的に、女は空間に浮かぶ何かの画面を操作していく。
まるでゲームか何かの設定変更でもするかのようだ、とシロはどこか釈然としない面持ちでそれを見ていた。
「三つのうちのひとつ、不老不死をオフ。それでよろしいですね」
「・・・はい」
「一応注意事項としましては、無くなる代わりに別の能力を付与することなどは出来ません。あくまでひとつの枠を潰すことになります」
「だいじょうぶです」
「それと、不老不死に付随していた状態異常無効も共にオフになりますので。毒物や病気・・・貴女の場合は水中や宇宙空間なども気をつけるべきでしょうね。これまでのように気軽に宇宙に出たりするとすぐに死にますよ」
「は、はひ・・・・・」
割と軽いノリで宇宙へ転移したりブロリーの攻撃でぶっ飛ばされたりしていた過去のあれこれを思い出し、もう絶対にしないと心に誓う。
「とはいえ、ダメージ無効はそのままですから多少の無茶はきくでしょうけど。一応気には留めておいてくださいね」
「わかりました」
「以上でよろしければ、リビルドを行います。実行してよろしいですか」
「りびるど?」
「簡単に言えば、再度の転生・・・生まれ直しです。新たな親元で新たな人生を歩みなおすか、先程までの時間・場所にそのまま戻すかお選びいただけますが」
「え!?あ、さっきまでの場所でおねがいします!ていうか先に言ってよそんな大事なこと!」
「訊かれませんでしたので。それでは、実行しますね」
なんか前に転生するときもそんな感じだったよなあ!?とクレームを口にするも女はあくまで淡々とした調子を崩さないまま。
真っ白い光に包まれ、霞む視界の中で「また何かあれば遠慮なくどうぞ」という言葉が聞こえたのを最後にシロは意識を手放した。
・・・思ったよりも随分あっけなく目的を達成できたことに、言いようのない不思議な感覚をおぼえながら。
―――――あまりに突然のことに、ブロリーはただ困惑のさ中に居た。
いつものように空へ向かって叫んでいたシロの姿が、彼女の気と共に唐突に消えたのだ。
転移でどこかへ移動したわけではない。全神経を集中して探ってみても、この世界のどこにも気を感じられないのである。
そして消えた少女の代わりに、見たことのない異様な光が上空を満たしていた。
ほぼ直感で、シロはあそこに居るのだろうと確信したブロリーは落ち着かない様子でそれを見上げている。
そうしているとどれくらいの時間が経った頃か、ふいに一粒の光が空からブロリーの元へゆっくりと落ちてきた。
思わず手を伸ばしそれに触れると、光は布にくるまれたひとりの赤ん坊へ姿を変える。
とても小さく、両手のひらの中にすら収まってしまいそうなその赤ん坊にブロリーはどこか不思議な感覚をおぼえた。
見覚えなどない筈なのに、銀色の毛と白い肌をしたその赤ん坊が先程まで共に居た少女であると確信が持てる。
「・・・・・シロ?」
名前を呼ぶと、赤ん坊はぱちりと目を開けた。
ブロリーのほうを見て、あうあうと何かを言おうとしているが舌が回っていないせいか言葉にはなっていない。
何故突然こうなったのか、"中身"まで赤ん坊へ戻ってしまったのか、自分のことは覚えているのか。
意思の疎通も出来ない中、少しの間逡巡したブロリーは再び腕の中の赤ん坊へ声を掛けた。
「・・・シロ、オレの言葉がわかるなら・・・ゆっくり瞬きしろ」
するとそれまでぱちぱちと瞬きしていた赤ん坊はゆっくり目をとじて、再びゆっくりと開いてみせる。
・・・・・通じている。
そう確信し表情を緩ませたブロリーをよそに、赤ん坊は何やらうーうー言ったあと目を閉じると突然光に包まれた。
「・・・・・!!」
先程までの得体の知れないものとは違い、その黄金の光にブロリーは見覚えがある。
シロが幾度となく使っていた魔法によるものだ。
ブロリーが何かを壊す度にそれを巻き戻したり、飯を作るときに待つべき時間を一瞬で無にしたり。過去数えきれないほどの回数、自分たちの助けとなってくれていた神秘の光。
そして瞬く間に、赤ん坊だったそれはブロリーの手の中で見慣れた5歳ほどの少女へ姿を変えた。
光が収まり、抱え上げる形になっていたその少女が満面の笑みでブロリーへと抱き着いて歓喜の声を上げる。
「ブロリー!!不老不死なくなった!!!」
呆気にとられていたブロリーはその言葉を聞き、再び確かめるように名前を呼んだ。
「・・・シロ、なんだな」
「うん!!」
間違いなく、消えてしまう前の相方の少女そのものだ。
実感と共にようやっと安堵の表情を浮かべ、抱き着いているその背へおずおずと腕をまわし抱き締め返す。
不老不死ではなくなったというのも嘘ではないのだろう。
事実、これまではいくら魔法でシロの肉体の時間を進めようとも不老のせいか姿は一切変わることがなかった。それが赤ん坊から一瞬でいつもの姿まで成長したということは、肉体の時間も正常通りに流れるように変わったということだ。
「これで、やっといっしょに大人になれるよ」
「・・・・・そう、か」
どうやったのかはわからないが、悲願を果たしたことは事実らしい。
正直ブロリーにとっては相手の姿がどうであれ些細な問題でしかなかったのだが、神の加護を捨ててまで自分と共に同じ時を生きたいと願ってくれたことがどれほど大きなことなのか。それが解らぬほどブロリーは愚鈍ではなかった。
不死ではなくなったというこの腕の中のか細い存在を、何があっても守らねばなるまいと心持ちを新たにする。
こうして共に生きるという願いを真に叶えた二人は、そのまま暫しの間喜び合うのだった。
―――――なお状態異常無効の喪失により、秋口の肌寒い季節にほぼ裸に近い姿でしばらくはしゃいでいたシロがその後即座に風邪をひいて寝込むハメになったというオチつきである。
前回書きそびれてたことを色々詰め込んだら思ったよりも長くなっちった。