3章開始です。
第1話 いざホルキア大陸へ
ここはホルキア大陸の中央にある死火山の地下。地底魔城とも呼ばれるその場所に今、魔王軍に属する魔物達が次々と集結していた。
それらを統べる軍団長を呼び出したハドラーは、2つの席を残して埋まった円卓を見て、会議の始まりを告げた。
「遠路はるばるご苦労。諸君らに本日集まってもらったのは他でもない、勇者アバン一行との全面対決に、魔王軍の全軍団力を以て臨まんとするためだ。」
その言葉に、各軍団長は思い思いの反応を見せた。『氷炎将軍』フレイザードは血気盛んにニヤリと笑い、『竜騎将』バランは腕を組み頷いた。
一方、先日の作戦に失敗した『妖魔司教』ザボエラは忌々しい、といった表情で唇を噛み、『魔影参謀』ミストバーンは相変わらず沈黙を貫いていた。
各自の反応を見てうむ、と頷くハドラーに、フレイザードが軽い口調で尋ねた。
「ハドラー様ァ。どうにも足りねェ奴が居るようですが、奴はまだおねんねですかねェ?無様に敗北を晒しながら、会議にまで遅れるとは情けねェ奴だぜ。」
「ヒュンケルか、奴はこの作戦から外す事になった。先日の作戦中にアバンらの言葉に心を乱される場面があったのでな。クロコダインの件もある今、裏切りの可能性は減らさねばならん。」
「ケッ、所詮は人間か。前々から人間が魔王軍ででけェツラしてんのが気に食わなかったが、遂にボロが出たって訳だ。愉快なモンだぜ。」
ヒュンケルは作戦失敗の罪およびハドラーの判断によって、地底魔城の牢に幽閉されていた。同時に地底魔城も不死騎団の拠点から、魔王軍全体の前線基地へと役目を変えていた。
「話を戻すぞ。奴らのうち警戒すべきはアバン、ダイ、イルの3人だ。」
そう言ってハドラーがザボエラに目配せすると、『あくまのめだま』が現れて3人の姿を映し出した。
「アバンは言わずもがな、このダイという小僧も未完成ながら俺に手傷を負わせた強者だ。そしてイルは戦闘能力こそ低いが、モンスターを操り戦う指揮官タイプだ。特にクロコダインを従えた今、警戒度を上げねばなるまい。」
3人の戦闘の映像が次々と流れ、軍団長達はそれを真剣な表情で眺めていた。そしてダイの映像が流れた時、ある軍団長が顔色を変えた。
「ハドラー殿・・・。これは一体どういう事だ?」
「ぬぅ、流石に気付くか、バランよ。」
「これを私に今まで黙っていたとはな。返答次第では、いかに魔軍司令殿とてただでは済まさんぞ?」
「許せ。貴様にはリンガイア王国攻略の任に集中してもらう必要があった。結局緊急招集する事態になった事には謝罪するが、こうして映像を見せたことが、俺からの誠意であると思え。」
その言葉に、バランはフン、と息を吐き不機嫌そうに目を閉じた。ハドラーはバランの反応を見て、この程度で済んだことに内心ほっとしていた。勿論、表情には出さないが。
「ともかく。奴らは近々ここ、地底魔城へと侵攻してくる。そして勇者一行を迎え撃つのが諸君ら軍団長の役目だ。決戦に備えよ。」
その言葉に頷き、各軍団長は各々の部下のもとへ戻っていった。それを見送ったハドラーはふぅ、と息を吐いた。
ロモスでの敗北はザボエラの責となったが、今回は違う。ハドラー自身も出陣する以上、後がない戦いになる。
大魔王の視線に怯える心を抑え、ハドラーもまた、来たる決戦に備えるべくその場を去った。
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デルムリン島にブラスを送り届けたダイ達は、パプニカ王国を目指して船旅を続けていた。
辛くなるから、とブラスと別れの挨拶をしなかったダイは、決意とは裏腹に寂しげな表情で遠ざかるデルムリン島を見つめていた。そんなダイに、ポップとマァムが歩み寄る。
「何だよダイ、しけた顔してんなぁ!心配いらねえって。俺らが頑張ってパパーッと大魔王を倒しちまえばいいってことよ!」
「ポップ・・・。そうだよね、おれたちが頑張ればいいんだよね!」
明るい表情になったダイに、ポップは気をよくして調子の良い発言を続けた。
「そうそう、お前には頼りになる仲間も居るしな!特にこのポップ様とか・・・「ガァァァ!!」ぎゃぁぁぁ!!!」
しかし話の途中、突如として海面からマーマンが飛び出してきた。驚いて叫び声を上げるポップだったが、船のへりに触れたマーマンは苦しみ、海へ落ちていった。
不思議な顔をする3人。そこへ船長であるネルソンが近寄り、笑いながら語った。
「ははは、驚かせてすまねぇな。この船は常に『せいすい』を流してるんだ。並の魔物は近づくことすらできねぇって訳よ。」
「へー、すごいや!そんな船があるなんて!」
「・・・頼りになる仲間が、何ですって?」
「うるせー!」
マァムの揶揄いに、顔を赤くして反応するポップ。それを見て、ダイとマァムは楽しそうに笑った。その微笑ましいやり取りを、アバンとイルの2人は少し離れた場所から眺めていた。
「ふふ、みんなとっても楽しそう!」
「イルさんも混ざってきて良いですよ。手伝ってもらえるのは助かりますが、時には休息も大事です。」
「うーん、でもやめておきます。わたしは『アバンの使徒』じゃないので・・・。」
そう言ってイルは少し寂しそうな顔をした。ダイとポップだけの時はあまり気にならなかったが、マァムが加入してからのイルは、どちらかというとアバンの側にいる事が増えていた。
指揮官タイプゆえに経験豊富なアバンの方が話が合う、というのもある。しかし最も大きな理由は、3人の胸に光る首飾りであった。年若いイルにとって、年の近い仲間のうち自分だけがそれを持たない、という事実はそれなりに大きく感じられたのだ。
目の前の少女が珍しく年相応の姿を見せた事に対し、アバンは目を細めて優しく言った。
「気にすることはありませんよ。イルさんはとても立派です。私の弟子ではないですが、手元にあれば迷わずペンダントを贈りたいくらいですよ。」
「そうですか?それなら嬉しいです!・・・そういえばヒュンケルさんって先生の弟子だったんですよね、どんな人だったんですか?」
「そうですね・・・」
ペンダントを贈りたい、と言われて嬉しくなったイルは、気になっていたアバンのもう1人の弟子について尋ねた。アバンは一転して寂しげな表情に変わりながらも、イルにヒュンケルについて語った。
「そんな・・・。お父さんが。」
「ええ、ヒュンケルの父であるバルトスは敵ながら気高き騎士でした。彼の遺言に従い、私はヒュンケルを育てる事に決めたのです。」
「でも、そういう事ならどうしてヒュンケルさんにそれを伝えなかったんですか?」
イルの疑問に、アバンは首を振って答えた。
「それは不公平だ、と思ったからです。どんなに事情があったとしても、私がバルトスを、魔物という存在を切り捨てた上での平和を願ったのは事実です。私に有利な事実を伝えれば幼い彼はそれを信じたかもしれません。でも私はそうではなく、彼に世界を知ってもらった上で、彼自身に決めてほしかった。私を裁くべきか、否かを。」
結局、私だけではなく人類全体を憎むように歪められてしまいましたが、とアバンは遠い目をして呟いた。そんなアバンを見て、イルは唐突に尋ねた。
「そういえば、バルトスさんって何の魔物だったんですか?」
「ええと、確か『じごくのきし』と名乗っていましたね。それがどうかしましたか?」
「いや、何でもないんです。ちょっと気になっただけで。」
「?」
言葉とは裏腹に、イルは何かを考えるような顔で口を閉ざした。アバンは不思議に思いつつも、それに触れることはなかった。
甲板ではいまだに弟子3人が楽しそうに騒いでいる。それを眺めつつ、アバンは来たる戦いに向け、1人気を引き締めていた。
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