「凄い・・・!」
アストロンから抜け出した少年の戦いを見て、イルは呟いた。
思わぬ反撃に怒り狂ったハドラーの猛攻を、少年はまるで軽業師のような動きでかわしていく。自分とそう変わらない年に見える少年の戦いぶりに、イルは驚きを隠せなかった。
座り込んだまま戦いを見つめるイルに、気絶したスラッシュを抱えたアバンが駆け寄った。
「大丈夫ですか、イルさん。」
「アバンさん!」
「助けに行けず申し訳ありません。ダイくんのおかげで助かりました。」
そう言ってアバンは申し訳なさそうな顔をする。その謝罪に首を振ったイルは、それより、とアバンに尋ねる。
「アバンさん、あの子って。」
「ダイくんですね。まだ3日ですが、私の弟子です。巻き込まないためにアストロンをかけていたのですが、まさかハドラー相手にここまで戦えるとは思いませんでした。」
「3日!?それであんな動きができるなんて。」
「ええ、驚きです。おそらくあの紋章、ハドラーはドラゴンの紋章と言っていましたね。それがダイくんの力と関係しているのだと思います。以前もあの光を発した際にすごい力を見せていましたから。」
そう話している間にも戦いは加速していく。距離をとったダイに対し、イオラを放つハドラー。しかし爆発で起きた砂煙が晴れたそこには、紋章を光らせたダイが力強く立っていた。
そしてダイはパプニカのナイフを逆手に持ち、右足を引いて構えた。ダイの全身から、青白い闘気が溢れ出す。構えを見たアバンの目に驚きが宿る。
「まさかっ!?」
「喰らえっ、アバンストラーッシュ!!」
「ぬ、ぐわぁぁぁ!!」
叫びと共に、ダイがナイフを振り抜いた。パプニカのナイフから強烈な波動が飛び出し、ハドラーの全身を飲み込んだ。
そのあまりの威力に、イルとアバンは思わず目を覆った。その中で聞こえるハドラーの叫び声に、イル達は勝利を確信した。
しかし、光が収まったそこから。
胸に大きな傷を増やしたハドラーが、怒りを宿した表情で飛び出してきた。
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「おのれ、まさかアバン以上の威力とは・・・貴様だけは生かしておけなくなったぞ、ダイ!!」
「そんな、アバンストラッシュでもダメなんて・・・うわっ!」
全力のアバンストラッシュを受け止められ驚くダイに、ハドラーが襲いかかった。先程までとは打って変わって、ダイは防戦一方となってしまう。
その様子を見て、アバンはイルに声をかけた。
「イルさん、お願いがあります。モンスターとダイくんと一緒に、出来るだけ遠くに逃げてください。出来るだけ遠くにです。」
「えっ?アバンさんは?」
「私にはとっておきの呪文があるんですよ。ただ、その呪文は威力が大きすぎて皆さんを巻き込んでしまうんです。なのでお願いしますね、イルさん。」
そう言ってアバンは安心させるように微笑んだ。しかしイルはその言葉に不穏なものを感じ、アバンに尋ねた。
「アバンさん、その呪文って?」
「おっと、それはとっておきですよ。イルさん。」
「ごまかさないで!魔法力のほぼない人が使えるそんな呪文、ひとつしかない!そんなのは絶対にダメです!」
「おや、知っていましたか。これは参りましたね。」
イルの懸念は当たっていた。アバンは嘘くさい笑みを引っ込め、困ったように頭を掻いた。そして今度は真剣に、訴えるように語りかけた。
「イルさん、アバンストラッシュを凌がれた以上、ハドラーを撃退するにはあれ以上の威力の攻撃を与えるほかありません。そうしなければ・・・全滅です。」
「それは!・・・そうですけど。」
「わかってください、イルさん。ほかの手段がない以上仕方のないことです。ダイくんのことを頼みますよ。」
そしてアバンは振り返り、再び剣を抜いた。その姿を見て、イルは考える。
「(なんとかしなきゃ!メガンテ以上の攻撃手段があれば、メガンテ以上の・・最強の・・・!)」
その時、イルの目があるものを捉えた。戦場から離れた森の上、怯えるように戦いを見守るキメラの姿を。
イルは感覚を研ぎ澄ませた。目を凝らし、耳を澄まし、モンスターマスターとしての感覚に身を委ねた。
そして感じとった。この近くにいる、たくさんのモンスターの存在を。
「ある・・・!あります!」
「えっ?」
突然放たれたイルの言葉に、アバンが振り返った。しかしアバンの反応を待たず、イルは倒れているワルぼうとスラッシュに向かって、『天鳥のソーマ』を振りかけた。
この世に数えるほどしか存在しないとされる、魔物達にとっての秘薬。それを振り撒かれた2匹はたちまちその目を開けた。
「むにゃ、ここは・・・?」
「ワルぼう、寝ぼけてないであの鉄の像に『いてつくはどう』!スラッシュは森に入って、出来るだけたくさんの魔物を連れてきて!」
「え?お、おう。なにか知らんがわかった!」
珍しいイルの切羽詰まった声に、ワルぼうは素直に凍てつくような波動を作り出し像に放った。その瞬間、鉄の塊となっていた少年ときめんどうし、金色のスライムが動き出した。
「な、なんだぁ?って動ける!?」「まさか、アストロンを解くとは・・・。」「ピッ!」
「男の子は手伝って!きめんどうしと金色の子はスラッシュと一緒に魔物を連れてきて!」
「「は、はいっ!」」「ピィー!」
動けるようになって驚く3人に対し、そんな暇は無いとばかりにイルの声が飛ぶ。解放されたばかりの3人はその声に反射的に頷き、それぞれ動き出した。
一通りの指示を出したイルはさらなる指示を出さんとワルぼうの方を向いた。そこにアバンが待ったとばかりに声をかけた。
「待ってください。イルさん、あなたは何を!?」
「あるんです、『メガンテ』を超える呪文が。ワルぼう、準備をして。」
「おいおい、つってもオレもアバンも魔法力がほぼねぇぞ。今やっても大した威力は・・・。」
「だから今この島の魔物を集めてるの!みんなあのハドラーに怯えてた。きっと協力してくれるはずだよ!たくさんの魔物が集まれば、きっと届く!」
「そーいうことか。わかった、後悔すんなよ!」
納得した様子を見せたワルぼうは、長い呪文の詠唱に入った。ワルぼうを中心に、紫色の魔力と魔法陣が展開されていく。
その横で何かを考え始めたイルに、置いてけぼりにされていた緑色の装束を着た少年が声をかけた。
「ちょ、手伝えって一体なにをだよ!」
「あ、ごめん。・・・きみは?魔法が得意?」
「俺はポップだ!魔法は得意だが・・・正直あんなのに俺の魔法が効くとは思えないぜ?」
「大丈夫、借りるのは魔力だけだから。」
魔力だけ?と首を傾げるポップ。それに対し頷いて、イルは説明を始めた。
「これから打つ呪文は、純粋な魔力の塊。全ての魔力を解き放つ呪文、『マダンテ』の進化系にして、味方全ての魔力を解き放つ最強の呪文。」
喋りながら、イルは視界の端に1匹のキラーランサーが森から飛び出してくる様子を捉えた。どうやら森に向かった3人はうまくやっているらしい。イルは密かに自信を深め、その呪文の名を口にした。
「その呪文の名前は、『ミナダンテ』。」
天鳥のソーマ : かつてある世界で、傷ついた神獣の治療のため作られた秘薬。イル達の世界にも存在するが、数えるほどしか確認されていない。使うと味方全員が復活し、体力が全回復する。