イルとダイの大冒険   作:NBRK

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第7話 別れ

 

 ハドラーを打ち倒したイルは、少しの間立ち尽くした後、ふう、と息を吐いた。それを見て戦いの終わりを悟ったダイ達がイルに駆け寄る。

 

 

「見事でしたよ、イルさん。圧倒的でしたね。」

 

「ありがとうございます、先生。でも見た目ほど余裕ではなかったです。フレイザードもギリギリだったし。」

 

「あァ?何言ってもやが・・・る。」

 

 

 イルの発言にフレイザードは反論しようとするが、その意に反して身体に力が入らず地面に膝をついてしまった。その様子を見たイルはこら、と言って頬を膨らませる。

 

 

「まだ生まれたてだし、調整も十分じゃないんだから無理しないの。魔力もギリギリでしょ?」

 

「チッ、勝ったってのに後味が悪いぜ。」

 

「・・・なんというか、少し安心しました。あれを何発も気軽に撃てるとなると、流石に私でも恐れが勝ってしまいそうでしたから。」

 

 

 そのやりとりを見て、アバンは張り詰めていた気を解いた。フレイザードの瞳に宿った狂気、そしてその圧倒的な破壊の力。それを人の身で御することは、狂気的な行動と言って過言ではない。

 

 ゆえにアバンは油断をせずにイルに話しかけ、その様子を伺ったのだった。しかし結果としてはいつも通りのイルの姿が見られたため、アバンの恐れは杞憂に終わった。

 

 弛緩した雰囲気の中、倒れるハドラーに歩み寄ったバランがイルに尋ねる。

 

 

「それで、此奴はどうする?瀕死とはいえ『超魔生物』だ。放置しておけばやがて復活するぞ?」

 

「うーん、そうだねえ・・・。」

 

 

 悩む口ぶりを見せつつも、イルの右手は懐の『魔法の筒』に伸びていた。イルにとっては倒した魔物の存在そのものが最高のトロフィーである。誰もがハドラーをイルが己が物とすることを疑っていなかった。

 

 しかし、それに待ったをかける者がいた。

 

 

「待て、イル・・・。」

 

「ハドラー?まだ意識があったんだ。」

 

 

 浅く呼吸を繰り返すハドラーは、少し驚いた表情のイルを見て、フン、と小さく笑った。そして最後の力を振り絞るようにしてイルに語りかけた。

 

 

「オレはここを死に場所と定め、全ての力を賭してお前と戦った。そしてそれにお前が全力の一騎討ちという形で応えてくれた。何より、お前はオレに、敗北に対し一切文句のつけようのない、圧倒的な力を見せてくれた。オレの生は今、魔族として満たされているのだ。」

 

 

 ぜえぜえ、と苦しく息を吐きつつ、ハドラーは言葉を紡いでいった。イルはそれを黙って聞き入れている。そしてハドラーはもう一度息を整え、最後の願いを告げた。

 

 

「どうか、この満たされた気持ちのまま逝かせてほしい。無相応にもお前のライバルを気取った者の、最後の願いだ。」

 

「・・・わかった。」

 

 

 イルは悲しげに眉を下げつつ、ハドラーの願いを聞き入れた。返事を聞いたハドラーが安心したかのように目を閉じる。イルはスラッシュを呼び寄せ、『メラガイアー』を唱えるよう指示した。

 

 まるで弔いの言葉のように、スラッシュはゆっくりと呪文を唱えていった。ハドラーの頭上に形成された火球がゆっくりとその大きさを増していく。感覚の遠のいたハドラーにとって、その獄炎はどこか心地よい暖かさに感じられた。

 

 そして、ついにイルが右手をハドラーに向け、弔いを完了させんとする。

 

 

「さよなら、ハドラー。『メラガ「そうはさせんぞ。」・・・!?」

 

 

 しかし、その火球がハドラーを飲み込むことはなかった。突如として足元に現れた紫色の魔法陣が、イル達一行の身体の自由を奪ったのだ。そこには当然呪文を唱えていたスラッシュも含まれており、発動直前の『メラガイアー』は空中で霧散した。

 

 しかし、イル達も黙って縛られているわけではなかった。素早く状況を理解したバランが『竜闘気』を全身から放出し、魔法陣を吹き飛ばす。そして怒気を込めて、下手人の名を叫んだ。

 

 

「ミストバーン、貴様・・・!」

 

「『闘魔滅砕陣』をこうも易々と破るとはな。やはり貴様らをバーン様のもとへ行かせるわけにはいかん・・・!」

 

 

 突如として現れたミストバーンはそう言うと、全身を覆う装束の前を開き、力を解放した。魔力の鳴動と共にミストバーンの身体から光が発せられる。

 

 そして、パリン、とミストバーンの首飾りが砕け散り、その光の強さは最高潮に達した。眩しさに思わず目を覆ったイル達。光が収まり、再び視線を向けると、ミストバーンのいた場所には白い長髪を靡かせた、美しい男性の魔族が浮かんでいた。

 

 魔族は右手をハドラーに向け、金色の魔力を撃ち出した。そしてその魔力がハドラーの胸元に直撃すると、それに反応するようにして赤い魔力が放出される。その悍ましい魔力を感じて、バランが焦った表情でハドラーに駆け寄った。

 

 

「まさか・・・フンッ!」

 

「ぐっ!・・・こっ、これは!?何故こんなものがオレの中に!?」

 

 

 バランは『竜闘気』を纏って、ハドラーの胸にその腕を突っ込んだ。胸から引き抜かれたそれを見て、ハドラーが驚愕する。バランの右手には、赤黒い稲妻を走らせる無機質な球体が握られていた。

 

 

「『黒の核晶』・・・!この大陸諸共、我々を消しとばすつもりか!」

 

「大陸ごとですって!?まさか、そんな恐ろしい兵器が・・・!」

 

 

 バランの発言を聞いて、アバンの口から驚きの声が漏れた。そんなものが発動すれば、少なくとも爆心地のすぐ側にいる自分達はひとたまりもないだろう。

 

 バランが『竜闘気』を全開にして爆発を抑えようとするが、核晶から放たれる魔力は強さを増していくばかりである。この場の誰もが、迫り来る絶望に膝をつきそうになる。

 

 

「フレイザード、『メドローア』!」

 

 

 それでも状況を覆さんと、イルは必死で頭を回して指示を飛ばした。しかし、フレイザードはその命令に答えない。いや、答えられなかった。

 

 

「・・・くそっ、さっきので魔力が足りねえ。」

 

「ううっ、それなら『かがやくいき』!ちょっとでも時間を稼いで!!」

 

 

 フレイザードの右腕から冷気が放たれた。それを浴びた核晶の魔力の波動がわずかに弱まる。しかし、バランの表情は晴れない。直接それを握る彼は、もはや冷却で爆発が止まることがないことを直感的に理解していた。

 

 ゆえに、バランは味方に向けて叫んだ。

 

 

「逃げろ!私が少しでも時間を稼ぐ!その間に少しでも遠くへ逃げるのだ!!」

 

「でも、それじゃあ・・・!」

 

「全滅するよりマシだ!『竜の騎士』が2人居ることの意味・・・ようやく理解したぞ。あとは頼んだぞ、ダイ!!」

 

「そんな・・・父さん!」

 

 

 バランはそう告げると、『トベルーラ』を唱えようとした。『五指消滅閃(フィンガーカオスレイズ)』で空いた天井の穴から空へ飛び、少しでも味方から核晶までの距離を稼ごうとしたのだ。

 

 

「プックル、『ぬすっと斬り』!フレイザード、ダイくん、アバン先生、ありったけの冷気を!!」

 

「なっ!?何をする、イル!?」

 

 

 しかし、イルが呼び出したプックルの『ぬすっと斬り』によって、核晶はバランの手からこぼれ落ちた。プックルはそれをキャッチするとイルに向かって放り投げる。宙を舞うそれは氷結呪文によって凍りつき、イルの小さな両手の中に収まった。

 

 イルはありがとう、と呟き全身に力を込めた。するとイルの身体が輝き、その背中からひょこっ、と小さな翼が生えた。それを見たワルぼうが焦った様子で叫びを上げた。

 

 

「イル、何してやがる!『おおぞらのたて』での飛行は専用の着地装置がないと止まれない!自殺行為だぞ!」

 

「うん、それでいいじゃん。だって、今回は着地する必要がないんだから。」

 

「何を言って・・・まさか!」

 

 

 イルはワルぼうにこくり、と頷くと、背中の小さな羽を羽ばたかせた。核晶の氷は既に溶け始めている。急がなければならない。

 

 イルは周囲を見渡し、仲間達の姿を目に焼き付けた。そして、最後の別れを告げる。

 

 

「私は死なないよ。それがマザーとの約束だから。でも、これでお別れかな。」

 

 

 そう言われたダイの表情が悲しみに染まる。アバンは悲痛な顔でイルの目を真っ直ぐに見つめ、バランは無言で唇を噛み締めていた。モンスター達も同様に、悔しさと悲しみの混ざった様子でイルを見上げていた。

 

 

「待ってよ・・・イル!!!」

 

「さようなら、ダイくん。大丈夫、もうわたしがいなくても、きっとバーンには勝てるはずだから。レオナ様と幸せにね!」

 

「イルぅぅぅ!!」

 

 

 最後にそう言い残し、イルは天へ向けて飛び立った。雲の晴れた空から見る世界はとても綺麗だった。氷は既に大半が溶け、今にも核晶は爆発せんとしていた。

 

 これからイルは死ぬ。本当に生き返ることはできるのか。そもそも死ぬというのはどんな感覚なのか。恐怖を数えればキリがないが、それでもイルは目を閉じず、無理やり口角を上げて、最後まで世界を目に焼き付けた。

 

 

「(楽しかったよ、みんな。ありがとう。)」

 

 

 イルは最後にそう、心の中で呟いた。

 

 そして、爆発が起きた。

 

 世界が揺らぐ。音が消える。光が満ちる。

 

 こうして、イルという少女は、この世から完全に姿を消したのだった。

 

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