案内された先で待ち受けていたのは、貴族風の装いに三つ編みを垂らしたちっちゃくてまんまるいおっさんだった。
ジャガー・バッタ男爵。
・・・そういや男爵ってことはこの国貴族制度あったんだな。トップが国王だし無くはない話だけど。
「おめ達か、あのスーパー戦士の血の持ち主ってのは」
「そう!そしてハンカチはわたしが昔落としたやつなの!かえして!」
「馬鹿言うでねぇ。高ぇ金さ出して買ったモンをなしてわざわざくれてやらんといげねぇんだ」
・・・ま、まあ購入した側からするとそう言いたくなるのはわからんでもないが・・・!そのままにしておくわけにもいかない。
「じゃあせめて処分してお願いだから!・・・そもそも、なんであんなかわいいハンカチについた血からクローン作ろうなんて思ったの?」
するとジャガーはトコトコ近寄って無遠慮にブロリーのことをじろじろ見たかと思うと、突然予想外の単語を出してきた。
「・・・おめぇ、紙袋だべ?」
ぎく。
な、なぜそのことを・・・・・!?
俺とブロリー両方の顔がひきつった。
怪人紙袋とは5年ほど前に一時期格闘技界へ殴り込みをかけたブロリーへ付けられていた異名である。
なんか時が経つにつれて本人もだんだん恥ずかしくなってきたのか、あの頃の話題になるとちょっぴり嫌がるようになった。どうやらブロリーにも黒歴史というものが出来てしまったらしい。
なので俺たちの間ではほぼ封印された過去と化していたんだが・・・なんで突然そんなこと掘り返してきた??関係ないだろ今。
面倒臭そうだしシラを切り通しておくか。・・・と、思ってた矢先。
「・・・何故、分かった・・・・・!?」
あーあ、黙っときゃいいのに口に出しちゃったよ。素直なんだからもう。
「んなごと見りゃ判る。背格好も立ち振る舞いもまんまでねぇか。声は一度しか聞いてねぇがそれもおんなじだ」
・・・ま、まあ俺もテレビで一目見ただけで気付いたが・・・・・ぶっちゃけ雑といえば雑すぎる変装だったし・・・しかしそれは常日頃からブロリーの姿に見慣れていたからであって。5年も前なのによく覚えてんなコイツ?
「オレの目的はな、あの世界チャンピオンミスターサタンに一泡吹かせるこった。積年の恨みつらみを込めてギッタンバッコンにしてやりでぇんだ」
それ言うならギッタンギッタンじゃね?シーソーかよ。
いやまあその辺りは知ってる。確かサタンの幼馴染で、昔は一緒に武道家目指してたけど子供の頃に勝負に負けて諦めたとかじゃなかったっけか。
「しかし曲がりなりにも奴は世界チャンピオンだ。小学6年生までオネショばするような阿呆ぅだが、その腕っぷしだけは確かだべ。今のオレは勿論、そんじょそこらの奴を仕向けても簡単には敵いっこねえ」
「・・・そんで、いないなら作ればいいって?」
「んだ。バイオの力で強力な戦士ば生み出して、今度こそサタンへ復讐するためにな!!」
サタンは一見ギャグ担当の雑魚扱いされがちだが、それはあくまでサイヤ人基準で見た場合だ。
一般的な地球人基準で見れば一応は本当に最強クラスなんだろうし、実際チャンピオン張って試合にも勝ってるんだから実力は本物なんだろう。・・・本当にあくまで、サイヤ人やそれに関わる人物が軒並みおかしいだけであって。
「んで・・・それがなんであのハンカチに繋がるのさ?」
「たまたまだべ。サタンへ対抗する戦士ば生み出すためのバイオ研究においで、素材にするためのありどあらゆる血を調べてる最中だったんだ。あれに付いてた血を解析して出た"複製結果"の姿を見て、あの怪人紙袋のモンだと一目でわがっだ」
「・・・な、なんで・・・・・??」
「元々紙袋には当時から目ぇ付けてたからな。サタンを倒せるとしたらアイツしかいねえと思ってたんに、結局一戦もしねぇまま消息不明になっぢまった。こっちからも接触しようとしてありどあらゆる手ば使ったが一切音沙汰なしだ」
あー・・・それは俺のせいかも知れん。もしかしたら俺が蹴った連絡の数々の中にコイツの手先からのものも含まれてたのかも。当時サタンとブロリーがぶつからないように仕向けて捌いてたのも俺だ。
連絡手段はメールしか開示してなかったし、俺が知ってからは試合前後の送り迎えも転移でやってたから出待ちだの尾行だのとかも当時は一切が不可能だったことだろう。住所も山奥で全然外部から人来ねぇしな。
「あれから本人は見つからんままだったが、運良くその血ば手に入ったんだ。コレを使えばオレが求める最強のバイオ戦士が間違いなく作れると!そしてやっとサタンに復讐ば出来ると確信した!」
「な、なるほど・・・??」
そういうことか・・・・・。
変なところで因果が繋がってしまっている。あの怪人紙袋のくだりが数年越しのフラグになってるなんて誰が思うよ!?
「で、でも!本人が知らないところで勝手に血使うなんてどうかと思うんだけど!」
「そりゃおめぇ、連絡しようとしても受け付けなかったのはそっちだべ」
それはごめんだけども!それとこれとは話が別じゃろがい!!
というか経緯はわかったけど、結局問題はこの後どうするかなんだよな・・・・・。
「ぐぬぬ・・・それにあの子どうすんのさ?きっと命令なんて聞きやしないし、もし暴れ出したら復讐どころか地球ごとぶっこわされちゃうかもしれないよ?」
「フカシこくでねぇ。アレにそんなごと出来るんなら、紙袋にだって同じこと出来るて話になっちまうべや」
いや出来るが??
こちとらかつて銀河ひとつぶっ壊した前科持ちやぞ??
ていうか紙袋って呼ぶのやめてあげてよ。
しかし馬鹿正直にブロリーの力量を説明したとしても、次元が違い過ぎるせいでどうせ与太話扱いされてマトモにとりあってもらえないのは目に見えている。
信じさせるには実際に"見せる"しかないわけだが・・・・・。
すると、ぐぎぎと歯噛みしている俺の前にさっきから固まってたブロリーが歩み出た。
変装がバレてたショックから立ち直ったのか。
「・・・オレから生まれたものだというなら、始末はオレがつけるべきだろう」
「おもすれぇ。んだば試合でもしてみっか?アレの実力ば確かめるには丁度いい機会だ」
「や、やめといたほうが・・・!!」
試合、なんてレベルで終わるわけがない!
容器から出されたバイオブロリーがどんな感じになるのかはわからないが・・・悟天がこの場に居ない今は原作みたいにはならないか?
いやそもそもの話、この世界のブロリーはカカロットアレルギーでもないしな・・・・・。
それと原作では容器から出す直前に奇襲かけて暴走させてたから、そうじゃなくちゃんとした手順で外に出せばドロドロにもならないんだろうか・・・?
何もかもが未知数すぎる。
情けない話だが、すでに生まれてしまったものを処分してくれなどとも到底口に出来そうになかった俺はもうどうするべきなのか全く見当がついていなかった。
俺が内心おろおろしてる間にジャガーは「スーパー戦士を目覚めさせろ!」と指示を出してしまい、ブロリーもやる気である以上はやはり戦いにはなってしまうようだ。
応接室から見覚えのあるバトルフィールドとやらに場所を移し、そしてやがて"それ"は現れた。
ブロリーと瓜二つの姿をした、簡素な服だけ纏った上半身裸の男。
素材になった血はブロリーがまだ少年期だった当時のものだったが、成長期を終えた大人の姿にまで成長させられている。
・・・ドロドロじゃない。当たり前の話だが、こうして見ると本当にブロリーの生き写しだ。
どこか虚ろな表情をしていたそれは、俺達二人の姿を目にした途端に様子が変わった。
頭を抱えて、呼吸が荒く何かを堪えるようにしながらも血相を変え憎々し気にブロリーのほうを睨め付けている。
「・・・ど、どうすた・・・?おめぇ、」
流石にその異様な様子へ気づいたジャガーが何か言うより先に、低く唸り声を上げていたバイオブロリーは弾かれたようにブロリーのほうへ襲い掛かった。
「うおおぉぉぉぉ!!!」
「ま、まて!オラの言う事さ聞け!」
案の定、ジャガーの声なんて全く聞こえていない。
飛び掛かってきたバイオブロリーの殴打をブロリーは難なく避け、躱しざまに蹴りを叩き込んだ。
吹っ飛んだバイオブロリーは階段を粉砕しながらも途中で体勢を戻し、再度ブロリーのほうへ突っ込んでいく。
ブロリーは構えはしつつも表情すら変えないままで、バイオブロリーの攻撃は全くかすりもしていない。
・・・正直、勝負になんてなるはずないと思っていたがやはり実力差は大きいようだ。
生まれてからずっと容器に入ったままで訓練も何も積んでいないバイオブロリーに対し、本家本元のブロリーは超4まで進化している上に7年近くに及ぶ悟空との修行で基礎戦闘力自体も随分と向上している。
「くだらん。これがオレの複製だと?ふざけるのもいい加減にしろ」
数度の打ち合い・・・いや、"合い"じゃないな。一方的だ。
弾き飛ばし、叩き付け、フィールドのそこかしこを砕きながらブロリーは向かってくる相手を打ちのめすが傷を増やしながらもバイオブロリーは何度でも立ち上がる。
・・・その度に、憤怒と憎悪に表情を深く歪めながら。
俺はその姿に見覚えがあった。
今は亡き、この世界からは消えてしまったはずの・・・もはや俺の思い出の中にしか残っていない"本来のブロリー"。
かつてカカロットの名を叫び、彼へと向けていたあの憤怒の表情によく似ている。
今のブロリーがここまで穏やかになったのは、主に俺が原因の後天的な影響によるもの。そして、彼自身が生き方を"そう"選んだ結果だ。
それらの影響を受けず、生来の凶暴さを残したまま強制的に成長させられた姿が今のあのバイオブロリーなのだろう。
クローンがオリジナルの影響をどれほど受けるものなのかは知らないが・・・やはりあれが、"ブロリー"という存在の本来の姿なのかもしれない。
胸が、苦しくなった。
血を吐き、打ちのめされながらもバイオブロリーは立ち上がることをやめない。
引く選択肢など元から持ち合わせていないのだろう。「もういい、やめろ!」というジャガーの命令も聞こえている素振りは無い。
ブロリーは自分からは攻めないが、ただ淡々と反撃だけを叩き込んでいる。明らかに全力ではなく、超化する必要すらなかった。
・・・そして、やがて"限界"が訪れる。
ブロリーに足蹴にされ、幾度目かの膝をついたとき。
感情を振り切ったような魂の底からの叫びと共に衝撃が駆け抜け、世界の色が一瞬塗り替わった。
膨れ上がった気と共に、バイオブロリーのその肉体も膨張し体格が比べ物にならないほどに増す。
かつて伝説と呼ばれた姿。俺にとっては見慣れたはずのそれは、どこか痛々しさを伴いながらもブロリーのそれとは全然別物に見えてしまった。
「無茶だ、これ以上は・・・!!」
ジャガーの隣にいた科学者が思わず声をあげる。
その言葉の示唆したとおりなのか、伝ブロと化したバイオブロリーのその肉体は徐々に自壊を始めていた。
それでも彼は止まらない。ただ目の前の敵を殺し尽くすまで・・・それが叶わないと本能で解っていてもなお、恐らくは止められないのだろう。
―――――まるで燃え尽きるまで自らを焼き続けるようなそれを、俺は止める術をいまだ持てなかった。
ジャガーバッタの口調は特に方言などを調べもせず脳内のイマジナリー田舎モンに任せて適当にそれっぽく充ててあるので、もしかすると違和感あるかもしれませんがニュアンスでなんとなく察して頂けると。