イルとダイの大冒険   作:NBRK

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誤字報告ありがとうございます。
3章最終話です。


3章最終話 前を向いて

 

 戦いから2日が経った。ダイ達はパプニカ王国の王城にて傷を癒していた。

 

 流星が降り注いだ地底魔城は崩壊した。しかし、地表近くにいたパプニカ軍と不死騎団は少ない被害で脱出を果たしていた。魔法王国であるパプニカの兵の中に、『ルーラ』が使える者が多く居たことが幸いした。

 

 一方で拠点を潰された魔王軍の被害は大きかったようで、結局あれからパプニカへの逆侵攻の気配はなかった。フレイザードとハドラーを打ち倒し、敵の拠点であった地底魔城を陥落させた。字面上は勝利と言っても過言ではない。

 

 事実、魔王軍撃退の報せを受けたパプニカ国民は喜びに沸いた。しかし、賞賛を受けるダイ達の表情は暗かった。勝利の立役者たる少女が、その場に居なかったためである。

 

 

「イル・・・。」

 

 

 城の屋上で、ダイは仰向けになり空を見上げていた。そして徐に右手を伸ばし、少女の名前を呟いた。

 

 イルの消息は掴めていない。ただ、戦いの後に不死騎団への魔力が途切れたことから、ほぼ確実に無事ではないと思われていた。遺体を捜索しようにも、崩落により地底魔城の深部は完全に埋まってしまっていて、掘り返すことはほぼ不可能とのことだった。

 

 生存は絶望的。それに加え、亡骸を弔うことすらも許されない。唐突に訪れた仲間との別れを、ダイは飲み込むことができていなかった。

 

 そしてそれは、他の者も同じだった。

 

 

「ここにいたのか、ダイ。」

 

「ポップ。どうしたの?」

 

「先生が呼んでこいってさ。今後のことについて話があるらしい。」

 

 

 そう言うポップの目の下には大きな隈ができていた。イルを捜索できないと聞いて、最も取り乱したのがポップである。イルとの別れの瞬間が頭から離れず、夜もろくに眠れないとのことだった。

 

 そんなポップと共に、ダイはアバンのもとへ向かった。扉を開けると、そこにはマァムとヒュンケル、マトリフの姿もあった。人が揃ったのを見て、アバンが話を始めた。

 

 

「あれから2日が経ちました。魔王軍の逆侵攻の気配も見られないことですし、そろそろ我々も前を向かなければなりません。」

 

「前を向くって・・・ここを離れるってことですか?イルを見捨てて!?」

 

 

 アバンの言葉に、激しい口調でポップが問いかけた。苦い顔をしたマトリフが、それに苦言を呈した。

 

 

「頭を冷やせ、馬鹿が。魔法使いは常に冷静でなければならねぇって教えただろうが。今ここで呑気に望み薄な捜索を待って何になる?」

 

「うっ、でも・・・。」

 

「でもじゃねえ。お前らはまだまだ力が足りねぇ。お前があの時『リレミト』を使えれば、あいつは助かっただろう?そういうことだ。」

 

 

 マトリフの言葉に、ポップは悔しげに拳を握った。直前の修行で身につけた『トベルーラ』のおかげで、マァムとヒュンケルは救い出せた。しかしあの場にいたのがマトリフならば、その呪文で全員を脱出させることができただろう。

 

 

「厳しい言い方ではありますが、その通りです。我々はイルさんの犠牲を無駄にしないためにも、さらに力をつけなければいけません。・・・マァム、あの事について話してください。あなたの口からです。」

 

「はい、先生。・・・ポップ、ダイ。私、しばらく皆とお別れしようと思うわ。」

 

「「ええっ!?」」

 

 

 唐突なマァムの宣言に驚くダイとポップ。マァムは決意を込めた表情で言葉を続けた。

 

 

「この前の戦いで、自分の力不足を実感したわ・・・。ダイは先頭に立って戦っていたし、ポップの魔法のおかげで私の命は救われた。でも、私は本当に何もできなかった。このままじゃ、この先も足を引っ張るだけよ。だから、私だけの武器を身につけるために修行しようと思うの。」

 

「修行って言ったって・・・何も別れなくても、俺らと一緒にやるんじゃ駄目なのか?」

 

「それじゃあきっと、私は甘えてしまうわ。先生やみんなに守られずとも、1人で戦える力をつけたいの。」

 

 

 マァムの真剣な顔を見て、ポップはそれ以上何も言えなくなってしまった。やり取りを聞いていたアバンが、それに付け加えるようにして言った。

 

 

「力不足を感じているのは私も同じです。私とマトリフは、ミストバーンとザボエラを破ることが出来ませんでした。異変に気付いた相手が先に退かなければ、どうなっていたかわかりません。」

 

「そうだな、特にあのミストバーンって奴は不気味だった。まだ実力の底が知れねえ。ハドラー以上と考えておいて損はねぇだろうな。」

 

 

 マトリフがアバンの言葉に同意を示す。偶然ではあるが、イルの引き起こした流星群は間接的にアバン達の命も救っていたのである。新たな脅威の存在に冷や汗をかくポップ達へ向けて、アバンは予想外の提案をした。

 

 

「そこでです。私もマァムと同様に修行に出ようと思います。」

 

「ええっ、先生がですか!?」

 

「はい。とはいえ、私はもう戦闘力ではダイくんに敵いません。そこで、得意呪文である破邪呪文を鍛えるために『破邪の洞窟』に潜ろうと思います。」

 

 

 『破邪の洞窟』。カール王国に伝わる試練の洞窟である。遥か地下深くまで続く洞窟には強力な魔物が闊歩しているが、それを乗り越え階層を進めば、数々の強力な呪文や秘法を習得できるという。

 

 アバンはかつて『マホカトール』を習得するためにそこに潜ったことがあるが、更なる力を求めそこに再挑戦しようとしていた。

 

 

「でも、その間に敵が襲ってきたらどうするんですか?」

 

「期限は設けようと思っています。そうですね、おおよそ一ヶ月といったところでしょうか。イルさんが敵の戦力の大半を削ってくれた今ならば、私も修行に集中できると思います。」

 

「だが、その間のダイ達の修行はどうする?『空裂斬』もまだ習得していないだろう?」

 

 

 アバンの言葉に一応の納得を見せたヒュンケルが、今度は別の視点から問いかけた。その問いにアバンは微笑んで返した。

 

 

「ヒュンケル。ダイくんの『空裂斬』の修行はあなたが見てあげなさい。」

 

「なっ、俺がか・・・!?」

 

「今のあなたなら、安心して任せられます。それに、ダイくんを狙う敵の襲撃も考えられます。その時はダイくんを守ってあげてください。あなたにしか出来ないことです、ヒュンケル。」

 

 

 ヒュンケルはその言葉を聞き一呼吸おいて、はい、と返事をした。長きに渡る決別を経て、2人の中には新たな信頼が生まれていた。そんな中、ダイがおずおずと手を上げて発言した。

 

 

「あの、おれも一つやりたいことがあります。紋章のことを調べたいんです。バランが言ってたことの意味を知りたい・・・だめですか?」

 

 

 ダイはそう言って、今は何も浮かんでいない自分の額を指差した。戦いの中、紋章を光らせたダイを指してバランは言った。ディーノ、息子、竜の騎士という言葉を。

 

 ダイは己が何者なのかを知りたかった。そしてそれが同時に、紋章の力を扱う助けになるのではないかと考えたのである。ダイの言葉にアバンも頷いた。

 

 

「もちろん構いません。マトリフ、何かダイくんの紋章について手がかりはありませんか?」

 

「あるぜ。ちょうど俺も気になって調べてたところだ。バランとやらの言う通り、その紋章は『ドラゴンの騎士』って奴の証らしい。」

 

「ドラゴンの、騎士・・・。」

 

「俺も凄まじい力を持つってこと以外詳しくは分からねえ。だが、竜の神を信仰する国、テランになら何か手がかりがあるかも知れねえな。」

 

 

 マトリフの言葉を受けて、ダイの次の目的地も決まった。最後に残ったポップがおろおろと口を開く。

 

 

「えーと、俺ぁ一体どうすれば・・・。」

 

「てめぇは俺と修行だ!まだまだ仕込まなきゃならねえことが沢山あるんだ!さっさとその隈治しやがれ!」

 

「痛ってぇ!何すんだこの!」

 

 

 ようやくポップらしい反応が見られたことで、部屋の空気が和らいだ。不満そうなポップをよそに、アバンがその場を締める言葉を放った。

 

 

「沈んでばかりはいられません。人類、そしてそのために命を賭けたイルさんのためにも、必ず力をつけて戻ってきましょう!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

 年少者3人の元気な返事が響き渡った。こうして、ダイ達は再び一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 

 

「ここだ。態度には気をつけるがいい。」

 

 

 ミストバーンの言葉に、少女が頷きを返す。扉を開け、赤い絨毯を進んだその先で、ミストバーンが白い天幕の奥に声をかけた。

 

 

「失礼いたします。例の者をお連れしました。」

 

「うむ。ご苦労であったな、ミストバーン。」

 

 

 天幕の奥の存在が、ミストバーンに労いの言葉をかける。そして、少女に向けてその名を名乗った。

 

 

「余が、大魔王バーンだ。まずは歓迎しよう、魔物使いイル。」

 

 

 バーンが あらわれた!




これにて3章は完結です。なんとか年内に間に合ってよかったです。
たくさんの方に評価、感想をいただきありがとうございました。今後もよろしくお願いします。

4章についてですが、今回は幕間を挟まず再開する予定です。
更新開始は1月5日頃を予定しています。また申し訳ないのですが、1月中旬までは多忙のため、更新ペースが少し落ちる予定です。

二日に一度程度は投稿できればと思いますが、ご理解いただければと思います。

今年は当作品を暖かく見守っていただきありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
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