「プックル、『しっぷうづき』!スラッシュ、『メラミ』!」
「がうっ!」「おうよ!」
「危ねぇ、後ろだっ、イルッ!」
「えっ?あっ。」
魔の森を進む一行であったが、その道中は魔物との戦いの連続であった。四方を囲まれたダイ達は背中を預け合うようにして戦い、イルもプックルとスラッシュに指示を飛ばしていた。
正面の敵に集中するイル。それゆえに背後から襲いかかってきたリカントの存在に気づくのが遅れてしまう。
ワルぼうの声でやっと気づいたイルがやられる、と思った瞬間、ハンマースピアを手に持ったマァムが横合いからリカントを殴りつけた。
「大丈夫かしら?・・・ポップ!しっかり止めなさいよ!またあなたのところからよ!」
「無茶言うなって!俺ぁ魔法使いだぞ、正面からやりあってられるか!」
イルとマァムがリカントが飛び込んできた方向を見ると、あばれこまいぬに追われて逃げ回るポップの姿があった。悪態をつきながら走るポップは、何かにぶつかって尻もちをついた。
「痛ってー、なんだぁ?」
背後を見つつ逃げたせいか、ポップは目の前にある大木にぶつかってしまったらしい。慌てて立ちあがろうとポップが視線を上に上げると、突然木の幹が蠢き、人間の顔が現れた。
「うわぁぁぁぁ!!!」
「やれやれ、まだまだですねぇ。ダイくん、ポップのサポートをお願いします。」
「わかりました!待ってよポップ、そんなに離れたら危ないよ!」
ひと足先に敵を片付けたダイに、アバンがそう指示する。そしてアバン自身も仕上げに『ヒャダイン』を放ち、受け持っている敵を一掃した。
アバンの視界の端ではこちらも敵を退けたらしいイルとマァムがいた。ピンチを助けられたイルは、マァムにお礼を言っているようだった。
「マァムさん、ありがとう!凄くかっこよかった!」
「気にしないで。イルちゃんこそ、まだ小さいのに堂々と戦っててすごいわね。私のことはマァムでいいわよ。」
「わかった、マァム!わたしもイルって呼んで!」
「わかったわ。それにしても、ダイやイルに比べてポップは情けないわ。いくら魔法使いだからって、後ろにイルが居たのに逃げ出すなんて・・・。」
「ま、まあポップくんもわざとじゃないから。」
「それにしたって・・・。あ、帰って来たわね。」
木々の間から、敵を倒したらしいダイと気まずそうなポップが現れた。やや苦戦したのか、ダイの体にはいくつか傷や痣が見られた。
それを見たマァムは、腰のホルスターから『魔弾銃』を抜き、ダイに向けて引き金を引いた。打ち出された魔法がダイに当たり、傷を癒していく。
「ありがとうマァム。やっぱりそれすごく便利だね。じいちゃんのベホイミより効いてるよ!」
「でしょ?まあアバン先生からの貰い物だけどね。」
ダイの感想に、得意げな様子を見せるマァム。それを見たポップはおずおずと手を挙げて言った。
「あの〜マァムさん。俺にも何か回復魔法でもかけちゃ〜くれませんかね?」
「はい薬草。」
「な、てめー!なんだこの待遇の差は!」
「臆病者にはこれで十分よ!」
「なにをー!」
自分にも回復魔法を、とねだるポップに、マァムは素っ気なく薬草を放って渡した。その態度をきっかけにわーわーと言い争う2人に、ダイとイルは顔を見合わせ、あはは・・・、とばかりに苦笑いを浮かべた。
イルはへそを曲げるポップに近づいて、スラッシュに指示を出す。
「スラッシュ、ポップくんに『ホイミ』をかけてあげて。」
「おう、『ホイミ』。」
「おお!?スラッシュ、お前スライムのくせにホイミまで使えるのかよ、凄いな!イルもありがとよー、どこかの乱暴女とは大違いだ。」
「何よその言い方!イルもちゃんと怒らないとダメよ、ポップのせいで危なかったのは貴女なのよ!」
ポップの言い草に怒ったマァムがイルにも注意をする。板挟みになったイルは、困ったような表情をして2人に言った。
「うん。でもわたしも魔物がいないと何もできないから、ポップくんの気持ちもわかるんだ。でも、今度からはせめて任せた、とか一言言ってほしいかな?」
「お、おう、わかった。なんつーか、すまねぇイル。次からは気をつけるよ。」
ポップも自分よりも幼く、かつダイのような強靭な肉体を持たないイルに言われては言葉がないらしい。
そうして場が収まったのを見て、アバンが声をかけた。
「そろそろ出発しましょう。夜になる前に森を抜けたいです。マァム、お願いします。」
「そ、そうですね。すみません、こっちです!」
そうしてマァムを先頭に、一行はロモスに向けて歩みを進めた。
その後ろ姿を、木々に隠れて『あくまのめだま』がじっと見つめていた。
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ハドラーは焦っていた。各国の攻略に6軍団長を派遣しておきながら、魔軍司令たる自分が真っ先にアバン討伐に失敗してしまった。大魔王バーンの口により「次はない」と宣言されたハドラーは、必勝の戦略を求め鬼岩城を駆け回っていた。
そんなハドラーの元に、妖魔師団軍団長、ザボエラがやって来た。
「ハドラー様、アバンらを見つけましたぞ。今はロモス南東の魔の森に居る様子。今夜には森を抜けロモス王国へ入る見込みですぞ。」
「よくやった、ザボエラ。しかし動きが早いな、『ルーラ』を使われたか。」
アバン達の動きの早さに、ハドラーは唇を噛んだ。苦い顔で思考するハドラーに対し、ザボエラは今後の動きについて尋ねた。
「それで、如何いたしましょうか。ロモス王国は獣王クロコダインの侵略目標。奴にアバン討伐を命じましょうか。」
「ならん!癪だが奴らはこの俺を撃退せしめるほどの力を持っている。いかにクロコダインとはいえ、ひとりで奴らを討てはせん!」
「それほどでしたか、アバンの力は。」
「今やアバンなど問題ではない!問題はダイとイルの2人だ!奴らは底知れない力を持っている・・・しかもまだ未完成でありながら、だ。放置すればより強大となって我らの前に立ち塞がるであろう。」
ハドラーは拳を握りしめてそう言った。今すぐに奴らを叩き潰せと命令したい所だが、彼我の戦力を比較する司令としての頭がそれを阻止していた。
「なるほど、では奴らを引き離せばどうでしょう?」
「なに?」
しかしそんなハドラーに、ザボエラが邪悪な笑みを浮かべつつ言った。
「儂に考えがありますのじゃ。その作戦の為、クロコダインの他、もう1人軍団長を貸していただきたい。」
「むう。しかし今はどの軍団長も各国の侵攻に注力している。」
「1人いるでしょう?アバン討伐と聞いて飛びつくだろう者が。」
「ヒュンケルか・・・。確かにあ奴ならば、アバン討伐と聞けば必ず駆けつけるであろう。」
不死騎団長ヒュンケル。魔王軍唯一の人間であり、アバンに師事しながらもアバンへの憎しみを誰よりも強く持つ戦士である。
現在はパプニカ王国の攻略を任せており、地理的にもロモスと近い位置にいる。忠誠が見えずハドラーからすれば気に食わない軍団長ではあるが、適役であることに違いはなかった。
「わかった。ザボエラ、作戦中は貴様に俺の名を貸そう。クロコダイン、ヒュンケルと共に、アバン達を皆殺しにしろ!」
「ハッ!」
こうして魔王軍も動き出した。次なる戦いの時は、もうすぐそこに迫っていた。
次回投稿は明日か月曜日の予定です。