あのあと翌日になって。
「・・・それじゃあ、始めましょうか」
「「は~い!」」
「ええ、よろしく」
悟飯の言葉に俺と悟天は揃って元気にお返事し、ビーデルは少し緊張したような面持ちで頷いた。
「空を飛ぶには、兎にも角にも"気をコントロールする力"を鍛えなきゃいけません。ビーデルさんとシロさんはまだ扱い方を知らないとのことなので、とりあえず気の練り方から入りましょう。まずは・・・」
ビーデルは戦闘力は並外れて向上していたものの、どうやら原作と同じくまだ空を飛ぶことは出来なかったらしい。恐らく人造人間が飛ぶ仕組みって舞空術とは別物だろうから、17号もそこまでは教えられなかったんだろう。
そんなわけで、原作どおり悟飯がビーデルとついでに悟天に空の飛び方を教えることになったようだ。・・・と、そこに「俺も俺も俺も!!」と割り込ませて頂いた。
というのも、地球で暮らし始めてもう7年にもなるが結局俺は俺で飛び方どころか気の扱い自体を全く、一切、カケラも!微塵も!習得出来なかったのである。
もちろん共に暮らす中でブロリーに教えてもらおうとした。何度も。
しかしダメだった。嫌がられたとかではなく、単に結果が出なかったという意味で。
恐らくは、俺の飲み込みが悪い上にブロリーが他人へ何かを教えるのが苦手なことが相まって悪いほうへ相乗効果が重なったんだろう。
色々工夫もしてくれたんだけどね~。
俺の身体に直接気を流し込んで感覚をおぼえさせようとしてくれたりだとか。
んでも「なんかふわふわしゅる~~~」だけでおしまいである。なーんも身に付かなかった。
言葉での説明も、あまりにもブロリーにとっては当たり前のこと過ぎて難しかったようだ。
例えるならそう、
「呼吸ってどうやるんですか?」
「息を吸って吐くんです」
「息を吸うってどうやるんですか?」
「・・・お、横隔膜を・・・動かして・・・??」
「横隔膜ってどこですか・・・???」
「・・・・・?????」
・・・みたいな感じ。
ブロリーが普段無意識レベルで自然にやってしまっている気やエネルギーの操作方法が根本のところから全く俺へ伝わらない。
というわけで、最後の望みをかけてこの場に混ぜて頂いたわけである。
いかにも教えるのが上手そうな悟飯に師事して、それでもダメならもう本当に諦めよう。
才能なかったんだ。
いやしかしまだ希望は捨ててないぞ!今日こそはきっと!
・・・そして夕方になった。
早々にびゅんびゅん自由自在に飛び回る悟天くん、ちょっぴり浮かぶことができたビーデルちゃん、そして地べたにうずくまったまましわしわ電気ネズミみたいな顔になっている俺。
・・・・・あかんかった・・・・・・・。
「げ、元気出してください」
「まだ初日なんだし、皆が皆最初からできるわけじゃないわよきっと」
二人の慰めの声が虚しく響く。泣けてきた。
「・・・そもそもなんですけど、シロさんって自分でも何回か飛んでませんでしたか?確かにブロリーさんに抱えられてる印象は強いですけど」
悟飯は声を潜めて「ほら、セルゲームでブロリーさんが大猿になった時とか」と密かに問うてくるが、ちゃうねん・・・。アレは飛んでるとは言わねーんだよ・・・。
俺のはただの転移だから、自分の身体を目の前の空中へ投げ出しているに過ぎない。
それを断続的に行うことで擬似的に空中に居続けているっぽく見えてるだけ。
一回一回上がった直後には落下し始めるし、"滞空"と呼べるレベルの一秒以下の短スパン連続転移なんてしようもんならたぶん処理が追っ付かなくて脳ミソはち切れる。
だからあくまでも俺のは擬似的なものでしかないのだ。
俺だってそ~らをじゆうに~、と~びた~いな~!ハイ、舞空術~!とかやりたかったよお!!
よよよと泣き崩れながら暫くいじけていたが、まあこれで本当にすっぱりと諦めるきっかけにはなった。
1日だけで?と思われるかもしれないが、同じ素人から始めたビーデルが早々に気を具現化出来ていた一方で俺のほうはいくら時間をかけてもうんともすんとも反応しなかったのだ。これはもう本格的にダメなんだろう。
・・・もしかしてもしかすると、異世界出身だから気の性質が違うとか何かしらの原因があったりもするんだろうか?
まあ仮にそうだとしても、空を飛ぶことは出来ないって事実に変わりはないんだけどね。
完全に諦めモードでしょぼくれていると、休憩タイムに入ったのかビーデルが隣に座り込んで話しかけてきた。
「大丈夫?・・・そんなに落ち込まなくてもいいと思うんだけど」
「うん・・・あいがと・・・・・」
・・・気ぃ遣ってくれてるのかなあ。
原作のほうでは上達の速すぎる悟天を見て涙目になっていたビーデルちゃんだったが、今回のこの場にはもっと出来ないへっぽこの俺がいるからか随分と心持ちが違うようだ。
「シロちゃんって、悟飯くんのご近所さんだって言ってたわよね。不便じゃない?こんな辺鄙なところに住んでると」
「ん~、そうでもないよ?住めば都っていうし、静かでいいトコだから」
「でも、買い物ひとつ行くのだって大変でしょ」
まあ普通はそう思うわな。ビーデルも自家用ジェットフライヤーだっけ?小型の飛行機みたいなやつでここまで来てるし。
「わたしね、空は飛べなかったけど代わりにちょっとした魔法がつかえるんだ」
「ま、魔法・・・??おとぎ話みたいな?」
「もちょっと実用的なの。たとえばね、こんなかんじ」
俺はその場でほんの1メートルくらいパッと転移して目の前をわかりやすく移動して見せる。
「簡単に言うと、瞬間移動みたいなやつ。これで町まで一瞬で行けたりするんだ~」
「へ、へぇ・・・・・」
「んでも、一度行ったことある場所とか会ったことある人の所にだけなの。だから初めて行く場所には誰かに連れてってもらわなきゃいけないんだけどね」
唖然としているビーデルにそう言うと、彼女はややあってしみじみといった様子で溜息を吐いた。
「・・・世の中って、まだまだ私の知らないことがたくさんあるみたい」
さすがに目前で実演されたものを父親のように無理矢理トリック扱いは出来なかったのか、常識外の事柄であろうそれを思ったよりすんなり受け入れたようだ。・・・もしかしたら深く考えるのをやめただけなのかも知れないが。
俺はちょっとここで話題を変えてみることに。
「ねぇねぇそれよりさ、ビーデルちゃんって17号のこと探してるんだよね?」
「え?そうだけど・・・悟飯くんから聞いたの?」
「うん、さらーっとだけど。ちょっと意外でびっくりしちゃった」
「シロちゃんは何か知ってる?今あの人がどこにいるのか」
「んー、居場所まではわかんないんだけど・・・なんとなーく何してるのかは想像つくよ。たぶんだけど、レンジャーやってるんじゃないかな」
レンジャー?とオウム返し呟くビーデルはイマイチピンときていないようだ。縁のない業界なんだろう。
「自然保護官さん。自然とか動物とかを、密猟者みたいな悪い人から守るおしごと」
「へぇ・・・意外だわ。16号さんはお花とか動物とかそういうものが好きだったような覚えがあるけど」
「たぶんキッカケはそっちだろうね~。今度の天下一武道会にお姉ちゃんの18号も来るし、聞けたら連絡先とか聞いとくといいんじゃないかな」
「そうするわ。・・・名前初めて聞いたけど、お姉さんも同じ感じの偽名?なのね・・・弟のほうが番号が先なんだ」
そこは気にしてなかったけどそういえばそうだな。改造されたのが弟のほうが先ってことだろうか。
「・・・今でもそうやって探してるってことはさ、ビーデルちゃんってもしかして・・・17号のこと、すき?」
地味に一番気になっている部分を恐る恐る訊いてみると、ビーデルは一瞬驚いたような表情をしたあとすぐに笑った。
「え?・・・いやーね、違うわよ。昔お世話になった人が行方知れずになったままだからどうしてるのか気になってるだけ。・・・昔は、そりゃあ格好良いなあって憧れてたけど。あくまで昔の話よ」
「歳の差だってあったもの」とビーデルは嘆息しているが、あの人永遠の17歳だから今見た目的にはイイ感じに釣り合っちゃってるんだよな・・・。
でも聞く感じ、終わった初恋とばかりに割り切ってはいるようだ。昨日この件を聞いた時は、もしかしてパンちゃんが生まれなくなる恐れがあるんじゃないかと少しばかり危惧してたんだが・・・杞憂だったっぽいな。
原作通りにことが進めばちゃんと悟飯と結ばれてくれることだろう。仲良くしていてほしい。
・・・そして原作通り、その日の終わりにビーデルが帰ろうとした際悟飯はキッチリとノンデリ発言をかましていた。
「ビーデルさんのその髪の毛、もっと短くしたほうがいいと思うよ」
「・・・え・・・ショートヘアのほうが、悟飯くんの好み?」
「い!?いや、好みとかじゃなくって・・・試合するんだったら短いほうが便利だと思ってさ」
少し顔を赤らめていたビーデルはその言葉にスン・・・とスナギツネみたいな顔になった。
あれ?原作だと激怒してたはずなんだけどな。
「・・・あぁ、そういうこと・・・・・」
呆れたようにジト目で見ていた彼女は特に怒っている様子も無いまま、溜息をついたあと肩を竦めて言葉を返す。
「せっかくの助言だけどやめておくわ。ここまで伸ばすのも結構かかったし」
「あ・・・そう、ですか」
「髪が長くても問題なく戦えててすごーく強かった人を知ってるもの。それに、アンタのお母さんもそうだったんじゃないの?」
武道会で結婚した話が本当ならあの人も選手だったんでしょ?とビーデルに返されて、悟飯は少しはっとしたような顔をした。
「・・・確かに、そうですね。ごめんなさい、余計なこと言っちゃいました」
「別にいいわよ。悟飯くんなりに良かれと思って言ってくれたっていうのはわかるし、その気持ちだけ受け取っておくわ。デリカシーは無いけどね」
仕方ないといった雰囲気で笑っている彼女を見て、ギスりそうだったらフォローしようかなと思っていた俺はなんだか意外な展開だなと内心でびっくり。
なんというか、ビーデルの受け取り方というか姿勢というか心持ちみたいなものに余裕が見て取れる。原作よりもちょっぴり精神年齢が上なのかもしれない。
・・・ていうか、髪切らないんだ。あの二つ括り可愛いから俺も今の方が好きだけど。
「それじゃあね」と飛行機に乗って帰っていったビーデルを見送りながら、悟天と二人でばいばーいと手を振った。
そしてそれが見えなくなった頃、隣の悟天がふいに思い出したように俺のほうを見て声をかけてくる。
「あ、そーだ。ボク飛べるようになったからさ、筋斗雲おねえちゃんが使ってもいいよ?」
「うーん・・・ありがと。でもいいよ、えんりょしとく」
「そーなの・・・??べんりだよ?」
「うん、いいの。ありがとねー」
コテンと首を傾げている悟天の頭をなでなでしながら、お礼だけ言っておいた。
ありがたい申し出だけど、たぶん俺には乗れないと思うし・・・。
筋斗雲は心清らかな人間しか乗ることが出来ない、とても神聖なありがたい雲だ。
ぴゅあっぴゅあで純粋無垢の塊のような悟天たちと違って、俺はそれなりに煩悩も欲も持っているごく一般的な凡人である。恥ずかしいから試したことはないけど、たぶん無理だよ・・・。
結果は残念に終わったけど教えてくれてありがとうと悟飯にも礼を言って、俺もそろそろお暇することにした。
家に戻ると、脇に設置してある離れからドコバコと音がする。おーおーやっとるやっとる・・・。
こっちはこっちで、朝から悟空とブロリーが二人して重力室に籠っているのだ。
当初悟空は悟飯や悟天と一緒に修行するつもりだったらしいが、舞空術教室に予定が変わった時点でこっちに来た。教えるのは悟飯ひとりでも十分だろうからと。
ブロリーは本来独りのほうが性に合っているんだろうけど、悟空が来たときはそれはそれでどことなく楽しそうにしているようにも見える。なんだかんだで希少な同族、かつ実力が近い相手というのはやはり張り合いがあって嬉しいものなんだろう。
そして悟空と入れ替わりで向こうに行っていた俺が戻り、「あっち終わったよー」と声を掛けると二人も切り上げて外に出てきた。
中を覗くと、見渡す限りそこかしこにヒビが入ってる。張り切りすぎだろ・・・俺だからさっさと直せるけど高かったんだぞこの重力室。大事に使え~。
なお、ビーデルちゃんが舞空術をマスターして完全に通うのを止めたあとは悟飯と悟天もこっちに合流してみんなで仲良く重力室に籠ってた。やっぱり修行に重力倍加って効率いいんだなあ。
・・・そんなこんなで、あっという間に約一か月後。
「わすれものないー?」
天下一武道会の開催当日、会場へ向かうために二人で朝早くから準備を済ませ外へ出た。
戸締りを確認し、最後に玄関のカギを閉めてポッケにしまう。
その後ふと視線を上げ、今やすっかり周りの風景にも馴染んだように見える家をなんとなくじっと眺めた。
もうここに住み始めて7年だ。それなりに大事に使ってきた、俺達二人の思い出がいっぱい詰まってる宝物。
今更何だって話でもないんだけど、ふとこれまでの様々な出来事を思い出して感慨深くなってしまった。
ほんの数秒の間そうしていると、「どうした?」と後ろから訊かれてなんでもないよと首を振る。
「・・・そんじゃ、いこっか」
頷いたブロリーと手を繋ぎ、二人並んでその場をあとにした。
―――――このとき俺は思ってもみなかったんだ。
その後俺達が生きてここへ戻ることはなく、この家もやがて撤去されることになってしまうなんて。
タイトルはアニメZのもじりです。