界王神の瞬間移動で一行が連れて来られたのは、一見すると地球とよく似た緑溢れる地だった。
見渡す限り自然豊かで広大な土地であるものの、奇妙なことに人や動物など生き物の気配は全くない。
「ここが界王神界。いうなれば、私の世界とでも言いましょうか」
界王神とキビトに同行したのは純血トリオに悟飯を加えた4人のサイヤ人。
物珍しそうに周りを見回す悟空と悟飯に反し、ベジータとブロリーはさほど興味も無いのか眉間に皺を寄せている。
中でも特に顕著なのはブロリーだ。
「・・・何故オレまでこんな所に」
「まあそう言うなって。あのブウの気のデカさじゃあお前ですら太刀打ちできるか怪しかっただろ?ドラゴンボールがもう使えなくなっちまった以上無駄に犠牲を出すわけにもいかねえし、何かパワーアップさせてくれるっちゅーんだからそれが何なのか確かめてから動いたっていいじゃねえか」
ぼそりと漏らした不満に悟空が宥めにかかるが、それを聞き付けたキビトは思わず眉を跳ね上げ苦言の混じった怒号を飛ばした。
「界王神界をつかまえて『こんな所』とは・・・!本来であればここは、人間はおろか神や界王ですら立ち入ることは許されない聖域なのだぞ!?」
「キビト、よしなさい。この方たちであれば・・・いえ、この方たちでなければあの剣を扱うことは出来ないでしょう」
「剣!?ま、まさか、界王神様・・・!!まさかあのゼットソードを、この者たちなら抜けるとでも仰るのですか!?」
「その通りですよ。・・・皆さん、こちらです。ご足労を掛けますが、その剣のある場所までもう暫し付いてきてください」
「フン、勿体ぶりやがって・・・よほど大層なモノなんだろうな」
界王神にいざなわれるまましばらく飛べば、やがて見えてきたのは湖に聳え立つ巨大な岩の柱。
そしてその登頂に、一振りの剣が深々と刺さっていた。
見た目はさほど珍しくもなさそうな両刃剣だが、柄を残し刃の根元部分から先が完全に岩の中へ埋まってしまっている。
「これが、この界王神界に古くから伝わる伝説の剣・・・ゼットソードです。引き抜くことが出来たならば凄まじいパワーを得ることが出来ると言われているのですが、私の知る限りでは誰一人として成功した者はいません」
「ふーん・・・そんなに大層なモンには見えねえけどなあ・・・・・」
「なんか昔話でありましたよね、こういうの」
剣に近寄ってまじまじと矯めつ眇めつ眺めている悟空達親子の後ろで、ブロリーは眉間に皺を寄せたまま難しい顔をしていた。
不満を引き摺っているからではない。
先程から出ている『ゼットソード』という名前が、どこかで聞き覚えがあったような気がして妙に引っ掛かる。
どうにか記憶を掘り起こそうとするも、中々思い当たらずどうにも気色悪い。
「よーし。悟飯、ちょっとおめえやってみろよ」
「え、ボクですか?おとうさんやベジータさんのほうが・・・・・」
「ふん、誰であっても同じこと。いくらサイヤ人が並外れた力を持っているといっても無理だろう。これまでに何人もの界王神様が挑戦しようとも、いまだ誰一人として抜くことが出来なかったのだぞ」
「むっ、そこまで言われちゃあ退けませんね。わかりました、試してみますよ」
悟空に水を向けられポリポリと頬を掻いていた悟飯だが、鼻で笑うキビトの言葉でやる気になったらしく剣の前にしゃがみ込むなりその柄を両手でしっかりと握った。
「ぐっ・・・ふんぎぎぎぎぎ・・・・!!!」
顔を赤くしながらしばらく踏ん張っていたが、剣はビクともしない。
「・・・ダメそうか?」
「いや、もう一回・・・超サイヤ人になればなんとか・・・!!」
怪訝そうな顔で覗き込む悟空へそう返し、悟飯は一度剣から手を離したあと超サイヤ人へ変身して再度抜こうと試みた。
「うぐぐぐ・・・抜けろぉーーーーっ!!!」
やがて岩に大きな罅が走り、ゆっくりと剣が持ち上がる。
剣自体もかなりの重量があるのか、少しずつ悪戦苦闘しながらもなんとか完全に抜き放ち悟飯は剣を掲げた。
「おー!抜けたー!」
「や、やったぁ!!!」
「な・・・!?し、信じられん・・・・・!!!」
歓喜の声を上げる界王神と悟空、そしてキビトは目をまん丸く見開き驚愕の声を上げる。
持ち上げるのも一苦労のその剣を、その場でブンブンとひと通り振り回してみせた悟飯は一旦草地に降り立ち一息ついた。
「んで、どうだ悟飯?何か変わった感じするか?」
「・・・いえ、特には・・・・・?ただめちゃくちゃ重いってだけで・・・・・うわわわわ」
超化を解いた後もう一度持ち上げてみるも、ぐらりとバランスを崩してズシリと音を立てながら剣先が地面へめり込む。
すると黙ってそれを見ていたベジータが、青筋を立てながら苦々し気に口を開いた。
「ここまで引っ張っておいて何なんだそれは?重いだけの剣など、ただの鉄の棒と大して変わらんだろう」
「そこまで言うこたぁねえと思うけど・・・まあオラ達、武器より素手のほうが闘いやすいってのは確かだかんなぁ・・・・・。使えるかっちゅーと微妙なとこかもしんねえ」
「そ、そんな・・・言い伝えでは確かに・・・・・」
あまり芳しくない反応に、界王神は冷や汗を流し始める。
大して戦力の足しにならないのであれば、ただの時間の無駄になるだろう。魔人ブウへの対策も練り直さなくてはならない。
そんなとき、ふと悟空がこんなことを口にした。
「・・・しっかし剣かぁ。なんか、未来から来たトランクスのこと思い出さねえか?」
「・・・・・!!!」
―――その台詞を聞いた時、遠巻きに見ていたブロリーの記憶に突如ひとつの光景が蘇る。
そして直後、考えるより先に身体が動いていた。
悟飯が構えていた剣の、その刃を横からブロリーが蹴り飛ばす。
唐突なそれに反応出来ないままゼットソードはその半ばからボキリと折れ、吹っ飛んだ刃先が地面へ刺さった。
「「げっ!!???」」
「「な、なぁぁぁぁぁ!!!???」」
悟空や悟飯の顔が引き攣り、界王神とキビトは目を剥いて顎が外れんばかりに絶叫を上げている。
「な、なんということをぉぉぉ!!??」
「・・・いや、恐らくはこれでいい」
突然の暴挙に血迷ったかと詰め寄るも、ブロリーはあくまで落ち着いている。
周りの面々がひたすら困惑する中、突如知らない声がその場に響いた。
「そのと~~~りっ!!」
「・・・は?」
振り返ればそこには、いつの間に現れたのかどこか界王神と似た風体の老人が立っている。
「あ、あなたは・・・?」
「わしゃあよ、聞いて驚けぇ?お前さんの15代前のよ、界王神なんだなぁ~これが」
「じゅ、15代前の・・・!?」
「界王神様・・・!?」
老人・・・老界王神の正体を知り、界王神とキビトはもう何度目かもわからない驚愕に再び目を剥いた。
「うむ。むか~し昔にわしの能力にビビったわる~いヤツに、あの剣に封じ込められてしもうたんじゃが・・・まあそんなことはどうでもええわい。しかしおまえ、あの剣を壊すのが正解だとよくわかったのう?」
老界王神が目を向けた先で、成行を見ていたブロリーもまた驚きの表情を浮かべていたが・・・その言葉を聞いて、先程思い出した"とある台詞"を記憶の中で反芻する。
"『―――あのさ、いまは意味わかんないかもしれないんだけど。このさきもしも『ゼットソード』っていう剣をだれかにもらうことがあったらね、そのままつかうよりも叩き折ったほうがいいよ』"
それは7年前、セルゲームが終わり未来へ帰るトランクスを皆で見送ったときの一幕。
当時は意味など解らず、ただ後ろで聞くだけ聞き流していたあの台詞。
まだ正気であった頃の、あの少女が残した言葉はきっとこの場面を指していたのだろう。
その知識と先見の明でどれだけ先を視ていたのか、到底推し計れるものではなかったが。
当時のことを思い出し、その懐かしさに目を細めたブロリーは口角を僅かに上げた。
「・・・オレではない。こうするのが最適だと、教えてくれたやつが居た。それだけだ」
老界王神のじっちゃんてよく有能って言われるけど、その能力の元になったと思われるあの魔女のばあちゃんって結局何者だったんだろうか。