親子の対面に割って入ってしまったイルは、ダイとバランにこの神殿について尋ねていた。ふたりの話を聞いて、イルはうんうんと頷いて言った。
「なるほど、この『竜水晶』がいろいろ教えてくれたんだ。ねえ、どうしてわたしもここに入れたの?」
「<わからない・・・。汝は何者だ?どこからどう見ても人間、しかしここに入れたということは・・・。>」
「おーい。・・・ダメみたいだね。」
イルは『竜水晶』にここに入れた理由を尋ねるも、『竜水晶』はぶつぶつとひとりごとを言うばかりで答えてはくれなかった。イルはやれやれ、と言った表情でバランに顔を向けた。
「多分このカギが原因だと思うんだ。バランは何か知ってることはない?」
「うむ・・・。このカギはお前が目覚める前に私も見せてもらった。残念ながら私にも見覚えはない。だが、このカギからはかすかに『マザードラゴン』の力を感じる。」
「「『マザードラゴン』?」」
バランの言った名前に、イルとダイが揃って首を傾げた。バランは小さく頷いて説明する。
「『マザードラゴン』は『竜の騎士』にとって母に当たる存在だ。全ての『竜の騎士』は彼女によって生み出される。命を落とした際、『竜の騎士』の魂と紋章は彼女のもとへ還り、魂は天に、紋章は次代へと引き継がれていくのだ。」
「えっ?じゃあダイくんはどうなるの?『竜の騎士』は『マザードラゴン』からしか生まれないんでしょ?」
「本来ならそのはずだ。しかし現実にディーノは紋章を持っている。そもそも『竜の騎士』が子を持つ、ということが今までにないことなのだ。例外が起きても不思議ではない。」
バランの返答に対し、イルはなるほど、と納得した表情を見せた。明らかでない部分は多いものの、赤の他人からダイが生まれた、というよりはまだ筋が通った意見に感じられる。イルはダイに向き直り、笑顔で言った。
「よかったねダイくん。おばあちゃんはすごいドラゴンらしいよ!」
「人ごとみたいに・・・。第一、おれはまだバランが家族だなんて認めてないよ。」
呑気なイルの言葉に、ダイは困った顔でそう返した。ダイにとって家族とは、ブラスとデルムリン島のモンスターだけである。唐突に現れた父と祖母の存在を、ダイの心は受け入れることができていなかった。
ダイの発言を聞いて、バランの眉がぴくり、と動く。不穏な空気を察したイルは、不自然に大きな声でひとりごとを言った。
「あー、結局わたしはどうしてここに入れたんだろう!誰か教えて欲しいな!!」
「<・・・では、私が答えましょう。>」
「「「!?」」」
返答を求めていない言葉。それに対して予想外の反応があったことに3人は驚いた。しかもその声は、先ほど役に立たなかった『竜水晶』から発せられていた。イルは『竜水晶』に向けて警戒した表情で問いかけた。
「突然どうしたの?わからないって言ってたじゃん。」
「<・・・私に触れなさい。そうすればわかるはずです。>」
「答えになってないよ・・・。」
イルはごくり、と息を飲み、恐る恐る『竜水晶』へと近づいた。そして右手を前に出し、そっとその表面に触れた。
「うわっ!?」
すると水晶が光を放ち、イルは眩しさに目を閉じた。そして目を開けると、イルは真っ白な空間に立っていた。
先程まで一緒にいたダイとバランの姿は見えない。不思議な顔をしたイルがきょろきょろとあたりを見渡していると、その背後から声がかけられた。
「ここには私と貴女しか居ませんよ。イル。」
声を聞いてイルは振り返り、そして目を見開いた。そこには白く美しい竜が、その身体を淡く輝かせつつ佇んでいた。水晶のような瞳でイルを見つめて、竜が口を開く。
「初めまして、ですね。驚かせてしまいすみません。貴女とふたりで話したかったので、少々強引な手段を取らせてもらいました。」
そう言って、竜は小さく首を下げた。しかしイルの視線は、竜とは別の一点に注がれている。一拍遅れて、イルがそれを指差して呟いた。
「どうして、ここに・・・?」
「どうして、ですか。もうお分かりのことでしょう?私は貴女達が『マザードラゴン』と呼ぶ存在。そして、貴女をこの世界に呼んだ張本人なのです。」
イルの呟きに、マザードラゴンは声色を変えずに答える。その背後には、イルにとっては見慣れた、大きな鍵穴のついた扉が佇んでいた。
困惑しつつ、イルは再度尋ねる。
「えっと、どうしてそんなことを?誰かに邪魔されてる、ってワルぼうが言ってたけど、それもマザーがやってたの?」
「マザー、ですか。・・・まあいいでしょう。その通り、貴女がもとの世界に戻れないように妨害していたのも私です。そしてその理由は、貴女にやってほしいことがあったからです。それも、貴女にしかできないことです。」
マザードラゴンの告白に、イルは驚きを隠せなかった。イルは以前ミラクレアに、一連の出来事の裏には何者かの思惑があるはず、と忠告されていた。しかしそれが、人類でも魔王軍でもない、第三者によるものであるとは思いもしていなかったのだ。
混乱しつつも、イルは黙って続く言葉を待った。そしてマザードラゴンの口から、真実が語られる。
「貴女には、私の子供・・・『竜の騎士』を救ってほしい。愛した者を不幸にする呪われた運命。その連鎖を断ち切ってほしいのです。」
「『竜の騎士』を、救う・・・?」
「そうです。そしてそれは、人でありながら、人ならざるものと心を通わせる、貴女にしか出来ないことなのです。この世界に存在する3つの種族から、たったひとり外れる『竜の騎士』。その定められた孤独を癒してほしい。それが、わたしが貴女をこの世界に呼んだ理由です。」
真実を聞いたイルは、おもむろに腰についた『ドラゴンのカギ』を手に取った。淡い光を放つそれには、はっきりと『竜の騎士』の紋章が刻まれている。
紋章の真実。それは母なる竜の、子を思う愛のしるしであった。
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