「まずは1人。くびり殺してくれる!」
右手を振り上げ、イルにとどめを刺さんとするミストバーン。迫り来るその瞬間を前にして、誰もが思わず目を閉じた。しかし絶望的な展開を、飛来した光の刃が切り裂いた。
「ぐぅ・・・!この攻撃は!」
「はぁ、はぁ。どうやら間に合った様ですね。」
「「「アバン先生!」」」
突然の攻撃に『闘魔滅砕陣』を崩され、縛り上げられていたイルが地面にどさり、と落ちる。魔法陣の消滅により、ダイ達もまた自由の身となった。
ミストバーンが刃の飛んで来た方向を向くと、そこには逆手に持った剣を振り抜いたアバンの姿があった。息を切らせつつも安堵した表情をしたアバンを見て、ダイ達は思わず師の名を叫んだ。
「おのれ、邪魔をしよって・・・!『ベギラマ』!」
「おっと、そうはさせねぇ。『ベギラマ』!」
怒りに声を震わせたザボエラが、アバンに呪文を放つ。しかしそれを、『トベルーラ』で追いかけて来たマトリフが相殺した。敵の視線がアバンとマトリフに向けられているその隙に、ダイ達は地面に倒れるイルを回収した。
苦しげに顔を歪ませるイルに、マァムが『べホイミ』をかけた。必死な顔のワルぼうが、イルを揺さぶりつつ声をかける。
「イル!おいしっかりしろ、イル!」
「うう、痛いよワルぼう。もう少し優しく・・・。」
「すっ、すまねえ。だが何とか怪我で済んだみたいだな、よかったぜ。」
その呼びかけが届き、イルが痛みを訴えつつも返事を返した。それに一同はほっ、と息を吐き、そしてダイとクロコダインは敵へ向き直った。
「ダイよ、オレ達も加勢するぞ。如何に奴らが強くとも、4人でかかればこちらが有利だ。」
「わかってる。イルを傷つけたこと、許さないぞ!」
右腕に力を込めるクロコダインに、剣を逆手に持ったダイ。各々の必殺技の準備をするふたりだったが、それを静止する声が響いた。
「待って!そうじゃない!」
その声を発したのは、よろよろと立ち上がったイルだった。そしてミストバーン達と睨み合うアバンに目配せをすると、アバンもそれに頷きを返した。
「私達は先に行かなきゃ!先生達が敵を引きつけてるうちに!」
「えっ!?でも、今がチャンスじゃ・・・?」
「今だけだよ!もうすぐ敵が押し寄せてくるはず。その前に私達はここを抜けてハドラーを倒さなきゃいけない!」
イルの言葉に、ダイ達は昨夜の作戦会議を思い出した。味方を足止め役として置いて最速でハドラーを目指すこと。それが今回の作戦の第二段階であった。
イルはプックルを呼び出し、その背中に跨った。痛む身体ではしがみつくのも一苦労だが、背に腹は変えられない。一連の会話を聞いて、ザボエラが口を開く。
「フン、そういう魂胆であったか。じゃがそれを聞いて簡単に逃すと思うかのう?」
ザボエラがそう発言すると、通路の奥から多数の『まじゃつし』や『ようじゃつし』が姿を現した。それを見てマトリフがイルに叫んだ。
「迷ってる時間はねぇ!イルとか言ったな、お前が指揮を取れ!前方の敵は自分で何とかしろ!後ろは引き受ける、『ベタン』!!」
「何っ!?身体が重い・・・!何だこの呪文は!?」
重圧呪文を受け、ミストバーン達の動きが止まる。そしてマトリフの声に素早く反応したイルが指示を放った。
「クロコダイン、ダイくん!道を切り開いて!」
「わかった、『獣王会心撃』!」
「『アバンストラッシュ』!」
2人の必殺技が敵の群れに炸裂し、塞がれていた道が再び姿を現した。間髪入れずにイルが叫んだ。
「モルグ、道案内をお願い!ダイくんとクロコダインはそのままモルグと一緒に先頭について!行くよみんな、全力疾走で!」
戦いの隙をついてこちらに来ていたモルグに、イルは道案内を命じた。ヒュンケルの無事を確認したモルグは、迷いなくその命令に従って先頭に立った。
「行きますぞ皆様、最深部はこちらです!」
「でも!」
「迷ってはいけません、ダイくん!ポップ、マァムもです!ここは任せて、先を急ぎなさい!」
ちらりと後ろを振り返った弟子達に、アバンがそう叫んだ。珍しく語気を強めた師の言葉に、ダイ達は迷いを振り切って駆け出した。
最後にイルは、立ち尽くしてアバンを見つめるヒュンケルと、その隣に立つバルトスに声をかけた。
「ヒュンケルさん、バルトス。ふたりにもお願いしたい。わたしはよそ者だけど、今の魔王軍のやり方は間違ってると思う。だから止めるのを手伝って、お願い!」
そう言って頭を下げるイル。その頼みにヒュンケルは迷わず返した。
「頭を上げてくれ。俺はお前に救われたんだ、言われずとも手を貸そう。お前の頼みならば、命すら惜しくはない。」
「事情は掴めんが恩人の頼み、ワシも付き合おう。たとえかつての主君といえど、その間違えを正すのもまた臣下の役目だ!」
ふたりの頼もしい言葉に、イルは小さく微笑んだ。そして前を向き、プックルに指示を出し駆け出した。
モルグの案内のもと、一行は最短で最深部を目指していく。途中で現れた敵を、先頭に並ぶダイとクロコダインが蹴散らしていく。既に見つかった今、隠密行動を取ることすらせず真っ直ぐにダイ達は突き進んでいた。
その間、後方からついて行くイルはプックルに揺られながら『ふくろ』を探っていた。そして一本の瓶を取り出し、隣を走るヒュンケルに手渡した。
「ヒュンケルさん。これを飲んで。」
「わかった。」
その瓶を受け取ったヒュンケルはそれを一気に飲み干した。すると弱っていたヒュンケルの身体にみるみると活力が湧いてくる。それに驚いたヒュンケルはイルに尋ねた。
「これは一体・・・!?」
「『せかいじゅのしずく』だよ。最後の一個だったけど、効果があったみたいでよかった。」
イルはほっとした様にそう言った。しかしその言葉を聞いたヒュンケルは焦った様に返した。
「最後の一個だと!?それを俺などに・・・。お前こそ軽傷ではないだろう?」
「これでいいんだよ。わたしは最悪声さえ出せればいいんだから。その代わり頼りにしてるよ?ヒュンケルさん。」
「イル・・・。わかった、感謝しておこう。それとヒュンケルでいい、指示を出す時不便だろう。」
そして遂に一行は最深部へ向かう階段に辿り着いた。止まる事なく駆け降り階段を抜けると、そこには広間が広がっていた。
「誰もいないな、このまま進むか?」
「いや、出入り口が幾つもあるよ。気をつけて進んで。」
四方を警戒しつつ慎重に進むダイ達。そして広間の中央に辿り着いた時、ついに敵がその姿を現した。
「ヒャハハッ!よくここまで辿り着いたもんだぜ!こいつは褒美だ、受け取りな、『メラゾーマ』!」
正面に見える大きな出入り口。その闇から姿を現したのは右半身が氷、左半身が炎で構成された魔族だった。甲高く笑いながら登場したその敵は、挨拶代わりとばかりに左手で巨大な火球を作り出し、ダイ達に向かって放った。
「『デルパ』!スラッシュ、『メラゾーマ』!」
イルは『魔法の筒』からスラッシュを出し、同じ呪文で相殺させた。それを見た魔族がほう、と感心した声を上げた。
「オレのメラゾーマを相殺するとは、中々やるじゃねーか。まあ、それだけの力を持つお前たちを倒してこそ、オレの評価も上がるってモンよ。」
気づけば広間には次々と『フレイム』や『ブリザード』が集まり、ダイ達を囲んでいた。身構えるダイ達に、魔族が堂々と名乗りを上げた。
「オレは魔王軍軍団長が1人、『氷炎将軍』のフレイザードだ!さあ殺し合おうぜ勇者ども、このオレの糧となりやがれ!!」