イルとダイの大冒険   作:NBRK

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第4話 逃げる骸骨

 大魔導師マトリフ。かつての勇者一行の魔法使いであり、魔王軍との戦いではアバンと並ぶ武功を上げた人物でもある。

 

 彼は15年前のハドラーとの戦いを終えた後、パプニカ王国で王の相談役の地位に就いた。天才的な頭脳と武力を併せ持つマトリフは、革新的な政策を次々と打ち出し、王国は繁栄した。

 

 しかし、変化を好まぬ人種というのはどこにでも居る。既得権益を奪われた形になったバロンを始めとする古参の役人たちは、マトリフを政敵と定め嫌がらせを始めた。初めはマトリフも真面目に対処していたものの、その理由がくだらない嫉妬であると気付き、人間社会の汚さに嫌気が差してしまった。そして最終的に、マトリフはパプニカ王国を去ったのだった。

 

 

「本当に居るのかよそのマトリフって奴は。普通嫌気が差したならもっと遠くに行くもんじゃねーのか?」

 

「頑固だから自分のせいじゃないのに遠くへ引っ越したりしない、ってアバンさんは言ってたね。でも昔の家は流石に引き払われていたし、どこかに隠れ家でも作ってるのかな。」

 

 

 プックルに乗ったイルとワルぼうは、マトリフを探すために草原を駆けていた。他の皆が大陸に点在する村などで情報収集をする中、機動力のあるイルは独立して広範囲を捜索する役目を与えられていた。この大陸に住むモンスターのことも気になっていたイルは、進んでその役目を引き受けた。

 

 わざと街道から外れてモンスターを探すイル。しかし、その思惑はうまくいかなかった。

 

 

「全然モンスターがいないよ・・・。」

 

「ちょっと前まで不死騎団のモンスターがウヨウヨしてたって噂なのにな。みんな地底魔城に集められてんのか?」

 

 

 城で聞いた話と異なる現状にイルは肩を落とした。がっかりしつつも諦めきれないイルは草原を抜け、森の奥深くへと進んでいく。そして遂に、モンスターの後ろ姿を見つけた。

 

 

「見つけた!・・・ってあれ?」

 

 

 イルが声を上げると、その魔物はこちらに背を向け、一目散に逃げていった。

 

 

「『がいこつ』、いや『しりょうのきし』か?どちらにしても妙だな。『メタルスライム』みたいな逃げ方じゃねーか。」

 

「むー、追いかけるよ!プックル、お願い!」

 

「がうがうっ!」

 

 

 逃げる『しりょうのきし』をイル達は追いかけた。土地勘が無いとはいえ、森の中はキラーパンサーにとって庭のようなものである。イル達はあっという間に追いつき、『しりょうのきし』の前に回り込んだ。

 

 

「ちょうど仲間に欲しいと思ってたんだよね。スカウトするよ、ワルぼう、プックル!」

 

「・・・(カタカタ)」

 

 

 プックルから降り、スカウトの準備をするイル。しかし臨戦態勢のイル達を目の前にして、『しりょうのきし』は骨をかたかたと鳴らし、剣を置き地面に手をついて、落ち込むような様子を見せた。見かねたワルぼうがイルに尋ねる。

 

 

「おいイル。お前何かやったんじゃねーのか?こんだけ怯えられるとやり辛いぜ。」

 

「何もしてないよ!困ったな、話が通じるタイプのアンデットならいいんだけど・・・。」

 

 

 イルもその様子を見て気の毒に思い、蹲る『しりょうのきし』に近づき声をかけた。

 

 

「えっと、驚かせてごめんね?わたしの言葉はわかる?」

 

「(カタカタ)」

 

「あ、わかるんだ。どうしてそんなに怯えているの?わたしが何かしちゃったかな?」

 

 

 その問いに、『しりょうのきし』は骨を鳴らしつつ首を振った。とりあえず自分のせいでは無いことに安心したイルは、問いかけを続けた。

 

 

「よかった。でもそれならどうして逃げたの?何か事情があるんだよね?」

 

「・・・。」

 

「ほら、わたしは人間だけど、見ての通りモンスターと仲良しの人間だよ。もし手伝えることがあるなら手伝うし、モンスターだからって急に暴力を振るったりはしないよ。」

 

 

 プックルを撫でながら、イルは優しくそう語りかけた。いきなり追いかけ回した挙句、『スカウト』と称してどつこうとする行為は、イルの中では暴力にカウントされないようだ。少し前の自分の行動を棚に上げるイルに、ワルぼうは白い目を向けていた。

 

 しかし『しりょうのきし』はその言葉を純粋な気遣いと捉えたらしい。剣を拾い立ち上がると、ついてきて、とばかりに歩き始めた。

 

 その後ろを歩くこと数分、イル達の目の前に洞窟の入り口が現れた。『しりょうのきし』は迷いなくその中に入っていった。薄暗く奥の見えないその場所に、イルはごくり、と息を呑んだ。

 

 

「きな臭え場所だな。本当に行くのか?」

 

「でも何か訳ありっぽいし・・・。行ってみるよ、明かりよろしくね?」

 

「精霊をたいまつ替わりにするのはお前くらいだぜ、まったく。」

 

 

 覚悟を決めて、イルは洞窟へと踏み込んだ。ワルぼうが発する光を頼りに慎重に洞窟を進んでいく。深く進むにつれ外の物音は消えていき、聞こえるのはイル達の足音と、時折滴り落ちる水滴の音だけとなった。

 

 その静けさに、イルが少女らしい恐怖を抱き始めたその時だった。

 

 

「ようこそ、私達の隠れ家に。」

 

「「きゃぁぁぁぁ(ぎゃぁぁぁぁ)!!!」」

 

 

 突然目の前に人影が現れ、イル達に声をかけたのだった。驚きのあまり叫び声を上げたイルとワルぼうは、思わずお互いに抱きつき、その場にへたりと座り込んだ。それを作り出した犯人は、カンテラに灯りを灯しつつ笑い声を上げた。

 

 

「ほっほっほっ。驚かせてしまいましたな、これは失礼。立てますかな?」

 

 

 カンテラの明かりに照らされて現れたのは、執事服を着た『くさったしたい』の顔だった。見た目と裏腹に紳士的な問いかけに対し、イルはこくりと頷き、ドキドキと早鐘を打つ胸を押さえてゆっくりと立ち上がった。

 

 

「びっくりした・・・。心臓が飛び出るかと思ったよ。」

 

「飛び出る心臓があるうちが花ですな。その命、お大事になさいますよう。勇者一行の魔物使い、イル殿。」

 

 

 その『くさったしたい』はアンデット流のジョークを挟み、いきなりイルの正体を言い当てた。それに驚いたイルは、魔王軍の関係者か、と警戒する。しかし『くさったしたい』は敵意はない、とばかりにカンテラを持たない手をひらひらと振ってみせた。

 

 

「ご安心ください。我々にはもはや、貴女がたに敵対する意思はありません。」

 

「信用ならねえな。そもそもお前は何者だ。イルを知ってるってことは魔王軍だろ?何が狙いだ。」

 

「ええ、私の名はモルグ。魔王軍不死騎団に属し、軍団長であるヒュンケル様にお仕えしております。私は待っておりました。イル殿、貴女の来訪を。」

 

 

 記憶に新しい敵の名前に、イル達は一層警戒を強めた。しかしその後に続いた言葉は予想外のものだった。

 

 

「お願いがあるのです。どうか、ヒュンケル様をお救いください・・・!」

 

 

 頭を下げつつ発されたその言葉は、振り絞るかのように震えを孕んでいた。

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