あれからしばらくの後、控室へ続く通路にて。
試合会場からはけて戻ろうと歩いていたサタンは、途中とある人影を目にして思わず再び冷や汗を流すことになった。
通路の壁に寄りかかり腕を組んで佇んでいたのは、先んじて会場から姿を消していたブロリーだったからだ。
こちらへ気づいている様子もなく、静かに目を閉じて何かを思案しているその姿にサタンは邪魔をしないよう足音を消してそろりそろりと通り過ぎようとする。
しかし。
「おい」
「ッはひぃぃ!?」
真正面を過ぎようとしていたその時、見えてもいないのに唐突に声を掛けられて思わずサタンは裏返った声を上げてしまった。
「わかっているだろうが、口外はするな」
「・・・さ、さっきの、勝たせてくれたことをか・・・??」
「違う、そっちはどうでもいい」
サタンを睨んだブロリーは苛立ちを声に含ませ、少し躊躇うようにして言葉を絞り出す。
「アレだ。その・・・"紙袋"。お前、気付いていただろう」
「・・・ああ・・・・・やっぱり"あれ"はアンタだったのか。別に確信があったワケじゃない。あの頃、アンタが引退するまでに結局対戦することは無かったしなぁ・・・もっとも、していたら今頃この命は無かったかもしれんが」
震えが収まった様子のサタンは当時のことを思い返すようにして、ふと気づいたようにブロリーのほうへ向き直った。
「もしかして・・・あの当時も俺を避けるようにしていたのは、今回勝ちを譲ってくれたことと何か関係があるのか?」
「知らん。あの頃出る試合を選んでいたのはオレではない。・・・だが、引いたのは確かに"そいつ"に言われたからだ」
「・・・そうか。なんにせよ、その人物に救われたわけだな。わかった、アンタ達のことは秘密にしておくよ」
そのままサタンは立ち去ろうとしていたが、その背を見るブロリーはふいにぽつりと呟く。
「・・・・・お前・・・そんな生き方をしていて、息苦しくはないのか」
実力に見合わぬ名声。
嘘と虚構で塗り固めてまでその地位に固執することに何の意味があるのか、ブロリーには解らなかった。
「・・・今更、やめられんのさ」
少しの間をおいて、サタンもぽつりぽつりと言葉を零す。
「アンタ達の存在を知って、世界で一番強いのは今や俺じゃないってのは自分でも判ってるんだ」
「・・・・・・・」
「だが、今でも皆は"チャンピオンである俺"を求めてくれている。その声が消えない以上は、演じることをやめるわけにはいかん。・・・そして何より、『俺がそうしたい』からこの舞台に・・・この役に、しがみ付き続けるしかないのさ。アンタから見ればちっぽけなプライドでしかないかもしれんがな」
振り返ったサタンの目線の先は、武舞台へ続く道。
―――歓声が、今もここまで響いてきていた。
ブロリーからすれば煩わしいばかりの黄色い声や声援。しかしその中でも一番大きく聞こえてくるのは、沢山の人間の声が重なって響くサタンコールだ。
脚光を浴び、人々の期待に応える。それがどれだけ重苦しいものであろうとも、仮面を外さず"ヒーロー"を演じ続けること。
・・・・・到底自分には出来そうにない、と改めてブロリーはしみじみと思った。
遥か昔にシロに説かれたことのある、"力とは違う、別の『強さ』"。
これも、確かにその中のひとつであるのだろう。
それを長年続けているという目の前のこの男は、これまでにブロリーが知らず興味もなかった領域でのひとつの"強さ"を持っているのかもしれない。
そうしているとそこへ、ひょっこりと係員のひとりが顔を出してサタンへ声を掛けた。
「ああ、ミスターサタン。ここにおられましたか。会場はまだ大盛り上がりですよ。控室に戻る前にもう一度、観客の皆様に姿を見せられてはいかがですか?」
「おお、そうだな。今行こう」
用意周到な係員から手渡されたチャンピオンベルトとマントを身に着け、それを翻しながらサタンは来た道を戻り歩き出す。
・・・と、その途中でサタンは足を止め再度ブロリーのほうを向いた。
「ああそうだ、忘れるところだった。アンタへもうひとつ、礼を言わねばならないんだったよ」
「・・・何だ」
「さっき、俺の娘を助けてくれただろう。あのときはゴタゴタしていて適当に流してしまったままだったが・・・ありがとう。感謝する」
「?・・・・・・ああ」
バトルロイヤルの前に起きたあの騒動でのことだ。
ブロリーとしてはあの時、『娘を助けた』というよりも『シロへ手を貸した』という意味合いのほうが強かった上にさほど興味も無い事柄だったために早々に忘れかけていたが。
そういえば、この男はあの娘の父親だったらしい。
・・・・・"父親"。
先程サタンが・・・年嵩の男が口にした『今更生き方を変えられない』という言葉に、ブロリーはひとつの面影を見た気がした。
似ても似つかぬ姿ではあるが、その言葉の重みだけは同じである。
礼を言いブロリーへ軽く頭を下げていたサタンは、今度こそ会場のほうへ再び歩き出した。
目線だけでそれを見送るブロリーに、薄暗い通路へ差し込む光に逆行になったその姿は少しばかり眩く見える。
―――『ミスターサタンには、チャンピオンのままで居て欲しい』。
先程までは全くわからなかったシロの言葉の意味を・・・・・今はほんの少しだけ、理解出来た気がした。
こうして、またひとつ気付きを得たブロリーさんなのでした。
・・・それはそうと、完全におっさん扱いしてるけどミスターサタンとブロリーって歳ひとつしか違わないという事実に今でもびっくりしてしまう。
そして久しぶりのお伺いアンケートです。
この連載、始めた当初はガチブロのタグが付いてたんですが。
途中でブロリーさんが幼女氏に傾倒し始めた辺りで「ダメだこりゃ」と思って外し、代わりにキャラ崩壊のタグを付けたんです。
でも最近また「やっぱりあってもいいんじゃない・・・?」と思ったりしまして。
たまにお茶目なことはやらかしますが基本はシリアス寄り(のつもり)ですし、ガチブロタグ再度付けてもいいと思いますか??
なおキャラ崩壊のタグはどっちみち消さずにそのまま付けておくつもりです。