イルとダイの大冒険   作:NBRK

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第7話 魂の貝殻

「・・・来たか。」

 

 

 地底魔城の最深部、『魔王の間』にて、ハドラーはそう呟いた。それから間も無くして、軍団長達がバドラーの前に参上した。参謀のザボエラが代表して口を開く。

 

 

「ハドラー様。奴らが攻めて来ましたぞ。人間どもと不死騎団の裏切り者めらが城へ雪崩れ込んで来ております。」

 

「フン、モルグの差金か。追放などせずその場で消し炭にしてやればよかったわ。まあよい、それで?」

 

「ハッ、現在は妖魔師団と氷炎魔団が主力の迎撃に当たっております。アバン達の姿はまだ見えておりませぬ。」

 

 

 パプニカ軍と不死騎団は真っ直ぐに入り口である死火山の火口を目指していた。妖魔師団が魔法で、氷炎魔団がブレスでそれぞれ迎撃を試みるも、パプニカ軍の魔法による支援を受けた死を恐れぬ軍勢は、それをものともせず城内への侵入を果たしていた。

 

 

「雑魚どもは後でどうとでもなる。アバン達の捜索を最優先とせよ。見つけ次第・・・全力で捻り潰せ!」

 

 

 ハドラーの指示を受け、各軍団長が魔王の間を出て行く。しかしその途中で、一人の軍団長が立ち止まり振り返った。

 

 

「ハドラー殿。例の少年についてだが・・・。」

 

「わかっておる。今回の働き次第ではあるが、勝利した暁にはダイの身柄は貴様に預けよう。」

 

「覚えておられれば結構。それでは失礼する。」

 

 

 バドラーの返答に満足した様子で、バランはその場を後にした。通路を歩くバランは目をぎらつかせ、拳を強く握る。その感情と呼応するかの様に、その身体からは青い闘気が漏れ出していた。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「こちらです。牢に繋がる通気口があります。」

 

「おいおい随分狭ぇな。最近腰が悪いんだ、俺がここを通るのは厳しいぜ。」

 

 

 敵から隠れつつ地底魔城を進むダイ達。案内人のモルグが示したのは、地底に空気を供給するための通気口だった。しかしそのあまりの狭さにマトリフが苦言を呈した。アバンもそれに同意する様に口を開いた。

 

 

「そうですね、私もここを通るのは厳しそうです。モルグさん、この通気口の中は複雑な構造なのですか?」

 

「いえ、幾つか分岐はありますが、ヒュンケル様の居られる牢まで辿り着くのはそう難しくありません。口頭で伝える事ができる範囲です。」

 

「なるほど、では中を通れるダイくん、イルさん、マァム、ポップは通気口から向かってください。私とマトリフはモルグさんの誘導で別ルートで向かいます。大丈夫そうですか?」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

 アバンの言葉に返事を返し、ダイ達はモルグから牢までのルートを聞いた。そして光を出せるワルぼうを先頭に、通気口の中へと入っていった。

 

 四つん這いになって進むイル達。しかし始めは順調に進んでいたものの、ある分岐でそれは起きた。

 

 

「次は右だな。」「左だよね。」

 

「「・・・ん?」」

 

 

 先頭を行くワルぼうとイルの中で、記憶の食い違いが起きたのである。背後のダイ達に確認するも、なんとそこでも意見が分かれてしまった。

 

 

「仕方ねぇ、多数決で右から行くぞ。」

 

「大丈夫かなぁ・・・。」

 

 

 そう言って右へ進むワルぼう。イル達はそれに心配そうに続いた。

 

 実際のところ、ワルぼうの選択した方向は間違いであった。しかしそれは、思いもよらぬ結果をもたらした。

 

 

「お、部屋に出るぜ。って誰もいねぇ。」

 

「やっぱり間違ってたじゃん!それにしてもここは・・・隠し部屋?」

 

 

 イル達が辿り着いたのは、扉のない隠し部屋だった。通気口から出て凝り固まった体を解していると、部屋の隅にある小さな宝箱が目に入った。同じくそれに気付いたダイが目を輝かせて近寄った。

 

 

「うわ、宝箱だ!何が入ってるんだろう?」

 

「おいダイ、罠かもしれねぇだろ。」

 

「えー、ポップは気にならないの?」

 

「そりゃあ気になるっちゃ気になるけどよ。」

 

 

 結局好奇心に負けたダイは、皆がそれを囲う様にして見守る中宝箱を開けた。そして中からは、一つの美しい貝殻が現れた。

 

 

「何だろこれ、綺麗な貝殻だけど。」

 

「あっ、ここに押せそうな部分があるわ。何か起きるかもしれないし試してみましょう。」

 

 

 マァムの指示に従って、ダイはその貝殻を起動させた。すると貝殻から、男の弱々しい声が聞こえて来た。その内容を聞き、マァムは希望を見つけた、とばかりに喜んで言った。

 

 

「これよ!これをヒュンケルに聴かせればきっと彼も分かってくれるわ!」

 

 

 その言葉に頷き、一行は先を急いだ。そして今度は分岐を正しい方向へ進み、ついに目的の部屋へと辿り着いた。

 

 

「っ!誰だ!?」

 

「しーっ!落ち着いて、わたし達は敵じゃありません!」

 

 

 通気口から降り立ったイル達に、拘束されたヒュンケルが驚き叫んだ。イルは慌てて人差し指を唇に当て、敵意がないことを主張する。それを見たヒュンケルは続く言葉を飲み込み、そして声を押し殺して尋ねた。

 

 

「何の用だ・・・。貴様らに敗れ、無様に拘束される俺を笑いに来たのか?」

 

「違うわ!ヒュンケル、これを聴いて。貴方のお父さんは先生を恨んでなんていなかったのよ!」

 

 

 そう言ってマァムは、両手を拘束されたヒュンケルの耳に『魂の貝殻』を押し当てた。記憶に残る父の声がしたことにヒュンケルは驚いて目を見開き、その声に耳を傾けた。

 

 そして語られた内容に、再度ヒュンケルは驚いた。父はアバンに敗れるも、トドメを刺されず見逃されたこと。アバンがヒュンケルを育てたのは、他ならぬ父の意思であったこと。父を真に葬ったのはハドラーであったこと。そして、人らしく生きてほしい、という父の願いを。

 

 

「馬鹿な、それではアバンは全てを知った上で俺を見守っていたというのか・・・!」

 

 

 ヒュンケルは全てを知り、わなわなと身を震わせた。その様子を息を呑んで見守るマァムに、ヒュンケルは呟く様に言った。

 

 

「拘束を外せ。」

 

「・・・わかったわ。」

 

 

 その言葉を受けたマァムは、一瞬迷った様に言葉を詰まらせたものの、それを了承した。背中側に回り、ヒュンケルの手首を縛る縄を解いていく。そして拘束が解け、ヒュンケルの両手が自由となる。

 

 

「マァム、危ない!!」

 

「え・・・きゃあっ!」

 

 

 イルの叫び声にマァムが反応した次の瞬間、立ち上がったヒュンケルがマァムを突き飛ばした。そしてその体に闘気を纏わせ、ダイに殴り掛かった。

 

 ダイは間一髪反応し、両手を交差させてその攻撃を受けた。しかしその威力は凄まじく、吹き飛ばされたダイの体が牢の壁を突き破った。それを追って歩き出すヒュンケルにマァムが悲痛な叫びを上げた。

 

 

「そんな、どうして!貴方が憎むべきはハドラーだわ!もう戦う理由はないはずよ!」

 

「煩い!今更後戻りは出来ん・・・!俺は魔王軍不死騎団長、復讐の騎士、ヒュンケルなのだ!『鎧化』!」

 

 

 ヒュンケルの声に、隣の部屋に置かれていた『鎧の魔剣』が反応した。飛来したそれがヒュンケルの体を覆い、記憶に新しい強敵の姿が現れる。

 

 

「『デルパ』!クロコダイン、お願い!」

 

 

 起きあがろうとするダイをヒュンケルが追撃しようとするのを見て、イルが魔法の筒を投げつつ叫んだ。ダイとヒュンケルの間にクロコダインが現れ、ヒュンケルの拳を受け止めた。

 

 

「くっ、邪魔をするな!クロコダイン!」

 

「ヒュンケル、俺もお前の事情を聞いた!お前ほどの漢ならばきっと、過去の行いと向き合い、そして前に進んで行けるはずだ!目を覚ませ!」

 

「黙れ!『ブラッディースクライド』!!」

 

「『獣王会心撃』!!」

 

 

 ヒュンケルは兜から剣を取り外し、必殺の突きを放った。しかしそれをクロコダインは真っ向から迎え撃ち、闘気の爆発が巻き起こる。凄まじい爆発に壁が崩壊し、その場は小さな広場じみた様相となった。土煙が晴れると、そこにはダイとクロコダインに向かって構えるヒュンケルの姿があった。

 

 やるしかない、とこちらも構えるダイとクロコダイン。しかしそれをマァムが遮った。

 

 

「待って!これ以上やったらヒュンケルが・・・!」

 

 

 その言葉が示す通り、ヒュンケルの体は既に限界であった。元々不死騎団の制御を維持できなくなる程弱っていた。その上で大技を放ったことにより体力が底を突き、遂には地面に膝をつく有様であった。しかしそれでも目だけはギラギラとダイ達を射抜いている。

 

 勝つのは容易、しかし殺したくはない。かといってこの騒ぎならば、いつ敵の大群が押し寄せて来てもおかしくはない。ダイ達は決断を迫られていた。

 

 イルも必死で活路を探した。しかし何も思い浮かばず、今にも非情な決断を下さんとしていた。

 

 その時、イルの頭の中に声が響き渡った。

 

 

「(・・・。・・・イル。聞こえるか、イルっ!)」

 

「誰っ!?」

 

「うおっ、どうしたイル!?」

 

 

 突然声を上げたイルに、ポップがびっくりして声をかける。他の者も同様にぽかんとした反応を見せる中、ワルぼうだけがイルに同意した様に返答した。

 

 

「イル、オレにも聞こえた!カギだ、あの時のカギが反応してる!」

 

「本当だ!聞こえる、聞こえるよ!聞こえてるの!?・・・カメハ王子!」

 

 

 青い光を放つカギに向かってイルは必死で語りかけた。そして再び、イルとワルぼうの頭の中に、懐かしい声が響いた。

 

 

「(おう、聞こえてるぜ。あんまり帰りが遅いんでこっちから来てやったぜ。久しぶりだな、イル!)」

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