TS転生戦闘人形少女が退職金(?)で暮らす話   作:フェネ

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待たせたな


見切り発車が思った以上に伸びたのが怖くなって逃げてましたが

いい感じにまとめるプランが立ったので投稿再開します。

今回は短め。


第六話 完全栄養食

「だ〜〜か〜〜〜ら〜〜〜。擬似魂の安定感が違うんだよォ〜〜〜」

 

 

 都市国家アスタローテのどこか。前回の集会とはまた違うアジト。

 

 メッサー・”クリスタル”・グロックは退屈そうな顔のウィード──ナサニエル・”ウィード”カモフに熱弁していた。

 

 

「お前なァ〜〜〜もっと面白そうに聞いてくれよ〜〜」

 

「……プロフェッサー、自分には正直わからんのですよ……」

 

 

 痺れを切らしたクリスタルの文句は文句で返される。

 

 

「あ〜〜あ〜〜いいのかな〜〜組織復興の手がかりになりそうな017号の重要な情報だけどいいのかなァ〜〜〜」

 

「……」

 

 

 頭が痛くなってきた。

 

 ウィードは頭を抱えたくなる。普段クリスタルを押さえ込んでいるスマック──リーザ・”スマック”・ヴァルターの不在は、想定以上にウィードの胃を蝕んでいた。

 

 

 知的好奇心というものがウィードにはわからぬ。研究者としてではなく単純に諜報向けの能力で幹部になったウィードにとって、スマックとクリスタルの二人の好奇心はもはや恐怖を覚えるレベルだった。

 

 ……ついでに、興奮したクリスタルはとにかくうるさい。スマック以上に苦手なのはそういうところだ。

 

 

「……それで?どういう点が特殊なんですか?」

 

 

 これ以上放っておくとさらに厄介なことになりそうだと、半ば諦めたウィードが質問をする。

 

 クリスタルはそれでいいとばかりに頷いた。

 

 

「擬似魂で戦闘人形にはある程度の知性を持たせてある。ここまではいいな?」

 

「はい」

 

 

 擬似魂。戦闘人形を稼働させるために組み込まれている謎多き機関。

 

 脳のスターターの役割だと言われているが詳細は不明。

 

 動作の大半は100年前の論文を掘り起こして再現しているので、全容はクリスタルさえもわからない。

 

 ただ確かなのは、これがないと戦闘人形は動かないということだ。

 

 

「で、その擬似魂がどうしたんです?」

 

「それがなァ〜〜〜017号の擬似魂はヤバいんだ。オレの研究室を漁ってたら見つけた」

 

 

 クリスタルはウィードに分厚い紙束を渡す。

 

 ペラペラとめくっていくが、書かれているのは謎の儀式の詳細。とても科学者が持っているものではない。

 

 

「魂の転写?なんですかこれは」

 

「オカルトだよ。オカルト。オレがこんなものに手を出したのはマジの黒歴史なんだが──」

 

 

 クリスタルが取り出したのは研究のログ。017号のところにだけ特殊魂とラベルが貼られている。

 

 

「どうやらオレはこいつにオカルト擬似魂を組み込んだみたいだな。そりゃ納得だぜ〜〜〜。異常行動しかしないわけだ」

 

 

 追加実験は全部失敗だったがな。

 

 クリスタルはそう付け足して締め括った。

 

 

「それで?興味は失せましたか?」

 

「いいや、俄然興味が湧いてきた。まずは擬似魂に刻み込まれた自壊プログラムの行方だ。いや〜〜スマックのやつ悔しがるだろうなァ〜〜」

 

 

 興味が失せて別の業務に戻ってくれることを期待したウィードだったが、すぐに裏切られる。

 

 

 当分、クリスタルに別の研究をさせるのは無理そうだ。

 

 

 

***

 

 

 

 

「ぶえっくしっ!」

 

 

「わぁ豪快」

 

 

 

 リーザのくしゃみにレイナは驚いていた。

 

 引っ越してから二週間目の日曜日。

 

 リーザに呼ばれる形でレイナは彼女の家にお邪魔していた。

 

 

「……汚いですね」

 

「歩けりゃいいのよこんなの」

 

 

 ──どうやら価値観がだいぶ違うみたいだ。

 

 レイナはゴミの間を綺麗に避けて歩くリーザを追う。

 

 何回も転びそうになりながら、部屋の奥に辿り着く。

 

 

「じゃじゃーん、こちらが完全栄養食」

 

「……」

 

 

 それは、食べ物というにはあまりにも無機質すぎた。

 

 四角く

 

 高密度で

 

 なぜか青白い

 

 それはさながら鉄塊だった。

 

 

「えっと、作りすぎた食べ物をくれるって」

 

「え?うん」

 

「食べ物?」

 

「食べ物。」

 

 

 リーザの答えに、レイナの頭上に?が浮かぶ。

 

 どう見ても、食べ物には見えない。

 

 

「いやいや、おいしいよ?見た目はアレだけど」

 

 

 疑いながらも、食べてみる。

 

 うん。無味だ。不味くは、ない。

 

 

「でも、なんでこれを?」

 

 

 レイナは不思議に思い聞いてみる。今のところ食事に困ったことはない。節約しているとはいえ、しっかり食事は摂っているつもりだ。

 

 

「だって、インスタントか惣菜系しか食べてないでしょ?」

 

 

 即座にリーザは答える。栄養のバランスは意識しなければいけない。それがリーザの壊滅的な食事のモットーだった。

 

 

「普通……だとおもいますよ?」

 

「いい?炭水化物が1番安いんだから。意識しないとすぐに太っちゃうよ」

 

 

 そんな言葉を並べながら、レイナに大量の完全栄養食を押し付ける。

 

 レイナは困惑しながらも受け取った。

 

 

 なるほど。足りない部分は完全栄養食で補う。これが“デキる大人”のやり方なのか。

 

 

 とりあえず、そう解釈した。レイナの印象では、リーザはデキる大人だった。

 

 部屋の汚さを見せられて現在進行形でその評価は下がっているが……

 

 

「ところで、リーザさんはお仕事は何を?」

 

「ん?研究職」

 

 

 なるほど。部屋が汚いのは博士だからか。

 

 レイナは妙な納得をした。

 

 

 

「えっと、わざわざありがとうございました」

 

 

 ぺこり、と頭を下げてレイナは自室に戻っていく。

 

 完全栄養食に依存したカスの大人であるリーザはそれを見送ると、収納に雑に突っ込んであった監視用モニターを引っ張り出した。

 

 

「まあ、早死にされちゃ困るしな」

 

 

 連日の監視と、時折一緒に出かける買い物の内容から、レイナの食生活が終わっていることは把握していた。

 

 リーザとしては、それが心配でならなかった。

 

 不健康な生活で体調を崩されたら、密かに監視しているリーザとしても困る。

 

 

 栄養バランスを最優先とするリーザにとって、レイナの食生活は自殺志願者のそれにすら見えた。

 

 ジャンクフード依存の生活では、油と塩と炭水化物のフルコンボが身を削る。

 

 戦闘人形がどんな食生活を前提にしてあるのかは分からなかったが、リーザとしても「ちょっと待て」したくなるレベルだったのは間違いない。

 

 

 そんなこんなで、レイナは完全栄養食を手に入れた。

 

 補助としての栄養食だと受け取ったレイナによる、ジャンクフードと栄養食というカロリー爆発コンボにリーザが頭を抱えるのはもう少し後の話。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「ミコト・バッカーニャです!よろしくお願いします!」

 

 

 一方その頃。ガーディアン・リンクのアスタローテ支部にて。

 

 

「ようこそ。機動騎士団は君を歓迎する」

 

 

 ミコトは差し出された手を握る。アスタローテ支部第二戦闘団『機動騎士団』。灰冠連盟との全面対決で活躍したヒーロー部隊で、今も残党問題などの後始末を担っている部署だ。

 

 彼は隊長のエラルド・ミダス。髭が似合う筋肉質の中年男性だ。

 

 レイナ──戦闘人形017号の保護と灰冠連盟事案の解決までの間、ミコトは機動騎士団に所属することになった。

 

 いわゆるサイドキックとしての活動補佐が主な業務だが、能力──パラフィールドを使用しての戦闘も許可されている。

 

 

「で、せっかく第二種パラフィールド使用資格を取ってもらって申し訳ないんだが──」

 

「はい」

 

「しばらくはデスクワークだ」

 

「はい?」

 

 

 案内された機動騎士団のオフィスは散らかっていた。この時代には珍しい紙の書類が散乱している。

 

 

「……」

 

「まあ……地元の警察とかが紙を使いたがるんで、連携が多いと……な」

 

 

 なるほど。国と提携しているガーディアン・リンクらしい悩みだ。

 

 ただ、紙には慣れている。大学でもそういう教授はいたからだ。

 

 そう考えてミコトは紙の山に向かおうとするが──

 

 

「それと、デジタルであと2倍はある」

 

 

 なんでこうなっているんだ。

 

 ミコトは机に倒れ伏したくなった。

 

 

 

 

「ん?これ……」

 

「どうした?新入り」

 

 

 書類整理の途中、ある書類が目につく。警察の書類で、灰冠連盟残党の逮捕者のものだ。

 

 

「いや、交番前に縛られた状態で見つかったとあるのが少し違和感で……」

 

「ああ、そういうやつか」

 

 

 エラルドが答える。

 

 

「野良のサイボーグとかパラフィールド持ちがやってくれたんだろう。自衛は合法だが事情聴取とかが面倒でそうすることはよくあるんだ」

 

「はぁ……なるほど」

 

 

 ミコトは苦笑する。

 

 なるほど。自衛目的は犯罪にはならないが、聴取の手間はかかる。それで匿名で引き渡したというわけか。

 

 現行犯なら市民にも拘束する権利があるし、警察もわざわざ探すようなことではないらしい。

 

 

「……なんかまだいっぱいいるんですね。残党って」

 

「まあしばらく騒ぎは終わらんだろうな……」

 

 

 そんな会話をしながら、ミコトはその書類を片付ける。

 

 ここで主要捜索目標のレイナに意図せずニアミスしていたことは、結局誰にも知られることはなかった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 アスタローテ郊外。倉庫とコンテナが立ち並ぶ工業エリア。

 

 

「”ギア”の装着は?」

 

「順調です。来週には起動できるかと」

 

 

 スーツの男は部下の回答に満足げに頷いた。

 

 

 灰冠連盟のサイボーグが周囲を見張っている。工業区が治安の悪いエリアとはいえ、これほどの集団がたむろする場所ではない。何か異様な光景だった。

 

 

「確認させてもらおう」

 

 

 スーツの男は一つのコンテナに入っていく。屈強なサイボーグが道をあけ、男を中に案内する。

 

 

 コンテナの内部では、換装作業が静かに進められていた。

 

 

 戦闘人形。未起動の状態だが、その様子は明らかに普通ではない。

 

 

 首元に装着されたユニットに巨大なアームが装着される。各部位には機械化ユニットが取り付けられ、その姿はサイボーグにも似ていた。

 

 

『最適化進行度70%』

 

『戦闘人形040、個体識別名《アイアン・メイデン》。初期起動準備に入ります』

 

 

 戦闘人形のサイボーグ。純粋な兵器としての最適解に近い存在に、命が──擬似魂が接続される。

 

 

「さあ、見せてやろう017号。そしてメッサー」

 

 

 男は不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「本物の戦闘人形、その力を」

 

 

 アイアン・メイデンの瞼が、わずかに動いた。




ミコト・バッカーニャ
貧乏大学生→ヒーロー見習いにジョブチェンジ。
何気にチーム内で一番書類仕事ができる。


メッサー・"クリスタル"・グロック
リーザの同僚。研究に取り憑かれた狂人(くるいんちゅ)。
とにかくうるさい。オカルトは黒歴史。


ナサニエル・"ウィード"・カモフ
苦労人兄貴。胃がキリキリ。禿げる日も近い。
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