イルとダイの大冒険   作:NBRK

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第11話 イルの決断

 

 ついに自分がこの世界に呼ばれた理由を知ったイル。しかしその表情は未だに晴れない。難しい顔をしてイルはマザードラゴンに問いかけた。

 

 

「マザーがわたしに期待してることはわかったよ。どうすればいいのかも、それが出来るのかもわからないけどね。でも、そもそもマザーはどうやってわたしを連れてきたの?」

 

 

 マザードラゴンは理由こそ説明したが、その方法についてはまだ語っていなかった。もとの世界への帰り方を探していたイルからすると、その情報は最重要といえるものだった。

 

 イルが何を気にしているのか察したらしいマザードラゴンは、背後の扉を見やって口を開いた。

 

 

「安心なさい。この扉を潜れば、貴女はもとの世界へと帰れます。」

 

「そうなんだ。そしたら・・・。」

 

「ただし、一度戻ればもうこの世界に帰ってくることはできません。」

 

「!」

 

 

 扉に歩み寄ろうとしたイルの足が、その言葉を聞いてぴたり、と止まった。イルはマザードラゴンの顔を見て、なぜ、と問う。

 

 

「もともと、あなたの世界とわたしの世界は遥か遠くに存在しているのです。ゆえにこの扉を維持するのにもかなりの力を要しています。力の衰えた今の私では、世界同士を繋ぐのは一度が限界でしょう。」

 

「なら尚更、どうしてわたしを選んだの?確かにわたしはモンスターと仲がいいけど、そこまでするほどとは思えないよ。」

 

「とんでもない。あなたは『狭間の闇の王』を倒した張本人でしょう?」

 

 

 マザードラゴンから出たその名前に、イルは目を丸くした。それはイルにとってはまだ記憶に新しい宿敵の名前である。マザードラゴンはつらつらと説明を続けた。

 

 

「『竜の騎士』は最強の生命体。ゆえに優しさだけではなく、強さを併せ持つ人物が望ましかったのです。『狭間の闇の王』は貪欲かつ強大な存在でした。それこそ数百年前には、この世界にまで手を伸ばそうとするくらいに。この扉は、その時に開かれた狭間を閉ざしたものなのです。」

 

「・・・。」

 

「そのカギは、最後の仕上げにあなたの世界側から扉を閉めるのに使ったものです。確か協力した者の名前は・・・ミラクレアといいました。」

 

「! ミラクレアが・・・!?」

 

 

 またしても馴染み深い名前が出たことに驚くイル。先日ミラクレアから連絡があったことを伝えると、マザードラゴンは納得したように首を振って言った。

 

 

「彼女ならばそれも可能でしょう。何しろ一度は来たことがある世界なのですから。とはいえ、一度は完全に繋がりの断たれた世界を繋ぐのは、いくら彼女でも厳しかったでしょうね。」

 

「そっか。それでミラクレアは、もう一度繋ぐのは大変だって言ってたんだ・・・。」

 

 

 イルは顎に手を当ててそう呟いた。あの時は緊急時だったため気付かなかったが、ミラクレアとはいえど、ワルぼうが匙を投げるレベルのことを簡単に出来るとは思えない。あの接触の裏には、カメハと兄と、ミラクレアの相当な努力があったのだろう。

 

 その事実を今更ながら知ったイルは、申し訳ないような、嬉しいような複雑な気持ちを抱いた。そんな様子を見て、マザードラゴンは声を和らげた。

 

 

「よい仲間を持ちましたね。あなたを心から心配していることの現れでしょう。」

 

「そうだね、だから迷ってる。それを無視してこの世界に残っていいのかなって。」

 

「無茶を言っているのは分かっています。もしこの世界であなたが命を落とすことがあれば、わたしは残る全ての力を使ってあなたを蘇生し、もとの世界に送り届けると約束しましょう。」

 

 

 伝えるべきことを伝え切ったのか、マザードラゴンは静かに首を下げた。イルは目を閉じて暫く考えた後、わかった、と言って目を開けた。

 

 

「そこまで言われたら、断るわけにもいかないね。」

 

「・・・引き受けてくれますか。」

 

「うん。でもあんまり期待はしないでね。心を救う、なんて何をすればいいのかわからないもん。だから、わたしは自分が正しいと思うことをするよ。それでいいかな?」

 

「十分です。貴女に感謝を、イル。」

 

 

 マザードラゴンは再び深く首を下げた。それと同時に、イルの体が淡く光り始める。

 

 

「そろそろ時間のようです。わたしはそのカギを通じて貴女を見守っています。」

 

「わかった。あ、最後に一つだけ。」

 

「? 何でしょうか?」

 

 

 徐々に光は強さを増し、イルの視界を覆っていく。薄れゆくマザードラゴンの姿を見据えて、イルはにっこりと笑って言った。

 

 

「全部終わったら、わたしと友達になって!それでミラクレアも呼んで一緒に遊ぼう!」

 

「友達、ですか。・・・フフ、いいですよ。やはり貴女を選んだのは正しかったようです。たった今、それを確信しました。」

 

 

 イルの願いに、マザードラゴンは初めて表情を崩した。そして満足気に笑った表情を最後に、その姿がかき消えた。

 

 

「イル!大丈夫!?」

 

「・・・ダイくん?あれ、わたしはどうなってたの?」

 

「それはこっちの台詞だよ!『竜水晶』に触ったと思ったらいきなり姿が消えちゃって・・・。いったい何があったの?」

 

 

 気付くと、イルは再び『竜水晶』の前に立っていた。駆け寄ってきたダイの焦りようからするに、それなりの時間が経っているらしい。何があった、というダイの問いに、イルはどう答えたものか、とばかりに腕を組んで考える様子を見せた。

 

 そうこうしている間に、同じくイルを探していたらしいバランがその場へ帰って来た。そして答えに悩んでいる様子のイルを見て、バランは己の推測を伝えた。

 

 

「戻ってきたか。先程の声・・・『マザードラゴン』に会ったのか?」

 

「うん、そうだよ。わたしをこの世界に呼んだのはマザーなんだって。色々話したけど、結局わたしが正しいと思うことをやればいいみたい。」

 

 

 イルは素直にそれを肯定し、一方でマザーの願いについてはぼかして伝えた。そしてダイとバランを交互に見て、少し真剣味を帯びた表情で尋ねた。

 

 

「ねえ、ふたりは仲良くするつもりはないの?マザーも心配してたよ。」

 

「・・・そもそも私はディーノを倒そうなどと思ってはいない。卑劣な人間どもの手から息子を取り戻そうとしているだけだ。」

 

「おれの名前はディーノじゃない、ダイだ!そうやって、おれの友達を傷つけようとする奴の仲間になんか、絶対になってやるもんか!」

 

 

 バランとダイの視線がぶつかり、火花を散らす。どうやら話し合いでの解決は難しいらしい。イルは小さくため息をついて、ダイの隣に並び立った。

 

 

「バランの事情はバーンから聞いたよ。人間が憎い気持ちも少しは理解できる。でも、わたしは考えを曲げないよ。バランのやっていることは間違ってると思う。だから、わたしはダイくんの側につくよ。」

 

「イル・・・。」

 

「・・・そうか。残念だ。」

 

 

 バランはそう呟き、背中から『真魔剛竜剣』を抜き放った。剣を両手に握り、正中線に構える。それを見たダイはイルを後ろに庇い、剣を逆手に握り変えた。

 

 

「イル、下がってて。もう迷わないぞ!バラン、お前を倒す!」

 

「ほう、ヒュンケルと同じ・・・。『アバンストラッシュ』を完成させたか。面白い・・・!」

 

 

 2人の紋章が光を放ち、青白い『竜闘気』が立ち昇る。そして全く同時に駆け出すと、それぞれが気迫と共に剣を振り抜いた。

 

 

「ハァァァ!!!」

 

「『アバンストラッシュ』!!!」

 

 

 剣と剣、闘気と闘気がぶつかり合う。人智を超えた力が、その接点で濃縮され、爆発を巻き起こした。神殿が吹き飛び、凄まじい衝撃波が水中を駆け回る。

 

 たった2人の『竜の騎士』。たった2人の親子。哀しき運命の戦いが幕を開けた。

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