思わぬ形で勝利を手にしたダイ達は、『瞳』から解放された仲間達とひとまず勝利を喜びあっていた。しかし、その表情はどこか晴れない。バーンを倒した謎の生物の存在が、彼らに油断を許さなかった。
「何だか、勝った気がしないね。」
「ああ、まさかバーンをあんなあっさりと倒しちまう奴がいるなんてな。・・・しかも、あんまり良くねえ気配に感じたぜ、何もなければいいけどよ。」
ダイとポップの言葉に、その場にいた全員が考え込む仕草を見せる。しかし、それも長くは続かなかった。主を失った『バーンパレス』が落下を始めたのだ。
「不味いですね、ポップ!」
「はい!『ルーラ』!!」
自力で飛行できないヒュンケルやクロコダインを連れて、ポップとアバンが『ルーラ』を発動させる。ダイとバランはそれを『トベルーラ』で追いかけた。
しかし、状況は未だ芳しくない。このまま行けば、落下した『バーンパレス』に地上の仲間達が巻き込まれてしまう。『バーンパレス』と並走して降下しつつ、ダイはそれを防ぐ術を考えていた。
これまたしかし、それもまた杞憂に終わる。
「また・・・!こんなに大きいものも飲み込めるんだ・・・!」
漆黒の球が再び現れ、今度は『バーンパレス』を包むようにして広がった。そして完全に覆い隠したと思った次の瞬間、それは『バーンパレス』諸共姿を消した。
こうして危機は去り、地上に戻ったダイ達はレオナ達によって歓声と共に迎えられた。
「遂にやったのね!本当に偉いわ、ダイくん!」
「うーん・・・やったと言っていいのかなぁ・・・。」
「あら、浮かない顔ね。何があったの?」
ダイ達は上空で起きたことについて語った。誰もが首を傾げる中、口を開いたのはカール王国の女王、フローラだった。
「確かに不安は尽きないけれど、今はそれを気にしても仕方がないわ。今は人類の勝利を喜びましょう。」
調べる術も無い以上、気にしてもどうしようもない。ダイ達はフローラの言葉に頷き、ようやく一息つこうとした。
その時だった。上空からある魔族が降ってきたのは。
「畜生・・・どうしてこんな事に・・・!」
「『ひとつめピエロ』に・・・キルバーン!?いや、まさかアイツがイルの言っていた・・・!」
「ヴェルザー様とも連絡がつかない・・・お前達のせいでぇっ!!」
イルによって正体が知られていることもあり、『ひとつめピエロ』のピロロはキルバーンの正体を隠すこともしなくなっていた。怒りとともに叫ぶその隣には、無表情で直立するキルバーンが立っている。
その理不尽な発言に、ポップがおいおい、と反論する。
「ちょっと待て、最後にバーンを倒したのは俺たちじゃねえし、そもそもヴェルザーってのも心当たりがねえよ!」
「うるさいうるさいっ!こうなりゃヤケだ、お前ら全員吹っ飛んでしまえ!!」
しかしピロロはポップの言葉に耳を貸さず、キルバーンの身体に向かって何かの魔法を放った。嫌な予感がしたマァムが素早くピロロを打ち倒したが、一足遅かった。
「まさか、これは『黒の核晶』!?」
「まだ隠してやがったのかよ!くそっ、起爆寸前じゃねえか!」
ポップはちらり、とバランの顔を伺った。以前『竜闘気』で爆発を抑えようとしていたのを覚えていたためである。
しかし、バーンとの戦いの傷が大きかったのか、バランの顔色は優れない。あの状態で爆発を抑え込めば、バラン自身も無事では済まないだろう。その上で、そもそも爆発を抑え切れるかの不安も残る。
そうなれば、答えは一つしかない。ポップは迷わずキルバーンの身体に駆け寄り、『トベルーラ』を発動しようとした。
ほぼ同時に、レオナと話していたダイも同じ決断をしていた。ポップとダイは顔を合わせ、決意を込めた表情で叫んだ。
「行くぞ、ダイ!!」
「うん!『トベル「困るよそれは、わたしが頑張った意味がなくなっちゃう。」」
しかし、彼らが空へ飛び立つ未来は訪れなった。聞き覚えのある高いこえがダイの言葉を遮ったかと思うと、漆黒の球が再び現れ、そして中から氷の腕が伸びてきた。
「ちっ、今いいところだったのによォ。」
「こんな人混みでアレは出せないからしょうがないじゃん。よろしくね。」
「ケッ、『マヒャデドス』!!」
警戒したダイとポップは反射的に飛び退き、キルバーンの身体から離れた。球体の中から呑気な会話の声が漏れ出る。そして、氷の腕から凄まじい冷気が放たれた。
時間さえ止まってしまいそうな、恐ろしい氷結呪文。至近距離で放たれたそれは、キルバーンの身体を一瞬で氷の像に変え、遂には核晶の鼓動を完全に止めた。
呪文が終わると、キルバーンの形をした氷はガシャン、と粉々に砕け散り、機能を止めた核晶だけがコトリ、と地面に落ちた。
そして、1人の少女がその側に降り立ち、核晶に触れた。
「冷たっ!」
「当たり前だろ馬鹿。」
「むう。・・・これでよしっ、と。これで最後かな。」
しかし触れたそれのあまりの冷たさに、少女はその小さな手を引っ込めた。気づけばその背後に控えていた氷炎の魔人が、主のその様子に呆れた声を漏らす。
手袋をして、少女は改めて核晶を手に取った。そして、身構えていたダイとポップに顔を向ける。その顔を見て、2人は即座に警戒を解き、そして抑えきれない喜びと共にその名を呼んだ。
「「イル!!!」」
「久しぶり、って程でもないかな?また会えたね、みんな。」
もう会えないと思っていた仲間の帰還に、他の仲間達も続々と駆け寄ってくる。そこに先程までの不安の表情はない。あの謎の球体と怪物も、この少女の仕掛けならば心配ないだろうと思ったからだ。
こうして、人類は遂に勝利を確信し、喜びに浸ることができた。
「・・・。」
核晶を持つイルの瞳の奥に、赤黒い光が揺らめいていることに気付かずに。