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49:惡の華
時はほんの数分前に遡る。
水晶玉を前にブツブツと独り言を呟くバビディの背後に、遠く離れた場所に居た筈のダーブラが唐突に姿を現した。
「おかえりダーブラぁ。なかなかに手こずってたみたいだねえ」
「申し訳ありません。エネルギーのほうは如何ですか」
「まだ大した量にはなってないよ。・・・やっぱりオマエひとりじゃ手が足りないし色々と不便だからさぁ、アイツらの誰かひとりでもこっちに引き込もうかと思ってるんだよねぇ」
ふひひひと怪しい笑みを溢しながら「誰にしようか」と吟味するバビディに、ダーブラは少し思案する様子を見せた後再び口を開く。
「ふむ・・・ならばバビディ様、ひとつご提案があるのですが」
「んん?」
「この者は如何でしょう」
ダーブラが指したのは、つい先刻まで相対していた男達と何事かを話している小さな少女だった。
一見するとただの貧相な子供だ。他の者たちに比べると、とてもマトモに戦えそうとは思えない。
「えー?こいつぅ・・・?全然強そうには見えないけどなぁ」
「戦士ではありませんが、妙な術を使うようです。我々魔界の者とはまた違う不可解な魔力を持つことといい、わたしの石化の能力を知っていたことといい・・・この小娘、何かありますぞ」
「ん~・・・オマエがそこまで言うなら、こいつにしてみるかぁ・・・?」
半信半疑といった表情に少々不満げな声色で、バビディは水晶玉に映る少女のほうへと意識を向けた。
「・・・まあ悪人では無さそうに見えますし、難しいようであれば他の者でも・・・・・」
「むっ、ボクのことを甘く見てるだろ。そんなに言うならやってやるよ、見てろよぉ・・・?」
ぽつりと呟くように漏らしたダーブラの言葉に、少々ムキになった様子のバビディは本格的に術を掛ける準備に入る。
―――そのとき彼らは思いもしていなかった。
つまらない意地の張り合いの結果、とんでもない鬼札を手にしてしまうことになろうとは。
「な、なんだ・・・?こいつ・・・・・?」
少女の"中"を探っていたバビディが声色を変える。
見た目はただの子供なのに、とんでもない魔力係数だ。
ひょっとすると魔導士である自分よりもよほど、とも思ったが流石にそれは口には出せなかった。
さらにはこういった魔術に長ける者であれば、戦士のような肉体強度が無い代わりにそれなりの防護の術が掛かっていたりなど何かしらの"護り"があるものだが・・・標的のこの少女には、何故かそれらしき類のものも見当たらない。
色々と得体は知れないが、狙い目であることには間違い無さそうだ。
「・・・うん、確かに"掘り出し物"かもしれないねえ。お手柄だよ、ダーブラ」
「ははっ」
「それじゃいくぞ~、パッパラパー!」
恭しく腰を折るダーブラをよそに、バビディは集中して水晶玉の中の少女に向けていよいよ魔術を行使する。
「・・・う~ん、案外しぶといなぁこいつ・・・じゃあこっちのほうでやってみるかぁ・・・・・」
水晶の中の少女は頭を抱えて苦しんでいる様子を見せるが、中々に"堕ちて"こない。
バビディは独り言を呟きながら、注意深く様子を観察し複数の術を切り替えながらじわじわと追い詰めていった。
「よしよし、ここまで来ればもうこっちのもんだよぉ」
「・・・一体何をなさったのですか?ああいった強大な邪悪な心を持たないものに、それほど付け入る隙などは無さそうに思えますが」
「隙がないなら作っちゃえばいいのさ。元々が悪人であればあるほどやりやすいのは確かだけどね~」
水晶玉へ翳した手は下ろさないまま、バビディは仕上げとばかりに更に術を重ねていく。
「人間っていうのはねえ、よっぽど変わった奴でなければ大なり小なり程度は変われど『悪い心』そのものは持っているものなんだ」
「ふむ・・・」
「ボクの術はそもそも、その『悪い心』を増幅させるところから入るからさぁ。それがどれだけ小さなものでもほんのひと欠片さえあれば、それを種にして増幅させる幅を目一杯目一杯上げてやることで芽吹かせることは出来るんだよ」
ふひひひ、と不気味な笑みを浮かべながら説明を続けつつバビディはようやっと手を下ろした。
水晶に映る少女は先ほどまで自殺すら試みようとしていたが、今や蹲るばかりでまともな抵抗も出来ずにいる。
「まあこいつの場合はそれでも足らなかったから、他の方法も重ねて使ったけどねぇ。悪い心を増幅させても抵抗力があったり自制心が強い場合は膨らませたそばから萎んじゃうんだけど、それに必死に抵抗してる間は隙だらけになるからさ。その隙間を狙って別の術も掛けてやったよ」
「別の術とは?」
「自分からボクに従うように、認識そのものを書き換えてやるんだ。終わったあとは大して前と変わらないように見えても、心の底から忠実なしもべになってるからボクの命令は当たり前のように聞くようになるよ」
流石ですな、と感心したように嘆息するダーブラにバビディは「・・・まあお前に使ったのもソレなんだけどねぇ」と聞こえない程度の声で小さく零した。
「・・・なるほど。しかしそんな無茶を重ねて、その者の精神が壊れてしまったりはしないものなのですか?」
「弱い奴は途中で潰れちゃったり廃人になったりして無駄になることもあるねぇ。・・・・・だからさぁ」
水晶の中の少女が立ち上がったのを見て、バビディはニンマリと口角を上げる。
「コレは"根性がある奴"ほど最後まで耐えて、術が成立しやすいんだよぉ」
―――目の前の少女が口にしたその言葉の意味を、ブロリーは一瞬理解が出来なかった。
『"バビディさま"のところに行って、ちょっと"ブウちゃん復活のお手伝い"してくるだけだよ』
・・・バビディというのは敵の、首魁の名ではなかったか?
言い間違えたわけではないだろうし、仮にも非常時であるこの状況で質の悪い冗談を言うような奴でもない。
「・・・・・何、を・・・言っている?」
困惑の色を滲ませるブロリーが漸く絞り出したその問いかけにシロは答えることは無く、にこりと笑ったままふと気づいたように再度声を上げた。
「あ、もうホントに行かなきゃ。じゃあまた後でね~」
「!!・・・待、」
伸ばした手が届くより前にその小さな姿が唐突に消え失せる。
転移。カカロットの瞬間移動と似たあの技で、瞬時に遠く離れたどこかへ移動したのだろう。
混乱に見舞われたまま、しかし即座にブロリーはシロの気を探り当てた。
・・・・・いる。
距離は遠いが、間違いなくアイツの気だ。
それを確信した途端に、考えるよりも早くその場を飛び立つ。
ブロリーは地球での生活のかたわらで修行を始めもう7年になるが、重点的に鍛えたのは戦闘力そのものよりも気の扱いや探知能力のほうだった。
それは以前新惑星ベジータでの事件の際、弱まったシロの気を見失って死んだものと誤認し暴走に陥った経験から。二度とそのような轍は踏むまいとブロリーが自ら意図的に鍛え上げた結果、他のサイヤ人やZ戦士よりも頭抜けて他者の気を鋭敏に感じ取れるようになっている。
半年前にバイオブロリーが生み出された際にその気をいち早く察知したのも、先刻の武道会でトランクスや悟天の気を感じ取って変装に気づいたのもそれが理由だ。
特にシロに対しては意識的なものもあり顕著で、今や生きてさえいればこの地球上のどこに居ようと探し当てる自信がある。
・・・・・以前そのことをカカロット相手に軽く明かしたところ、「おめぇちょっと気持ち悪ィぞ」と言われてからシロを含め誰にも話してはいなかったが。
そんなブロリーには、いくらシロが転移で移動しようとリアルタイムでほぼ正確にその場所が分かる。
―――何が起こっているのか状況は一切わからないが、せめてシロの真意だけでも追って確かめねば。
胸中に浮かぶ一抹の不安を振り払い、ブロリーは急いで空を駆けるのであった。
バビディの魔術についてはそこそこ独自解釈入ってます。
操る方法はひとつではなさそうだな~と思いまして。