TS転生幼女は伝説の超サイヤ人を救いたい。   作:こねこねこ

45 / 72
37:とある○○の存在証明

朧気な意識が最初に生まれたのは、そう昔のことではない。

 

初めて自分という存在を知覚してからというもの、夢か現実かも判然としないような微睡みの中をずっと漂っていた。

 

時折瞼を開くも、その眼に映るのは薄い壁だけ。隔てられたその向こう側に見えるものが何なのか、生まれてまだ間もない自分には理解が及ばない。

 

自分の身体ひとつ分にも満たずとても狭苦しい"そこ"だけが、己にとっての世界の全てだった。

 

 

 

何故ここにいるのか、自分は一体誰なのか、何もわからない。

知っていたのはただひとつ。

 

 

 

自分は、"戦うために生まれてきたのだ"という事実だけ。

 

 

 

誰かに命じられたわけでもなく、本能的な衝動が沸々と自らの内に息づいている。

何もかもが朧気な中、それだけが自分にとっての拠り所だった。

 

 

 

―――戦わなければ、生きていけない。

 

戦えない自分など、存在していてはいけないのだ。

 

 

 

一方それとは別に、時折脳裏にちらつく"知らない光景"があった。

覚えなどあろうはずもない。生まれてこのかた、自分はこの場所から出たことなど一度も無いのだから。

意味も解らないまま己の記憶にこびりついているそれを煩わしく思いながらも、しかしそれでもずっとその存在だけは忘れることが出来なかった。

 

 

 

 

 

そのまま、何日が経ったのかもわからない。

 

あるときふと瞼を開くと、それまでに見たことのなかった小さな姿が目に入った。

白い似たような恰好の人間達とはどこか違うそれは後ろ姿だけしか見えなかったものの、会ったことなどないはずなのに何故か不思議と既視感をおぼえる。

 

いまだ微睡みの中にあった緩やかな思考ではその正体に辿り着くことは無かったが、そのあと幾ばくもなくしてこの狭い世界は突然破られた。

 

壁の向こうへと出され、何もわからないままどこかへと連れていかれる。

そこかしこで何人かの人間が声を掛けてきたが、何を言っているのかはよくわからないままだった。

 

 

 

そうして着いた先。

目の前で待ち構えていた"とある二人"の姿を目にしたとき、突如頭の中が沸騰したような感覚に陥って思考がめちゃくちゃになった。

 

大柄な人間と、小さな子供。

 

どちらも、知っている。正体はわからないのに、見覚えだけはある。

奇妙なことに、大きいほうの顔は幾度か目にした"壁に反射した自分の顔"と瓜二つだ。

 

 

 

何もわからなかったが、ひとつだけ確信があった。

 

―――こいつは。こいつだけは、自らの手で殺さなければならないと。

 

恨みがどうこうなどという話ではない。こいつは、そこにいるだけで己の存在そのものを脅かす。

 

それを自覚した瞬間、自らの内に静かに息づいていた衝動が爆発的に溢れ出した。

 

身体が勝手に動き出す。

地に足をつけて歩いたのもつい先刻が初めてだったというのに、『戦い方』そのものは何故か既に知っていた。

 

自分は、この瞬間のために生み出されたのかもしれないと思うほどに。

 

 

 

 

 

しかし、現実は思っていたよりもよほど厳しいものだったらしい。

 

何度打ち込もうとも、考えつくあらゆる方法で奴を害そうとしても、何一つ攻撃は通らなかった。

動く度に、己の傷だけが増えていく。

 

 

 

残酷なほど、その力の差は圧倒的だった。

 

目の前のこいつを倒さなければ、ここで勝てなければ恐らく自分は"ここまで"だ。きっと磨り潰されて消えていく。

そうわかっているのに、手は届かない。

 

 

 

戦えないものに・・・そんな自分に、価値などないのに。

 

何も持たない自分から、存在していていい理由すらも奪うのか。

 

 

 

何も為せないまま、消えていくのは嫌だった。

それを強く自覚した瞬間、衝動と共に得体の知れない力が沸き起こる。

 

 

 

何かが内から溢れ出し、強い光と共に衝撃が駆け抜けた。

辺りの何もかもが壊れ、巻き込まれた人間が悲鳴を上げている。

 

しかし目の前の"奴"だけは、動じた様子もなくただずっと自分のほうを見据えたまま表情も変わらない。

 

 

 

視点が高くなった。いつの間にか肉体が大きく膨らんでいる。

しかし際限なく沸き上がるかのように思える力を抑えきれず、皮膚が爆ぜて血が流れ出す。

 

それでも構わずに殴り掛かった。

 

―――そしてそれでも、まだ届かなかった。

 

 

 

打ち据えられる度に、段々と身体が言うことを聞かなくなってくる。

 

もう何度目かわからない膝をついて、動けなくなったとき奴がこちらへ手を翳した。

 

周りの色が一瞬にして掌へ圧縮され、恐らく凄まじいエネルギーが凝縮されただろうそれがこちらへ放たれようとしたその瞬間。

折悪く堪え切れずに大量の血を吐き出して目の前が一瞬真っ暗になる。

 

ここまでなのかと思ったが、・・・数秒経ってもなんの衝撃も訪れない。

 

這いつくばったまま視線を戻す。

 

 

 

先程まで奴の後ろにいた筈の子供が、庇うように背を向けて間に立ちはだかっていた。

 

 

 

 

 

「ごめんね、ブロリー。ほんとにごめん・・・・・でも、もういいよ。もうやめよう?」

 

その少女の懇願に、相手の男は眉根を寄せ釈然としない表情を浮かべつつもその手に宿した閃光を放つことなく握り潰す。

 

それを見て、ろくに動かない四肢に力を込めて無理矢理に立ち上がった。

再び崩れ落ちそうになりながらも、振り絞って目の前の小さな背中へ手を伸ばす。

 

 

 

 

 

そして、無防備なそれに躊躇うことなくエネルギー波を見舞った。

 

 

 

 

 

(・・・じゃまを、するな)

 

悲鳴すら上げることなく、背後から灼かれた少女は衝撃に倒れ伏す。

 

その向こうで、男の形相が一瞬にして鬼気迫るものへ変わったかと思うと次の瞬間には己の胸を貫いていた。

 

ごぼりと血が噴き出し、胸部にあった重大な何かを潰されたことにより今度こそ自らの終わりを悟る。

 

だが・・・つい先刻まで微塵も表情を変えることのなかった相手が激情に顔を歪ませているのを見て、どうやら意図せずに一矢報いることは出来たらしいと薄く口角を上げた。

 

めり込んでいた腕が引き抜かれ、打ち捨てられてそのまま横倒しになる。

 

 

 

今度こそ、もうどこも動かない。

血も熱もどんどん流れ出し、冷たくなって朽ちてゆく。

 

 

 

・・・そんな中。ふいに、手に温かいものが触れた。

 

瞼を薄く開くと、先程自らが吹き飛ばしたはずの少女がその小さな手で己の手をとっている。

 

こんな小さな子供ひとりすらも仕留めきれなかったのかという落胆と、何をしているのかという困惑がない交ぜになって霞む瞳を揺らした。

 

「もういいよ」

 

力が入らない。

指先ひとつすら、もうまともに動かすことは出来なかった。

 

「もう・・・いいんだよ、そんなにがんばらなくても」

 

浅い息を繰り返すだけの自分に、少女は言葉を紡ぎ続ける。

 

「・・・これはね、ただのわたしのひとりよがり。でもね、きみに伝えたいことがあったんだ」

 

「やっぱり、思った通りだった。こんな知らない子供ひとり、きっときみなら歯牙にもかけないよね。わかってた」

 

「わたしね、うれしかったんだよ。もうこの世界から消えてしまったって言われて、自分の思い出の中でだんだん掠れていくあのブロリーが・・・それでも確かにこの世界には居たんだって、きみが見せてくれた。ずっと心のどこかに刺さったままだった棘を、きみが吹き飛ばしてくれたんだ」

 

「きみが戦っていたのはきっとじぶんのためで、わたしの事情なんて関係ない。そうだってわかってても、勝手だけどこれだけは言いたかったの」

 

 

 

 

 

「・・・ありがとう。生まれてきてくれて」

 

 

 

 

 

「・・・・・・・、」

 

人為的に生み出されてまだ間もなかった"それ"は、言葉というものを持たない。

目の前の少女の口から発されたそれも、その意味を理解することは無くただの音の羅列として通り過ぎて行くだけ。

 

しかしその分、他者が自分に向ける感情というものについては人一倍に聡かった。

 

自分を利用しようとするもの、技術や権力の誇示にしか興味のない視線、侮蔑、畏怖、嫌悪、憐憫。

この世に生み出されてからそう長くはなかった時間の中、自らに向けて晒されてきた様々な負の感情の数々の中において・・・たったひとつだけ。

 

 

 

初めて己へ向けられた、心からの感謝の念。

 

 

 

その理由も、意味も、わからなかった。

 

だから、ふと"知りたい"と思った。

 

 

 

―――それには、何もかもが遅すぎたけれど。

 

 

 

 

 

そしてその瞬間。

ずっとノイズのように脳裏に染み付いていた光景が、ふいに目の前の顔と重なる。

 

そのことに気づいたとき、燃え尽きる命の間際でひとつの単語が口をついて出ていた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・し、ろ」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いた少女が思わず目を見張る。

 

しかしその時にはもう、手の中の"それ"は冷たく動かなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に息絶えてしまった亡骸を前にして、暫くの間茫然としていたシロは顔をゴシゴシと拭ったあと漸く立ち上がり背後のブロリーへ振り返る。

 

「・・・・・ありがと。さいご、そっとしておいてくれて」

「・・・大丈夫なのか」

「うん、ぜんぜん平気。・・・って言ったら、この子には悪いんだけどね」

 

あの背後からの不意打ち。

衝撃で倒れこそしたものの、その身に一切の傷はついていなかった。

 

「お前のことだ、最後まで助けようとするものと思っていたが」

「・・・正直、迷ってたよ」

 

横たわったままの亡骸へ視線を移す。

先程までの荒れ狂っていた様子が嘘のように、今はまるで眠っているかのようだ。

 

「でもたぶん、この子は人の中では生きられないと思ったから」

「・・・そうか」

 

かつて悪魔とも称された元来の気質を備える"ブロリー"という人格に対し、シロは自分の力でどうこう出来るとは毛頭思っていない。今目の前にいる、共に過ごしてきたブロリーに幼少の頃から関わろうと思った理由も元々はそこにある。

現に、"彼"は無抵抗な子供を目の前にしても躊躇なくその力を振るったのだ。やはりその認識は間違っていなかったと確信は持てていた。

 

・・・・・先ほど、までは。

 

「だけど・・・もしかしたら、そうじゃなかったのかもしれない」

 

事切れる寸前に口にしたあれは、聞き違いでなければ今日この場では呼ばれていなかったはずの名前。

 

―――――覚えて、いたのだろうか。

 

 

 

「あの世でまた会えたら、訊けるかなあ」

 

 

 

ぽつりとそう呟いた言葉に答えるものはなく、ただ冷えた空気の中へ溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・そしてそんな余韻は、突如地鳴りと共に再び崩れ出した地面の衝撃で吹き飛ばされることになる。

 

「あわわわわわやばいやばいやばい!!!」

 

バイオブロリーが超化した衝撃で半壊していた施設の崩落が本格的に始まった。

壁が崩れて、フィールドの外に広がっている研究施設部分が丸見えになる。

ここだけでなく、城全体に罅が入ってそこかしこの培養槽からバイオ液が溢れ出し始めていた。

 

「んぎゃーーー!!!」

「・・・なんだ、あれは?」

「やばい液!!!ちょっと急いでみんな避難させてアレほんとに触るだけで死んじゃうから!!!」

 

ブロリーにはその辺で虫みたいにひっくりかえって縮こまっていた男爵とその他数名を運び出して貰って、俺は急いで駆けずり回りながら施設内の人間を片っ端から転移で放り出していく。

若干適当になるからどっかめり込んだらごめんな!!

 

幸いにもバイオ液はまだ漏れ出した直後。全体へ蔓延するまでは少しだけ時間があった。

人を抱えて運び出すよりもよっぽど早い転移によってあらかた城内の人間がいなくなったことを確認したあと、再度合流したブロリーに外からバリアで城全体を覆ってもらう。

間一髪でその直後に城のタマネギを突き破ってバイオ液が出てきたが、バリアに阻まれておっきな球体みたいな状態でその場に留まった。

 

「長くは持たんぞ。どうする気だ?」

「こうすんの!!」

 

そしてそのでっかい球体をまるごと、俺の転移で海上へほっぽり出す!

バリアが弾けたあと、城の残骸と膨張したバイオ液がまるごとぜんぶ海の中へ落ちて沈んでいった。

 

これで島本体の街や港へは被害一切ナシだろう。ふーやれやれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オラは今後一切、バイオ研究からは手ぇ引く」

 

落ち着いたあと、消沈したようなジャガー男爵の言葉に俺達もそれがいいと頷いた。

・・・というより、城ごと研究施設は全部なくなったから続けたくとも無理だろうし。

 

サタンへの仕返しは結局出来ないままだろうが、どうにか呑み込んで諦めてもらうしかない。

すると、その代わりとばかりに「いっこだけ聞かしてくれ」とジャガーが切り出した。

 

「もしかすっと、7年前のセルゲームであのバケモンのセルば倒したんは・・・本当はミスターサタンじゃなくておめ達じゃねえのか?」

 

コイツほんとに鋭いな。

もしかすると当時俺がTVカメラを壊す前にチラっとだけ映っていた姿を覚えているのかもしれない。

 

「そだよ。ブロリーがやったの」

 

先程の一部始終を見ていたコイツにだったらまあ別にいいかと思い、俺はそれだけ答えてやった。

 

「・・・やっぱそうだか。あんの大ホラ吹きめが」

「あ、一応お願いなんだけど世間に公表はしないでくんない?わたしたち目立ちたくはないし、あれはあれで面倒臭いこと色々引き受けてくれてるからむしろ助かってるんだよ」

「ええんか?変わりモンだな全く・・・わがった。本人が言うなら仕方ねぇべな」

 

嫌がらせに脅しの手紙ひとつでも送ってやりはするが、とジャガーはイヤらしい笑みを浮かべているけどまあそのくらいだったら構わないだろう。サタンはビビリ散らかすかもしれないが多分そんだけだ。

 

ジャガーにはその後迷惑をかけたことを謝られたが俺も結果として城まるごと捨てたからお互い様ということで、ハンカチも無事に海に沈んで消えてったことだしこれにて一件落着となった。

 

 

 

バイオブロリーの件は少し心に引っ掛かるものを残したが・・・今となっては彼も遥か海の底。

 

思わぬ大騒動で色々と疲労困憊になってしまった俺は、ブロリーに抱えられてお互いに労いながら帰路へとつくのだった。

 

 

 

 

 





幕間章はここまで。次回からはいよいよブウ編に入ります。長々とお付き合いありがとうございました。



余談
タイトルの○○には入る候補がいくつかあると思うんですが、筆者のお勧めは『悪魔』です。意味が3つほど重なっていて良い感じの響きではあるんですが、しかしどうにもドロリーのことを悪魔と称するのはイマイチ違和感があったので執筆途中だった〇〇のままにしてあります。人形とか木偶とかでも良かったかもね。

それとちなみになんですが、もし不老不死を手放していないままここまで来ていた場合展開が変わってここでドロリーを幼女氏が引き取るというルート分岐が発生していました。
あくまでもしもの話ですが。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。