その昔、悪しき存在が封印を試みるほどにまで恐れたという老界王神の能力。
それは他者の力を、その潜在能力以上に引き上げるというものであった。
・・・・・強力なのは強力なのであろうが、そこまで大層に警戒するほどのものなのだろうか。
いまいちピンとこなかったブロリーと同じことを考えていたらしい悟空がそれをそのまま口に出してしまい、それにヘソを曲げた爺が子供のように口を尖らせぶすくれている。
慌てて機嫌を取ろうとした悟空はよりにもよってベジータの妻を差し出そうとしたらしく、その上悪びれも無くその旦那当人に「ちょっとブルマに頼んどいてくれよ」などと言い出し一発ぶっ飛ばされていた。
まるでコントのようなそのやりとりをよそに、ブロリーは再び考え込む。
シロがあのゼットソードという剣を壊せと言った、その理由。
当時助言を与えたのはトランクス相手ではあったが、結局のところ言いたかったのは『剣の中に封印されていたあの老界王神を解放しろ』ということだったのだろう。
人造人間達によりかなり荒廃してしまったらしい未来の世界において、それがどういった助けになる?
先程聞いたあの爺の力は潜在能力の解放だということだったが・・・本当に、それだけだろうか。
シロの言動は、その時には意図が解らないものであっても後々に改めて見れば大きな意味を持っていたということがこれまでにも度々あった。
考えろ。
見落とすな。
―――それが、この先の行く末を大きく左右することにもなりかねない。
ブロリーは再度、いまだにやいのやいのと騒いでいる面々へ視線を戻す。
そして、老界王神の姿をじっと見ているとふとその装いが気になった。
やや離れた場所で半ば呆然と一行のやり取りを見ている界王神。
ほぼ同じ格好をしている二人の、その違い。
「・・・おい」
ブロリーが声を掛けると、老界王神は面倒臭そうに振り返った。
「あん?なんじゃい」
「お前達が耳に着けているそれは、何か特別な意味を持つものなのか」
ブロリーが指すのは、老界王神の耳に下がっている丸い装飾のついた耳飾り。
界王神もかつては同じものを着けていた筈だが、今はその耳に何も下がっていない。
それを見て、ブロリーは思い出したのだ。
天下一武道会の会場で、シロが界王神の耳飾りを寄越せと強請っていたことを。
共に暮らしていた中で、特に光物や宝飾品の類に興味を示していたわけでもなかったシロがただの装身具を欲しがるとは思えなかった。
「ん?・・・おお、ポタラのことか」
自分の耳に下がるそれを指で弄り、老界王神はふと界王神のほうへ目を向ける。
「・・・そういえばお前さん、着けとらんのう。一体どこへやったんじゃ?」
「あ、それは確か・・・先日、とある女の子へ差し上げました」
「なにぃ?アホたれ!界王神に昔から伝わるとっておきの秘宝じゃぞ?そんなものをホイホイ人にやるんじゃないわい!」
「え゛っっっ!?」
やはりブロリーの予想した通り、只の耳飾りというわけでは無かったらしい。
「知らなかったもので・・・」と小さくなる界王神を叱り付けた老界王神はゴホンと気を取り直し、滔々と語り始める。
「コイツはのー、凄いんじゃぞ?この一組のポタラを片方ずつ二人がその右耳と左耳に分けて着ければ、それだけで合体して強力な力を持つ存在になれるんじゃ」
「はぇ~・・・フュージョンみてぇなもんか?」
「フュージョンというのは、確かメタモル星人の秘技じゃったかのう?確かアレは複雑な手順が必要だった上に、誰にでも使えるという訳ではなかったはずじゃろ。しかし、ポタラにはそんな制限は一切ない。その上効果もフュージョン以上!」
えっへんと胸を張る老界王神に、界王神もキビトもその衝撃の事実にまたもや目を剥いていた。
「し、知りませんでした・・・ホントに・・・・・」
「近頃の若いモンはしょうがないのぅ。それならホレ、ちと試してみぃ。付き人のおまえさんが着けとるのも効果は同じ筈じゃ」
「わ、わかりました・・・。キビト、そのポタラを片方わたしに」
「はい・・・・・」
戸惑いながらもキビトは耳に着けていた片方を差し出し、それを受け取った界王神がその耳へ着ける。
すると急に二人の身体が引き合うようにして勝手に近づき、そのままぶつかって眩い光を放った。
そしてそれが収まったあとその場に残ったのは、二人の特徴が混ざり合ったような一人の人物。
「うぉぉぉー!!す、凄いパワーですよこれは!!これなら私も魔人ブウと戦える!!」
「お調子に乗るんじゃないわい。合体で強くなったといっても元々が大したことないんじゃ、こやつらの足元にも及ばん以上足手纏いになるのがオチじゃぞ」
「うっ・・・はい、すみません・・・・・」
合体したキビト界王神は歓喜の雄叫びを上げていたものの、老界王神にピシャリと言い放たれて再びシュンと肩を落とした。
「でもコイツは確かにすげぇぞ!オラ達三人のうちの二人で使えば奴にも勝てるかもしんねぇ。・・・ちなみに、コレって効果時間はどんくれぇなんだ?」
「ポタラにそんな弱点はない!永遠にじゃ。もう二度と元に戻るようなことは無い」
「「えっ」」
はしゃぐ悟空が何気なく訊けば、老界王神から言い放たれたその答えに先ほど合体したばかりのキビト界王神が凍り付く。
「・・・それにしても、さっき魔人ブウとか言ったか?わしの力が必要になるほど、厄介な相手のようじゃのぅ」
「そうなんだよじっちゃん、しかもなんか知らねえけど滅茶苦茶強くなってるみてぇでさ~・・・」
老界王神が健在であった時代にはまだその凶悪さが知れ渡ってはいなかったらしい。
先代の5人体制であった界王神達が軒並みやられてしまった事実を含め、今回の件でのこれまでの経緯を悟空とキビト界王神は老界王神へ代わるがわる説明する。
そしてそこに、ずっとやり取りを傍観していたブロリーが痺れを切らして口を挟んだ。
「・・・オレが聞きたいのはそんなことじゃない。アイツを取り戻せるかどうかだ」
悪しき魔導士の術で操られてしまった少女を、元の状態に戻してやることが出来るのかどうか。
その辺りの事情も話すと老界王神はふむ、とひとつ頷いて再び口を開いた。
「なるほどのぅ~・・・先ほどのポタラに関して言えば、確かにコイツを使えばその洗脳の効果が解ける可能性は高い」
「!!」
「合体して新たな一人の人間となれば、その精神状態はまっさらで正しい状態に戻るじゃろう。・・・ただし」
一瞬光明が見えたかと思われたが、老界王神はそのまま言葉を続ける。
「さっきも言った通り、一度合体してしまえばそれを元の二人に分けることは不可能じゃ。それがおまえさんの意に沿う結果かどうかは、何とも言えんところじゃの」
「・・・・・」
それを聞いたブロリーは再び目を伏せ、暫し考え込んだかと思うとふと視線を上げ隣を見た。
「・・・カカロット」
「どした?」
「合体した者を、ドラゴンボールの力で元に戻すことは出来ると思うか」
投げかけられた問いに、悟空は少しばかり表情を曇らせてその答えを口にする。
「正直なとこ、実際に頼んでみねえとわからねぇ。でも、これまでのことを考えたら多分・・・無理なんじゃねえかと思う」
「何故だ」
「多分おめぇが聞きてぇのって、シロと誰か・・・多分おめぇが合体した場合の話だろ?神龍への願いじゃあ、神龍の力を超える奴のことをどうこうすることは出来ねえからな。人造人間の17号や18号を人間に戻すことだって無理だったし、前にシロが不老不死を無くせるかどうか聞いたときだって断られてただろ」
「・・・・・そうか」
ブロリーの力は言わずもがな、シロもその出自を考えれば神龍の力の範疇外である可能性が高い。
やはりポタラで合体させてしまえば最後、老界王神の言葉通り二度と元には戻せないのだろう。
「・・・それなら、アイツにこれは使わない」
仮にシロが誰かと合体したとして、その精神が正常に戻ったとしても・・・それはもはや、"シロの記憶を持った別の誰か"でしかない。
ブロリーが本当に取り戻したい少女そのものではないのだ。
これはブロリーの我儘だと、自身でも判っている。
たとえ別の存在へ生まれ変わってしまったとしても、今のこの状況から引き揚げてやったほうが良いのではないかと思う部分は否めない。
・・・しかし元に戻せる見込みが無いのであれば、やはりどの道ブロリーにその選択肢は選べなかった。
「まあ、好きにせい。しかし、ひとまずコイツは預けておいてやろう。その娘っ子に使わんでも、魔人ブウに対抗する手段としてお前さんらの誰かが合体するのは強力な手となる筈じゃからな」
「う~ん、やっぱ最終手段だよなぁ・・・合体ならフュージョンでも出来るんだし、元に戻れないってなるとやっぱりいろいろ困っちまうもんな。なあベジータ」
「何故オレに振る!?貴様ら二人か親子ででも使えばいいだろうが!オレは御免だ!!」
再び騒ぎ始めた二人をよそに、ブロリーは老界王神から投げ渡されたポタラをじっと見つめたあとそれを仕舞う。
そして視線を上げると、再び老界王神へ何か知恵を借りられないかと口を開いた。
「・・・他に、洗脳を解く方法に何かアテは無いのか」
「そうじゃの~。・・・ならば、超神水はどうじゃ?本来は毒素を抜くために使うものじゃから保証は出来んが、精神を平定させ正常な状態に戻すという一点においては効果が見込めるやもしれん」
「超、神水・・・・・?それはどこにある」
ブロリーには聞き覚えの無い単語だった。
「今は、地球の管理は誰がしておるんじゃ?」
「あ、はい。地球には専属の神がおりますので、その者が」
「ならばそやつが住まう場所に保管されておるじゃろ。その辺りはおまえさんらのほうが詳しいんじゃないか?」
老界王神の問いにキビト界王神が答え、その会話をはたから聞いていた悟飯がはっと思い出したように声を上げる。
「あっ!確かに昔悪いやつに地球のみんなが魔族にされてしまったとき、当時の神様が超神水で元に戻したことがあります!あのときは神殿にありました!」
「・・・神殿か」
今日だけで何度足を運んだかわからない場所だった。
しかし神であるデンデは既に殺されていたが、見たところ神殿そのものは荒らされた形跡がなかった筈だ。
その超神水とやらも、そのまま手つかずで残されている可能性はある。
「わしが言えるのはここまでじゃ。他にはそれといった心当たりもありゃあせん。・・・あとはおまえさんが、自分で探すかどうにかするんじゃな」
「・・・・・わかった」
まだ僅かに残された可能性。
本当に全ての手段が失われたと確信するまで、ブロリーは諦める気は更々無かった。
―――――しかし。
「あれぇ・・・??これ、なんだっけ・・・??」
ブロリーが老界王神から最後の手段として超神水の存在を提示されたまさしくその時、天界の神殿にて。
敷地の隅のほうで、収納を整理しがてら中を漁っていたシロは白地に青色の装飾が入った壺を手に首を傾げていた。
「・・・あ、そうだ!超神水!」
バビディによる洗脳を受けた際に、もしかするとこれが役に立つかもしれない。
その可能性を事前に考えていたシロは、ずっと以前・・・武道会が行われるよりもさらに前から、デンデに頼み込んで既に超神水を確保していた。
もしもブロリーが操られてしまったときには真っ先に飲ませようと考えていた為である。
「うん。これ、もういらないよね。ブロリーもベジータも操られずに済んだんだし」
ここに至ってなお自分が洗脳を受けているという自覚がないシロは、にこにこと笑顔を浮かべながら白い石畳の縁から下界を見下ろす。
そして高い高い天空にあるその場所から、手に持った壺を傾けてその中身を全て空へと流してしまった。
・・・長い長い夜が明け、遥か地平線の先から朝陽が一筋二筋と差し込んでくる。
散っていった飛沫を陽光が照らし、きらきらと七色に輝いていた。
「あ、虹だ~」
綺麗だなあと呑気に笑うシロは、その手で取り返しのつかないことをしたなどとは思いもせず。
―――――こうして、生きたまま正気へ戻すために唯一残されていた最後の希望はここに潰えてしまった。
ここで出ている超神水は飲んだら死にかけるアレのほうじゃなくて、ガーリックJr.の事件で神様が撒いたりとかGTのベビー編でキビト界王神が取りに行かされてたりとかしていたアレのほうです。なんで同じ名前してるんだろう。