運の悪い俺は、今日も湾岸の地下へ降りていく 作:シドロンモドロン
半年が過ぎた。
第七湾岸入口は半年前の面影を残しつつ、その様相を大きく変えていた。
巨大な管理棟が湾岸入口を包み込み、さらに増築された医務棟が並ぶ。
装備受け渡し口、素材買い取り窓口と案内板が複数増えた。
フリー探索者登録カウンターや回廊保険受付、L値測定ゲートが新設されている。
待合用のロビーは様々な声が賑やかに響いていた。
気づけば、何もかもが増えていた。
壁のモニターには全国に展開された支部の稼働状況が流れている。
各地方ごとに各県に配置された支部の状況が表示され
取れる素材の買取価格やランキング等の情報が切り替わりながら表示されていた。
入口増殖のあと、回廊入口は全国各地で確認されるようになった。
北海道から九州、沖縄まで。
当初こそ様々な混乱が発生したが、警察、消防、行政の現場対応に
CORRIDOR JAPANのノウハウが流し込まれていく。
救助、素材回収、L値、入域管理。
あまりにも手際よく進む事柄に、一部反発の声も上がった。
だが、不思議とその声は次第に無くなり、今に至るのだ。
その下には海外連携都市の名前が続く。
ニューヨーク。
バンクーバー。
シンガポール。
パリ。
ロンドン。
回廊入口が乱立した際の混乱は世界各地で同時に発生していた。
少数しか存在しなかったはずの回廊入口。
それは回廊を所持する国としてのアドバンテージでもあった。
また、その前提で回廊を管理する軍や企業。
その前提が一気に崩れたため、国土やインフラに差のある世界各国は日本同様の大きな混乱に見舞われる。
その混乱は簡単には収まらず、世界情勢は様相を変える。
終わらぬ違法侵入。
違法配信。
違法売買。
そして救助要請。
進まぬ救助。
ネット記事の見出しは、世界の事をどれも似たように報じていた。
なぜ日本だけが早かったのか。
何が違ったのか。
誰がそれを整えたのか。
CORRIDOR JAPAN。
早急に事態を終息させた会社に対し、世界は救援を求めた。
そして、その期待に全て、完璧に応えたのだ。
驚くことに、CORRIDOR JAPANは日本で使用した基本運用手順を無償公開した。
有償であったら、莫大な利益を生むことが確実のノウハウ。
垂涎もののそれを、世界のために無償で提供する。
その事実は世界に驚きと共に受け入れられ、事実上の国際基準として急速に広がっていった。
当該の国々の全面的な協力もあり、
世界の主要な提携都市で混乱が目に見えて
落ち着くまで、わずか5ヶ月だった。
世界全体でみれば、まだ混乱は続いている。
それでも、人々はその数字を十分すぎる成果として受け取った。
その判断を下した社長、新屋恒一の名は
世界中の経済紙とニュース番組等
あらゆるメディアで取り上げられた。
世界の危機に私財を投じた経営者。
回廊時代の調整者。
人類の探索基盤を作った男。
そう呼ぶ声が日を追うごとに増してゆく。
画面の中の新屋は、いつも穏やかな笑顔を世に向ける。
この事態を足掛かりに、CORRIDOR JAPANは
世界の回廊インフラ企業としての面を全面に押し出した。
もう、CORRIDOR JAPAN無しでは
回廊探索はできないと言われるほどに。
別の大型モニターに表示されている世界地図の上では数多ある回廊入口に赤い点が明滅している。
点と点は細い線で結ばれ、その中心には
大きくCORRIDOR JAPANのロゴが置かれていた。
周囲には、海外提携企業のロゴも並んでいる。
それでも直耶には、赤い点の多くが
CORRIDOR JAPANへ吸い込まれていくように見えた。
*
『本日、CORRIDOR JAPANは国内47支部の素材流通基準を統一し、
海外入口運用企業との共同買い取り規格を試験導入すると発表しました』
モニターの音声は待合ロビーのざわめきに混じって流れる。
『探索者向けL値簡易チェッカーの一般流通も始まっており、
帰還後測定の義務化に伴い、今後さらに需要が拡大すると見込まれています』
直耶はその音を聞きながら、人ごみの中を歩く。
買い取り窓口の前にはフリー探索者らしい男たちが並んでいる。
肩にかけた袋からは薄汚れた牙や爪が見えた。
受付職員がそれをトレーに出させ、査定のために裏へと運ぶ。
それが当たり前のように処理されていた。
列の途中で、若い男が大きな声を上げた。
「マジかよ、今回こんなつくの?」
受付の職員が淡々と金額を読み上げる。
男は隣の仲間の肩を叩き、笑った。
スマホを出して、買い取り明細を撮ろうと盛り上がっていた。
受付職員の左手首にはL値測定タグの跡が残っている。
袖口から覗いた皮膚が、白く線になっていた。
直耶はそれに目を留めた。
元探索者だろう。
そういう社員は増えた。
L値を削られた人間は、壊れる前に現場から外される。
それは制度として正しい。
正しいのだと思う。
引退した探索者は受付、事務、装備管理、各都市支部の窓口、教育補助等の
いわゆる裏方へ回される。
現場を知っている人間が後方にいるのは合理的だ。
ただ、受付の向こう側で素材を受け取るその人の目を見ていると
合理的という言葉だけでは済まないものが胸に残った。
『探索者ランキング上位者へのスポンサー契約も相次いでいます。
特に高L値適性者や魔法使用者には、一般企業からの広告契約、装備提供、
配信出演依頼が集中しており——』
モニターの画面が切り替わる。
派手な装備を着た探索者が、企業ロゴの入った盾を持って笑っていた。
その隣には別の映像。
顔の整った若い探索者がインタビューを受けている。
字幕には今月の買い取り額と登録者数が並んでいた。
探索者は、いつの間にか『見られる職業』になっていた。
稼げる者は、もてはやされる。
潜れる者は、評価される。
回廊に耐えられる者は名前が知れ渡った。
まるで芸能人かインフルエンサーのようだと、誰かの書き込みを思い出した。
動画サイトを開けば、探索者の紹介動画が当たり前のように並んでいる。
ネットではCORRIDOR JAPANを冒険者ギルドと呼び始める流れが主流となっていた。
会社自体が、自発的にそう名乗った訳ではない。
だが、世間は勝手にそう呼び、それが浸透していた。
素材を買い取り、探索者を登録し、装備を貸し、依頼を出し、死亡補償を用意する。
だったらもうそれは冒険者ギルドだ、と。
最初はただの冗談だったのだろう。
それがニュース記事の見出しになり、配信者の口癖になり
広告代理店の企画書になり、いまは一般認知されている。
直耶は自動ドアを抜け、探索者用の更衣区画へ入った。
半年前より人が多い。
だが、知っている顔は多くない。
探索希望者の上昇に伴うように、数回潜って辞める人間も多かった。
一度潜って戻って来ない人間もいた。
戻ってきても、L値が大きく削れて次がなくなる人間もいる。
簡易チェッカーが出回ってから、その数字は
探索者の間でずいぶん身近なものになった。
チェッカーは高額ではあるものの、回廊内では動作しない。
それでも、求める手は多かった。
腕時計のように手首へ巻き、スマホと連動も可能。
帰還後に数字が落ちていれば、SNSに上げる者もいる。
下がったL値を、傷跡や武勇伝かのように見せる者すらいた。
そんな空気感が世に蔓延っている。
直耶はその空気の中を過ごしていた。
「境くん」
着替えを終え更衣室を出た所で、声をかけられて振り返る。
日向が立っていた。
大きめのジャケット。
腰に吊ったナイフ。
左手首には、L値簡易チェッカー。
以前より装備が少し増えている。
今日、第三探索チームが再始動する。
会社からの人事通達で、離れて動いていた顔ぶれが、再度同じ任務に戻されたのだ。
「私、ようやく復帰判定が通りました」
明るい声だった。
日向は笑っている。
笑っているのに、左手の指が袖口をつまんでいた。
「おめでとう、でいいのかな」
「そこは素直におめでとうでいいじゃないですか」
「いや、無理してるなら」
「無理してないです」
やや被せるように返事が響く。
日向は自分でもそれに気づいたのか、視線を少しだけ外した。
「……いや、ちょっとは、してますけど」
直耶は何も言わなかった。
日向は小さく息を吐く。
「でも、外にいる方が疲れるんです。
魔女だなんだって言われて、動画切り抜かれて、知らない会社から話が来て、
知らない人に応援してますって言われて」
日向は明るく振る舞っているが、次の言葉だけ少しだけ声が低かった。
「ああいう扱い、ずっとしんどくって」
それが本音なのだと分かった。
魔法を使える人間。
日本の魔女。
探索者アイドル。
そんな言葉が彼女の周りについた。
本人よりも先に、名前だけが一人歩きした。
「現場の方が気が楽?」
直耶が聞くと、日向は少し困った顔をした。
「もちろん、現場は怖いよ。
でも、怖いのは分かってるからまだ、ね。
一方的に、見られてる方がキツくって」
そう言ってから、日向は笑った。
「あと、やっぱり元の班がいい!
森山隊長が怖い顔してる方が、変なカメラ向けられるよりマシだと思う」
「はは、隊長が聞いたら喜ぶよ」
「ふふ、喜ばないでしょ。眉間にしわ寄せて、馬鹿なこと言うなって言うんじゃないかな」
その言い方が少し日向らしくて、直耶はようやく息を抜いた。
「日向」
低い声がした。
三人が振り返ると、大熊が歩いてきていた。
以前と同じ大きな体。
分厚い盾を片手で持っている。
半年の間に、盾の扱い方がさらに身体に馴染んだように見えた。
「無理するなよ」
「第一声それですか、大熊さん」
「それ以外に言うことがない」
「ありますよ。復帰おめでとうとか」
「復帰おめでとう。無理するな」
「結局それじゃないですか」
日向は笑った。
大熊は真顔のままだ。
けれど、目だけは少し柔らかい。
その後ろから、高梨が軽く手を上げて近づいてくる。
「おー、魔女様ご帰還じゃん」
「高梨くん久しぶり。でも、その呼び方はちょっとやめて欲しいかなぁ」
笑顔の日向に高梨は両手を上げる。
「ごめんごめん、悪かったって。日向っちご帰還!
これでいいっしょ?」
「次は無いよ」
「判定厳しすぎぃ…」
高梨は変わらずのようで、少し落ち着く。
でも、高梨の足運びが以前より静かになっている。
装備の確認も、ふざけながらちゃんと終わらせていた。
大熊と高梨と榊の班も、この半年、別行動だった。
地方入口の応援。
新規支部の立ち上げ。
フリー探索者の事故対応。
素材搬送の護衛。
小さな潜行を何度も繰り返していたらしい。
直耶たちも同じだった。
派手な武功はない。
それでも、何度も地下へ降りて帰ってきた。
その分だけ皆の動きは変わっている。
無駄が減り、立ち位置や空気の読みが良くなった。
装備に触れる手つきに迷いが無くなった。
でも、性格までは変わらない。
いつもの皆だ。
榊は、その少し後に来た。
「遅れてすみません。横浜側の記録を提出していました」
眼鏡の位置を指で直しながら、榊が合流する。
手には紙の地図ケース。
腰には、古い型の測距器。
三宅と似ているようで、どこか違う。
「榊さん、久しぶりですね」
直耶が言うと、榊は少しだけ笑った。
「境くんも、ずいぶん現場の顔になりましたね」
「そうですか」
「ええ。あまり嬉しくはないかもしれませんが」
嬉しいような、そうでもないような。
苦笑いで返す。
「三宅は?」
大熊が聞いた。
「もう来ていますよ」
榊が視線だけで示す。
ブリーフィングルームの前で、三宅が紙のマップを広げていた。
新型端末も置いている。
だが、先に見ているのは紙の方だった。
「おはようございます。揃いましたね」
揃った。
ここにいるのは、生き残って戻ってきた顔ぶれだ。
足りない顔が有ることは、皆覚えている。
それを乗り越え、今がある。
三宅が顔を上げると、森山がブリーフィングルームの扉を開けて出てきた。
「第三探索チーム、入れ」
それだけだった。いつも通り。
直耶たちは、ぞろぞろと中へ入る。
正面のスクリーンには、今回の任務名が表示されていた。
『第三浅層再調査』
『対象:コボルト亜種関連未確認痕跡』
『副次目的:距離短縮関連地点の状態確認』
高梨が、椅子に座りながら小声で言った。
「コボルト亜種って、本当にいるのかねぇ。
証言も曖昧なんだろ?」
森山が説明を始める。
「今回は合同だ。俺の班と榊の班で入る。
先行は俺、大熊、境。
中衛に日向、高梨。後衛に三宅、榊」
「日向さんの魔法使用はどうなりますか?」
三宅が確認すると、森山は即答した。
「俺の許可制だ。連続使用は原則禁止。
体調に変化が出たら即停止。
本人の申告があった場合も即停止だ」
「本人の申告がなくても、顔色見て止めるぞ」
大熊が言った。
「はい、了解しました。私、そんなすぐ倒れませんよ?」
「倒れたことがある人間の台詞ではないですね」
三宅が言う。
「三宅くんまで」
「人気者は大変だな、日向っち」
高梨が肩を震わせて笑う。
日向は少しむくれた。
「日向、いつも通り行こう」
直耶の声に、日向は少し目を丸くする。
それから、口元だけで笑った。
「はい」
ブリーフィングは続いた。
今回の目的は、旧お台場救助地点付近の再確認。
未確認個体の痕跡確認。
交戦は原則回避。
敵性存在を確認した場合は、無理に追わない。
素材回収より記録優先。
距離短縮関連地点では、長時間滞在しない。
当初に比べれば、バックアップも含めて格段に良くなった。
システマチックに感じるが、効率化という意味では正しいと思う。
けれど、そのシステムの中で潜る人間は、今も昔と同じように武器を持つ。
同じように息を吸い、同じように恐怖と戦っている。
ブリーフィングが終わると、全員が装備確認に移った。
大熊が盾の縁を指でなぞる。
高梨が腰のナイフを抜いて、刃の状態を見て戻している。
三宅が紙のマップと端末を照合している横で、
榊は医療キットを開き、内容を確認していた。
日向は、腕のチェッカーを何度も見ている。
直耶は短槍を握り直す。
半年間で、槍の柄には小さな傷が増えた。
小盾の縁にも、白い擦れが残っている。
新型装備も支給された。
補修もされた。
それでも、手の中の重さは同じだった。
「全員、生きて帰るぞ」
森山の声に、全員の声が応えた。
エレベーターホールへ向かう廊下の途中、壁のモニターがまたニュースを流している。
『フリー探索者の年間登録者数は、前月比でさらに増加しています。
一方で、初回から5回以内に活動停止する割合は依然として高く——』
画面が切り替わる。
『高額買い取りを記録した探索者への企業スポンサー契約も相次いでおり
回廊探索は新たな職業文化として定着しつつあります』
その横を、L値測定ゲートから出てきた若い男が通る。
顔色は悪い。
それでも手に持った明細を見て、少し笑っていた。
別の受付では、元探索者らしい女性がフリー探索者へ説明している。
「帰還後測定は必須です。未測定の方は次回入域できません。
簡易チェッカーの数値だけでは正式記録になりませんので、必ずこちらで測ってください」
直耶はその横を通り過ぎると、もうエレベーターの前だ。
警備担当が確認を始める。
「第三探索チーム合同班、入域確認。
森山、大熊、境、日向、高梨、三宅、榊。
目的、第三浅層合同再調査。予定時間、150分」
「確認した」
森山が答える。
『地上管制、記録開始します。音声良好。映像良好』
日向が、息を吸った。
それは小さな音だったが、直耶には聞こえた。
「日向」
直耶は小さく声をかけた。
日向は顔を向ける。
「いつも通り、ですよ」
自分でも、何を言っているのか少し分からなかった。
日向は一瞬だけ目を丸くし、少しだけ笑う。
「はい。いつも通りに、行きます」
扉が開く。
白い光が、奥から漏れた。
冷たい空気が足元を撫でる。
森山が先に乗る。
大熊が続く。
直耶もエレベーターへ足を踏み入れた。
皆が順に乗り込む。
金属の床が、全員分の重さを受けて小さく鳴った。
直耶は地上側を振り返った。
明るい照明。
L値測定ゲート。
素材買い取り窓口。
モニターに流れる世界のニュース。
笑うフリー探索者。
顔色の悪い探索者。
受付に立つ元探索者。
世間が冒険者ギルドと呼びたがる理由は、分からなくもなかった。
世界は自分が初めて潜った頃と、随分変わった。
そして世界は回廊を道と呼び始めていた。
救助の道。
物流の道。
利益の道。
夢の道。
国と国を繋ぐ、未来の道。
誰もがそう呼び始めている。
けれど直耶にはまだ、それが穴にしか見えなかった。
一方で、世界には回廊で運を掴んだ者たちの話があふれている。
高額買い取り。
スポンサー契約。
人生逆転。
探索者ランキング。
どれも、どこか他人事だった。
直耶が気にしているのは、買い取りランキングより、今月いくら実家へ送れるかだった。
家族の生活費。
母の検査費と入院費。
妹の学費と進学費。
自分の奨学金。
そういう数字の方が、ずっと近くにあった。
直耶が掴んだものといえば、増えた傷と、下がった数値と、名前のつかない嫌な予感くらいだ。
今日もたぶん、楽な調査にはならない。
そういう日に限って、通路は曲がる。
そういう日に限って、記録にないものが出る。
そういう日に限って、直耶は一番前にいる。
それでも、足は止まらなかった。
「行くぞ」
森山の声。
扉が閉まる。
ゴウン、ゴウン。
いつもの音で、箱が下がっていく。
運の悪い俺は、今日も湾岸の地下へ降りていく。
*
岩陰の奥で、革鎧に身を包んだ毛深い女が耳を伏せる。
乾いた砂の匂いの中に、鉄と薬と、知らない布の匂いが混じった。
来た。
気配を感じる。
やはり、アイツラの入口は見えない。
こちらのオルマには、こちらの口がある。
ニンゲンには、ニンゲンの口があるのだろう。
見えるのは、そこからこぼれた匂いと、足音だけだ。
足音が増えた。
鎧とも革とも違う硬い金属の擦れる音。
短い呼吸音。
誰かが小さく声をかける気配。
半年前、砂と血の中で初めて見た者たちと、同じ匂いだった。
ニンゲン。
女は、腰の刃に手を置く。
知らないものを、すべて敵と思うな。
知らないものを、すべて友と思うな。
子どもの頃に聞かされた言葉が、耳の奥でよみがえった。
だが、あれほど回廊に慣れていない者たちが
あれほど早く道を測り、探索し、また戻ってくるのを、女は見たことがなかった。
弱い。
なのに、しぶとい。
女は低く息を吐いた。
そして、その中に一つだけ、前にも嗅いだ匂いがあった。
槍の匂い。
薬の匂い。
そして、回廊に拒まれているようで、なぜか気になる匂い。
あいつだ。
ニンゲンが、またオルマへ入ってくる。
今度は、何をしに来た。