不死騎団長ヒュンケルの前に倒れ伏したダイ達。最初に立ち上がったのは、比較的消耗の少なかったマァムだった。
「引っ込んでいろ。女と戦うつもりはない。」
ハンマースピアを構えるマァムの姿を見たヒュンケルは、不快そうな様子でそう言った。しかし、マァムは毅然とした表情でそれに返す。
「馬鹿にしないで。女だって命を賭けて戦うわ!それが正義のためなら尚更よ。・・・貴方も先生にそう教わった筈でしょう!?」
「フン、確かにアバンが言いそうなことだ。だがな、その偏った正義が、俺の父を殺した!」
「えっ・・・?どういう、事なの?」
「俺は幼い頃、魔物によって育てられた。」
戸惑うマァムに、ヒュンケルは語った。幼い頃、ヒュンケルは当時の魔王軍に属していた地獄の騎士バルトスに育てられたこと。魔王軍の本拠地という環境でありながら、温かい毎日を送っていたこと。そして、その日々が崩れ去った日のことを。
ヒュンケルは父との最後の瞬間を思い出す。アバンによってハドラーが討たれ存在を維持できなくなったバルトスは、幼いヒュンケルの目の前で灰となって崩れ落ちた。
最後の力を振り絞って、バルトスはヒュンケルに告げた。思い出をありがとう、と。
最後の瞬間まで、ヒュンケルにとって彼は邪悪な魔物でも、魔王軍幹部でもなかった。ただただ息子を愛する優しい、1人の父親であったのだ。
「アバンは正義のために戦い、その力で俺の父の命を奪った。それが正義の成すことならば・・・正義そのものが俺の敵だ!!」
ヒュンケルの言葉を聞いたダイは、己の事のように心が痛むのを感じた。もしもブラスやゴメが同じように人間の手に掛かったとしたら。その時の自分の感情が、ダイには手に取るようにわかった。
マァムもポップも、ヒュンケルに伝える言葉を持たなかった。絶対的に正しいと思っていた師と、その弟子との間の隔執。正義のあり方への問いに答えるだけの経験を、2人は持っていなかった。
必然的に、口を開いたのはアバンであった。
「ヒュンケル。貴方が私を憎む心には気付いていました。ハドラーとの戦いの中、私が多くのものを切り捨てて来たのは事実です。故に私は貴方の憎しみを否定しなかった。」
ですが、と言葉を切って、アバンは続けた。
「私を憎むのは構いません。ですが、魔王軍の一員として、罪のない人を傷付けることを肯定することはできません。親のぬくもりを知り、それを奪った私を憎む貴方が、なぜ関係のない人々からもそれを奪おうとしているのか!」
「くっ、それは・・・。」
「まだ間に合います。ヒュンケル、どうかよく考えてください。罪のない人々を襲うことが、本当に貴方の心を救う行いなのかを!」
師の言葉を受け、ヒュンケルの目に迷いが生じる。しかしそれを遮るようにして、不快な声が響き渡った。
「惑わされるでない、ヒュンケルよ!勇者など所詮、人間どもの意見の代弁者にすぎんのじゃ。魔物であるお前の父を殺したのは、それ人間の総意と変わらん!人間を滅ぼすことこそが、お前の復讐心を満たす唯一の方法なのじゃ!」
「・・・奴の言葉に耳を貸すようで癪ではあるが、貴様の甘言に乗せられずに済んだことには礼を言わざるを得んな。」
「ヒュンケル・・・!」
「やはり貴様は、ここで殺す!『ブラッディースクライド』!」
闇の闘気の奔流が、アバンを葬らんと再び放たれた。先程よりも強烈なその一撃に、誰もが絶望しかけたその時。
「クロコダイン、お願い!」
「任せろ、『獣王会心撃』!!」
あり得ないはずの攻撃が玉座の間の入り口から放たれ、黒い闘気とぶつかり合った。それは相殺には至らなかったが、致命の一撃をアバンから逸らすことに成功する。
「ぬぅ、何という威力だ。逸らすことで手一杯とは・・・。」
「十分だよ!獣王の名は伊達じゃないね。」
ダイ達は目を疑った。つい先程、自分達が倒したばかりの魔物が五体満足で現れたのだ。しかもそれが、敬愛する師を守ったのだから。
驚いたのはヒュンケルも同様であった。目を見開いて、その魔物の名を叫んだ。
「どういうつもりだ・・・クロコダイン!!」
「なに、見ての通りだ。この少女、イルによってオレは死の淵から蘇ったのだ。そしてオレは戦おう、オレに感動を与えてくれたダイ達のために!そして何よりも、失った漢の誇りを取り戻すために!!」
そうしてクロコダインは威風堂々とヒュンケルの前に立ち塞がった。その肩からぴょんと、この状況を創り出した少女が飛び降りて言った。
「助けに来たよっ、みんな!」
もう少し先まで書く予定だったのですが、体調不良のため一旦ここで切らせていただきます。
2章はあと2話で完結する予定です。