フレイザードの奥義を前にして、イルは勝負の行方をヒュンケルに託した。守りを固めるイル達に、フレイザードの弾岩が再び降り注ぐ。
ヒュンケルは必死にコアを探した。しかし簡単には見つけることが出来ず、その体に弾岩が直撃する。ヒュンケルの後ろで庇われるイルが叫んだ。
「ヒュンケル、わたしのことは気にしなくていいから、『空裂斬』に集中して!」
「ぐっ、しかしそれではお前が!」
「何とかする!ワルぼう、こっちへ!」
ひとり宙を舞って攻撃を避けていたワルぼうをイルは呼んだ。嫌な予感がする、と思いつつ近寄ってきたワルぼうを、イルはガッ、と掴んだ。ワルぼうが抗議の声を上げる。
「何すんだ!ってまさか・・・!」
「あとでまた謝る、ごめん!『だいぼうぎょ』!」
「覚えとけよイル!いたたたたたっ!」
イルはワルぼうを盾にして、ヒュンケルの背後から飛び出した。身代わりにされたワルぼうは慌てて防御姿勢を取った。ふわふわの毛皮をさらに膨らませ、降り注ぐ弾岩の威力を吸収していく。
「ほら大丈夫!こっちは気にしないで!」
「大丈夫じゃねーよ馬鹿イル!さっさとしろヒュンケル!」
ギャーギャーと騒がしいふたりの様子を見て、戦いの最中にも拘わらずヒュンケルはどこか力が抜けるのを感じた。その気配を感じたバルトスが、ヒュンケルに語りかけた。
「今、良い感じだったぞ、ヒュンケル。」
「父さん・・・?何のことだ?」
「雰囲気が柔らかくなった。さっきまでは、張り詰める様な緊張感に包まれていたからな。」
「!」
その言葉にヒュンケルははっとした。これまではずっと、恨みや怒りと言った感情を原動力に戦っていた。
その感情がヒュンケルを強くしていたのは間違いない。しかしそんな邪念を抱えつつ戦っていたこれまでの自分は、純粋に剣に没頭することが出来ていただろうか。
先程までの自分もそうだ。焦りや後悔に苛まれ、これまでの行いを取り戻そうと前のめりに剣を振るっていた。それでは、『空裂斬』に求められる心眼には辿り着けようもない。
だが、今は違う。
「ワシはハドラー様を足止めする!スラッシュ殿、ヒュンケルを頼みますぞ!」
「わかったぜ!」
目の前にはもう会えないと思った父がいる。体を張って時間を稼ぐ仲間がいる。そして胸の中には、自分ならできる、信じている、と言い切った恩人の言葉がある。自分の居場所はここにある。
ならば、何を迷うことがあろうか。揺らいでいた心が今、ストン、とあるべき場所に収まった。そしてヒュンケルは目を閉じた。
フレイザードの攻撃はスラッシュとワルぼうが受け止めてくれる。ハドラーは父が抑えてくれる。この暖かい気配は自分の味方のものだ。
暗闇の中、感じる気配を一つ一つ脳から削ぎ落としていく。感覚は研ぎ澄まされ、ヒュンケルの世界から音が消えた。そして見た。無の世界に揺れ動く、邪なる闘気の炎を。
ヒュンケルは駆け出した。弾岩が当たる痛みすら今は感じない。己の世界を穢すそれを目掛け、両手に握りしめた魔剣を裂帛の気合いと共に振り抜いた。
「『空裂斬』!!!」
フレイザードを背にして、確信と共にヒュンケルは目を開ける。しかし気づけば身体はボロボロで、ヒュンケルは地面に膝をついた。フレイザードはそれを嘲笑いながら体を再構築した。
「残念だったな・・・ってそれは!?」
しかし、ヒュンケルの後ろに浮かぶ物体を見てフレイザードは顔色を変えた。氷と炎が一体化したそれは、ピシピシ、とひび割れた後、真っ二つに割れた。
「ぐわぁぁぁ!不味い、このままじゃ身体を維持できねぇ!」
「フレイザード!!くそっ、邪魔をするなっ!」
「行かせませぬぞ、ハドラー様!」
部下の危機にハドラーが駆け寄ろうとするも、それをバルトスが妨害する。悶え苦しむフレイザードに、イルとスラッシュが近づいた。
そして、イルが右手を突き出して言った。
「強かったよ。フレイザード。今度はわたしのもとで生まれて来てね。『デイン』。」
「や、やめろ!今刺激を受けたら!」
叫ぶフレイザードに、スラッシュの放った電撃が直撃した。まるで導火線に火をつけられたかの如くその身体が明滅する。そして、轟音を立てて爆発した。
ぱらぱらとフレイザードだったものが降り注ぐ。その光景に、ハドラーの怒りが頂点に達した。
「貴様ぁ!許さぬぞ、貴様だけは絶対に殺してくれる!!」
「ぐっ!イル殿、危ない!」
暗黒闘気を暴走させたハドラーが、バルトスを吹き飛ばした。壁に激突したバルトスは、骨をひび割れさせつつイルに叫んだ。
燃え上がる様な怒りと共にイルを睨みつけるハドラー。しかし、イルは冷静な声で言った。
「無駄だよ。もう勝負はついた。わたし達の勝ちだよ、ハドラー。」
「何を・・・!スライム1匹で何ができる!?」
「うん。でも、
イルが右手を上げる。その仕草だけで意図が伝わったらしいスラッシュは呪文の詠唱を始めた。その小さな体から、凄まじい魔力が立ち上る。その時、ハドラーはその呪文に覚えがあることに気付いた。
「この魔力・・・まさかあの時の!」
「闇雲に『メラゾーマ』を撃たせてた訳じゃないよ。あれだけ撃てば、スラッシュなら必ず思い出すと思ったんだ。賭けではあったけどね。」
詠唱が終わり、遂にその呪文が完成する。『メラゾーマ』とは比べ物にならない、まるで太陽を彷彿とさせる火球が、スラッシュの頭上に形成された。
「あり得ない!この俺が、スライム如きに!」
「見せてあげる、真の獄炎を!スラッシュ、『メラガイアー』!!」
イルの右手が振り下ろされるのと共に、太陽が堕ちる。ハドラーを飲み込んだそれは地面に触れると同時に、巨大な火柱となって天井を貫いた。『フバーハ』無しでは、近くにいる事すら許されない熱気が広間を満たし、壁際に並ぶ氷炎魔団のモンスター達が余波だけで蒸発した。
そして、火柱が収まる。全てを焼き尽くしたその爆心地には、手足を炭化させ、息も絶え絶え、と言った様子のハドラーが仰向けに横たわっていた。
まもののむれを やっつけた!
3章はもう少しだけ続きます。