38:兆し
暗闇の中で、ひとりぼっちの女の子が泣いていた。
『ごめんなさい・・・・・』
裸足で蹲るその足元にはたくさんのガラスの破片が散らばっており、身じろぐ度に血が流れて赤く染まっていく。
『・・・ごめんなさい・・・・・』
顔を覆って泣きじゃくりながら、少女はただ何かに謝り続けるばかり。
素足だけでなくその手も、服のあちこちも、よく見れば血飛沫のようなもので汚れていた。
『お願いだから・・・もうこれ以上、あの子を悲しませるようなことしないで・・・!!』
ただ茫然とそれを見ていると、泣いていた少女が何かに気づいたようにふと顔を上げる。
こちらへ視線を寄越したその姿は、
・・・・・俺と、瓜二つだった。
そこで唐突に目が覚める。
がばっと起き上がってみると、そこはいつもの部屋のいつものベッドの上。
・・・は?なにいまの。夢?
不吉すぎわろた。いやわろえない。なんやねん・・・・・。
窓の外はまだ薄暗い。
隣を見ると、ブロリーが丸まって無防備な寝顔を晒している。
「・・・・・・・」
・・・・・二度寝するかぁ・・・・・。
まだ起きる時間でもないし、モヤモヤした気持ちを抱えつつ俺は再び布団を引っ被った。
そして翌朝になって、まだモヤモヤを引きずりつつ朝食をとっていると何やらブロリーのほうも微妙な表情を浮かべている。
訊けば、夢見が悪かったなどと言い出した。・・・・・偶然か?
「わたしも今日へんな夢みちゃってさ~、なんなんだろね」
ちなみにどんな夢だった?と内容を尋ねてみるも、ブロリーは口を噤んでしまう。
「・・・いや・・・・・、忘れてくれ」
「えぇ・・・・・」
気になるじゃん。
・・・とはいえ、俺が見た夢も説明しろって言われるとちょっと困るんだよな。よくわかんなかったし。
俺・・・いや、本当に俺なのか?俺に似た誰かが泣きながら何かに謝ってた。
仮に俺だとしたら色々とおかしい。
血まみれになってたけど、俺に傷はつかないはずだし。
『あの子』っていうのが誰のことなのかもわかんないし。
何か他にも呟いてた気がするんだけど、聞き取れなかった。
いかにも意味ありげではあったものの・・・予知夢って感じでもない。
何なんだホントに。
時期が時期なだけに、余計に何かあるのではと勘ぐってしまう。
季節は春へと移り変わっていた。
数日前から悟飯の高校生活も始まって、ニュースには金色の戦士がどうのこうのという見出しが躍っている。
原作通り、通学の途中で悪人退治に精を出しているらしい。
つまり、とっくにブウ編へ突入しているわけだ。
・・・これまでのことを考えると、どうせ原作通りには事が運ばないんだろうな~と思っている。
ブウ編の大ボスはもちろん表題にもなっている魔人ブウだ。・・・だが、それだけでは済まないんじゃないかなあ。
時期的にバッティングする可能性がある劇場版などのボスは2体。
ヒルデガーンとジャネンバだ。
ヒルデガーンのほうは恐らく大丈夫だろう。
魔導士ホイがフライングして地球にやってきたとしても、アイツはドラゴンボールの力を使わないとオルゴールを開けることが出来ない。
ブウ編のゴタゴタが始まってる中、見ず知らずの爺ちゃんのお願い事なんてとてもじゃないが構っていられない筈だ。
封印が半分だけ解けた下半身のみの状態で暴れられる可能性も無くはないけど・・・完全体よりはかなり難易度も低いだろう。
ジャネンバのほうはどうかなあ・・・??
悟空へ頼んで、界王様経由で閻魔のおっちゃんに気をつけておいて貰えるよう進言するくらいしか予防策が無い気がする。
そもそもアイツって原作映画では地獄でそのまま倒されてたけど、放っておいたら現世のほうへもちょっかい出してくるんだろうか??わからん。
しかし少なくとも、ジャネンバが生まれたらあの世とこの世の境目がぐちゃぐちゃになってしまうから死者の大量復活などで即座に事態の把握だけは出来るはずだ。
問題なのは悟空含めメイン戦力が全員生きている状態だから、ジャネンバがこっちに来ない限り討伐が難しいこと・・・だろうか?そういう非常事態になっても、悟空や仲間があの世に行ったりとかって特例で許されたりしないのかな?確か界王様の所には生身のままでも修行したりで悟空がたむろってた覚えがあるんだけど。どこまでがセーフなんだろ?わからん。
わからんことだらけ!
そして少なくとも言えるのは、
俺がこうして事前にぐだぐだ考えて何かしらの対策を考えても、毎回不測の事態でちゃぶ台返しされちゃうってこと!!
だから結局のところはコトが起きて以降にうまく立ち回るしかない。
・・・行き当たりばったりとも言う。しんどいな~・・・・・。
そして数日後。
グレートサイヤマンのコスチュームを着た悟飯が天下一武道会の開催の知らせと、それに出場するかどうかという話を持ってウチへ訪れた。
「おとうさんも悟天も参加することになりました。・・・というか、おかあさんに皆で賞金を獲ってこいと言われちゃいまして」
悟飯はビーデルからの脅しで参加を決めたはずだったが、原作と同じく賞金で家計を潤そうと孫家男子全員での参加となったようだ。
農業で稼ぐようになったとはいえ、まだまだ膨大な食費に逼迫されてて厳しいってチチさん嘆いてたからなあ。
「ベジータさんやトランクスも出場するそうです。既におとうさんのほうから聞いているかもしれませんが、ブロリーさんはどうします?」
「・・・どする?興味ある?」
悟飯のグレサイヒーロー姿を目にしてから暫し絶句していたブロリーに訊いてみる。
・・・いや気持ちはわからんでもないが。
俺個人的には嫌いじゃないよ?グレートサイヤマン。
確かに初見のインパクトは強いけどさ。
武道家としての道着に、サイヤ人がよく着けていた戦闘服のグローブとブーツに、ピッコロさんを彷彿とさせるメインカラーの緑色とマントに、"スーパーサイヤ人"と対になってるネーミング。
"孫悟飯というキャラクター"のルーツと言える要素の数々を一点に凝縮した良デザインだ。
ちょっとくらいクソダサい程度、気にならん気にならん。
んで、肝心の出場可否のほうはというと迷っているようだった。
正直今はありがたいことに結構経済的にゆとりが出来ているから賞金がどうしても欲しいってほどではないし、原作のように今しか悟空と戦う機会がないというわけでもない。
そして大会である以上、ルールや会場の狭さに縛られて十全に力を発揮出来ないことが予想される。
・・・とはいえ、サイヤ人連中のほとんどが参加する中ブロリーだけ居ないのもなんだかなあと思ったり。
似たようなことを考えていたのか、少し悩んだあと彼はぽつりと零すように言った。
「・・・・・一応、出るだけ出ておくか」
面倒になったら放り出すなこりゃ。
会場に行くこと自体は行くつもりでいるので、出場エントリーだけはしておいてそのまま気が乗ったら参加、という感じにするようだ。
本題が済んだあと、雑談の中でちょっと気になる話を聞いた。
ミスターサタンの一人娘であるビーデルの実力が、どうやら原作よりも大幅に上がっているらしい。
「本当に強いんですよあの子。仲間うちとか、ちゃんと武道を修めている人とかを除いたら一番じゃないかなあ」
「へ~」
最初は話半分で流してたんだけど、なんか思ってたよりガチっぽい雰囲気の言い方をする。
「ちゃんと整った環境で修行をつけたら、ヤムチャさんあたりはすぐに追い抜かれるかもしれませんよ」なんて言うもんだからちょっとびっくりした。
いつも見慣れているサイヤ人達以外にも地球人の中にはほんの一部、クリリンをはじめとしてZ戦士に名を連ねる規格外の連中が存在するが・・・ただの高校生がその域まで来てるってこと??
詳しく聞いてみると、これまた地味に原作と乖離している要素が発生していた。
「それがですね、意外だったんですが・・・人造人間17号っていたじゃないですか。クリリンさんと結婚した18号さんの弟さん。彼にビーデルさんが鍛えられていた時期があったそうなんです」
「はぇ~????」
なんでそんなことになってんの?と一瞬思ったが、よくよく記憶を掘り返してみると確かに思い当たるフシはあった。
あれは5年くらい前、ブロリーが格闘技の大会に参加するにあたって俺がサタンとのバッティングを避けるためにサタン側の動向も注視していたときのこと。
どこで見たんだったか、サタンが出てた何かしらの大会の写真の中でセコンドに人造人間16号と17号の二人が写っていたことがあったのである。
悟飯経由で聞いたビーデルの話と統合してみるとこうだ。
セルゲームの際に破壊されずサタン一行を守りきった16号は、そのときの縁からその後しばらくサタンに雇われつつ居候していたらしい。
そしてそこに後日、ドラゴンボールの力で生き返った17号が合流したそうな。
そこから1年程度でサタンのところからは姿を消したらしいのだが、居候していた間はパーソナルトレーナーのような立ち位置になっていてまだ幼かったビーデルは17号に戦い方・・・競技としての格闘技ではなく、本物の戦闘技術を結構がっつり教わっていたとのこと。
そして師がいなくなってからも自己研鑽を重ね、インフレの波に乗っかっていったと。
元々原作でもサタンより強いんじゃないかってくらいには自分で鍛えてたみたいだし、それに何より彼女ってブロリーのラリアットを耐えきった稀有な人物だったりもするし。素養はじゅうぶんあったのかもね。
・・・セルゲーム後っていうと当時ビーデルも10歳だか11歳だかそこらだよな。上昇志向の塊みたいな女の子に激強メロ顔お兄さんの17号の組み合わせか・・・さぞかしたっぷりじっくり脳を焼かれたことだろう。もしかして初恋も奪われちゃってたりなんかして。
16号と17号は行先も告げずに消えたそうで、ビーデルから何か知らないかと悟飯は訊かれたらしいんだが知り合いに姉はいるものの17号本人のことについてはサッパリ知らなかったので答えられなかったとのこと。
・・・たぶんだけど、どっかで自然保護官にでもなってるんじゃないかな・・・??
明らかに偽名である17号の本名も知りたがっていたらしいのだが、恐らく答えられる人物なんてほぼほぼいないだろう。
俺は一応知ってるけど、永年おしどり夫婦やってたクリリンでさえ晩年までずっと18号と呼んでいたし本人達が名乗ろうとしない以上は漏らすべきではないと思っている。
・・・もし本人達も忘れてしまっていて、実は知りたがっているとかなら話は別なんだが。18号とはそれなりに交流もあるけどそんな気配は無い。
双子揃ってとても綺麗な名前だから、勿体無いよなあとは思ってるんだけどね。
「・・・あ、それとなんですけど。なんだっけ・・・紙袋?っていう名前の人のことも、何か知らないかと訊かれたんですよ。ボクは聞き覚えなかったんですけど心当たりありますか?」
「ヴッ」
やめてさしあげろ。その名前はブロリーに効く。
忘れた頃にちょくちょく掘り返されるな怪人紙袋の件・・・・・。
ジャガーが何か余計なことまで突っついてないといいんだけど。
気まずそうに目を逸らしているブロリーを慮って、わかんないな~とだけ濁しておいた。
そんなこんなで結構な長話になってしまったが、だいぶ陽も落ちたあとヒーロースタイルそのままで飛び去って帰って行ったグレートサイヤマン。
空へ消えていくその姿を見送りながらブロリーがぽつりと呟いた。
「・・・アイツは、アレを格好良いと思って着ているのか?」
それは言わないであげてよ。本人は気に入ってんだから。
悟飯のアニオリ高校生活描写好き。