5章開始です。
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第1話 決戦へ向けて
テランでの戦いから3週間が経った。様々な出来事を経て、ダイ達は大きく成長を遂げていた。
特に大きな出来事は、ダイが新しい武器を手にしたことと、魔王軍による世界会議への襲撃だろう。
バランとの戦いで、ダイはヒュンケルの『鎧の魔剣』を借りて戦った。己の強大な力に、これまで用いていた『鋼の剣』が耐えきれなかった為である。
しかし、今後もそれを繰り返すわけにもいかない。ダイは己の力に耐えうる最強の武器を求め、地上に隠れ住んでいた魔界の名工、ロン・ベルクのもとを訪ねた。
ロン・ベルクは初め、ダイへの協力を渋っていた。しかし、ダイが彼の作品である『鎧の魔剣』を用いて、『真魔剛竜剣』を叩き折ったことを知ると、一転して剣を打つことを快く引き受けた。
その後も紆余曲折はあれど、最終的にはロモス王から譲り受けたオリハルコン製の『覇者の冠』を素材に、ダイは新たな武器を手に入れた。
その剣はまるで意思を持っているかのように振る舞い、他の使用者を強く拒んだ。ダイのために造られたようなその様子から、その剣は『ダイの剣』と名付けられる。勇者に相応しい武器の誕生に、人々は大いに湧いた。
それと並行して起きたことが、魔王軍による世界会議への襲撃だった。
ダイ達によるバラン撃破の報せを受け、パプニカ王を発起人として開催された首脳会談。ロモス、パプニカ、テラン、ベンガーナ、そしてカールの五カ国の王が一同に会したそのタイミングを狙って、魔王軍が攻勢をかけたのである。
しかし魔王軍の移動要塞である『鬼岩城』を用いたその襲撃は、字面の衝撃に対して小さな成果を得るにとどまっていた。
修行によりさらに力をつけたダイ達に加え、ベンガーナの近代的な武器の数々。カールの屈強な騎士団に、イルが率いる魔物たち。潤沢な戦力で魔王軍を迎え撃った人類は、魔王軍に対して明確な勝利を得ることに成功したのであった。
気を急いたポップが敵の罠に嵌り、それを助けに行ったダイ諸共危機に陥る場面もあった。しかし最終的には無事に撤退し、誰一人欠けることなく今日を迎えたのだった。
アバンが設定した一カ月の修行期間も終わりが近づいている。自信を得たダイ達は来たる最終決戦に備えて鍛錬を続けていた。
そんな中、イルは1人別行動を取っていた。薄暗い洞窟の奥で、本の山と怪しげな実験器具に囲まれつつ黙々と作業に勤しんでいる。
そこに一人の魔族の青年が近づいていく。そして複雑な数式や図面が描かれた紙束を机にバサリ、と置いた。物音でその存在に気付いたイルが、顔を上げてその名を呼ぶ。
「ん・・・?あっ、これこれ!ありがとう、ザムザ!」
「気にするな。今となってはどうやっても生かせない研究だ。おまえが使って少しでも日の目を見てくれれば、それでいい。」
ザムザ、と呼ばれた青年はどこか生き生きとした表情でそう答えた。続きを持ってくる、と言って、彼は再びイルの居る部屋を後にする。
『妖魔司教』ザボエラの息子である彼は、魔物の体組織を移植することで魔族の肉体を強化する、『超魔生物』学の専門家であった。
父に己の研究成果を盗まれつつも、何とか魔王軍の中で功績を打ち立てたいと思った彼は、ロモスにて自らを『超魔生物』と化してダイ達と戦った。
たまたま居合わせたマァムが修行で身につけていた『閃華裂光拳』に敗れたものの、その力は未完成でありながらダイ達を追い詰めるほどであった。
それに目を付けたのが、イルだった。命尽きる直前、己の肉体を用いた実験データを父に送り届けたザムザ。その体が灰となる寸前に、イルは懐から『せかいじゅのは』を取り出してザムザに使った。
なぜ助けた、とばかりにザムザはイルを睨みつける。それに対してイルは、もったいないよ、と言った。
「その研究、わたしと一緒に続けない?最強のモンスターをつくろう!」
その発言を聞いたダイ達は驚いた。超魔生物の恐ろしさを目の当たりにした以上、イルのその言葉は冗談であってほしい、というのが彼らの正直な気持ちであった。
しかしイルは本気だった。敗者に断る権利はない、と提案を受け入れたザムザと共に、研究所に引き篭もったのだ。
世界会議など公的な場面を除き、イルは表に顔を出すことなくひたすらに研究にのめり込んでいた。初めは怪訝な表情をしながら協力していたザムザも、イルが持つ熱意と、魔物に関する膨大な知識を知り、気付けば心から忠誠を誓っていた。
イルが語った異世界の話も、ザムザの心を揺さぶった。人と魔物が共存し、魔物の強化や『配合』についての研究が広く評価される世界。いつか連れて行ってほしい、という願いにイルが快く頷いたことも、ザムザの忠誠心の理由のひとつであった。
そんなザムザから追加の資料を受け取ったイルは、ちらりと時計を見る。そして手に持った羽根ペンをペン置きに挿すと、カタリと椅子を鳴らして立ち上がった。とことこと歩くその後ろにザムザが続く。
イルが向かったのは、地下施設の中にある実験場だった。そこはかつて、魔王軍が超魔生物の研究に用いていた施設である。なぜそんな場所をイルが使えているのか。その答えは、イルが声をかけた魔族の存在にあった。
「ザボエラ、実験はどうなった?」
「ええい、今確認中じゃ!・・・まったく、このワシに雑用まがいのことをさせおって・・・ぎゃっ!」
「文句言ってないでちゃんと働いてよね。次サボったら『ライデイン』だよ。」
監視役のスラッシュに『デイン』を浴びせられ悲鳴を上げたのは、六軍団長がひとり、『妖魔司教』ザボエラだった。イルの言葉にぐぬぬ、とした表情を見せつつも、凄まじい速度で報告書を作成していく。魔王軍のブレーンを務めた経験は伊達ではない。
「イル。あれでもオレにとっては父親だ。少しは手心を加えてやってくれ。」
「そう?ザムザがそう言うなら・・・。まあでも、悪さをした分はちゃんと働いてもらうからね。」
こうなったきっかけは、罠に嵌ったポップとダイに、ザボエラが追撃をかけたことだった。しかしもともと功を焦ったがゆえの独断専行であったこともあり襲撃は失敗。ザボエラ自身もイル達によって捕えられてしまうという結果に終わったのである。
当然ながら処刑もやむなし、といった所であったが、研究に活かせるかもしれない、というザムザの進言によって、命は助けられた。実際こうして秘密の地下施設を利用したり、実験を行ったりとかなりの働きを見せている。本人は非常に不満そうではあるが。
ザボエラが作成した報告書を読んでイルはふーん、と小さく呟いた。そして首を振って、報告書をザボエラに返した。
「まだ足りないね。もう少し魔法耐性は上げられない?」
「馬鹿を言え!これ以上を望むならそれはもう『超魔生物』そのものじゃろうが!」
「でもその『超魔生物』になったハドラーと戦うんだから、それに対抗できないとダメでしょ?まあでも『超魔生物』は素材になる魔物が可哀想だからなしだけどね。うまい塩梅を見つけないと。」
そう言ってイルは、今回の実験に参加した『ひくいどり』と『ホークブリザード』の側に近づいた。その体の一部からはお互いの羽根が生えている。魔物の肉体の物理的な移植。イルの世界ではまだ確立されていない技術である。
客観的に見れば非人道的に見える実験をされたにもかかわらず、2匹のモンスターはイルに撫でられて幸せそうにしている。その姿を見て、ザボエラは末恐ろしい、という感想を抱いた。
「(実験といい、『配合』とやらといい、何の躊躇いもなく魔物を素材にしよる。それだけならワシも同じじゃが、此奴の場合は魔物が嫌がるどころか、進んで素材になろうとする・・・。何なんじゃ、此奴の魔性は。)」
どうやらイルには今、生み出したい魔物がいるらしい。『配合』でも目指せないことはないが、来たる戦いに向けては時間が足りない。そのためイルは、魔王軍の『禁呪法』や『超魔生物』などの技術を、『配合』に取り入れられないかを検討していたのだった。
実験場には今、炎と氷を扱うモンスターの姿が溢れている。イルが目指すのはその融合を果たした最高位の魔物である。炎と氷の融合といえば『にじくじゃく』などが候補だが、イル曰く、それ以上の位階を目指したい、とのことらしい。
イルの自室へと戻った後も、3人は今後の研究方針について議論を重ねた。アバンが戻ってくる日を考えると、残り数日のうちに何か結果を生み出したいのが3人の共通認識である。残り時間から逆算し、イル達はその日までの実験計画を全て決定した。
方針が決まったことに安心したイルがぐっ、と伸びをする。しかし気が抜けていたせいか、下ろした手が机の上の資料の山に当たってしまった。バサバサと地面に散らばった紙を、慌ててイルが拾い集める。
嫌々ながらもそれを手伝うザボエラ。そんな時、一枚の紙がザボエラの目に留まった。
「(世界地図・・・?なぜこんなものが此処に?しかもこの書き込みは・・・。)」
ザボエラは地図を渡しつつ、ちらり、とイルの顔を盗み見る。ありがとう、と言うその顔からは何の情報も読み取れない。しかし、ザボエラは胸騒ぎがするのを抑えられなかった。
「(わからん・・・。此奴、何を企んでおる?)」
その地図には、6つの丸とそれを繋いだ六芒星が、赤いインクを用いて刻まれていた。
5章も前章と同じく、2〜3日に一度の更新を予定しています。