モンスター達の世話を終えたイルは、ラーハルトに監視されつつ元の牢へと戻っていった。牢の中では、不機嫌そうなワルぼうがふわふわと浮いてイルの帰りを待っていた。
「ただいま〜。あれ、何でそんなに不機嫌なの?」
「お、ま、え、が、能天気すぎるんだろうが!もうダイ達と別れてから1週間は経つんだぞ!」
「ひゃっ、大きい声出さないでよ!まだ近くにラーハルトも居るんだよ?」
そう言われてワルぼうはしまった、という顔をして口を手で塞いだ。しかしすぐに表情を険しいものに戻し、声をひそめて言った。
「せっかく牢から出るチャンスを手に入れたのにお前ときたら遊んでばっかりじゃねーか・・・!そろそろ真剣に帰る方法を考えねえと・・・。」
「うっ。だってドラゴン系だよ?しかも『ヒドラ』まで居るくらいの充実ぶりだし、今のうちに楽しまないと・・・。」
「もとの世界に帰れば『ヒドラ』どころじゃない奴らがゴロゴロ居るだろうが・・・!」
イルの言い訳にワルぼうは呆れた顔をした。数日前、一時的とはいえ牢から出る口実を手にしたイルに、ワルぼうは感心していた。これで情報収集、脱出経路の確保など、様々な脱出に向けた準備が行えると思ったのだ。
しかしいざ外に出た目の前の少女は微塵もそんなことは考えていない様子で、毎日あのモンスターがよかった、このモンスターがかっこよかったと感想を述べるばかりである。イルの実力は認めているが、流石に一言言いたくなるのも無理はない。
「でもさ、今戻ったところで何もできないと思うんだよね。バランとバーンが相手じゃわたしがいた所で変わらないと思うし。変に逃げて戦いの時期を早めるよりは、大人しくして時間を稼ぐのもありじゃない?」
「そうかも知れないけどよ、結局こっちの戦力が上がらなきゃ話にならねえじゃねえか。ダイ達がこの期間に爆発的に強くなってりゃ話は別だが・・・それを当てにするのはダメだろ。」
「そうなんだよね。マルタからモンスターを連れて来れれば楽なんだけどなぁ。」
そう言ってイルはごろんとベッドに寝転がった。そしてカギの束から、『竜の騎士』の紋章が描かれたカギを抜き取り眺めた。
「この『ドラゴンのカギ』が手がかりだと思うんだけど・・・。バランもバーンも知らないのは想定外だったよ。」
「とはいえバランやダイの紋章と同じなのは確かだろ?なら『竜の騎士』とやらに関連してるのは間違いねえし、その辺りのことを探れば・・・なんか外が騒がしくねえか?」
ワルぼうの言葉を受けて、イルは耳をそばだてた。確かに、モンスター達のどこか慌ただしい足音が聞こえる。
イルは鉄格子に手をかけ、周囲の様子を見回した。すると牢の前を通ろうとする、鎧を纏った巨大な海獣が目に入った。
「おーい、ボラホーン!」
「む、イルか。悪いが急いでいる。後にしろ。」
「まあまあ。なんか慌ただしいけど何があったの?」
「バラン様からワシら『竜騎衆』に出陣命令が出たのだ。どうやらお前の仲間・・・ダイとかいう少年の行き先がわかったらしい。バラン様の傷が癒えたこともあり、一刻も早く出陣の準備をせよとの命令だ。」
「!」
その情報を聞いて、イルの表情がこわばった。どうやら時間稼ぎもここまでらしい。立ち去ろうとするボラホーンから何とか情報を得ようと、イルは再度問いかけた。
「えっと、何処で見つかったの?パプニカには居なかったんでしょ?」
「急ぐと言っておろうが・・・。どうやら今はテランにいるらしい。」
「テラン?」
「ギルドメイン大陸の中央の国だ。そういえば、あの国は竜の神を祀っているとか。バラン様の戦いに相応しい舞台だのう。」
愉快そうに笑ってボラホーンは去っていった。取り残されたイルとワルぼうは顔を見合わせた。
「・・・どうする?」
「決まってるじゃん。『デルパ』!」
イルはクロコダインを呼び出し、牢の鉄格子をこじ開けた。もう役目は終わりか?とクロコダインは拍子抜けした様子で尋ねた。
「うん、クロコダインは目立つし、また筒の中で隠れててもらおうかな。」
「だが、いくら出陣前とはいえこうも堂々と脱出するのは難しいのではないか?」
「ふふふ。ぴったりの呪文があるんだよ。」
そう言ってイルはクロコダインを『魔法の筒』に戻し、その呪文を唱えた。
「ワルぼう、もうちょっと寄って。いくよ、『ステルス』・・・!」
すると、イルとワルぼうの姿がかき消えた。魔力切れ対策に『まほうのせいすい』を取り出して、ふたりは動き出した。
そしてそれから暫く経った頃。
魔王軍のアジトである『鬼岩城』の外に、バランと『竜騎衆』のラーハルト、ボラホーン、ガンダンディーが、それぞれ相棒の竜に乗って集結していた。全員が万全の様子であるのを確認し、バランは口を開いた。
「揃ったな。目的は我が息子、ディーノを卑劣な人間共の手から取り戻すことだ。お前達の力ならば問題はないと思われるが侮るな。では行くぞ!」
「「「ハッ!!」」」
バランを先頭に、彼らはテランを目指して出発しようとした。しかしそこで、ガルダンディーの乗る『スカイドラゴン』のルードが、何かを気にするように尻尾を見た。
「どうしたルード?行くぞ?」
「グルル・・・。」
気のせいか、とルードは首を振り空へと飛び立った。
「(・・・鳥頭で助かったぜ。)」
「(しっ!そういう事言わないの!)」
その尾に、透明化したふたりを乗せて。
次回は土曜か日曜日の予定です。