「見えたぞ!あれがホルキア大陸だ!」
ネルソンの声に反応し、ダイ達は船首の方へと集まっていった。水平線の先には、ハドラーが待つホルキア大陸が小さく頭を見せ始めていた。
「あそこに魔王軍が待ち構えてるのよね・・・。少し緊張しちゃうわ。」
「まっ、今から緊張しててもどうしようもねーよ。気楽にいこうぜ、マァム。」
不安そうな表情をするマァムの肩をポップがポン、と叩いた。お調子者なのは変わりなくとも、戦うことを前提に話すあたり、以前からの成長が伺える。
なお、神妙な面持ちをしているのはマァムだけではなかった。黙ってホルキア大陸を見つめているダイに、イルが声をかける。
「やっぱりダイくんも魔王軍のことが気になる?わたしもちょっと緊張してきたかも。」
「えっ?あ、うん。そうだね、おれも緊張してるかな。」
「あれ、違った?・・・わかった!さてはレオナ姫のこと考えてたでしょ!」
イルの指摘を受け、ダイは狼狽える。
「ち、違うよ!」
「隠さなくていいのに。わたしも楽しみになってきちゃった。ねー、ゴメちゃん?」
「ピピッ!」
「ゴメちゃんまで・・・。」
そんな風に会話していると、あっという間に大陸が近づき、港の姿が見えてきた。その美しく壮大な様子に、ダイ達は感嘆の声を漏らした。
「うわー、すっごく綺麗。マルタにもこんな港があればなぁ。」
「パプニカ王国は美しい港町として有名ですからね。平時なら観光客で賑わう国ですよ。」
いつの間にか隣にいたアバンが、イルの呟きに答えた。普段より身嗜みを整えたアバンは、騒ぐ4人に上陸の準備をする様に伝えた。
そして船は港へと到着した。パプニカにとっても久々の外国船の来航である。慌てた様子で役人や兵士たちが船を迎えに出てきた。
集まった人々を前に、アバンが声を張り上げて言った。
「パプニカ王国の皆さん、お聞きください。我々はロモス王国の使者として、パプニカ王国に支援を申し出に参りました。上陸の許可をいただくことと、支援についてアバン=デ=ジニュアール3世の名と共に、国王陛下へと奏上いただきたい!」
「あの勇者の・・・!?承知した!上陸については私、パプニカ三賢者のアポロがこの場で許可しよう!早馬を出せ、すぐに国王にこの件を伝えるのだ!」
答えたのは、金のサークレットと青いローブが特徴的な、アポロという男性だった。彼により、アバン達は港へ降り立つことが許された。
アバンはそのままアポロに話しかけ、使者としての話し合いを始めた。手持ち無沙汰になったイル達は積荷を下ろすのを手伝った。
最初、大きな木箱を軽々と持ち上げるクロコダインの姿に、パプニカの人々は恐れ慄いた。しかし、ロモスの船員たちが気安い様子でクロコダインと話す様子を見て、戸惑いつつもその存在を受け入れようとしていた。
イルは内心でほっとしていた。ロモスでは大分魔物の存在は受け入れられたが、パプニカでの扱いは未知数であった。しかし今の所、魔物というだけで無条件に拒絶されるわけではなさそうだ。
しばらくの間そうしていると、街の方向から先程伝令に向かった兵士と、美しい装飾が施された馬車がこちらに向かって来た。
馬車はダイ達の目の前まで来て止まった。そして中から、金の装飾が光るピンクのワンピースに身を包んだ少女が、美しい茶髪を靡かせて現れた。
「ダイくん!久しぶり!会いたかったわ!」
「レオナ!うん、俺もだよ!」
少女はダイの姿を見ると、ぱぁっ、と顔を綻ばせて駆け寄り、その手を取った。ダイもそれに嬉しそうに応じる。その様子を見ていたお付きの者たちは姫の突然の行動に、ざわざわと焦った様な様子を見せた。
「レオナ様!いけません、一国の姫ともあろう者がはしたない・・・!」
「何よ。別にあたしが誰と仲良くしようと勝手でしょう?それにこの子は、テムジンとバロンからあたしを助けてくれた未来の勇者なんだから!」
どうやらこのお姫様は名前の通り、随分と勝気な少女であるらしい。未来の勇者、と大層な肩書きで紹介されたダイは少し照れくさそうだ。
ですが、と続く口論に対し、アバンが咳払いをする。はっ、としたレオナは、慌ててアバンの方に向き直った。
「見苦しい所をお見せしてすみません。お久しぶりですね、アバン様。」
「ええ、レオナ様もご無事で何よりです。ここに来られたということは、あなたが陛下の名代を任されたということでよろしいでしょうか。」
「はい。父は皆さんの来訪を心から喜んでいます。出来ることならば直ぐにお連れしろ、との事ですがよろしいでしょうか?」
「願ってもないことです。承知しました。」
先程とは打って変わって畏まったやり取りがなされ、ダイ達の国王への謁見が決まった。用意された馬車に乗り込み、城へと向かう。なお、馬車に乗りきれないので、モンスター達はワルぼうを除いて『魔法の筒』の中に入った。
イルに抱きしめられて居心地が悪そうなワルぼうは、馬車から見える街道の景色を見て悪態をついた。
「なんだ、見かけは悪くねえが活気がねえな。閉まってる店ばっかじゃねえか。」
「ちょっと!すみません、姫様。」
「いいわよ、事実だもの。魔王軍が動き出してから船も出せなくて商売あがったりなのよね。えっと、あなたは・・・。」
「イルって言います。こっちはワルぼうです。」
ワルぼうの失礼な言動をイルが謝罪し、レオナはそれを苦笑しつつ受け入れた。その流れで各自の自己紹介が行われた。
「ポップくんとマァムさんはダイくんと同じで、アバン先生の弟子なのね。イルさんはどういう繋がりで同行してるのかしら?」
「イルで大丈夫です、レオナ様。うまく説明できないんですけど、アバンさん達とハドラーが戦っているところに迷い込んじゃって。そこで共闘して仲間に入れてもらったんです。」
「イルは凄いんだよ、レオナ!モンスターを操って、見たことない呪文で敵をやっつけちゃうんだ!ちょっとずるい事をする時もあるけどね。」
微妙な紹介のされ方に、イルは苦笑いを浮かべた。以前ダイと模擬戦をした際、イルはだまし討ちのような方法で勝利を収めていた。あれからしばらく経つが、未だにその印象は抜けないらしい。
紹介を受けたレオナも微妙な表情をしている。もっとも、これには別の意味合いもありそうだが。
城の前に到着し、一行は馬車から降りて城内へと向かった。先導するレオナに聞こえない様に、イルはダイに耳打ちした。
「嬉しかったけど、レオナ様の前であんまり他の女の子を褒めない方がいいよ?」
「?」
耳打ちされたダイは何のことかわからず、きょとん、とした顔をしていた。