パプニカ王への謁見は恙なく行われ、一行はここでも城での滞在を許された。しかし一方で、その後行われた会議では皆が頭を悩ませる結果となった。
パプニカ側からは王とレオナ、三賢者のアポロ、マリン、エイミの5人が話し合いに参加した。会議の始め、彼らは頼もしい援軍に喜びを見せていた。しかし互いの情報を擦り合わせているうちに、アバンの顔が徐々に曇り始めた。
「・・・イルさん、貴女はこの盤面をどう思いますか?」
アバンは少し考えるような仕草をして、隣で同じく難しい顔をしていたイルに意見を求めた。突然の問いに対し、イルははっきりとした口調で答えた。
「無理だと思います。絶対に勝てません。」
幼い少女が放ったその言葉に、アバンを除く全員が驚いた。そして真っ先に口を開いたのはレオナだった。
「どうして?いくらハドラーが居るとはいえ、以前は撃退できたんでしょう?なら今回も・・・。」
「ハドラーだけならいいんですけど・・・。聞いてみましょうか、『デルパ』!」
イルは『魔法の筒』を取り出し、そう叫んだ。すると筒の中からクロコダインが部屋を揺らしながら現れた。
突然現れた屈強な魔物の姿に、パプニカの一同は身構える。それを気にすることもなく、クロコダインは自らの主へ要件を尋ねた。
「思ったより早い呼び出しだな、イル。何かあったか?」
「ちょっと聞きたいことがあってね。驚かせてすみません、彼はクロコダイン。以前は魔王軍の六軍団長のひとりを務めていました。魔王軍のことを聞くなら適任だと思います。」
魔王軍の元軍団長と聞いて、賢者の姉妹は警戒心をさらに強めた。それを諌めたのは、港で作業を手伝う姿を見ていたアポロだった。
「落ち着け、マリン、エイミ。私は彼がロモスの人々と共に過ごしているのを見た。過去はどうあれ、今は我々と敵対する意思はないのだろう?」
「うむ、オレはダイやポップの姿に感銘を受け、イルによって誇りを取り戻すチャンスを与えられた。イル達と敵対しない限りは、オレも味方として働こう。」
その言葉を聞いてパプニカ王は頷き、話を聞こう、と言った。賢者姉妹も王の言葉に警戒心を解き、イルとクロコダインの会話に耳を傾けた。
「ありがとうございます。クロコダイン、今地底魔城を攻略する作戦を立ててるんだけど、敵について意見を聞きたくて。」
「なるほど、確かにそれなら元魔王軍であるオレが適任だな。」
「うん、パプニカ側の情報が・・・」
イルはパプニカ側からもたらされた情報を簡潔に伝えた。その内容を聞いて、やはり難しい表情でクロコダインが答えた。
「目撃された魔物の種類から察するに、オレの部下であった百獣魔団を除く全軍団が集まっていると見て間違いないだろう。そしてハドラーの性格を考えるに、恐らく各軍団長も呼び寄せられている筈だ。」
「ぜ、全軍団!?マジで言ってるのかよおっさん!」
「本気だ。もとよりお前達は魔王軍の最大の敵となると目されていた。そして実際に、ロモスでオレ、ヒュンケル、ザボエラの3軍団長を擁した魔王軍を撃退してしまった。次の戦いは、文字通り魔王軍の全力をもって臨んでくるはずだ。」
クロコダインの述べた内容は絶望的なものだった。特に不死騎団のみによる侵攻にも苦戦していたパプニカの面々は、同格の軍団がいくつも加わるという現実に青ざめた表情を見せた。
「ただし各軍団は並行して各国の攻略を行っているはず。こちらに来るのは精々その一部だろう。」
「そうだとしても苦しい状況には変わりありませんね。大駒だけ数えても敵はハドラーと軍団長で6枚、一方こちらで軍団長クラスと渡り合えるのは私とダイくん、イルさんの3名です。」
クロコダインが補足するも、別の視点からのアバンの言葉が状況の悲惨さを証明した。イルもそれに言葉を加える。
「城攻めに必要な戦力は最低でも相手の3倍とも言われていますし、現状だと無謀な戦いになると思うのが、わたしの意見です。」
「なるほどな。つーかイルはどこで城攻めの知識なんて学んだんだ?」
「え?あー、カメハ王子・・・わたしの国の王子さまが授業をサボったのを叱ったら、国王さまからわたしも一緒に授業を受けてくれって頼まれたんだ。モンスターマスターとしての戦いにも役立ちそうだしいいかなって。」
「(それはなにか、外堀を埋められているのでは・・・?)」
ポップの素朴な疑問に、イルはそう答えた。その扱いに心当たりのあったアバンは、心の中でイルに合掌していた。英雄の扱いはどの世界に行っても同じである。
待たせ続けている故郷の姫君の姿を頭から消しつつ、アバンは話を元に戻した。
「ともかく、こちらの戦力増強は必須です。時間はありますが無限ではありません。急いで取り掛からなくては。」
「しかしどうやって?我が国も度重なる侵攻に疲弊しており、今以上の戦力を捻出することは難しいと言わざるを得ませんが・・・。」
「大駒については、私に一つ心当たりがあります。国王陛下はよくご存知の人物です。」
突然話を振られた国王は顎に手を当て考える仕草をする。そして何か思い当たったのか、まさか、と顔を上げた。その反応に頷き、アバンがその人物の名を告げた。
「かつての私の仲間、大魔導師マトリフ。彼を探し出し助力を請いましょう。私も長らく会ってはいませんが、恐らくこの大陸にいるはずです。」