TS転生戦闘人形少女が退職金(?)で暮らす話   作:フェネ

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みじかめ(遅筆)


第四話 次の街へと

 都市国家アスタローテのどこか。そこそこの高さのビルが並ぶ表通りを少し外れたところにある寂れた路地。

 雰囲気に似つかわしくない木造のバー。どことなくウェスタンな雰囲気を漂わせるそんな場所。

 

 9人の不審な男たちがぞろぞろとそのバーへと入っていく。見る者はほとんどいないか見慣れている光景だが、はたから見ると異様な光景だ。

 

 

「9人だ。──ぶどうのジュースはあるか?」

 

「申し訳ありません。ちょうど切らしておりまして」

 

 

 先頭に立つ黒衣の男がバーに似つかわしいようで似つかわしくない言葉を述べる。バーテンダーも慣れた様子で切らしている由を述べる。

 

 

「冷えてなくてもいいんだ、一本くらい裏に余ってないか?」

 

「……あたってみましょう。こちらへ」

 

 

 

 バーテンダーの案内に従って、男たち──なぜか先頭の男以外もぞろぞろとカウンターの裏へと入っていく。

 

 見ている客などいないものの、やはり異様としか言えない光景であった。

 

 

 

 

 

「おう、プロフェッサー・クリスタルにウィード。早いお帰りで」

 

 

「……アジトに入るのにこんな儀式が必要なのか?1人の優秀なサイボーグをバーテンダーに育成してまでやることではないぞ」

 

 

 黒服の2人目、ウィードが口を開く。ここは秘密結社『灰冠連盟』の戦闘チームが使っていたアジトの一つだ。一斉摘発を逃れた数少ない隠れ家であったため、今は組織の残党が使っている。

 

 

「まあそう言うなって。気にすると禿げるよ」

 

 

 帽子を脱いだウィードの短く刈られた頭頂部──まだ後退の様子は見えない──に視線をやりながら、アジトにいた女──リーザ・“スマック”・ヴァルターは笑う。ウィード──ナサニエル・“ウィード”・カモフがスマックを睨むと、彼女は即座に視線を逸らし、早くもソファでくつろぎ始めているクリスタル──メッサー・“クリスタル”・グロックに話を振った。

 

 

「発見した017号の調子はどうだった?あの破壊痕、アンタも戦ったんだろ?」

 

 

「いやあ、面白かったよ。もう少し試したかったが見られちゃ仕方ない」

 

 

 クリスタルは笑い、腕を変形させる。重複型サイボーグ。有機体の身体と金属の強化肢を同時に持ち、自在に切り替える次世代のサイボーグ技術だ。今のところ存在するのは考案者のクリスタル1人だけ。

 おそらく肉体のスペックだけでならこの世界のパワーランクの最上位に位置するであろうクリスタルは科学者でもあった。

 

 

「アンタの研究テーマ──人間の物理的限界性能だったか?それには近づいたかい?」

 

 

「──人間にはリミッターがある。人間は社会生活に適合した進化にあたって自己を家畜化し、フルパワーを出せないようにした」

 

 

 クリスタルが語る。一見的外れだが、クリスタルの癖──回りくどい話し方に慣れているスマックはそのまま話を聞いた。

 

 

「人間はチンパンジーよりはるかに力が弱いが、筋繊維の限界性能は同程度。まあよくあるリミッター、火事場の馬鹿力の話だな。」

 

 

「それを解消してやるのが戦闘人形計画だろう?発案者は檻の中でデータは全部持ってかれたわけだが」

 

 

「そう。だが戦闘人形は思考能力が伴わない。セーフティの影響もあるだろうが、反射神経と野生の勘だけで戦っている節がある」

 

 

 クリスタルは過去に数回、戦闘人形と模擬戦を行なっている。結果はクリスタルの全勝。勝負にもならない結果だった。

 

 

「だがアイツ──017号は違った。戦闘中に学習すらしている。………これは面白くなるぞ」

 

 

 クリスタルは不気味な笑みを浮かべる。その笑みはクリスタルが真に興味をそそられる物事に出会ったときに見せる、歓喜の笑みであった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「戦闘人形。聞いたことはあるかね?ミコトくん」

 

「確か、一世紀前に考案された戦闘用クローン人間の計画……ですよね?倫理的問題から実行はされなかった」

 

 

 前を歩くイードルが驚いたような顔をしている。高校範囲の生物をやっていれば一回は聞いたことがある単語だ。舐めるなよ。

 

 

「知っているなら説明の手間が省ける。その戦闘人形の技術を復元し、実行に移した者がいる。それが、灰冠連盟だ」

 

 

 ガーディアンズ・タワーの下層──いや、地下に存在する実験エリアに、私たちは足を踏み入れていた。

 

 ガーディアン・リンクが超常犯罪を扱う以上、超常犯罪を知り尽くす必要がある。そのための実験のために用意されたエリアがここだ。

 

 

 ──黒い印象が伴う名前だが、一応実験内容はオープンにされているし、人間の実験は志願による。私も志願しなければ身体を切り刻まれることはないだろう。多分。

 

 封印エリアなる物騒な表示が見えたが気のせいだと思いたい。見るからに頑丈そうな鉄の扉に閉ざされたそのエリアの前を通り過ぎようとして──

 

 

「どこへ行く?ここだ」

 

「えっ」

 

 

 イードルに呼び止められた。聞き間違いでも見間違いでもなく、封印エリアという場所に私たちは向かっていたようだった。

 

 

「説明した通り、今から見るものは決して一般人に漏らしてはいけないものだ。──少しショッキングかもしれないが」

 

 

 イードルがこちらを見る。本当にいいのかと再度確認する目線にこちらも無言の頷きで返答すると、イードルの操作に合わせて扉が開かれた。

 

 

「──これは……レイナ?」

 

 

 生命維持装置だろうか、機械に繋がれて眠っているのはレイナと瓜二つの少女。銀色の髪を伸ばしているレイナと違い短髪だが、そのくらいしか見分けられる要素がないほどそっくりだった。

 

 

「遺伝子上は同じ存在だ。灰冠連盟から押収された戦闘人形の初期ロット。今は眠っている」

 

 

 ──クローン。倫理的観点から国際的に規制されている技術。戦闘人形の技術は元々、人間を戦場に送らない平和な戦争という建前で提唱された。だが、クローンは人間ではないのかという論争を呼び、結局実現しなかった。それが一世紀前。

 

 

「もちろん製造は違法。ついでに言えば、施されている遺伝子操作も現在の基準では許されないレベルのものだ」

 

 

 遺伝子操作も国際的に規制されている対象だ。遺伝性疾患の治療として部分的に許容されているが、人間への施術は原則として禁止されている。

 

 サイボーグ技術はあくまで後天的なもの。先天的に決定される物事には本人の意思は介入できない。だからこそ、遺伝子操作は許容されないという理屈だったはずだ。

 

 

「──戦闘人形技術は、戦闘に最適化された人間を作るためのものだ。遺伝子操作も、その目的を100%達成するために行われている」

 

「それって……」

 

 

 そう考えると、戦闘になった瞬間のレイナの変化に説明がつく。普段の彼女からは想像できないほどの攻撃性、そして人間のものを遥かに凌ぐ身体能力。

 

 ──それらが全て、遺伝子レベルで、本能として最適化された結果だとしたら……

 

 

「残酷すぎる……」

 

「もう一つ、残酷な事実がある。戦闘人形に刷り込まれた“マスター”、つまり命令を下す人間が死んだ場合、彼女らの心は壊れる。そう設計されている。目の前の彼女も、目覚めさせれば数日で精神が崩壊するだろう」

 

「そんな……」

 

 

 灰冠連盟によるセーフティ。戦闘人形の暴走を防ぎ、解析を遅らせる。そのために意識に刻まれた欠陥だという。

 

 レイナは見たところ──家に踏み入ったわけではないが、1人で暮らしていた。つまり、“マスター”を失っている。嫌な想像が、脳裏をよぎった。

 

 

「──その期間は、精神崩壊までの時間は……?」

 

「接収した資料が正しければ長くて3ヶ月。意識への刷り込みの解消方法は研究中だが、本人が捕まらなければ意味がない」

 

 

 私に課せられた任務は、灰冠連盟残党の検挙と戦闘人形含む実験体の保護。レイナの保護もその一環である。

 

 灰冠連盟事案の解決までの限定的なものとはいえ、かなり高待遇での雇用となっている。バイトとはしばらく無縁な生活になりそうだった。

 

 最大の理由が給料だとはいえ、これほどのものを見せられると普段は眠っている正義の心が首をもたげてくるものだ。

 レイナはきっと、自分の先が短いことを知らずに、今も逃亡生活を続けているに違いない。

 

 

「必ず、助けます」

 

 

 その言葉は決意の表明であり、自分を鼓舞するものでもあった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「くしゅん」

 

 

 最近くしゃみが多い気がする。風邪をひくような身体ではないと思うのだが、花粉でも飛んでいるのだろうか?

 

 ──噂されるとくしゃみが出るという迷信があった気がするがきっと無関係だろう。

 

 

 

 私、レイナの第二の住居は昨日まで住んでいた場所からかなり離れた場所に決定した。

 

 アスタローテの中心市街を挟んで反対側、前よりは少し都会に見える場所で、戸建てよりもアパートの方が多いと思われる。

 多少人口と人通りが多い場所だが、駅から離れた場所ならば接触も許容範囲内に抑えられる。

 

 コンビニやファミレスなどはどこにでもあるし、ここでも食料に困ることはなさそうだ。

 

 

 今は夕方。コンビニで数日分のインスタント食品とカップ麺を購入して新居に帰ってきたところだ。玄関前に到着し、鍵を取り出そうとした時だった。

 

 

「おっ、また隣替わってる」

 

 

 ひょこっと隣の部屋のドアから首を出す不審人物が1人。赤い髪を後ろで束ねた女性で、ジャージを着ている。

 隣人とのコミュニケーションは大事だ。ミコトを口止めできなかったのはきっとコミュニケーション不足であるから、今回はもう少し改善しなければ。

 

 

「えっと、昨日越してきたレイナ、です」

 

「あっ、うん。アタシはリーザ・ヴァルター。よろしく」

 

 

 会話に詰まったので、適当にはぐらかして部屋に戻る。去り際にリーザさんが何やらぶつぶつと言っていたがどうしたのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれはどう考えても戦闘人形、しかもレイナだと?短絡的だが017号の偽名と考えていいよな?どうする?メッサーのやつに言ってみるか?いや、騒ぎを起こされたら面倒だし……一応様子を見る名目で報告は後にしておくか……?───」




一瞬だけ日間ランキングの10位にいる夢を見た

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