「ちっ、ちっ、ちー」
下界を見渡せる神殿の縁に座り込み、足をぷらぷらとさせながら指を振る少女がいた。
人差し指をタクトのようにリズムよく動かし、ヒュンと振り下ろす度に轟音を立てて星がまたひとつ墜ちてゆく。
「・・・案外えげつないコトするねぇ、お前」
するとシロの斜め後ろに立ちソレを見ていたバビディが、半ば呆れたような声色でぽつりと呟いた。
「え~?バビディさまがやれって言ったのに~」
「なにも街ごと全部潰せだなんて言った覚えはないよボクは。まあ別にいいけどさぁ」
エネルギーさえ集まれば、とバビディは手元に持った計器に目を落とす。
流石に犠牲者の数が膨大過ぎるが故か、エネルギーの貯まる速度はダーブラがちまちまと殺し回っていた時の比ではない。
無暗矢鱈と殺せばいいという訳でもないためエネルギー収集範囲を指定するバビディ側もその速度に合わせるのがそれなりに大変ではあったが、最終的な効率としては圧倒的。
始めてからさほど時間が経っていないにも関わらず、もう全体の半分を過ぎるほどにまで針が振れていた。
・・・その目盛が示すのは、すなわちシロがその手で圧し潰した命の量だ。
指が振り下ろされる度に、一つまた一つと街が焦土と化してゆく。
「ちー」
「・・・さっきから何なのその掛声は」
「だしんべんごっこ」
「わかる言葉で言ってくれる?」
そしてさらに半刻ほどが過ぎ、エネルギー量が満タン近くにまで迫った頃。
降り注ぐ隕石の間を縫い、東の方角から凄まじい速度で飛来した金色に輝く光の塊が二人の眼前へ姿を現した。
「な、なんだぁ!?」
目を剥いて驚愕の声を上げるバビディと、それとは対照的にシロは花でも咲いたかのようにパッと表情を明るくする。
その姿を目にしたブロリーは一瞬目を見張るも、すぐさま鬼気迫る様子でバビディのほうへと狙いを定めた。
「・・・貴様か!!!」
「うぎゃッ!?」
咄嗟にバリアを張ろうとするバビディへそんな隙も与えず、気弾を投げつけ爆発したかと思えばその直後には煙も晴れない中すでに間近にまで迫っていたブロリーの大きな手がその顔を鷲掴む。
地面へ力任せに叩き付け、砕けた石畳に沈むその胴の真ん中を容赦無く踏み潰した。
ごぼりと血を吐いて白目を剥いたバビディは悲鳴すらも上げられず一度だけびくんとその四肢が跳ね、そのまま動かなくなる。
「ブロリー!」
ほんの数秒も掛からず、衝動に任せ瞬く間に敵を仕留めたブロリーはその怒りを鎮めるように大きく息を吐くと自分を呼ぶ声に気付いて顔を上げた。
変身を解いてゆるりと振り返るその先には、笑顔を浮かべながらぱたぱたと自分のほうへ駆けてくる少女の姿。
それを見たブロリーは再び瞠目し、息が詰まったような感覚に陥った。
・・・・・今現在のシロの容姿。
それは幼少からの記憶の数々の中にある、"あの頃"とそっくりそのままの姿だったから。
肉体が再び縮んでしまったのは先刻の別れ際に目にしていたが、いつの間にかその装いも変わっていたらしい。
走り寄ったシロは地面でひしゃげている血塗れのバビディには目もくれず、そのままブロリーのほうへ嬉しそうにしがみついてくる。
それを抱き留めたブロリーは、あまりにいつもと変わらないその仕草に戸惑いながらもどうにか声を絞り出した。
「・・・シロ・・・その、姿は・・・・・、・・・いや、それよりも」
何を言うべきか迷い、しかしまずは確かめねばとブロリーは遠く見える周囲の・・・あちこちで炎を上げている世界の惨状へと目を向ける。
「・・・お前が、これを・・・やったのか?」
「うん、そうだよ」
隠すこともなく、平然とした様子で頷いたシロの笑顔を見て内心愕然とした。
・・・本来ならば、例え脅されたとしてもこんな凶行に及ぶことは決して無いだろう。
思わず表情を歪めたブロリーは、ふと神殿のほうへ視線を向ける。
予想はしていたがそこにはやはり、既に亡骸となった地球の神が無残な姿で捨て置かれていた。
ブロリーは過去に幾度となく目にしている。
デンデのことを友人と呼び、親し気に接していたシロのことを。
この場所にはバビディも居たが、デンデをもその手を掛けたのは恐らくシロの方なのだろうと何となく感じ取ってしまった。
それらの事実に、そしてそのことに対して何ら罪悪感も抱いていない様子のシロの姿を改めて見て絶望的な気持ちにさせられる。
―――本当に、変わってしまったのだと。
少しだけ躊躇い、シロの前髪を指先で掻き分ける。
その額には、界王神が言っていた刻印が確かにあった。
まるで似合っていない、不釣り合いなそれを目にして僅かながらに安堵する。
今のシロの・・・狂ってしまったのかと思うようなこの倫理観の逸脱は、やはり本人の意思では無いのだと証明はされた。
そして思い返す。
様子の変わってしまう直前、おそらくバビディの術に必死に抗っていたのであろうあの時。
『殺してくれ』と自分に縋り、そして自らの手で喉を掻き切ろうとまでした理由。
"こう"なりたくはなかったからだ。
あの時、瀬戸際で食い止められた筈の自分が拒んでしまったせいで。
ここまでの惨状に陥った。
自分のせいだ。
・・・だから、今からでも。
これ以上罪を重ねさせないために、その手をさらに汚してしまう前に。
せめて、ここで。
―――そしてブロリーは、
不思議そうな目で自分を見上げてくるシロの、
その細い首へ、ゆっくりと手を掛けた。
こういう方向に舵切っといて今更何なんだと言われるかもしれませんが、
この連載最後の最後の最後はハッピーエンド(っぽいもの)で〆ようと思ってるんですよ。