イルとダイの大冒険   作:NBRK

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第7話 漢の誇り

「ポップ!あのきめんどうしはダイのお父さんよ!傷つけちゃダメ!」

 

「わかってらぁ。おい、この卑怯者が!獣王なんて大層な肩書きの割に、人質なんて狡いことしやがって!」

 

「何だと!この獣王を侮辱するか!オレとて命令でなければこんな手は使わん!」

 

「うるせぇ!結局使ってんなら同じことだ!」

 

「ぐぬぅ。・・・いいだろう、人質を使うよう命令されたのはあくまでダイとの戦いのみ。そんなに死にたければ相手してやろう、魔法使いよ!」

 

 

 そう言ってクロコダインはブラスを後ろに下げた。まずは一対一の構図を作れたことにポップは安堵する。しかしそれも一瞬、圧倒的不利なことに変わりはない、と気を引き締めた。

 

 最強呪文を、最高威力で直撃させる。それ以外に勝ち目はないと考えたポップは、修行していた新たな呪文を放った。

 

 

「喰らえ、『マジックハック』!」

 

「む、何だその呪文は?何の効果もないではないか!」

 

 

 ポップの放った未知の呪文を、クロコダインは避けることなく受け止めた。一見何の変化も起こさなかったその呪文だったが、直撃を確認したポップはニヤリと笑った。

 

 

「本当にそうか、てめぇで確かめてみろ!『メラゾーマ』!!」

 

「ふん、『真空の斧』・・・ぐおおおおおおお!!」

 

 

 ポップがさらに呪文を唱えると、杖の先から巨大な火球が放たれた。それに『真空の斧』で応戦したクロコダインは、襲い来る痛みに叫び声を上げた。

 

 

「ぐぅ、まさか最初の呪文は・・・。」

 

「へっ、驚いたかよ。魔法に対する防御力を下げる呪文だ。まだまだいくぜ、『ベギラマ』!」

 

「ぐぉぉぉ!」

 

 

 『マジックハック』。魔法防御を下げる呪文で、クロコダイン戦に向けてポップが特訓していた奥の手である。

 

 自然系の魔物、特に魔獣の類にはこういった呪文は効きやすい。そう思ったイルがポップに教えた呪文でもある。あっという間に習得してしまったポップに教えたイル自身も驚いていたが。

 

 呪文を3連続で放ち、肩で息をするポップ。今できる最大威力の攻撃を放ったポップは、祈るようにしてクロコダインを睨みつけていた。

 

 しかし、その祈りは届かなかった。

 

 

「この痛み。侮っていたのはこちらの方だったな。」

 

 

 体のあちこちから煙を上げつつ、クロコダインがぬっ、と立ち上がった。それを見たポップは、動揺する心を押さえつけ、さらに呪文を唱えた。

 

 

「しぶとい野郎だ、『ヒャダルコ』!」

 

「ぐっ、舐めるなぁ!!」

 

「うぉっ!危ねぇ・・・。」

 

 

 しかしクロコダインは痛みに顔を歪めつつも、根性で魔法を耐え切った。そしてその巨体からは想像もつかない速度でポップに襲いかかった。

 

 

「くそっ、『メラ』、『ギラ』!」

 

「フハハ!さっきまでの呪文の威力はどうした!」

 

 

 攻撃の合間を縫ってポップは反撃するも、その猛攻の中では高威力の呪文を撃つ隙がない。戦いは打って変わって、ポップの防戦一方の様相となった。

 

 それでもポップは善戦した。1年間毎日のようにこなした組手の修行は、確かにポップの中に経験として積み重なっていた。

 

 しかし、それは人間相手であった。ゆえに、人には無いものに対する対処を学ぶ機会はポップにはなかった。

 

 振り下ろされた斧を避けた次の瞬間、飛び退いたポップを追うようにして、クロコダインの尾がその体に突き刺さった。

 

 

「ぐ、ううう。」

 

 

 ポップは地に伏し、その痛みに身を捩った。

 

 魔法使いの肉体は戦士とは違い貧弱である。故にこの一撃で立つことすら難しいだろう、とクロコダインは思った。

 

 しかし、ポップは立ち上がった。

 

 

「へへ・・・。こんなもんかよ、獣王ってのも。」

 

「馬鹿な!?立ち上がっただと!?」

 

 

 とはいえ、ポップが瀕死であることには間違いはなかった。体力、魔力共に今のポップには足りない。ポップを立たせているのは、ただただ気力としか言いようがなかった。

 

 

「(考えろ・・・何が出来る。ダイやマァムに出来なくて、俺だけが出来ること・・・。そうだ!)」

 

 

 意識が飛びそうな中、ポップは必死に考える。そして、ある答えに辿り着いた。そして同時にポップは悟った。己の死を。

 

 自分の杖である『マジカルブースター』、敵に操られたブラス、そしてその前に立ち塞がるクロコダイン。ポップの優秀な頭脳は、作戦を成功させるのに必要なチップが、自分自身の命に他ならないことを瞬時に弾き出していた。

 

 しかしポップは迷わなかった。最後の力を振り絞り、クロコダインの鎧に向かって思い切り『マジカルブースター』を叩きつけた。

 

 杖に付けられた宝玉が砕け散る。無防備になったポップを、クロコダインは片手で持ち上げ地面に叩きつけた。

 

 

「魔法力が尽きて血迷ったか!馬鹿な真似を!」

 

 

 横たわるポップをクロコダインは踏みつける。悲鳴をあげつつも、ポップは砕けた宝玉のかけらを指で弾き飛ばす。

 

 そして5つ目のかけらを弾き飛ばした時、ポップの体が白く光り、ブラスの足元に金色の魔法陣が描かれた。

 

 

「邪なる威力よ退け、『マホカトール』!!」

 

「何だと!?」

 

「グォォ!くぅぅ、何じゃ、ワシはいったい・・・ポップくん!?」

 

 

 正気に戻ったブラスが、地に倒れ伏すポップを見て驚愕する。状況を察したクロコダインは、怒りに任せてポップを捻り上げた。

 

 

「馬鹿め、今更ブラス1匹を救って何になるというのだ・・・。魔力を失った魔法使い1人で何ができる!己の実力すら見誤ったか!」

 

「へへ・・・心配ねぇさ。ダイがいる。」

 

「何!?」

 

「人質さえなけりゃあ、ダイは負けやしねえ。それに何より・・・。」

 

 

 ポップはそこで、イルとの会話を思い出した。最低以下の屑に成り下がろうとしたポップを救った言葉。ポップのゆうきのありかを示した言葉を。

 

 

「実力なんて関係ねぇ!そこに仲間が居て見捨てるような屑になるなんて、死んでもごめんだ!!!」

 

 

 ポップの言葉を聞いたクロコダインは、くわっ、と目を見開いた。そしてポップから手を離し、地面に無防備に落下したポップを恐れるように後退りした。

 

 

「(こんな・・・こんな少年が、仲間のために命を投げうって戦っているというのか!それに対して俺の、何と情けないことか・・・!)」

 

「何をしている、早くとどめを刺せ!」

 

「ザボエラ!?・・・くそっ。」

 

 

 しかし、『あくまのめだま』を通じて、クロコダインに非情な命令が下された。クロコダインはゆっくりとポップに近付き、そして斧を振り上げた。その目は潤み、手は震えている。

 

 

「許せ、小僧・・・!」

 

「ピィ〜!」

 

 

 そして斧を振り下ろさん、とした時、ダイの側にいた金色のスライムが涙を溢した。そしてそれがダイに触れた瞬間に、青い光と共に強烈な闘気が立ち上った。

 

 

「っ、何だ!?」

 

「奇跡か・・・、ダイ!!」

 

「クロコダイン・・・、おれのじいちゃんに悪いことをさせ、おれの仲間を傷つけた・・・。お前を許さない!!」

 

 

 一際強烈な光が放たれ、クロコダインは目を覆った。光に当てられた『あくまのめだま』は砂のように崩れ去り、解放されたマァムにポップが這うようにして近づいていった。

 

 

「マァム!」

 

「ごほっ、ポップ!ダイのあれはいったい・・・?」

 

「わからねぇ。だけど、ああなったダイは強え!」

 

 

 光が収まり、身構えるダイにクロコダインが切りかかった。その力強い斧の一撃を、何とダイは素手で受け止め、そして握り潰した。

 

 馬鹿な、という顔をするクロコダインを、ダイは軽々と振り回し壁に叩きつける。ここで初めて、クロコダインはザボエラがここまでダイを警戒していた理由を知った。

 

 それでも、負けるわけにはいかない。負けてしまっては、何のために誇りをかなぐり捨てたというのか。

 

 

「死んでも負けるわけにはいかん、『獣王痛恨撃』!!!」

 

「ダイ!使え!!」

 

 

 クロコダインの全力を込めた一撃が放たれる。丸腰のダイに、ポップは転がっていたダイの『パプニカのナイフ』を投げつけた。

 

 それを受け取ったダイは逆手持ちにしたナイフに闘気を込める。そして飛来する赤い闘気の奔流を、強烈な光が切り裂いた。

 

 

「『アバンストラッシュ』!!!!」

 

 

 右手を振り抜いたダイが、クロコダインを背にして止まる。一瞬の静寂の後、クロコダインの腹に刻まれた横一文字の傷から、大量の血が吹き出した。

 

 

「見事だ・・・、ダイ、ポップ。」

 

 

 クロコダインは腹を抑えつつ、それでも膝を折らずにダイに向き合った。それを油断なく見つめる3人に、クロコダインは笑みを浮かべつつ言った。

 

 

「どうせ負けるなら、正々堂々と戦えばよかったよ。ポップ、お前にも教えられたぞ、漢の誇りの尊さを・・・な。」

 

「クロコダイン・・・。」

 

「命令だと自分に言い訳して誇りを捨てた俺は、何と愚かであったことか。さあ、先に進め、ダイよ。お前たちの前で、無様な死に際など見せたくはない。」

 

 

 そう言ってクロコダインは扉への道を譲った。目を合わせて頷いた3人は、アバンの待つ玉座の間へと駆け出した。その背中に、クロコダインは最後の言葉をかけた。

 

 

「負けるなよ・・・!勇者は常に、強くあれ!」

 

 

 そして、クロコダインは壁に寄りかかるようにして座り込んだ。そして満足げに笑って目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 それからどれだけの時間が経っただろうか。一瞬か、数分か、あるいは数時間か。気づくとクロコダインの目の前には、1人の少女が立っていた。

 

 

「・・・・・・?」

 

 

 もはや目も耳も働かぬクロコダインに、少女は何かを語りかける。朦朧とする意識の中、クロコダインは本能のままに何かを答えた。

 

 そして、少女はクロコダインの前に跪き、何かをクロコダインの体に乗せた。そして両手を祈るように組んで目を閉じる。

 

 その瞬間、少女とクロコダインの体が、白い光に包まれた。

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