決戦の日を迎え、ダイ達はカールの城門前で静かに時を待っていた。そして約束の時間、昇る朝日を背にして、目的の人物が飛来する。
徐々に速度を落とし、その人物は静かにダイ達の前に降り立った。隠しきれないその威圧感に、初対面のアバンとマァムが息を呑む。そんな中、始めに口を開いたのはイルだった。
「久しぶり、バラン!連れて来てくれた?」
「・・・開口一番がそれか。これでいいか?」
「『デルパ』!・・・うん、ばっちり!ありがとうね!」
イルがバランから受け取ったのは、黒い『魔法の筒』だった。中から出てきた『グレイトドラゴン』を見て、イルがにこにことしながら礼を言う。それにバランはふん、とそっけなく反応を返した。
気安いその様子を見て、ダイ達は不思議そうな表情をする。彼らにとってはテラン以降の再会であり、当時の攻撃的な印象が強く残っているためである。だがイルの場合は少々事情が異なっていた。
バランは人類から見て大罪人であり、ダイ達が堂々と接触を図ることは難しかった。しかしバーンとの戦いに向けて、その戦闘力を遊ばせておくことは愚かと言うほかない。何とか協力してことに臨みたい、と言うのがイルの意見であり、それにダイ達も同意した。
そこで、丁度研究と称して人類社会から離れていたイルが、バランとの橋渡し役を買って出た。イルは各地に散らばった『不死騎団』による情報からバランを探し出し、接触を試みた。
バランは初め、協力を求めるイルの頼みに難色を示した。『おおねずみ』のチウらと共に発見したバーンパレスの入り口については興味を示したものの、攻め込む際は1人で十分だ、と共闘を拒んだのである。
しかし、少しでも勝率を上げたいイルは何とか説得しようとした。幸いだったのは、イルの実力をバランが身をもって知っていたことと、唯一イルだけが、実際にバーンと対峙したことがある、と言う事実だった。
イルはバランに彼我の戦力についての私見を述べ、協力の必要性を訴えた。バーンの圧倒的な力に、強固に閉ざされた門。さらに未だに残る協力な側近達に、強化されたハドラーの存在。これらの問題を解決できる、と言われては、流石のバランも頷かざるを得なかった。
こうしてバランを味方に付けたイル。バランも吹っ切れたのか、その後は食料の調達や、『真魔剛竜剣』のメンテナンスを頼みにしばしばイルの研究所を訪れるようになった。このようにして、バランとイルの妙に気安い関係が誕生したのであった。
そんなイルが『グレイトドラゴン』の背に乗ると、その様子を見たダイが小さくいいなぁ、と呟く。ダイがモンスターに興味を持ったことが嬉しいのか、イルはにっこりとしてダイを手招きした。
息子とその友人が仲良く『グレイトドラゴン』の背に乗る様子を見たバランは、表情は変わらずともどこか雰囲気が柔らかくなった。その瞬間を逃さず、アバンが声をかける。
「初めまして、バラン殿。私はアバン。僭越ながら、ダイくんに剣と魔法を指導させていただいた者です。」
「ほう、お前があの『勇者』アバンか。」
バランは返事をしつつ、じろり、とアバンの全身を観察した。柔らかな雰囲気とは裏腹に、その立ち振る舞いには一切の隙がない。バランは内心でアバンの評価を一段階上げた。
「イルから話は聞いていると思うが、私は元々1人でバーンを討伐するつもりだった。協力はするが、ゆっくり足並みを揃える気はない。」
「わかっています。私達は基本的に露払いに徹します。貴方にお願いしたいことはただ一つ。ダイくんと共にバーンを打ち倒してもらうことだけです。」
わかっているのならばよい、とばかりにバランは頷いた。それを確認したアバンは振り返り、息を吸った。全員が話を止め、アバンの言葉に耳を傾ける。
「これより、大魔王バーンが待つ魔宮、『バーンパレス』に向かいます!全ての戦いを勇者・・・いや、『竜の騎士』のためにせよ。この言葉を忘れないでください!では出発しましょう!」
はいっ、と揃った返事をして、一行は出発しようとした。その時、背後の城門が開き、沢山の兵士と群衆が姿を現した。突然のことにダイ達が目を丸くしていると、彼らは手を振り上げて叫んだ。
「頑張れよ!」「絶対魔王を倒してね!」「『アバンの使徒』万歳!!」
叫びが重なり、地鳴りのような響きをもってダイ達の心を揺らした。弟子達と同様に驚いた表情を見せるアバンに向けて、群衆の先頭に立ったフローラがウインクをする。
アバンはカール王国にとって、紛れもない英雄である。その本人と弟子達が再び魔王に挑むと聞いて、黙っていられるカール国民ではない。
熱い声援を背に受けて、ダイ達は『バーンパレス』のある『死の大地』へと飛びたった。野を越え海を越え、やがて目的地が見えてくる。
『トベルーラ』で先頭を行くアバンは、一度後ろに続くダイ達を振り返り合図をする。そして、アバン、バラン、イルとダイの4人が海に向けて飛び込んだ。
地上の見張りをヒュンケルらに任せ、アバン達は門へ向けて進んでいく。そして辿り着いた先で、一体のモンスターが立ち塞がった。『ハドラー親衛騎団』の一員のオリハルコンの騎士、フェンブレンである。
フェンブレンは自らの被害も顧みず、『バギクロス』を放ってダイ達を翻弄しようとする。しかし呪文の詠唱を見たイルが素早く反応し、『魔法の筒』からクロコダインを呼び出した。
「『獣王激烈掌』!」
バギクロスで生まれた乱流を、それ以上の威力の渦が飲み込んでいく。錐揉み回転するフェンブレンに、紋章を光らせたバランが接近し、『真魔剛竜剣』を一閃した。
胴を横一文字に切り裂かれたフェンブレンは、悔しさを露わにしつつ海の底へと沈んでいった。フェンブレン同様渦に巻き込まれ目を回しているイルを回収し、ダイ達は先へと進んだ。
そして門に辿り着いてからは、アバンの出番である。アバンは懐から5本の『ゴールドフェザー』を取り出し、円を描くように宙に浮かべた。黄金に輝く円はやがて魔法陣となり、破邪の魔力を増幅させていく。
そして輝きが最高潮に達したとき、アバンはその呪文を唱えた。
「『アバカム』!」
5本の羽根が扉に突き刺さり、その輝きで闇の魔力を霧散させていく。そして、固く閉ざされていた扉がゆっくりと開いた。
扉が開かれたことで、内部へと水が吸い込まれていく。その流れに乗って、ダイ達は『バーンパレス』へと侵入したのであった。