ブロリーをナメック星へ送った後、ひとりになったシロは暫くその場から動けないでいた。
―――下された『ブロリーをどうにかしろ』という命令に対し、殺害ではなく遠ざけるという手段をとったのは本人なりに精一杯抵抗した証だったのかもしれない。
へたり込んだままぼうっとしていたが、ややあって再度テレパシーを送り込んできたバビディの元へよろよろと近づいていく。
はた目からはどう見ても死んでいるようにしか見えなかったソレに遡行を掛けると、負傷する前にまで完全に復活しバビディはやがて息を吹き返した。
「・・・はー、死ぬかと思った!何だったの?あのおっかない奴は」
「ぶろりー。せかいでいちばんつよい、サイヤじん」
「サイヤ人~?なんだそれ・・・おや?」
訊かれるままに答えるも、虚ろな表情でいつもに増して舌足らずな喋り方をしているシロの様子に違和感を抱いたバビディはじっとその顔を覗き込む。
「・・・なんだオマエ、何があったのか知らないけどちょっと見てない間に随分と"緩んでる"じゃないか」
「・・・・・???」
「どうやらオマエの知識も技も、思ってたより使えるみたいだからねぇ。まだまだボクの役に立ってもらうよ?」
ヒヒヒと嗤うバビディは、焦点の合わない目でキョトンとしているシロへ手を翳し改めて術を掛け直した。
今度は綻びさえ生まれないよう、念入りに念入りに。
自我を無くした人形のままで運用しても良かったのだが、その汎用性の高さから自発的に動いてくれたほうが役に立つかもしれないという算段でバビディは壊れかけていたシロの精神状態を整え直す。
そのままふらりと倒れ込んだシロは再び洗脳された状態へと戻ったが・・・結果としては皮肉にも、この処置により人格や心そのものはギリギリ壊れずに済んだとも言えた。
「これでよ~し。目が覚めたときにはまた元に戻ってるだろ」
処置を終えたバビディは気絶してしまったシロをその場へ放置し、ふと放り出されて転がっていたエネルギーの計器を拾い上げる。
「お、おおお~~~!?いつの間にかフルパワー分まで溜まってるじゃないかぁ!!でかしたぞ、やっぱりお前を使って正解だったみたいだねえ」
ブロリーがここへ訪れた時点から各地への隕石の落下は止まっていたが、未曽有の大災害と化してしまった世界中ではその後も続々と人々が命を落としていた。
余韻ともいえるその分を含め、目標としていたエネルギー量へは充分に達していることを計器の針が示している。
本来予想していた時間よりも遥かに速い。バビディとしては嬉しい誤算だった。
「よしよし、これでついに魔人ブウの復活だ!・・・とりあえずダーブラを呼び戻すかな」
まだ宇宙船の付近に居るはずのダーブラへ、ついでに船に安置したままだった魔人ブウの封印された球を回収してこちらへ合流するようテレパシーで指示を出す。
自分達が宇宙船のほうへ戻っても良かったが、どうせ球を開封するには外へ出た方が良さそうではあったしバビディはこの天界の神殿という場所をそれなりに気に入ってもいた。
いずれは世界の王になることをも目論む自分に、君臨する者として下界を見下ろすのにうってつけなこの場所は実に似合いではないかと。
「お前のおかげで思ったよりも早く済みそうだねぇ。ボクはやさしいからさ、ダーブラがこっちに戻るまで休憩してていいよぉ」
上手く事が運びすこぶる上機嫌なバビディは、横たわったままのシロへそう告げると再び手元の計器を見下ろしニンマリと口角を上げていた。
―――そして、それからおよそ数十分後。
「お~い、いつまで寝てるんだ!そろそろ起きろ!」
「・・・んにゃぁ・・・??」
バビディの小さな足でケリケリ足蹴にされ・・・もとい揺り起こされて、シロはようやっと目を覚ました。
「あれぇ・・・?わたし、どうしたんだっけ・・・・・??」
「魔人ブウを復活させるんだよ!オマエが集めてくれたエネルギーはもう注入してあるからねぇ、今からついに開けるぞぉ」
あそっかと呟いて起き上がったシロは、先刻までの錯乱した様子も虚ろな人形のようになっていた様子ももう見られない。バビディの言った通り、元々のシロに近い自然な状態へ今やすっかり戻っている。
キョロキョロと辺りを見回せば、そこにはバビディと傍に控えるダーブラ・・・そして、ドクドクと脈打ちながら淡い光を放っている禍々しい球体が鎮座していた。
三者が見つめる先で、球の外郭が真っ二つに割れる。
「おぉぉ・・・!ついに、出てくるぞぉ・・・!!」
歓喜の声を上げるバビディの見る先で、ピンク色の煙が大量に球の中から吐き出され・・・・・そして、やがて見えたその中身は空っぽの空洞。
「え・・・あ、あれぇ・・・??」
一転して素っ頓狂な声を上げたバビディへ、シロは「あっちあっち」と上を指差した。
それにつられて見上げてみれば、球の中から先程出てきたピンク色の煙が空の一点へと集まっている。
モコモコと形を変えながらやがて人型となったそれは、やがてぷんぷく太ったピンク色の魔人へと姿を変えた。
「ブゥーーーーーッ!!」
地面へ降りてぽよんと着地したそれを、バビディとダーブラは唖然とした表情で見ている。
その中で、シロだけがパチパチと小さな手で拍手しながら「おめでと~」とささやかな賛辞を送っていた。
「・・・ほ、ほんとにコイツが・・・魔人ブウなの・・・??」
口をあんぐりと開けたまま呟くバビディをよそに、シロはうきうきとした顔でブウへと近づいていく。
「か、かわい~~~!!」
「ほぁ?」
辺りをキョロキョロと見回したり、体操するような動きでわきゃわきゃと勝手に動いていたブウは近寄ってきた幼女へキョトンとした顔を向けた。
「ねぇねぇ、さわってもいい?」
「なんだ、おまえ?」
「シロ!・・・ねぇねぇ、さわってもいい?」
キラキラした目で手をわきわきさせているシロへ、こてんと首を傾げたブウは片手を差し出してみる。
するとそのピンク色の腕をモチュモチュと小さな両手のひらで握ったシロは嬉しそうにキャッキャとはしゃいだ。
「うひゃ~!もちもちすべすべぷにぷにだぁ~!!ほんもの~!!」
一回触ってみたかったんだ~と嬉しそうに腕を揉んでいるシロへ、ブウはそのまま腕をぶんぶん振り回しついでにそのまま振り回されたシロをその手でバシバシと叩き始めた。
「あべべべべべ」
「おまえもぷにぷに!」
ダメージ無効により痛みも一切無い受けていないシロは、さっきまでと逆にブウにされるがままべしんべしんとはたかれながら奇声を上げる。
しかし、その顔は楽しそうに笑っておりワハハと笑うブウと一緒になってキャイキャイと騒ぎ始めた。
「べろべろばー!」
「べろべろべ~!」
まるで小さな子供同士のじゃれあいのそれを、はたから見ていたダーブラは呆れたような表情で苦々しく口を開く。
「・・・バビディ様、やはりこれは失敗なのでは?やっと現れたと思ったら、アタマもパワーも無さそうなマヌケ面の生ゴミだ」
「えぇ・・・そ、そんなはずは・・・・・」
ダーブラから見れば小さな幼女相手に怪我すら負わせずじゃれているように見えているが、実際のところはそうではない。
ダメージ無効により通じていないだけで、特に手加減などしていなかったブウの"じゃれつき"によりシロの身体はかなりの衝撃を受けていたりする。
頭からぼよんぼよんと叩かれたりお手玉のように揉みくちゃにされる度、ふつうの人間であればミンチの塊に姿を変えていてもおかしくはなかった。
・・・ただ、それを受けている側のシロが楽しそうに笑っているせいでとてもそうは見えなかったのだろう。
そして、ダーブラの漏らしたその言葉は耳聡くブウのほうへもばっちり聞こえてしまっていた。
「むかちーん!」
「あ~、悪口言っちゃいけないんだ~」
横に居たシロも口を尖らせてぶーぶーと非難の声を上げ、ブウはその身体に開いた穴からまるで湯を沸かしたやかんのように蒸気を噴き出している。
やがてのしのしと大股で近づいてきたブウへ、ダーブラは不敵な笑みを浮かべた。
「・・・なんだ?このダーブラ様と戦ろうっていうのか?」
「おまえ、ムカつくから食べちゃおっかな」
挑発的な態度をとっていたダーブラであったが、目を開き一気に戦闘モードへ入ったブウが殴りつけるとすぐにその認識を改めざるを得なくなる。
連撃を受けて吹き飛び、石畳を砕きながら無様な姿を晒すこととなった。
その戦闘力差は圧倒的。激昂して再びブウのほうへ向かうも、それを迎え撃ったブウの魔法によりあっさりクッキーに姿を変えられ食べられてしまう。
シャクシャクと大きなクッキーを咀嚼してブウが飲み込んだ後には、もう何も残っていなかった。
「はぇぇ・・・す、すばらしい・・・・・!!」
バビディはずっとその様子をハラハラしながらも傍観していたが、元魔王であるダーブラをあっさりと片づけてしまったブウの力を目の当たりにしてやはり正真正銘の魔人ブウだったと喜びの声を上げる。
「お、おい、魔人ブウ!ボクはおまえを作ったビビディの子供のバビディだ!おまえを球の中から出してやったんだぞ!」
シロは「違うって言ったのになあ」とぼやいていたがそんな声も届かず、ブウのほうに向かってやいやいと声を掛けるが当のブウは聞こえていないかのように反応を返さない。
「おい!おいってば!ボクがご主人様だぞ!あいさつしろー!」
「つーん」
あくまで知らんぷりを続けようとするブウに歯噛みするバビディの元へ、ふいに背後へ現れたシロがこそっと囁いた。
「・・・あのねバビディさま、あの子ってお菓子に目が無いからさ。魔法で適当にお菓子を出してそれで釣ったほうがうまく言うこと聞くと思うよ?」
「あん?・・・菓子ぃ?」
ほんとかぁ?と半信半疑ながらバビディはシロが送ったイメージ通りに洋菓子をいくつか召喚してみせる。
「・・・おい魔人ブウ!ちゃんとボクの言うことを聞くならコレをやるぞ!」
「んお!お菓子だぁ!」
するとそれを目にした途端飛びついたブウを見て、「おぉぉ」と感心したような目を向けたバビディにシロはぶいっとピースを返した。
「おい、もっと欲しいか?ちゃんと言うことを聞くなら腹一杯に食べさせてやってもいいよ?」
「んむー・・・わかった。オレ、お菓子たくさんたべたい」
「よしよし。それでいい」
とりあえず従順な態度を見せたブウにバビディは満足気に頷いて見せる。
そして、やはりこの娘を手元に残したのは正解だったなとしみじみ思い返すのだった。
シロはお菓子を頬張るブウの横っちょで「おいしい?」とニコニコしていたが、やがてふと思い出したようにバビディのほうへ声を掛ける。
「でもバビディさま、ブウちゃんは復活したけどさあ・・・このあとってどうすんの?」
「んん?そうだなぁ・・・とりあえずは界王神だ!アイツはパパの仇だからね、きっちり殺してやらないと。そのあとは、この世界を一気に征服でもしようかなあ~・・・」
「ふーん・・・界王神はともかく、世界征服はちょっとムリなんじゃないかなあ」
「なんでだよ?こっちには魔人ブウがいるんだぞ?」
「だって・・・ブウちゃんとタイマンで闘っても余裕で勝っちゃいそうな人間、少なくともこの地球に3人はいるよ?」
「・・・・・はぁ???」
魔人ブウの復活を成し遂げ、もう恐れるものなど無いと思い込んでいるバビディにシロは平然とした顔で過酷な現実を突きつけるのであった。
基本的にはアニメ版寄りの描写に寄せて色々諸々を書いているんですが、ダーブラの魔人ブウへの初見反応はKAKAROTでのあの発言が結構ツボって好きだったのでそっちを採用しました。何度聞いても言い過ぎで草生える。