イルとダイの大冒険   作:NBRK

19 / 75
誤字報告ありがとうございます。

2章最終話です。


2章最終話 イルの資質

 クロコダイン、ヒュンケル率いる魔王軍を撃退したダイ達。その功は戦いを見ていたロモス王直々に称えられ、国を挙げての祝勝パレードが催された。

 

 国を救った勇者を一目見ようと、パレードにはロモス中の人々が押し寄せた。その熱狂ぶりにダイ達は次なる戦いのことも一時忘れ、勝利の余韻に酔いしれた。

 

 そしてその翌日、ロモス王国の主要人物を含めて、今後の方針についての話し合いが行われた。

 

 

「・・・それでは出発は明日の朝とし、デルムリン島を経由しパプニカへ向かうということでよろしいでしょうか?」

 

「はい。しかし我々の装備だけでなく船まで貸していただけるとは。ロモス王国のご厚意に感謝します。」

 

「いえ、王からは協力を惜しむな、と言葉を賜っておりますのでお気になさらず。我々としても勇者様御一行にお力添え出来ること、心より光栄に思っております。」

 

 

 パプニカへの移動はルーラではなく海路が選択された。ダイ達には巨大な高速帆船が与えられ、そこにはパプニカに届ける武器や食料などの救援物資も積まれる予定である。

 

 パプニカが危険に晒されている以上、先を急ぐべきではという意見も多かった。しかし、アバンの言葉によってその意見は押し留められた。

 

 

「人質というのは、本当に殺してしまっては何の意味もないものです。態勢が整う前に無理に攻めては相手の思う壺。むしろ道中で傷を癒しつつ、救援物資を大量に届けこちらの戦力を底上げすることが、結果的に多くの民を救うことに繋がるでしょう。」

 

 

 こうして方針が決まり、出発までは各自での行動となった。

 

 使者の役割を兼ねるアバンは、パプニカ王国宛の親書の内容を大臣らと詰めていた。ロモスから提案する援助の内容や、今後の2国間での協力関係についてなど、出発までに決めておくべきことは多かった。

 

 マァムはダイ達に同行し、魔王軍と戦うことを希望した。しかし一度母であるレイラと相談してはどうか、というアバンの意見によってネイル村へと向かっている。 

 

 なお、行き帰りはポップがいつの間にか覚えていたらしい『ルーラ』によって行われた。2人は戦いの後和解していたが、浮かれた様子で肩を抱いたポップに、マァムは再び白い目を向けていた。

 

 ダイは思うところがあったのか、ブラスと共に呪文の特訓をしていた。ブラスとしては久々の再会をゆっくり楽しみたい気持ちもあったが、いつになく呪文に興味を示すダイを見て気持ちを切り替え、いつも以上に熱を入れて指導を行っていた。

 

 そしてイルはというと。

 

 

「ありがとー!次はモンスターと一緒にサーカスをするよ!みんな一緒に盛り上げてねー!」

 

 

 イルの言葉に歓声で答えるロモス国民たち。『アラビアン服』に着替えた彼女は、なぜか城下町の広場でモンスターを使ったショーを披露していた。

 

 カモン、とイルが号令をすると、大小の輪っかや大きなブランコなどを持ったキメラやガルーダ、カラフルな球に乗ったキラーエイプなどが姿を現す。

 

 リズムに乗って芸を披露するモンスターたちに、観客から拍手が湧く。ピカピカと光る演出なども相まって、ロモスの民は童話の世界に迷い込んだかのような感覚を楽しんでいた。

 

 ちなみに演出担当はワルぼうである。なぜオレが、という反論は、以前イルのケーキを食べた罪によって封殺された。様々な『とくぎ』を応用し、見た目だけ光るような演出で観客を盛り上げている。

 

 そして締めに、イルとモンスターたちが決めポーズを取る。大盛況で終わったショーの後は、子供を対象としたモンスターとのふれあいタイムが始まった。

 

 スライムやモーモンを始めとした可愛らしいモンスターが子供達にもみくちゃにされるのを、クロコダインは腕を組んで眺めていた。

 

 

「(不思議なものだ。昨日まで争っていたはずなのに。)」

 

 

 このショーが行われたきっかけは、祝勝パレードの前に起きた出来事にあった。クロコダインの扱いについて、議論が起きたのである。

 

 ロモスに攻め込んだ敵軍の大将首。しかし一方で、ヒュンケル撃退の功労者でもある。また、城下町には見向きもしなかった事で民間人への被害がほぼなく、死者もイルたちの奮戦により少なかったことが、その扱いを難しくしていた。

 

 そんな中、ロモス王は器の大きさを見せ、パレードへの参加を許可しようとしていた。しかし最終的にそれは実現しなかった。他ならぬクロコダイン自身がそれを固辞したのである。

 

 

「裏切ったとはいえ、オレがこの国を魔王軍として襲ったのは事実。それに華々しい勇者一行の中に、オレのような魔物が紛れていては外聞も悪いだろう。」

 

 

 しかし、それに不満だったのがイルである。その日の夜、イルはモンスターを集めて話し合った。そして、かつてサーカス団の一員として王城で芸を披露した経験を活かし、一晩にしてショーの準備を整えた。

 

 城門での戦いの目撃者が多かったこともあり、街に魔物を連れてくることはすんなりと受け入れられた。そしてショーは開催された。今クロコダインの目の前に、人と魔の壁を感じている者はいなかった。

 

 それを為した少女が、とてとてとクロコダインに歩み寄る。

 

 

「どうだった?わたしのショーは?」

 

「ああ、大したものだな。・・・イル、お前の伝えたいことは伝わった。だが、それでもオレは昨日の選択を間違えたとは思えんのだ。」

 

「それはどうして?」

 

 

 イルの真っ直ぐな瞳がクロコダインを覗き込んだ。それにどこか居心地の悪さを感じつつ、クロコダインは答えた。

 

 

「オレがこの手で人を殺めてきた事は変わらんからだ。その事実がある限り、オレを受け入れられぬ者は多くいるだろう。今この場も、無垢な子供を除けば結果は変わっていたかもしれん。」

 

 

 そう言ってクロコダインは周囲を見渡した。大はしゃぎする子供達に隠れて、どこか不安そうな表情でこちらを見る大人達の姿がちらほらと見えた。

 

 これこそが現実だ、とばかりにクロコダインは再びイルの顔に視線を戻した。しかしそこに、クロコダインの想像する表情はなかった。

 

 

「うん、でもそれでいいと思うんだ。」

 

 

 イルは爽やかな表情でクロコダインに告げた。

 

 

「だってそれは、種族の問題じゃないから。1人の人間と、1匹の魔族、その間の問題だよ。人同士のいざこざと何も変わらないよ。」

 

「それは、・・・そうだが。」

 

「わたしはね、クロコダインがパレードに参加出来なかったことを怒ってるんじゃないよ。クロコダインが自分を、魔物であることを悪いみたいに言ったから怒ったんだよ。」

 

「!」

 

 

 その言葉に、クロコダインは心が震えるのを感じた。

 

 

「人も魔物も関係ない。悪いことをしたら悪いし、いいことをしたらいい。わたしは魔物が好きだから、わたしの目の前でくらいは、みんなもそう思って欲しい。だからもう外聞が悪いなんて言わないでね?クロコダイン。」

 

 

 そう言ってイルは子供たちの中へ戻っていった。それを見送るクロコダインは、脳が痺れるような感覚を味わっていた。

 

 

「(そういえば、あの時もそうだった。)」

 

 

 ダイ達に敗れ、倒れ伏すクロコダイン。そこに歩み寄ったイルはこう尋ねた。

 

 

「ねえ、心残りはない?」

 

 

 その問いに何と答えただろうか。そもそも言葉になっていたのだろうか。しかしイルはそれを読み取り、クロコダインに手を差し伸べた。

 

 意識の戻ったクロコダインは、呆然としてイルの顔を見上げた。

 

 

「わかった。なら、わたしと行こう。望む強さも、相応しい舞台も、わたしがあなたにあげるから。」

 

 

 その言葉の、何と甘美であったことか。頭ではない、本能がその言葉を受け止めていた。これはきっと、魔物にしかわからない。そして魔物でそれに抗えるものがいるだろうか。

 

 立場もなにも全て投げ捨てて、その意思に従いたくなる。そんな圧倒的なカリスマ。魔を統べる圧倒的な才覚。クロコダインの脳に、ある言葉が浮かんだ。

 

 

「(まさに・・・『魔王』の資質・・・!)」

 

 

 その後、クロコダインの場にそぐわぬ思考は、その手を引く人間の子供たちによって遮られた。

 

 クロコダインは慎重に力加減をし、その小さな体を高く持ちあげた。初めての景色に、子供がはしゃぎ声を上げた。

 

 それを見た子供達がクロコダインに群がってくる。そこに混じっているイルからは、そのカリスマは感じられない。

 

 新たな主の二面性に戸惑いつつ、クロコダインは次の子供を高く抱き上げるのだった。

 




これにて2章は完結です。ここまでご愛読いただきありがとうございます。

自分でも思っていなかったくらい多くの人に読んでもらえて、とても嬉しく思っています。3章は幕間を挟んで、日曜日ごろから更新を始める予定です。

今後もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。