TS転生戦闘人形少女が退職金(?)で暮らす話   作:フェネ

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遅筆の汚名を返上しに来た


第二章 次なる街
第五話 超技術でストーカーをするタイプの隣人


 新居に引っ越してから、平穏な日々が1週間続いた。隣のリーザさんとは外出の時間が被らないせいでファーストコンタクト以降は会っていないが、それを差し引いても完璧で平和な1週間だった。

 

 

 ──やったことといえばスマホでの情報収集と夜の外出、あとは買い出し程度なのだが、灰冠連盟の残党に追われていることが発覚した以上警戒して過ごさなければならない。

 

 組織が健在なら戻ってもよかったが、壊滅している以上無賃労働させられる可能性がある。

 

 ──私の資金源も元々は彼らのものだ。落ちていたから仕方ないとはいえ、本来の持ち主が現れたら困る。

 

 

「さて、今夜は」

 

 

 久々の贅沢である。1週間平和に暮らせた記念とでも言ったところだろう。

 

 

 コンビニで買ってきた加熱式パスタに、レトルトのパスタソースを追い討ち。さらに持ち合わせていた調味料を追加する。

 

 さらに、レジで売っているフライドチキンその他諸々。贅沢に複数買ったものを乗せていく。

 

 普通の生活というのは、日々倹約し時々贅沢をするものだとSNSが言っていた。

 

 

「うむ、うまい」

 

 

 味が濃くてとても美味しい。やはり塩分は全てを解決するものだ。

 

 ──明日からは流石に普通の生活に戻ろう。無尽蔵に金があるとはいえ、一食にこの出費は少し不安になる。

 

 

 

 

 さて、そろそろ夜の散歩に出かけるとしよう。今日は家の西側エリア。この調子で生活するなら、周辺の把握は大切だ。

 

 

 いつも通りのニンジャファッションで、私は窓から外に出る。やはりニンジャはこうでなくてはならない。

 

 夜風を感じつつ、寝静まった街に飛び出していく。

 

 

 

 

「ふむ、治安は良さげ、と」

 

 

 前の街は──残党が出たことを除けば──基本的に平和だった。明らかに普通ではない人間が歩いていたりしたが、まあ私も普通ではないので許容範囲だった。ドンパチも当然行われていない。

 

 

 今回の街も同じような治安だ。駅に近づけば歩く人も増えるが、ヤのつく職業のような人間はそこまで目にしない。

 

 ──明らかに窓の少ない建築物は一つ見たが、まあ、大丈夫だろう。少なくとも2キロは離れている。

 

 

 

「ありあとした〜〜」

 

 

 コンビニで早めの朝食を買って、眠そうなバイトの声を背中に店を出る。

 

 深夜バイトは大変だ。顔を覚えられないのなら私の金を分けてあげたいくらいだ。

 

 最初の頃はニンジャを怪しんでいたバイトの彼だったが、フードを脱いで一時的にニンジャでない状態で入店するようにして、1週間も経てば私が怪しくないとわかってくれたようである。わかればいいのだ。

 

 

 コンビニ前に座ってものを食べるのは青少年もやっている流儀なので私もそうしている。

 うむ、いい散歩であった。

 

 そんなことを思っていた時。

 

 

 

 

 

「──あれ、戦闘人形じゃないか?」

 

「ん?あ、本当だ」

 

 

 ヒソヒソ、ヒソヒソ

 

 

「どうする?多分行方知れずの017号だぞ」

 

「プロフェッサークリスタルに報告……いや、遠すぎるか?」

 

 

 ヒソヒソ、ヒソヒソ

 

 

 コンビニの駐車場の入り口付近。私を見て何やらヒソヒソと話している影が2つ。

 

 微細な駆動音、サイボーグ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 野生の灰冠連盟残党が飛び出してきてしまった。なるべく穏便に解決しなければ、また引っ越す羽目になりそうだ。

 

 

 幸い、即座にバトルを挑んでくるわけではなく尾行という路線になったのだろう。コンビニを離れる私にバレないように彼らはつけてくる。……まあバレバレなわけだが。

 

 

 思考が一気にクリアになる。万が一取り逃がした時に備えて尾行する2人をあえて家とは反対側に誘導する。そんなことを瞬時に判断できるようになった。

 なるべく目立たないルートで目的の路地まで到達する。よし、順調に尾行してきているな。えらい。

 

 

 角を曲がった瞬間、即座に壁の上へと駆け上る。下方で男たちがきょろきょろと私の姿を探している様子が見える。

 

 このまま帰ってもいいのだが、報告されたら面倒だ。

 

 ──やるか。

 

 

「ぐわっ」

 

 

 自由落下のエネルギーが乗った私の拳が1人目の意識を瞬時に沈める。ついでに2人目の顎を蹴り上げ、ノックアウト。

 

 

 完封勝利。よし。

 

 まだ死んではいないからしっかりとトドメを──

 

 

「えーっと、……レイナ、って名乗ってたっけ?」

 

 

 既視感のあるシチュエーション。新たなる隣人、リーザ・ヴァルターさんが路地の入り口に立っていた。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 アタシはリーザ・ヴァルター。その筋の人間からはドクターか、もっぱら“スマック”と呼ばれている。

 

 一応、灰冠連盟という悪の組織で研究をやっていた。悪の組織という自認があるのは、ちょっと倫理的にまずい研究をやっていたからなのだが──

 

 

 そんなことはどうでもいい。

 

 

 とにかく、アタシの本分は研究だ。メッサー・グロック──組織内ではプロフェッサーあるいはクリスタルと呼ばれている彼とはライバルであり研究仲間だ。

 

 

 共同研究のテーマは、思考の高速化。サイボーグも戦闘人形も、強化された反射神経に思考がついていっていない。それが戦闘能力の天井を形成している。その天井を取り払うのが組織から課せられた任務で、アタシがスカウトされた理由だった。

 

 ──ぶっちゃけ軍事利用とかは興味がなく、ただ人の脳をどれだけ高速化できるかと、それに伴う様々な分野の効率化がアタシの目標だ。まあ灰冠連盟は強力なパトロンだったので、そいつらの言う通りに研究はしていた。

 

 そうしたらいつの間にか組織内でもかなり上位の立ち位置を獲得してしまったわけだが。アタシは上に立つのが得意ではないのでただただめんどくさい。

 

 

 とりあえず、アタシの住む場所の近くで事件を起こすなと末端の構成員には釘を刺しておいた。

 

 研究が日常とはいえ、必要な時以外はアパートの一室で理論を固めていたい。

 メッサーとつるむのは実験が必要な時か、──悔しいがアイツの頭脳が必要になった時だけだ。

 

 アタシの生活はぶっちゃけ他の人間が見たら卒倒すると思う。自分で開発した完全栄養食弍式が主食であり、栄養食の合成に必要な材料を買いに行く以外では基本的に外には出ない。自炊なんてするスペースがないのでもう栄養食依存、栄養食が合成できない日にはコンビニだ。

 

 

 

 そんなある日、1ヶ月前に以前の住民が出て行って空き部屋になっていた隣に誰かが引っ越してきた。どんな奴か見てみようと、帰宅を狙ってドアから覗き見て、一言話してみて驚愕した。

 

 

 ……戦闘人形。しかもメッサーが追っている017号。

 

 メッサーが言っていたことが本当なら、思考の最適化に成功している変異個体だ。

 

 ──研究分野からして、非常に興味がある。

 

 

「見たい。実に見たいぞ」

 

 

 マスターらしき人物はなし。既に失っていると考えるのが妥当か。精神崩壊の兆候は今のところ見られないが、時間の問題かセーフティを自力解除しているのかはまだ判断できない。

 

 戦闘人形は命令なしでは滅多に動かない。命令より下位に生命を維持する最低限の欲求が組み込まれているだけなので、マスターに死ねと命令されればすぐに死ぬ。

 

 だが先程みた017号は少なくとも、自由意志──もしくはそれに近い何かをもって行動しているように見えた。

 

 

「よし、やるか」

 

 

 アタシの発明品、ナノロボットを換気扇経由で送り込み、隣室の壁面に動画を撮影し送信できる構造を構築させる。

 

 本来はナノロボットを生体に注入し、内部で特殊器官を形成させることで大規模な外科手術なしで肉体を強化させる技術なのだが、こんなことに応用できるとは。自分の才能が怖い。

 

 

 外見は壁のシミに見える程度のものに偽装しているので気づかれる可能性は限りなく低い。外出時もドローンで追うことを考えたが、発覚するリスクを考えてとりあえず家の中のみを監視することにした。

 

 

 

 

「……つまらん」

 

 

 隣室を監視すること1週間。017号はベッドでスマホをいじっているか、寝ている。そうでない時は食事か外出程度だ。

 

 ──真っ黒な格好で窓から外出するのには流石に驚かされたが、戦闘人形にルーティンを命令すればできる程度の行動パターンだ。

 

 

「うーむ、見当違いだったかな?もう少し大きく動いてほしいものだ」

 

 

 明らかにヤバいパスタを食べて外出する彼女を見送り、椅子の背もたれに寄りかかる。メッサーが言っていたような学習というのも今のところは見られない。メッサーは話を誇張する節があるから、あまり信用すべきではなかったかもしれない。

 現状では、組織を裏切って潜伏するマスターが裏から指図している可能性も捨てきれない。戦闘人形の開発にはあまり関与していないから、本当にそんな行動ができるのかは不明だが。

 

 

 

 

 

「む、なくなった」

 

 

 栄養食を摂取しようとして、在庫切れに気づく。ここ最近はメッサーに会いにアジトに向かった以外まともに外出していない。栄養食の在庫が切れるのは必至であった。

 

 

「……仕方ない。買いに行くか」

 

 

 栄養食の材料は全てが一般流通品だ。大抵の場合、ドラッグストアとスーパーで全て手に入る。ここまで完璧な栄養食は探してもなかなかないだろう。

 

 仕方なく外出用の衣装に着替えて、夜の街に繰り出す。24時間やっているドラッグストアも把握しているし、スーパーに行かなくてもコンビニで手に入るものも多い。

 ドラッグストアは多少離れるが、背に腹は代えられない。アタシは夜でもそれなりに人のいる、駅の方角へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「これで、3週間は保つな。」

 

 

 在庫切れや生産終了の商品があったので、少し──いや、かなり時間がかかってしまった。日の出まであまり時間がないような、そんな時間帯になってしまった。

 

 今から栄養食を合成したのでは朝食に間に合わないな。そんなことを考えながら、帰路を急いでいたそんな時。

 

 

「サイボーグ──しかも灰冠連盟製のが何をやってるんだ?」

 

 

 二人組のサイボーグが何やらコソコソと動いている。露出する金属部品の形状に見覚えがあった。灰冠連盟が生産した一般品では制限されているパワーを発揮できる特殊部品。

 

 オイオイ。この近くで騒ぎを起こすなとあれほど言ったのに。

 

 

 

 何かを尾行しているように見える彼らを窘めようと、狭い路地に続いて入ったところで、彼らが止まった。

 

 

「ぐわっ」

 

「ぎゃっ」

 

 

 

 

 

 

 ……あー、こいつら017号を追ってたのか。

 

 直上から彼らに襲い掛かり、即座に無力化した017号を見て、合点が行った。無謀なことするなぁ。

 

 

 あっ、殺そうとしてる。流石にこの周囲で殺人事件を起こされると困る。

 

 アタシは017号を止めるべく、一歩踏み出した。

 

 

 

 

「えーっと、……レイナ、って名乗ってたっけ?」

 

「……これは、違うんです」

 

 

 即座に否定が入った。迂闊に出てきてしまったが、判断ミスかもしれない。

 殺人事件が近隣で起こるのも困るが、せっかくのこんな近くで観察できる機会を逃すのも困る。

 ここは017号を安心させて逃亡を防ぐのが正解だろう。

 

 

「大丈夫。通報はしないよ。……ただ殺人事件は起こさないでほしいかな」

 

「本当ですか!?」

 

 

 よかった、引っ越ししなくて済む。と、小声で呟いた017号は安心している様子だ。

 

 よし、これで観察は続けられそうだ。それどころか多少信頼されたかもしれない。

 

 

「……ところで、なんでこんな時間に外にいるのかな?」

 

「えーっと、それは……周辺警戒?」

 

「なんじゃそりゃ」

 

 

 思ったよりも無軌道にやっている様子だ。命令で動いているにしては適当な理由。もしかすると本当に自由意志で行動しているのかもしれない。だとしたら、まだ観察できていない部分もあると思われる。

 

 組織に報告すれば、高確率で彼女は回収される。実験室で観察するよりも、今の生活を観察する方が成果を得られそうな以上、組織に報告するメリットはない。このまま隣人として観察を続けるのがベストだろう。

 

 

「まあいいや。一緒に帰ろうか」

 

「あっ、はい」

 

 

 信頼関係を築けば、まだ見ていない一面を見られるかもしれない。そんな考えで、彼女と共に帰宅路につく。

 

 

 

 

 ──この判断が、大きな事件を起こすことを、まだ今のアタシは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、この人たちはどうすれば」

 

「うーん、ふん縛って交番の前に転がしとけば?」




リーザ・“スマック”・ヴァルター
そこそこマッドなサイエンティスト。超技術で隣人の私生活を観察するやべーやつ。
食生活もそこそこ終わってる。

レイナ
味覚がバグっている。隣人リーザの食生活も終わっているので改善されるのはかなり後になる模様。
色々コンタミネーションしているし自由意志で行動する突然変異体のやべーやつ。



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