『バーンパレス』の玉座の間にて、大魔王バーンは『あくまのめだま』越しにダイ達の様子を眺めていた。単独でダイ達を迎え撃ったハドラーを見て、玉座の横に控えるミストバーンが愚かな、と呟いた。
「いかにハドラーが強大となったとはいえ、あの4人と戦えば勝ち目はないだろうに・・・。親衛騎団を置いてきたのはほぼ自殺行為だ。」
その呟きに、大魔王バーンはうむ、と頷いた。グラスを煽る仕草からは苛立ちが見て取れる。ミストバーンは言葉を選びつつ、バーンに伺いを立てた。
「如何いたしましょうか。このままハドラーが負ければ、奴らがこの王宮へ乗り込んでくることになりますが。」
「ふむ。そうならん様に、ハドラーには仕掛けをしておったのだがな。だが今はそれを使うことができん状況だ。」
「仕掛け・・・?」
疑問符を浮かべたミストバーンに、バーンはハドラーに埋め込んだ『黒の核晶』のことを話した。ミストバーンが驚いた様子を見せる。
「では、初めからハドラーは捨て駒にするつもりで?」
「そういう訳でもない。余はこれでもハドラーを気に入っていた。だが何事にも保険、というものはあった方が良いということだ。」
「成程。では、何故今は使えないと仰られるのですか?奴らが居るのは『死の大地』の外周部。例え爆発させたとしても、我々が居る『バーンパレス』には問題がないように思えますが。」
ミストバーンの問いかけに、バーンは返事を返さなかった。トン、トン、と指を肘置きに打ち付ける様子が、らしくない印象を与えている。ミストバーンはもう一度『あくまのめだま』の映像を見て、まさか、と思い振り返った。
「バーン様。もしや貴方はあの小娘・・・イルがあの場にいる事を理由に躊躇っておられるのでは?」
リズムよく動いていたバーンの指が、ピタリ、と止まった。悪い想像が当たってしまった、とばかりに、ミストバーンはバーンに訴えかける。
「何故貴方はそこまであの小娘に執着しておられるのか・・・!先日取り逃した際も、命は取るな、などと生温い命令をなさった。私にはそのお気持ちが理解できない・・・。」
「何故、と聞くか。」
バーンはため息をついて目を閉じた。そして僅かに沈黙した後再び口を開いた。
「今の魔界に、余と並ぶ存在はいない。かつてはボリクスやヴェルザーといった猛者と鎬を削りあったものだが、ボリクスはヴェルザーに敗れ、そのヴェルザーはバランに敗れてしまった。故に余の計画に意見する者は居なくなった・・・良くも悪くもだ。」
「・・・。」
「しかし今になって、余の前に新たな『大魔王』の資質を持つ者が現れた。奴は余に間違っている、と言った。故に余は奴の出す『答え』を知りたいと思ったのだ。完全に事を成す前にな。」
バーンはこれで満足か、とミストバーンに視線をやる。ミストバーンはまだ納得いっていない様子ではあったが、これ以上は主の機嫌を本当に損ねると判断し引き下がった。代わりに、目の前の危機に対して尋ねる。
「話は戻りますが、ハドラーが突破された後は如何いたしましょうか。」
「仕方があるまい。元々、『竜の騎士』は最終的に余が相手するつもりであった。お前はキルと協力して、アバンや他の連中の横槍を防げばよい。」
「『竜の騎士』2人を相手にするおつもりですか・・・!?いくら御身が強いといえ・・・。」
「なに、少々困難があった方が張り合いがあるというものよ。この試練を乗り越えることで、余の名は真の魔界の神として歴史に刻まれるであろう。フフ、中々血が滾るではないか。」
気が昂ったバーンの全身から、暗黒の魔力が漏れ出る。その迫力にミストバーンは身震いした。
「(この迫力、やはり世界を統べるに相応しいのはバーン様しかおられない。私も全力を尽くすとしよう。・・・例えその行動が、バーン様の意に反するとしても。)」
ミストバーンは密かにそう決意し、再び戦いに目を向けた。映像の中では、『魔炎気』を纏ったハドラーが、6体のモンスターを相手に大立ち回りを演じている。
「(そのためには、ここで相手を削らねばならん。簡単にやられてくれるなよ、ハドラー。)」
そう念じられたハドラーは、底知れぬ高揚感を感じていた。先日は不意打ちをかけたにもかかわらず、ハドラーが返り討ちにされたイル。それを今では圧倒しているのだ。
魔族としての体、そしてその寿命すらも犠牲にしたその執念が、確かに成果として現れている。体の奥底から湧き上がるなにかに背中を押され、ハドラーは次々に攻撃を繰り出していく。
しかしその時、ハドラーは背筋がピリリと疼くのを感じた。慌てて踏み出そうとした足を引くと、目の前の地面に突如として魔法陣が現れ爆発した。狙いを外したイルの口からありゃ、と声が漏れる。
「『ジバリア』もダメか。本当に強くなってるね。」
「フン、どの口が言うか。お前こそまだ全力を出していないだろう?その残った『魔法の筒』・・・いつまで隠しているつもりだ。」
「気になるなら、引きずり出してみなよ。ハドラーの全力でさ。」
イルの挑発を受け、カッと熱くなるハドラー。しかしすぐに冷静さを取り戻し、イルの思惑を読み取らんと思考を巡らせる。
「(奴は馬鹿ではない。手札を見せていないのは、それを切って勝利できる確証がまだ得られていないからだろう。つまりこの挑発は、オレの最大値を確認するためのものに違いない。)」
ハドラーはイルの挑発に込められた思考を完璧に読み切った。確かにイルは今、耐久力のあるクロコダインを前面に出し、ハドラーの全力の攻撃を引き出すことで実力を測ろうとしていた。
しかし、その上でハドラーは選択した。己の全力を込めた一撃を放つ事を。
「面白い。ならば受けてみろ、オレの全力を!『超魔爆炎覇』!!」
「ワルぼう、スラッシュ、バフ全開で!クロコダイン!!」
「応っ!『獣王激烈掌』!!」
右手の甲の『覇者の剣』を突き出し、ハドラーが2つの闘気の渦に正面から突っ込んだ。『魔炎気』を纏ったその突進が、渦をずんずんと切り開いていく。そして遂にはクロコダインの突き出した両手に達し、轟音と共に炸裂した。
「ぐおおおお!!」
爆炎の中から、クロコダインの体が転がり出る。重ね掛けされた補助呪文により致命傷は逃れたものの、その強靭な身体の傷つき様が、『超魔爆炎覇』の威力を物語っていた。
力を見せつけたハドラーが、鋭い声で叫ぶ。
「オレの全力は見せたぞ!後はお前が応じるか否かだ、イル!」
「・・・うん、痺れた。それでこそ、わたしも全力で行く甲斐があるってものだよ!『デルパ』!!」
クロコダインに駆け寄ったイルが、ハドラーの問いかけにそう答えて立ち上がった。そして遂に、イルは残された『魔法の筒』から魔物を解放した。溢れ出た熱と冷気を見て、ダイが驚きの声を上げる。
「えっ!?まさか・・・!」
「フン。やはりお前が押さえていたか・・・『フレイザード』!!」
ハドラーは表情を崩さず、現れたモンスターの名を呼んだ。それに答えるようにして、炎と吹雪がその姿を形作っていく。
そして黒く窪んだ瞳に光が宿り、再びその魔物、『氷炎将軍』フレイザードが産声を上げた。
「クックック・・・!久しぶりだなァ、ハドラー様よ!難しいことは無しだ、『力』をぶつけ合おうぜェ!!」
その瞳の光は、血のように紅く染まっている。狂気に誘われるが如き様子で、フレイザードは全身から闘気を放出した。炎と氷が混ざり合い、虹色の波動がハドラーに襲い掛かる。
「『オーロラブレス』!!」
炎と氷、その一つ目の奥義が炸裂した。
次回も3日後(金曜日)の予定です。