TS転生戦闘人形少女が退職金(?)で暮らす話   作:フェネ

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第一章 最初の街
第一話 コンビニ飯は完全食


 ある日の暮方のことである。1人の美少女が穴だらけの研究施設の中で雨やみを待っていた。

 

 広い研究施設にはこの少女のほかに誰もいない。ただ、コンクリートが剥き出しになった壁面にバッタが一匹とまっている。

 この研究施設が灰冠連盟なるそこそこ巨大な悪の秘密結社のものである以上、この少女の他にもここには研究者が、他の被験体がもう数十人はありそうなものである。それが、この少女の他には誰もいない。

 

 

「不味い」

 

 

 目にも留まらぬ早技でバッタを捕えて口に放り込んだ少女が一言。

 

 うん、現実逃避はやめよう。どこかで見たことのある導入で今を嘆いても仕方がない。

 

 

 私は転生者である。名前は──戦闘人形017番。悪の秘密結社の戦闘人形としてこの世界に生を受けた。

 

 灰冠連盟という秘密結社で戦闘人形、有り体に言えば戦闘用に調節されたホムンクルスとして造られた私だが、現在絶賛行き場を無くしている。

 

 別に脱走したとか廃棄されたとかそんなわけではない。

 

 単純に──養ってくれる組織が壊滅したのである。

 

 

 1週間ほど前、大きな爆発音と共に私のいた研究施設が壊滅した。襲撃者はこの世界のヒーロー組織『ガーディアン・リンク』。まあ世のため人のために悪の秘密結社を打ち滅ぼしただけで、そこに悪意は多分ない。

 

 研究員や他の実験体は残らず連行されたらしいが、幸か不幸か実験用のカプセルに入れられていた私は見つけられずに、そのまま放置されたというわけだ。

 

 

「困った」

 

 

 その1週間前まで、私の衣食住は組織に保障されていた。日々の戦闘訓練以外は不自由なく暮らさせてもらっていたのだ。少なくとも組織に就職すればこの先も安泰だと思っていた。

 

 しかし滅んだ。私の就職先は消えた。衣食住──特に食に困る事態が訪れてしまった。

 

 今日までは施設に残されていたわずかな食料で食い繋いできた。しかし、それも尽きてしまったので私は途方に暮れているというわけだ。

 

 ちなみに普通に就職できる確率は非常に低い。なんてったって戦闘人形は存在自体が違法。見つかったら捕まって一生日の目を見れない存在なのだ。

 それに経歴もないのでマトモなところでは働けないだろうし……

 

 

「それはともかく」

 

 

 すっく。と立ち上がり、歩を進めようとしてデスクの下に残されたそこそこのサイズのバッグに目が行く。

 

 

「ここに大金でも入ってたらなぁ」

 

 

 バッグのサイズ的にそんなことはないだろうが。とすぐに否定しつつバッグを拾い上げる。多少腹の足しになるものが入っているのを期待してのことだったが、そこには予想外の光景が広がっていた。

 

 

「え……なにこれ」

 

 

 明らかに異空間!というオーラを醸し出している紫と黒が混じり合ったような空間がバッグの中には広がっていた。ふと手を突っ込んでみれば、紙束のようなものが手に触れる。

 

 

「なぁんじゃあ……こりゃあ」

 

 

 10000の数字が書いてある紙が束になっている。紛れもなく紙幣、札束。しかもこの世界がハイパーインフレでもしていない限りものすごい価値のものである。

 

 

「他に、他にないか」

 

 

 異空間に手を突っ込むこと1時間。

 

 とんでもない額の札束と初期状態の携帯端末、それと新品の服が発掘された。異空間は思っていた以上に大きいらしく、まだ底は見えていない。

 

 金品を保管するのにこの異空間バッグを使うのはわかるが、それ以外のものはなぜ入っていたのだろうか。これが分からない。

 服なんて誰がなんのために入れたのだろうか。訓練用の簡素な服しかなかったのでありがたく使わせてもらうが。

 

 ……携帯端末も便利だから使わせてもらおう。きっと持ち主も忘れてるだろうし。

 

 下着……は高望みか。入っていた服はユニセックスのもので、この身体に合う女物ではなかった。多少変な心地だが我慢しよう。ノーパンスカートでないだけマシだ。

 

 

「とりあえず金は大量に手に入ったし……ファミレスでも行くか……」

 

 

 長年(?)慣れ親しんだ研究施設を後にして、携帯端末に入っていた地図アプリの指し示すままに私は人里に降りていく。地図アプリは便利だ。最寄りのファミレスへの最短経路で山を降りた。

 

 

 

 

 

 

「ふー、食べた食べた」

 

 

 都心部に入ってすぐに見えたファミレスで豪遊すること2時間。

 

 喋る相手がいないソロファミレスは2時間あれば大量に食える。雑談に使ったわけではなくずっと注文し続けていたから奇怪な客とは思われただろうが迷惑な客ではないだろう。

 

 ドリンクバーもあるしね。ドリンクバーは色々試してみたが、抹茶いちごラテといちご抹茶ラテの違いは結局分からなかった。

 

 

「さて、本日の宿は……と」

 

 

 ホテルを検索しようとしてサジェストに出てきた『ポータブル・レジデンス』という文字列に目がいく。どうやら移民や短期滞在者向けの低家賃住宅システムのようだ。

 

 

「むむ、端末があれば移転申請も簡単とな」

 

 

 渡りに船の状況、手続きが異様に簡単なシステムには感謝しかない。身分登録も最低限で済み、最低契約期間は7日と短い。しかも物件によっては家具付きとある。

 即座に手近な空き物件に狙いを定め、購入。バッグに入っていた現金以外にも端末に紐づけられた口座にも大金があったためもはや金には困らない。この先増える余地がないのが少し困るくらいか。

 

 

「とりあえず、入居しますか」

 

 

 内見もしていないがこの制度自体特に物件の差がない様子だったので問題はない。

 

 見た目はボロアパートそのもの。家賃も安いのでそこまで期待していなかったが、想像するボロアパートそのものといった部屋がお出しされた。

 

 思った以上に簡素な部屋だなと思いつつも荷解き──バッグを下ろすだけ──を済ませて備え付けのベッドに転がり込む。

 

 

 うむ。昨日までのコンクリ上での睡眠の100倍の心地よさがある。安いベッドだろうが許容値がダダ下がりな今はこれで十分だ。

 

 

 まあ、明日のことは明日考えよう。

 

 

 入居初日。久々に雨風のしのげる完全な住居で、私は安眠した。

 

 

 

***

 

 

 

「あっ、どうも」

 

 

 翌朝。朝食を買いに行こうと玄関を出たらお隣さんとばったり会ってしまった。相手はちょうど帰ってきた様子だったので夜勤だったのだろうか。年齢的に深夜バイトな感じもする。

 

 気まずい。

 

 

「えーっと、隣の──203号室のミコト・バッカーニャです。よろしく」

 

「ああ、えーっと、」

 

 

 そういえば名前がなかったことに今更気づいた。前世の名前も覚えていないし……施設では確か017番って呼ばれてたっけな。

 

 

レイナ(017)です。よろしく」

 

 

 互いに次の言葉に困り気まずい沈黙が流れる。

 

 

「えっと──」

「あ、今──すいません……先どうぞ……」

 

 

 コミュ障──同類の波動を感じる。コミュ障同士の会話はなかなかにヤバいのではないかという不安を隠しながら私は言いかけていた言葉を紡ぐ。

 

 

「これから朝食買いに出かけるんですけど、よかったら一緒に」

 

「き、奇遇ですね。私も今から買いに行こうと思ってて」

 

 

 ヨシ!隣人コミュニケーション成功!

 隣人コミュニケーションがなんたるかを全く知らないので適当だが多分あってるだろう。きっと。

 

 2人揃ってアパート──二階建ての外廊下、階段付きというごく一般的なボロアパートの階段を降り、近場のコンビニへと向かう。

 

 

 ……道中考えたのだが、私は存在自体が違法。普通の店で買い物をして果たしていいものなのだろうか。

 

 一応金は本物らしいのでそこに違法性はないのだが、違法存在が表社会でのうのうと生きていていいのかという疑問は残る。まあ、バレなければいい話ではあるのだが。

 

 

「らっしゃせー」

 

 

 午前6時前。シフトで徹夜明けなのか眠そうなバイトの声と奇怪な入店音楽を適当に流しながら入店する。

 私の記憶にあるコンビニとほとんど変わらない内装。おにぎりや弁当の他に、スナックや即席麺、ボトル入りドリンクのコーナーもある。雑誌コーナーが残っていて、かなり最先端なのかボールペンや簡素な充電ケーブルなども売っている。

 

 ちょっと感動した。

 

 

「ほい、ほいほい」

 

 

 私が感動している間にミコトは慣れた手つきで弁当、菓子パン複数をカゴに放り込む。さらにドリンクのコーナーに行くと、エナジードリンクを3本追加した。

 

 

「……それ、美味しいんですか?」

 

 

 3本も買うということはよほど気に入っているのだろう。そんな考えで聞いてみると、意外な答えが帰ってきた。

 

 

「味は普通かな。脳の栄養だから」

 

 

 なるほど。青汁の立ち位置というわけだ。

 健康に気を使うなら私も飲まざるを得ない。カゴに2本放り込む。

 

 出遅れた分、急いで食べ物のコーナーを物色する。レンジ調理のパスタやラーメン、こんなものもあるのか。

 

 関心を持ちつつも、ハズレのないのはやはりおにぎり。コンビニのおにぎりに不味いものはない……らしい。

 

 

 定番のツナマヨ──はあまり好みではないので昆布と鮭、それとふと見かけた卵チャーハンというものカゴに入れる。

 

 だいたいこれで一食分と言ったところだが、ミコトはもっと入れている。私は金持ちなのでもっと豪遊してもいい。拾い物の金だが。

 

 

 適当なパンの袋を放り込む。6個入ってお値段100円。破格と言って間違いないだろう。

 

 ついでに調味料。最近のコンビニは多少の調味料なら置いている。とても便利だ。

 

 日本人のソウルフード(?)醤油と七味。ついでにマヨネーズとケチャップ。マヨラーではないがマヨネーズをかければだいたい美味い。故にこれは生活必需品である。

 

 ドレッシングを見かけて思い出した。少し野菜が足りない。

 そんな悩みを適当なサラダのパックが全て解決してくれた。

 

 ドレッシングも一緒に買ってパーフェクトだ。

 

 ご機嫌な朝食とはこのことだろう。

 

 

 会計の際ミコトが財布の中を覗きつつ「今月もギリか……」と呟いていた。やはりコンビニは完全な食事ができる分庶民にはキツいのだろう。私も金欠に気をつけなくては。当面は尽きないだろうけど。

 

 

 しかし金を剥き身で持ち歩くのもアレだな。財布を買わなければ……

 

 

 

「それじゃ……私午後の授業まで寝るんで……」

 

 

 倒れかけのミコトを見送り、自室に戻る。

 

 食器類もないのでとりあえずサラダのパックを使って食べる。うむ、満足だ。

 

 ちとおにぎりに醤油をかけすぎた気もするがまあ問題ないだろう。

 

 ケチャップはあまりパンに合わなかった。パサパサの安いパンだったからだろうか。次はもう少しいいパンを買おう。

 

 

 うむ。初日の朝としては満点の出来である。とりあえず今日は休憩の日としよう。

 

 

 ……そういえば下着買ってなかったな。




レイナ
戦闘人形017号。色々ズレてるやべーやつ。
味覚と金銭感覚がバグってる。コンビニ飯を完全食だと思ってる。

ミコト・バッカーニャ
貧乏大学生。バイトを複数掛け持ちするやべーやつ。
レイナの常識が矯正されなかったのはだいたいこいつのせい。
エナドリは脳の栄養。



多分続かない。
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