―――――許さない。
ブロリーの思考は今や、その一念のみで占められていた。
重々しい足音と共に一歩を踏み出せば、「ヒィッ」と短い悲鳴を上げてバビディが後退る。
「お、おい!魔人ブウ!ボクを守れ!アイツをやっつけろ!」
震える声で命令を下すと、ブウは不満そうな表情を浮かべながらも気にはなったのかブロリーの前へと立ち塞がった。
「・・・おまえ、さっきのやつか?なんか違う・・・・・」
訝しみつつ、再びお菓子へ変えてやろうと頭の触手を向ける。
すると、魔法の光線を撃つより先に一瞬で距離を詰めたブロリーがその触手を掴んで引き寄せるとブウの口へ拳を突っ込んだ。
「んごっ!?」
「邪魔だ」
ブロリーの全身から噴き出す気の乱流が激しさを増し、ウゴウゴと蠢くブウの身体が次第にどんどん膨らんでいく。
まるで風船のように何倍もの大きさにまで膨張し張り詰めたかと思うと、内部で爆発した気と共にバチンと大きな音を立てて砕け散ってしまった。
「ひ、ひぃぃ・・・!!魔人ブウー!!」
破裂した肉片の殆どが燃え尽き、粉々になった細やかな欠片だけが辺りに飛び散る中でバビディが悲鳴を上げる。
・・・シロが言っていた、『ひとりでも魔人ブウを倒せる者がいる』というのはどうやら本当だったらしい。
念のため強化策は実行しつつも、本心の片隅では未だに信じ切れていなかった部分があったバビディはその事実に震え上がった。
「く、くそぅ・・・何なんだオマエ!!ボクが何したっていうんだよ!!」
冷や汗を流しながら、何とかこの場を生き延びようと脳内でシロへ向けて今すぐ戻ってこいとテレパシーを飛ばす。
―――しかし、生憎とシロが向かった先は宇宙の端の端にある辺境の惑星。
流石に距離が遠すぎたのか、そこにまでバビディのSOSが届くことは無かった。
うんともすんとも一切の反応が無く、戻っても来ない少女へバビディは思わず歯噛みする。
そうしていると、一歩また一歩と近づいてくるブロリーがバビディを睨みながらぽつりと一言こんなことを口にした。
「・・・シロを、返せ」
「な、なにぃ・・・??」
今しがた呼び戻そうとしていた少女の名前が出たことで、バビディは目の前の男が以前シロの言っていた"一番強い奴"であることと・・・そして、先刻一度ここへ来て自分を瀕死にまで追いやった者と同一人物であることを瞬時に悟る。
・・・そして、思った。
見るからに殺気にまみれ、邪悪な気に身を任せているコイツであれば"こちら側"へ充分引き込めるのではないかと。
そんなに一緒に居たいならば居させてやろう。自分の手駒として。
不敵な笑みを浮かべたバビディは、一か八かではあったが距離が縮まりきる前に洗脳の為の魔術を組み上げ発動する。
しかし・・・その気配がブロリーの元へ届くやいなや、効果が発揮されるよりも前に"それ"はブロリーの逆鱗に触れてしまった。
手を翳し術を掛けようとしたバビディの、ここに至ってなお自分を利用しようと企むその悪辣さに激昂したのだ。
実際のところ、シロを難なく操ることに成功したのは遠く離れた安全な場所から集中して術を掛けることが出来たからに他ならない。
今のように目前で、露骨にこちらを操ろうと試みてくる相手を前にしたブロリーがそんな状況を許すはずが無かった。
「貴様、だけは・・・・・!!!」
許さない。・・・絶対に、許さない。
―――シロは、あの心優しかった娘は。
本来であればこれまでの事件のように、その不可思議な力と知恵を惜しみなく使って事態の収束に貢献していたことだろう。
きっと今も、自分の隣で笑っていた筈だったのだ。
それを、こんな雑魚の下らない野望のために。全てを打ち壊されてしまった。
仮にシロが今後正気に戻れたとしても、恐らくもう完全には元通りにならない。
表面的には元に戻ったように見えても、その心や精神には消えない大きな傷を残すだろう。
一度洗脳が綻びかけたあの時、自分の仕出かした事を自覚して取り乱したあの様子からも明らかだ。
きっと永遠に、自分を責め続ける。二度と心の底からは笑えないのかもしれない。
その事実が、今や世界中の何よりも少女を大切に想うブロリーには耐え難かった。
―――――到底、許せるはずがない。
小賢しくもジワジワ浸み込んでこようとしていたその精神干渉を大きすぎる怒りで意にも介さず、慄きながらもまだこちらを睨みつけていたバビディへブロリーの手がついに届く。
―――許さない。その腕を。
彼に対し術を掛けようと翳していた、まるで枯れ枝のようなバビディのそれを大きな手で掴んだブロリーは躊躇することなく力任せに引き千切った。
―――許さない。その足を。
他者の尊厳を平気で踏み躙り、自らの踏み台にせんとするそれを腕と同じく毟り取って投げ棄てる。
―――許さない。その口を。
数々の魔術や口車でシロや皆を誑かし、嘲笑し愚弄することにしか用いないその無駄な器官を。
顔の下半分を鷲掴んだブロリーはその強靭な握力で握り潰し、顎の関節が砕ける音がした途端その下顎を舌ごと丸々引き千切って燃やし尽くす。
呪文を唱えるための口すら失ったバビディは、もはや喋ることも悲鳴を上げることも叶わず喉から奇怪な音を発することしか出来ない。
四肢もその根元の関節から全て引き抜かれた今、その身は胴体と頭しか残っていなかった。
―――――それでもまだ、決してブロリーは許さない。
心臓や頭を潰せばその命は即座に潰えるであろう。
"だからこそ"そうはせず、首筋を掴んだブロリーはそのまま高めた気を放出させバビディのその全身を灼いた。
衝撃と熱とで全身が焦げ、虫のように飛び出ていた眼球が燃えて溶け落ち、表皮が全て炭と化す。
前回のように半端に残して復活などさせるつもりは無い。
今度こそ完全に消し炭に変えるまで、ブロリーはその手を離さなかった。
そして悲鳴すらも上げられなくなったバビディは苦痛と恐怖の中で、それでもまだ最後の足掻きを試みる。
流石にここまで来ればもう自分は終わりであることは疑いようもないが、せめてその前に。
『ヒ、ヒヒ・・・オマエ、よっぽどあの小娘のことが大事みたいだねえ・・・?』
声すらも発することが出来ないバビディは、目の前の自分を焼き尽くそうとしているブロリーに向けて最期のテレパシーを放った。
『でもザンネンでしたぁ!!オマエに、会って・・・洗脳が解けかけたあと、アイツには念入りに・・・細工しておいたからさぁ!ボクがいなくなった、あとも・・・きっと死ぬまでアイツは元に戻らないよ・・・!!ざまぁみろぉ!!』
途切れ途切れになりながらも一方的に送り付けられたそれを聞いたブロリーが僅かに目を見張る。
・・・・・だがしかし、それは半ば予想していたことでもあった。
この悪鬼が、すんなりとアイツを手放すとは思えなかったからだ。
ゆえにブロリーは歯噛みしつつも、そのままバビディの襤褸屑のようになった身体を灼き続けることを止めない。
狂ったようにケタケタ嗤う耳障りな声が暫くの間響き続けていたがそれもやがて消えゆき、骨すらも燃やし尽くされた"バビディだったもの"はブロリーの手の中で塵芥と化した。
そして誰もいなくなった静寂の中で、ブロリーはひとり膝をつく。
深い悲しみと激しい怒りという激情によって外れた箍により一時はその精神まで呑まれかけていたものの、バビディという憎悪の対象を失った今のブロリーの胸中に去来するのはただ虚しさと悲哀だけだった。
伝説の超サイヤ人という形態から大きく壁を越え逸脱したその姿も、やがて霧散した気と共に元へと戻る。
・・・・・今は、ただただ悲しかった。
シロは、もう本当に元へは戻れないのだろうか。
術者であるバビディがそう証言したとはいえ、先刻の・・・帰りたいと泣いていたあの姿を思い出すと、どうしてもまだ諦めきれない。
ブロリーは再度立ち上がった。
・・・・・本当にどうしようもないのだと確信を得るまでは、まだ。
正直今すぐに再びシロの元へ駆け付けたかったが、また宇宙へ出てしまったのか居所は判らない。
他に誰かから情報を得るとすれば・・・・・候補はやはり界王神だろうか。
心も身体も摩耗し切っていたが、西の都へ向かうべく再びブロリーはその場を飛び立った。
いらないかもしれない補足
ブロリーさんが今回変身していたのはブロリーゴッドではなく伝説の超サイヤ人3でした。今さら感はあれど、ブロリーとバビディの組み合わせと言えばやっぱりアレかなあって。
ちなみに通常のSS4との使い分けであまり経験値も溜まっていなかったこともあり、伝ブロ形態はまだ1のままだったので実質二段階進化です。