イルとダイの大冒険   作:NBRK

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第12話 勘違い

 

 イルには勘違いしていることがあった。

 

 勇者一行で警戒されているアバン、イル、ダイの3名。少なくとも作戦開始前の段階では、この中で最も戦闘力が高いのはダイであった。

 

 『空裂斬』こそ未習得ながら、素の状態ですらアバンを剣技で上回る戦闘センス。そして紋章の力による爆発力。これらを加味し、イルは最高戦力を敵の最高戦力にぶつけようと行動したのである。

 

 残る軍団長の妨害も考えられるが、それを考慮してクロコダインも同行させた。相手の実力は未知数だが、クロコダインの強靭な肉体ならば、足止めは可能であると考えたのだ。

 

 しかし、イルの思考には2つの前提があった。1つは、敵の最高戦力がハドラーであるということ。そしてもう1つは、敵から見たこちらの最高戦力がダイであるということである。

 

 そしてイルにとって予想外なことに、この2つの前提は共に間違っていた。残る軍団長は、ハドラーすらも上回る圧倒的な実力を持っていたのだ。そして何よりも2つ目の間違いこそが、この事態を招いた。敵から最も警戒されていたのは、ダイではなくイル自身だったのである。

 

 アバン討伐を防ぎ、2人の軍団長を籠絡してみせたその実績を、イルは客観視できていなかったのだ。その結果作り出してしまったのである。危険人物が、クロコダインという武力を手放し孤立する、という敵にとって最高の状況を。

 

 そして魔王軍は、それを見逃さなかった。

 

 

「さあ行くぞ!『ヘルズクロー』!」

 

 

 拳から爪を生やしたハドラーがイルに襲いかかる。地面を転がり避けるが、戦闘能力に欠けるイルでは長続きしない。

 

 

「イル!」

 

「おっと、お前の相手はオレだぜ?ハドラー様の前だ、とっておきを見せてやるぜ、『弾岩爆花散』!」

 

 

 ヒュンケルがイルを救おうとするが、それにフレイザードが待ったをかけた。フレイザードはその身を自ら爆破し、無数の弾岩となってヒュンケルに襲いかかった。弾岩の雨に、ヒュンケルの足が止まった。

 

 そしてついに追い詰められたイル。体勢を崩したところに、ハドラーが爪を振りかぶり襲いかかる。それを防いだのはバルトスだった。6本ある剣のうち4本を頭上に交差させ、振り下ろされる爪を受け止めたのだ。

 

 

「このオレの攻撃をアンデットごときが受け止めただと・・・?まさか、貴様は!?」

 

「思い出してくださったか。ご無礼をお許しを、ハドラー様!」

 

 

 残る2本の腕で突きを放つバルトス。ハドラーはそれを飛び退いて躱わし、怒りに声を震わせて叫んだ。

 

 

「貴様ぁ!くだらぬ騎士道精神でアバンの突破を許しておきながら、またもオレを裏切るか、バルトス!!」

 

「ハドラー様、ワシは伝えたはずですぞ。その騎士道もまた、ハドラー様から譲り受けたものであるはずと!かつてのあなたならば、こんな不意打ちのようなことはしなかった!人間達の小細工など、正面から圧倒的な力で潰してしまうのがあなたの美学だったはずだ!」

 

「黙れ!この失敗作めが!粉々に吹き飛ばしてくれるわ、『イオナズン』!」

 

「スラッシュ、『まもりの霧』!!」

 

 

 ハドラーの放った極大爆裂呪文がバルトスに襲いかかる。イルの声に反応したスラッシュが間一髪で割り込むも、威力を殺し切ることはできず、イルと2体のモンスターが地面を転がる。

 

 イルが壁にぶつかる寸前、駆け寄ってきたプックルがクッションとなりその体を受け止めた。痛みに顔を歪めつつ、イルは立ち上がって叫んだ。

 

 

「やるしかない・・・!行くよみんな、集中してね!作戦は、『めいれいさせろ』!!」

 

 

 その言葉を聞き、スラッシュ、プックル、ワルぼうの顔色が変わる。先程まで醸し出されていた焦りや怒りが鳴りを潜め、3匹のモンスターがぴたり、と動きを止めた。

 

 

「(なんだ?雰囲気が変わった・・・?)」

 

 

 戸惑ったのはハドラーだけではない。バルトスもまた、味方の変化に困惑していた。

 

 実のところ、魔王軍もまた、1つ勘違いをしていることがある。

 

 魔王軍はイルを最大限警戒していた。しかしそれはイルのモンスターが操る未知の呪文と、魔物を魅了する力によるもので、戦闘中のイルの動きについては大きく警戒されていなかった。

 

 それこそが魔王軍の犯したミスであった。異世界において、なぜイルが頂点に立つことができたのか。この世界ではアバンだけが気付いていたその理由が、今ここで明かされることとなる。

 

 イルが息を吸い込み、そして一息に叫んだ。

 

 

「バルトス、ハドラーを引きつけて!スラッシュ、『メラゾーマ』を3発!左に寄りつつフレイザードにも!わるぼうは『星のきせき』と『フバーハ』を!絶対切らすな!隙を見てスラッシュに『マホヤル』!プックルは4秒後に『かぶとわり』!バルトス、合わせて引け!『メラゾーマ』をもう2発!続けて・・・」

 

 

 イルの口から、まるで呪文のように絶え間なく指示が出された。そして微塵も遅れることなく、スラッシュ達がその命令を実行する。

 

 突然の連続攻撃に翻弄されるハドラー。『かぶとわり』で鎧を砕かれ、『メラゾーマ』が直撃する。おのれ、とスラッシュを睨むも、そのスライムの目には僅かな達成感すら映っていない。ただただ冷静に、次の命令を実行せんとしていた。

 

 

「(そうか、先ほどの変化はイルの指示を聞き逃さんと集中を深めたが故の・・・!つまりこれが、本来の奴の戦闘スタイルか!)」

 

 

 ハドラーはそう思いつつ、向かってくるバルトスに、僅かな隙を縫って『ベギラマ』を放った。しかし、その威力が突然飛んできた1枚のコインによって減衰された。

 

 

「バルトス、突っ込め!スラッシュ、立て直させるな!」

 

「ハドラー様、覚悟を!『急所突き』!!」

 

 

 イルがコインを投げた姿勢で叫んだ。『だいまどうのコイン』、攻撃呪文の威力を減衰させる道具である。

 

 バルトスは指示通り『ベギラマ』に正面から突っ込んだ。そして剣を引き絞り、闘気を込めて突きを放つ。奇しくもそれは、ヒュンケルの必殺技そっくりの動きで放たれた。

 

 そしてその剣が、ハドラーの腹を突き破った。青い血を吐くハドラー。そして追撃とばかりに、スラッシュが『メラゾーマ』を連発する。爆炎に焼かれつつ、ハドラーは叫んだ。

 

 

「ぐぉぉぉ、ふ、フレイザード!来い!」

 

「だらしねぇぜハドラー様!喰らいな!」

 

 

 ヒュンケルを一方的に攻撃していたフレイザードはその声を聞き、やや不機嫌そうに標的を変えた。そして炎と氷の弾岩がモンスター達に降り注ぐ。それは当然イルにも襲いかかったが、ヒュンケルが身を挺してイルを守った。

 

 イルは命令を中断し、弾岩を受け止め続けるヒュンケルに声をかける。

 

 

「ヒュンケル、大丈夫!?」

 

「ああ、心配するな。こっちこそすまない、フレイザードを抑えきれなかった。」

 

 

 そう言ってヒュンケルは歯噛みする。イルはハドラーを追い詰めながら、ヒュンケルの援護までも同時に行っていた。ハドラーを誘導し、躱した呪文がフレイザードが当たるようにスラッシュを動かしていたのである。

 

 だがそれでも、フレイザードを倒すことはできなかった。魔法の使えないヒュンケルは、無数に分裂したフレイザードに対して有効な攻撃手段を持たなかったためである。

 

 その結果、ハドラーを仕留めるチャンスをふいにしてしまった。情けなさで自分を責めるヒュンケルを見て、イルが口を開いた。

 

 

「大丈夫、まだチャンスはあるよ。物質系のモンスターには必ずコアがあるはず。それを探して壊せば、わたし達の勝ちだよ!」

 

「それは俺も考えた。だがあの数からどうコアを探す?」

 

「その答えなら知ってるはずだよ。ヒュンケルはアバン先生の弟子なんだから!」

 

 

 イルの言葉に、ヒュンケルは一瞬考える素振りを見せた。そして、まさか、とイルの顔を見た。

 

 

「第3の技・・・『空裂斬』か!」

 

「そう、その技を使えれば、コアの生命力を辿って直接とどめを刺せるはず!」

 

「だが、すまない・・・。俺はその技を習得していない。」

 

「いや、できるよ!今のヒュンケルなら!」

 

 

 悔しげに目を伏せるヒュンケルに、イルがはっきりとそう告げた。そしてイルは『ふくろ』から『ばくだんいし』を取り出し空中へと投げた。生じた爆発が、一時的にフレイザードの猛攻を途切れさせた。

 

 ヒュンケルの目を見つめて、イルは続けた。その目はどこか恐ろしさすら感じるほどに澄み切っていた。

 

 

「目を見ればわかるよ。『空裂斬』は心の技。憎しみを乗り越えた今のあなたなら、きっと答えを見つけられるはず!わたしはヒュンケルを信じるよ!」

 

 

 そしてイルは、同じくフレイザードの攻撃を受け、倒れていたモンスター達へ叫んだ。

 

 

「みんな、もうひと踏ん張りだよ!作戦は、『いのちだいじに』!ヒュンケルを守って!」

 

 

 モンスター達は起き上がり、そしてヒュンケルを囲うようにして構えた。その背中に迷いがあるものはいない。彼らもまた、イルが信じるヒュンケルを信じたのだ。

 

 胸の奥が熱くなるのをヒュンケルは感じた。剣を握る右手に自然と力が籠もる。そして、心の動くがままに口から言葉が発せられた。

 

 

「任せろ・・・。奴は俺が、必ず斬って見せる!」

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