激戦の舞台からほど近い、かつてはブウの家があった場所。
今や瓦礫のみが残されたそこで、岩場に隠れながら恐々と空を見上げる人影があった。
「ブウ・・・一体全体、何がどうなっとるんだ・・・・・?」
その腕に子犬をしっかりと抱きかかえ、呆然と呟くその男はかつてセルを倒したとされる英雄―――"と思われている"人物・ミスターサタンである。
打ち解け親しんだ筈の魔人ブウがよくわからないものと戦い、そしてソイツに食われて変身したあと。
サタンは犬と共にシロの手によって転移で遠ざけられ一旦は難を逃れていたが、結局自分だけがそのまま逃げる気にはどうしてもなれずに時間は掛かったがここまで戻って来てしまった。
地球まるごとを揺るがすかのような凄まじい衝撃や眩く満ち溢れる光。かと思うと急に暗くなる空など、遠巻きからでも到底理解し難い事態が断続的に繰り広げられていることは解る。
―――常識外の化け物同士の戦いを前にして、あくまで普通の人間の範疇を出ない自分に何が出来るのかはわからない。だが、かといってそのまま背を向けて一人だけどこかへ避難することも今のサタンには出来なかった。
「あ、あれ・・・!?アンタは確か・・・・・、」
「へ・・・!?」
突然聞こえた自分以外の声に思わず間の抜けた反応をしてしまい、視線を移してみると。
何やら少年をひとり抱えた、山吹色の胴着を着た青年がこちらへと降りてくる。
「えーと、・・・そうだ!ミスターサタン!こんなところに居たら危ないですよ」
空を飛んできたところを見るに、この青年も上空で闘っている超常の戦士達の仲間内のひとりなのだろう。
呼ばれたチャンピオンの名前と青年の使う敬語に一瞬いつもの横柄な態度をとろうとしたサタンは、そのことに気づき取り繕うのを辞めた。
「お、教えてくれ!上では今何が起こってるんだ?ブウは・・・」
対する悟飯はサタンの剣幕に一瞬口を噤むも、どうやら魔人ブウのほうを気にかけているような様子に違和感をおぼえ何か事情があるのかと思い直す。
どこまで明かしていいものなのか判断に迷ったが、言葉を選びながらも再び口を開いた。
「・・・今、父とその仲間の人たちがブウと戦っています。もし負けてしまえば、地球も人類も今度こそ消されてしまうかもしれません」
そんな、と小さく呟いたサタンは再び空へと目をやる。
―――案じるようなその視線に含むものが何なのか、その時の悟飯には汲み取ることが出来なかった。
一方、その遥か上空では。
「ど、どういうことだ・・・!?」
突如元の二人へと戻ってしまい、慌てふためく悟空と同様にブロリーも状況を呑み込めず困惑のさなかに居た。
ポタラを使って合体すれば、二度と元には戻らないのではなかったのか?
ゴジータの時とは違い、今回はブウが何か小細工などを仕掛けた様子は無かった。
―――もしも正気のシロがこの場に居合わせていたならば、何が起きたのか把握出来たのは恐らく彼女だけだっただろう。
きっと忠告した筈だ。
『人間が使った場合にはポタラにも限界時間が存在する』と。
そして、『強大過ぎる力を使えば使うほど、その時間は短くなる』とも。
―――かつて、神の気を扱うベジットがそうであったように。
そもそも、あのゴジータですらキメの一撃でようやく突破出来たほどの鉄壁の守りであった空間婉曲。
それを何故ブロロットはあれほどまでに易々と攻撃を通していたのか。
至極単純な話だ。
力押しが通じると学習していたブロロットが、"だったらそのレベルの威力を常時攻撃に乗せ続ければいい"と判断しただけのこと。
しかしそれは、言うならば常にかめはめ波を断続的に撃ちっ放しにしながら殴り続けるようなもの。ブロロットは表情ひとつ変えず事も無さげにやってのけたが、聞く者が聞けば正気を疑われるような究極的な荒業である。
だが、それでも押し切れると踏んでいた。ブロリー譲りの底無しのポテンシャル、そして界王拳を使いこなすほどの悟空の気の制御技能をもってすれば。
・・・ただ、そこに"ポタラのパワー限界"という未知の要素が考慮に入っておらず結果として綻びを生んでしまったというだけだ。
「ッ・・・どういうワケかは知らんが、見ていたぞ!貴様らがその飾りを着けて合体したところをな!」
全員が全員突然のことで硬直していたが、その中でいち早く動いたのはブウだった。
ゴジータを分離させた直後と同様に、再度の合体を許すまいとブウは動きの止まっていた悟空の耳から下がっていたポタラを真っ先に狙い撃って破壊する。
「げっ!しまった!!」
「ちィ・・・ッ!!」
ベジータのように取り込まれなかったのは幸いだったが、再び合体する手段は絶たれてしまった。
ブロリーは即座に反撃に出るも、その拳は幻に絡めとられブウへは届かない。
「ふはは・・・!!形勢逆転ということだな。先の貴様らの言葉を借りるが、二度同じ手は通用せんぞ?」
フュージョンにしろポタラにしろ、これ以上は如何なる手段であってもブウは合体を真っ先に警戒し決してその猶予を与えはしないだろう。
「ちっきしょう・・・!!」
「貴様らには随分と煮え湯を飲まされたが、それもここまでだ!今度こそまとめて始末してやろう!」
掲げた手に薄紅色のエネルギーボールを生み出し、勝ちを確信したように高笑いを上げる。
―――だが、次の瞬間。
急に顔色を変えたブウの表情が苦し気に歪んだ。
「がッ・・・!!うぐぅ・・・ッ!?」
唸りを上げ、集まっていたエネルギーも霧散し頭を抱えるようにして苦しみ出す。
「な、なんだ・・・?」
「・・・・・?」
身構えたまま困惑する悟空とブロリーの見る先で、ブウの姿は徐々に変貌していった。
複数の人物の装備が混在していたようなソレが、見る間にどんどんと消え"元の姿"へと戻っていく。
「お・・・おい、やめろ・・・!!ソイツは、ソイツにだけは触るな・・・!!」
ブウの発したその言葉は、目の前にいる二人へ向けられたものではなかった。
そして苦しむ様子の合間合間に体中の穴から蒸気を噴き出し、その何度目かのタイミングで噴き出した桃色の煙と共に勢いよく飛び出した"何か"。
遠目からは気付けないほどに極小だった"それ"は、外界に出た途端にポンと軽い音を立てて元の大きさへと戻る。
そこに現れたのは、数刻前にブウへ取り込まれた筈のベジータであった。
「あっ!ベジータ!!おめぇ無事だったんか!?」
「ふん、このオレがあんな奴の肥やしになどなってたまるか!逆にかっぱらって来てやったぞ、吸収されていた連中をな」
不敵な笑みと共に、ベジータは両腕と小脇に抱えていた"荷物"の一部を悟空へ投げ渡す。
慌てて受け止めたソレは、同じくブウに吸収された筈だった悟天。
ぐったりとはしているもののどうやら気絶しているだけらしいということを見て取り、息子の無事を悟った悟空は表情を綻ばせ歓喜の声を上げた。
「い、生きてる・・・!やるじゃねえかベジータ!!・・・でも、どうやって?」
「詳しいことはわからん。だが、貴様ら"こっちのほう"で随分とブウを追い込んだだろう。"中"でそれなりに妨害は受けたが、流石の奴もあっちもこっちも充分に手を回す余裕までは無かったらしいぜ」
結果的に上手くいったというだけで、この状況はベジータの意図したものというわけではない。
シロの居ない今、知る者も気付く者ももはやいないが―――ベジータは吸収される間際、ブウの肉片を吹き飛ばそうと"全力で全身から気を放出した状態"でその上から覆われ取り込まれた。
その結果、偶然にも原作における"バリアを張ったベジット"と同じ状態でブウの体内へ侵入することとなりベジータは完全に吸収されることなく自由に行動することが叶ったのである。
その証拠に他者を吸収する度に姿を変えていたブウの外観がベジータを取り込んだときだけは一切変化が無かったのだが、その些細な違和感に気付けるものは生憎この場には居なかった。
ベジータはブウの力を削ぐ目的で内部を荒らしまわり、そして吸収されていた息子たちを発見した際にまだ生きていることを知り奪還へと動いたのだ。
「トランクス達のように他の吸収されていた奴等も同じく中に捕らえられていた。念のため、コイツだけは一緒に持ってきてやったぞ。例の厄介な"剣"はコイツの力によるものだったらしいからな」
トランクスを抱えた手とは逆の腕にしっかりと掴まれているのは、悟飯が避難させた少年と似たような装いをした兄弟と思しき青年だった。
「幻影化の力の元になっていそうなバケモノも中に居たが、流石にデカすぎてソイツは置いてきた。しかし、繋がれていた"線"は全部切ってやったからな、あの能力はしばらく使えん筈だ」
「すっげぇ・・・!!おめぇのお陰でなんとかなるかもしれねぇぞ!」
「ふん。とりあえず、こいつらを抱えたままでは動けんし邪魔だ。カカロット、適当に瞬間移動でどこかへ置いてこい」
「おわっ!?投げんなよ!!」
悟天に加え放り渡したトランクスとタピオンを悟空は慌てて受け取り、「悟飯に預けてくる!」と瞬間移動で姿を消す。
そして漸く身軽になったベジータは横手に居たブロリーの隣へと並んだ。
ブロリーは先程までの二人のやりとりを耳に入れつつも口は挟まず、様子のおかしくなっているブウのほうから視線を外さず睥睨している。
「・・・やれると思うか」
「さあな」
ベジータの暗躍により厄介な特性はあらかた取り払うことが出来た。
しかし、ブウ自体の力が大きく落ちたというわけではない。
―――かつてバビディの命を受けたシロがブウの強化を図った際、手っ取り早い『吸収』よりも『神精樹』を優先した理由がここにある。
他者を吸収してのパワーアップは今まさにベジータがやってのけたように後から解除されてしまう可能性があった。一方、神精樹の実により大幅に底上げされた"ブウそのものの戦闘力"は低下しない。
ブウの吸収合体は解除したが、片やサイヤ人側もフュージョンの再使用がまだ不可能な時間である上にポタラを破壊された今はこれ以上合体することも出来ないだろう。
ここからはお互い、各々の持ち前の力だけで闘う必要がある。
それに加え、桃色の煙に包まれて苦悶の呻きを上げているブウの力がどういうわけか・・・他者を吸収していた先程までよりも、今なお徐々に強まっているらしいことをブロリーは鋭敏に感じとっていた。
サイヤ人単独よりもいまだ力の上回るブウを、3人の超サイヤ人4が結託して倒せるかどうか。
敗北すれば地球そのものの終わりである今は、流石に一対一でなどと悠長なことは言っていられない。
―――それにブロリーにはまだ、この先にも"やらねばならないこと"が残っているのだ。
遥か遠くに微かに気を感じるあの少女は、恐らく自分のことを待っている。
立ちはだかる魔人を斃し、今度こそ己の手で始末をつけなければいけない。
やがて悟空が場へ戻り、二人と並び立った丁度その頃。
立ち込めた桃色の煙が収束し、蠢く肉塊が変異を終えたらしいブウは以前よりも幾分小柄な姿へと変わっていた。
「随分と縮んじまったけど・・・気は増えてやがるな」
「いったい何度変身すれば気が済むというんだ。いい加減にしやがれ」
はは、と乾いた笑いを漏らす悟空にベジータはうんざりしたように毒づくばかり。
「ギギャァァーーー!!」
「・・・来るぞ!」
先程までとは打って変わって知性の感じさせない眼で獣のような雄叫びを上げたブウは、ギロリと辺りを睥睨したかと思うと視界に入ったサイヤ人達へ一直線に襲い掛かる。
しかしその瞬間、天より光の柱が降り落ちて飛び上がっていたブウを呑み込んだ。
「な、今度は何だ!!??」
どうやら攻撃の類ではなかったらしく、眩い光は瞬く間に消え去る。
そして動きを停め目を見開いて当惑しているブウの眼前には、"小さな球体"がひとつ浮かんでいた。
『―――願いは確かに叶えてやった。ではさらばだ』
空を埋め尽くすほどに巨大な赤い神龍は、見上げるシロへ重々しい声で言い放つ。
その言葉を最後に光となって消え去ったあと。
宇宙の果てへ飛び散ろうとしていた7つの宝玉は一瞬時が凍り付いたかのように動きを停めた直後、シロの腕の中へ再び全てが収まっていた。
この究極ドラゴンボールは、願いを叶えてのちに宇宙へ―――他の銀河にまでも散った全てを一年以内に集めなければ地球そのものが崩壊する。
通常であれば果てしない労力が掛かるであろうその代償も、空間魔法を操るシロにとっては大したリスクにはならない。
「・・・これで、最後だよ」
抱えたドラゴンボールを見下ろしながら、シロはポツリと呟いた。
今叶えた願いは、本来ナメック星でドラゴンボールを使用した際に3つ目の願いとして叶う筈だったもの。
神精樹によりナメック星を滅ぼすことを躊躇したシロが咄嗟に別の願いへ言い換えて、そのまま先送りにしていたものだ。
かつての主人から命じられていた、"魔人ブウの強化"。
シロの知識の中で、考え付いた強化策は今の願いで最後。
これで本当に、やることは全てやり終えた。
シロはその場にぺたりと座り込み、晴れていく空を虚ろな眼でぼんやりと見る。
―――――"第三魔界に存在する『魔のサードアイ』を召喚して、魔人ブウへ与えてほしい"。
もののついで程度の気持ちで叶えたこの願いが、遠くで繰り広げられている戦いへさらなる一石を投じたとは知る由もなく。
次回、最終ラウンド・レイド戦開始。
そろそろこの長い戦いもおしまいです。たぶん。
そしてここしばらくの間で、また番外編をふたつほど上げてあります。
日常なのでのほほんとしてたり馬鹿やったりしてるだけの話ですが、ご興味ある方はどうぞ。
・番外11_フリーフォール
https://syosetu.org/novel/393592/38.html
・番外12_海に行った話。
https://syosetu.org/novel/393592/39.html