TS転生戦闘人形少女が退職金(?)で暮らす話   作:フェネ

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文字数の割に難産だった…………


第七話 邂逅

「買い物行かない?」

 

 

 完全栄養食を得てから4日。相変わらず引きこもり昼夜逆転生活を送っていたレイナに、リーザから外出の誘いがあった。

 

 

 完全栄養食を得たことでレイナは外出を避けるようになってしまった。元々、見つかりたくないのだから当然ではある。

 

 つい二日前にリーザから完全栄養食の正しい食べ方、すなわち他の食材が不要という事実を知ったこともそれに拍車をかけた。

 

 一日中布団にくるまり、スマホゲームとSNS観察に時間を費やす、衣食住の保障されたパーフェクトヒキニートの誕生である。

 

 

 このままではまずい。

 

 

 リーザは思った。

 

 リーザの目的は観察。レイナが引きこもって人との関わりが少なくなると新しく得られる情報は少なくなってしまう。

 

 そんなわけでレイナに外出の習慣を取り戻させようとしたのだ。

 

 

「レイナちゃんさ、最近夜の外出はしないの?」

 

「なんで知ってるんですか」

 

「いや、隣だし」

 

 

 監視カメラがなくても、物音で窓の外を見ればバレるような外出の仕方をしていたレイナは反省した。

 

 

「ベランダから出るよりも玄関からのほうが自然だと思うけどな」

 

「……」

 

 

 歩きながらそんな話をしている二人。一応の目的は買い出しである。

 

 リーザにとっては連れ出すこと自体が目的であるが、レイナを納得させるために買い出しを装っている、

 

 

「何を買うんですか?」

 

「完全栄養食の材料」

 

「料理してるんですね」

 

「まあ器具頼りだけどね」

 

 

 レイナはリーザを尊敬した。これが世に聞く自炊であろう。

 

 レイナの主食は出来合いのもの。自分で作るというのはそれだけで尊いことなのだ。

 なお自炊の結果生成される産物については考慮されていない。

 

 

 

 

 

 

「あとは……ドラッグストアかな」

 

 

 三軒ほど回って大体の材料を買い揃えた頃、街灯も少ない高架下の道を二人で歩いていた時だった。

 

 

「よお、リーザ」

 

 

 暗闇の中から、声が聞こえた。

 

 真っ黒なロングコート姿が、高架の真下の闇に潜んでいる。

 

 

「……下がって」

 

 

 身構えるレイナをリーザが下がらせる。リーザが警戒しているという事実に、レイナはさらに警戒した。

 

 

「楽しそうで何よりだぜ?会合にも来ないでなァ〜〜?」

 

 

 

 黒い影が光の中に姿をあらわす。レイナには見覚えがあった。

 

 灰冠連盟の残党と戦った時、最後に現れた異様に強い敵。

 

 

 

「メッサー……」

 

 

「裏切りとは、随分面白くないことをしてくれたなァ〜〜〜?」

 

 

 

 メッサー・”クリスタル”・グロックは笑った。だが、その目は笑っていない。

 

 リーザが最近の『会合』に参加していないこと、それどころか追跡対象の戦闘人形と歩いていることから、メッサーは確実に、リーザを裏切り者と判断していた。

 

 

 来る。

 

 

 レイナとリーザ、二人の直感が同時に告げた。

 

 

 

 

 次の瞬間、メッサーの腕が変形する。重複型サイボーグ特有の肉体置換。

 

 彼は重厚な右腕を持ち上げた。

 

 

「1発目でくたばるなよォ〜〜〜?」

 

 

 

 言い終わるなり、メッサーは腕を振るう。

 

 高エネルギーの奇跡が夜の闇に光った。

 

 

 レイナは避ける。リーザもすぐに障壁を展開し防いだ。

 

 

 流れ弾が背後の高架を切断し、瓦礫へと変える。

 

 

「なんで……灰冠連盟が?」

 

 

「説明は後!今は──」

 

 

 

 切断され崩れ落ちる高架の瓦礫を回避しつつ、リーザは腕時計を操作する。

 

 

 ポーチからナノマシンが放出されていく。

 

 リーザの操るナノマシン技術の集大成。ナノマシンの編成を変えることによる一見体積を無視したような挙動。

 

 ポーチから溢れたナノマシンは明らかにポーチの容積よりも大きい銃火器に変身していた。

 

 

 

 

「ほお、組織にも未公表の技術だな」

 

 

「──くたばれ」

 

 

 

 閃光が3回、夜闇に光る。

 

 

 ナノマシンを纏わせる形で強化した肉体でなければ反動で骨折は免れないほどの威力。

 

 

 メッサーは避けさえもしなかった。直撃ならば多少の損傷くらいは与えられただろうか。

 

 

 しかし。

 

 

 

「ナノテクにしてはいい火力だなァ?リーザ」

 

 

 

 真正面から弾丸を受け止めたことで砕けた左腕をメッサーは下げる。

 

 すぐにその腕は液体状になり、元の形へと再構築された。

 

 損傷を与えてもすぐに元に戻る。メッサーは避けられるにも関わらずそれを見せるためだけに避けなかったのだろう。

 

 舐めプということだ。

 

 

 

「さーて、戦闘人形の方は──」

 

 

 

 ゆっくりと周囲を見回すメッサー。その隙だらけに見える行動に、直上からレイナが蹴りかかる。

 

 

 

「おっと、意外なところから来たな」

 

 

 

 メッサーが初めてその場を動いた。

 

 レイナの踵がアスファルトを蹴り砕くと同時に、メッサーはその無防備な背中を蹴り飛ばす。

 

 

 

「ぐあ…っ」

 

 

「レイナっ!」

 

 

 

 飛んできたレイナをリーザは咄嗟に受け止める。その隙を読んでいたのか、メッサーはすかさず背後をとった。

 

 

 

「んばぁ〜〜っ」

 

 

 

 攻撃の寸前でメッサーが一瞬止まったことで、リーザはなんとか回避する。

 

 完全に手加減されていた。

 

 

 

「遅い遅い遅い遅〜〜い」

 

 

 

 笑いながらメッサーが追撃する。

 

 リーザも動けるようになったレイナを手放し、その拳を受け止める。

 

 

 

「ちょっとは動けるようになったか?」

 

 

「どうだか……ね!」

 

 

 

 ゼロ距離でレーザー。リーザがナノマシンを操作して肩に作っていたものだ。

 

 だがその不意打ちさえもかすり傷にもならず潰される。

 

 

 

「小細工が好きだなァ〜〜〜?まあ嫌いじゃないが──」

 

 

 

 直後、背後をとったレイナの攻撃。殺意の乗った人間では即死級のパンチをメッサーはあっさりと受け止める。

 

 

 

「まあ俺はこのくらい愚直な方が好み──だッ!」

 

 

 

 振り向きざまに放たれた蹴りがレイナの鳩尾を直撃する。

 

 

 

「げほ……っ」

 

 

「なるほど?急所は人間と同じかァ〜〜〜?」

 

 

 すぐに呼吸を整えて反撃に移ろうとするレイナに、メッサーはさらに武装を展開する。

 

 先ほど高架を切り裂いたレーザー切断兵器だ。

 

 

「させるか!」

 

 

 背後からリーザがメッサーの腕を押さえ込み、レーザーの軌道を逸らす。

 

 レーザーは真横に飛び、高架の無事だった支柱を切り裂いた。

 

 

「そう来なくてはなァ!やっと面白くなって来やがったぜ〜〜!」

 

 

 空いた腕でのメッサーの攻撃をかわしたリーザ。

 

 その動きは先ほどよりも明らかに速い。

 

 

 

「ナノテクの応用で反応速度上げやがった、おもしれぇ〜〜!」

 

 

 

 しかし、メッサーもすぐにその動きに順応する。

 

 背後から蹴りかかったレイナをいなし、さらにリーザからの攻撃も受け止めてみせる。

 

 

 桁違いに強い。

 

 

 レイナはクリアになる思考の中でそんなことを考えていた。

 

 目の前の男、反応速度は戦闘人形並み。その上、見たことのないサイボーグ技術で武装し、攻撃力も確保している。

 

 武装していない状態のこちらに決め手がないのに対して、あちらはやろうと思えば瞬殺してきそうだ。

 

 

 

 勝てるとすれば、相手が本気を出し切る前に──

 

 

 

「おっと、武器を奪うつもりかァ〜〜?」

 

 

 

 メッサーがリーザへ攻撃している隙に、レイナは彼の武装化している腕を押さえる。先ほどから展開されていた実体ブレード状の武器、それを折り取ろうとする。

 

 

 

「面白いしくれてやるさ」

 

 

 

 メッサーは突如ブレードをパージ。力を込めていたレイナはバランスを崩し、少し離れた位置に着地する。

 

 

 

 武器を得たか。ならば──

 

 

 

 リーザもそれを見逃さない。レイナが体勢を立て直す間に、メッサーの隙を作ろうとする。

 

 

 しかし。

 

 

 リーザはそのレイナの後方に、人影を見た。

 

 

 明らかに一般人ではない。あり得るとしたら、メッサー側の援軍。

 

 

「レイナっ!後ろ!」

 

 

「よそ見してんじゃねぇ!」

 

 

 思わず足を止めたリーザをメッサーが吹き飛ばす。ソニックブームが発生するほどの速度での打撃。

 

 リーザは瓦礫に背中から叩きつけられた。

 

 瓦礫と煙の下に埋まる形になり、レイナからその姿は見えない。

 

 

 

「リーザさん!?」

 

 

 

 レイナが叫んだその直後だった。

 

 

 後方から機械の腕が振るわれる。

 

 いつの間にこの距離まで接近されていたのか、それさえもわからないスピードで、意識外からの奇襲攻撃。

 

 反応する暇もなく、打撃がレイナを襲った。

 

 

 

「敵の……援軍……?」

 

 

 

 なんとか受け身を取って立ち上がるレイナ。

 

 

 吹き飛ばされたおかげでメッサーの後方に着地できた。少なくとも、挟み撃ちの事態は避けられたわけだ。

 

 レイナは冷静に目の前の敵を捉える。

 

 

 

「017号捕捉」

 

「対象の生命機能完全停止まで完全出力を維持」

 

 

 

「えっ、喋り方怖」

 

 

 2人……いや、3人いる。

 

 

 

 レイナはすぐに判断する。

 

 

 ついさっき攻撃してきた機械腕の後ろに、ブレードを構えたもう1人。

 

 

 さらに、その後ろのビルの上層にも1人の影を確認できる。

 

 

 レイナの胸が妙なざわつきを覚える。

 

 違う。これまでと、何かが。

 

 似ている……いや、言葉で言い表せない何かを感じる。

 

 

 

「おいおい……これは一体どういうことだ?」

 

 

 

 迎え撃つ姿勢を取るレイナから少し離れた位置で、メッサーは止まっていた。

 

 リーザに偉そうなことを言ったが、メッサーの行動も独断だ。

 

そもそも組織が壊滅して司令系統もないようなもので、どこに報告するのが正解かなどもないのだが。

 

 多少街を壊してもサイボーグ事件程度は日常茶飯事。今回もそう長引かない限りは大きな騒ぎにはならないと思っていた。

 

 

 しかし、この流れは聞いていない。

 

 

 まさか、こんな街中に──

 

 

 

「戦闘人形だと?」

 

 

 

 メッサーが漏らした言葉はレイナにも届いた。

 

 戦闘人形。レイナと同じく、戦うために生み出された人工生命体。

 

 

 同類のはずだが、違和感がある。

 

 おかしいのはレイナ側か、それとも相手か。

 

 おそらくは前者だ。

 

 

 

「排除行動に移る」

 

 

 

 大型の機械腕を装着した戦闘人形──アイアン・メイデンが動いた。

 

 その動きは重い装備をつけているとは思えないほどに俊敏だ。

 

 細い脚からは想像できないほどの脚力が、アスファルトを砕いて踏み込む。

 

 

 速い。

 

 

 これまで戦った灰冠連盟のサイボーグとは比べ物にならない、戦闘用に調整された戦闘人形。

 

 

 後方の2体も動くのが見えた。明らかに、連携している。訓練された動き。

 

 

 今のところメッサーの方は攻撃をしてこない。傍観か、それとも隙を狙っているのか。

 

 

 ともかく、やるしかない。

 

 

 リーザはどうなったのかわからない。

 

 しかし、この三体は確実に自分を狙っている。

 

 

 レイナはそんなことを考えつつ、ブレードを握り直す。

 

 

 手に馴染まない武器だが、十分攻撃はできる。

 

 

 

 

 アイアン・メイデンが地面を蹴って加速する。

 

 

 想定外の第二ラウンドが、幕を開けた。

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