「一体何をしやがった・・・『メドローア』を跳ね返すなんて・・・!」
「あれは恐らく衝撃波だ。摩擦で燃え上がるほどに腕を早く振るうことで、衝撃波の壁を作り出しているのだろう。直接手を触れぬが故に、『メドローア』すらも通用しないようだ。」
「流石だな、バラン。『フェニックスウイング』をたった一度で見破るとは。だが、これはどうだ?」
そう言ってバーンは足を開き、右手を下段に、左手を上段に上げて構えを取った。傍目には何の変哲もない、むしろ気の抜けたようにも見える構えだったが、それを見たダイ達は不思議と背筋が凍るような感覚を抱いた。
「ほう。流石は余の前に立つ資格を持つ者達だ。この構えの正体までは掴めずとも、何かを感じ取ったようだな。」
「下がれ、ダイ。私がやる。」
得体の知れぬバーンの構えを警戒し、バランは1人前に出て剣を上段に構えた。上空の黒雲から雷が落ち、『真魔剛竜剣』が稲妻を帯びる。そして凄まじい速度でバーンに肉薄し、全力で剣を振り下ろした。
「『ギガブレイク』ッ!!」
しかし、その剣がバーンの身体に届く直前、バーンの顔がニヤリと歪んだ。
「『フェニックスウイング』。」
バーンの右腕が振り上げられる。その衝撃波が剣に宿る雷の魔力を吹き飛ばす。
しかし、『真魔剛竜剣』の勢いは止まらない。バランは勝利を確信し、剣を押し込もうとする。その瞬間、バーンの左手が振り下ろされた。
「『カラミティエンド』。」
暗黒闘気に包まれた手刀が、『真魔剛竜剣』とぶつかり合う。そしてバーンの左手が世界最硬の金属、オリハルコンに食い込んでいき、その刀身を叩き折った。
「馬鹿なっ・・・!」
「『カイザーフェニックス』。」
常識を超えた出来事に驚愕するバラン。そしてその無防備な身体に、爆炎が直撃した。
凄まじい量の魔力が込められたその呪文を受けて、バランは大きく吹き飛ばされ地面に倒れこむ。苦しげに呻くバランの様子を見て、ポップが慌てて駆け寄り回復呪文をかけた。
「大丈夫か、しっかりしろ!」
「ぐぅ・・・3段階のカウンターか。『真魔剛竜剣』を叩き折るとは。」
「これが余の奥義、『天地魔闘の構え』だ。攻撃、防御、そして魔法の3つの動作を同時に行うこの技に死角はない。それ、倒れている暇はないぞ。」
バーンは己の技を語ると、地面に伏すバランに向けて追撃の『カイザーフェニックス』を放った。ポップは急いでバランを抱え、『トベルーラ』でその火球を回避した。
「ちくしょう、落ち着いて回復もできやしねえ!」
「私達が時間を稼ぎます!ダイ君、ヒュンケル!」
「「はいっ!」」
「私も参ります、ダイ様!」
バランの回復時間を稼ぐため、残った4人はバーンに同時攻撃を仕掛ける。3段階の技に対し4つの攻撃。しかし期待も虚しく、次の瞬間には4人は吹き飛ばされ、ダメージによってダイを除く3人は『瞳』に変えられてしまった。その様子を見たバランは顔を歪めつつ口を開く。
「ただ沢山攻撃すれば良いというわけではないという事か・・・。互角以上の威力を持った攻撃でなければ、ものの数にも入らんらしい。『真魔剛竜剣』さえあれば、お前の『メドローア』とダイと私の同時攻撃が有効だったかもしれんが・・・。」
「今は手数が足りねえってことか。くそっ、アイツがいればな・・・。」
ポップが思い描いたのは、先日死の大地にてハドラーを消し飛ばしたフレイザードの存在だった。その奥義である『五指消滅閃』ならば、あの構えを打ち破ることができたかもしれない。
しかしフレイザードは、イルが亡くなった後すぐに何処かへ去ってしまった。ワルぼうなどとは消え方が違うためこの世界のどこかにはいるはずだが、イル無しで彼を味方にすることは難しかっただろう。
ポップが必死で頭を回していると、不意にバランが起き上がり、ポップの回復呪文を手で制した。何を、と尋ねるポップに、バランは厳しい表情で答える。
「これから私は奥の手を切る。だがその状態になれば最後、私は敵を葬り去るまで暴走を止めることができん。ダイを連れて、巻き込まれんように下がっておけ。」
「ほう?遂に見れるのか。伝説の『竜魔人』の戦いが。」
バランは紋章を光らせ、全身から『竜闘気』をこれでもかと噴出させた。凄まじい闘気の高まりに空気がビリビリと震える。
「バラン・・・それは・・・?」
「早く行け!巻き込まんように配慮する余裕はない!」
ポップに抱えられたダイの呻くような声に、バランは険しい声色でそう返した。そんな中、大魔王バーンはニヤリとした表情を崩さずに口を開いた。
「まあそう焦るな、バランよ。お前の全力を見たいのは山々だが、そうなれば余もお前もただでは済まん。その前に話をしようではないか。」
「何だと・・・!何を今更!」
「今更、か。確かにそうだ、その点は詫びよう。だがな、そもそもこの戦いに意味がないとすれば、お前はどうする?」
「意味がない・・・だと?」
バーンの不可解な発言に、バランは昂らせた『竜闘気』を一度抑えた。バーンはそうだ、と言って話を続ける。
「お前達の最終的な目的は、余を打ち倒しこの地上を守ることだ。だが、実のところ万が一余を打ち倒した所で、地上が滅ぶことは変わらんのだ。既に仕込みは終わっているのでな。」
「何・・・だって?」
「『黒の核晶』を覚えているな?ハドラーに仕込んでいたものは小さいものだったが、それでもあの威力だ。そして余が世界各地に降らせた塔、『ピラァオブバーン』には、それぞれ数倍の量の核晶が仕込んである。」
その言葉を聞いたダイとポップは、事実を受け入れられずぽかん、とした表情を見せた。バーンは無理もない、とその様子を嗤い、とどめとなる一言を放った。
「投下場所は、魔法陣の6つの角に合わせて設定した。完成すれば、元の爆発力が増幅され、地上をまとめて消し飛ばすのに十分なエネルギーとなる。そして、今この場所が、最後の一箇所だ。」
「・・・っ!まさか、やめろ・・・!!」
「そういえば、今この真下ではお前達の仲間が戦っているのだったな。安心しろ、最後の顔くらいは見せてやろう。」
バーンは右手に魔力を込め、それをそっと振り下ろした。それと同時に『バーンパレス』がぐらりと揺れ、轟音が鳴り響いた。混乱するダイ達の前に、『あくまのめだま』が召喚される。
『あくまのめだま』が映した映像には、巨塔が『バーンパレス』下部から射出される、まさにその様子が映し出されていた。突然訪れた絶望に、ポップは膝から崩れ落ちた。
「嘘だろ・・・こんなことって・・・。」
「くくくっ、いい表情だ。己の手ではどうしようもない現実に打ちひしがれろ。そして見届けるのだ、地上の最期の瞬間を!」
映像は地上のものに切り替わり、魔王軍と戦う仲間達の姿が映し出される。しかしその上空には、徐々に大きさを増していく巨塔の存在が映っていた。
地上の彼らもそれに気付き、そして絶望の表情を見せる。敵も味方を入り混じり避難を始めるが、とても間に合いそうにない。
そして、遂に映像の全てが赤く燃えながら墜落する塔で埋まった。その瞬間を想像し、ダイとポップはぎゅっと目を閉じる。
「・・・?」
しかし、予想に反してその音は聞こえてこなかった。不思議に思ったポップは恐る恐る目を開けた。
「馬鹿な・・・!何が起きた!?」
そこには塔が消え無事を喜ぶ仲間達の映った映像と、焦った表情でそれを覗き込むバーンの姿があった。ポップはほっと息を吐き、隣できょとんとした表情をしているダイの背中をバシッと叩いた。
「よくわかんねぇけど、助かったらしいぜ、ダイ!」
「うん、よかった・・・本当に。」
「ええい、何だというのだ!他の核晶も反応せんではないか!くそっ、こうなれば・・・!」
怒り狂ったバーンの瞳が、ダイ達の方へと向けられた。先程までの余裕のある様子とは打って異なり、その全身からは攻撃的なオーラが放たれねいる。それに応じて、ダイ達3人も構えを取った。
「貴様らを葬り去れば、余の勝利には変わりはない!消し炭にしてくれる!!」
「来るぞ!!」
「カイザーフェニック・・・!!??」
しかし、またもその瞬間が訪れることはなかった。バーンの身体が、呪文を唱えようとした姿勢で止まったのである。
ダイ達もその光景を見てぴたりと固まった。バーンの様子を見てではない。その背後に浮かぶ、漆黒の球体から放たれる威圧感によってである。
そしてその奥から突然、白い怪物の腕が飛び出した。それはバーンの身体を掴むと、黒い球体の中へ引き摺り込もうとする。バーンは抵抗しつつ叫びを上げる。
「ぐっ、くそ・・・!何だこの力は!?貴様は誰だ・・・!何が目的だ・・・!!!」
「・・・。」
バーンは闘気と魔力を解き放ち、文字通り全力でその場に踏み止まろうとした。金色の魔力が、一瞬怪物の腕の動きを止める。
しかし、それもほんの一瞬のことだった。球体の奥から悍ましい雄叫びが響くと、その腕から赤黒い魔力が立ち上り、再びバーンの身体がジリジリと引き摺られていく。その瞬間、バーンの表情が驚きに染まった。
「そういうことか・・・!これがお前の・・・!ククク・・・やはり余の目に狂いはなかった・・・!」
「・・・・・・・・・。」
「決着は譲ってやろう。見届けるとしよう、お前の描く結末を・・・!」
そう言い残し、バーンの身体は漆黒の中へ消えていった。それと同時に球体もまた姿を消し、あたりに静寂が訪れる。
「終わった・・・のか?」
「・・・そのようだな。」
呆気ないその終わりに、3人はどこかふわふわとした思いを抱くのだった。