オリジナルとモンスターズ要素が爆増します。
魔王軍との戦いが終わり、まさにその場は歓喜の渦に包まれていた。ある者は肩を組んで歌い、ある者は踊り出す。喜びの騒ぎは収まる気配を見せなかった。
しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。頃合いを見て、フローラがパン、と手を叩いた。人類連合の主が出した合図に、その場の皆が居住まいを正した。
「もう少し余韻に浸りたいところではありますが、まだ私達にはやるべきことがあるはずです。続きは戦いの爪痕が癒えた後に盛大に行うとしましょう。」
フローラのその言葉に、連合軍の面々は大きな声で返事をし、そして『ルーラ』でそれぞれの国へと帰っていった。ひとり、またひとりとその場から人が減っていき、そして遂にその場にはダイ達とフローラを残すのみとなった。
フローラの申し出により、ダイ達はまずカール王国に招かれる事になった。レオナは自国に真っ先に来て欲しそうであったが、尊敬するフローラの頼みであったことから、素直にそれに頷いた。
「あれっ、イルは?」
「さっきまで居たはずだけど・・・もう帰っちゃったのかしら?」
早速『ルーラ』を唱えようと集まる一同。しかしそこで、イルがいない事にダイが気付く。少し前までイルと話していたらしいマァムも、行方がわからず首を傾げた。
その時、雲ひとつない快晴だったにもかかわらず、周囲が突然暗くなった。
疑問に思ったポップは上を向いた。そして目にした光景に、飛び出そうなくらいに目を見開いて叫んだ。
「に、逃げろぉぉぉ!!!」
上空には、先程消滅したはずの『ピラァオブバーン』が再び姿を現しており、ダイたち目掛けて落下してきていた。ポップの声に反応し、慌ててその場の全員が退避の姿勢を見せる。
『ルーラ』や『トベルーラ』を駆使し、ダイたちは何とか落下点から逃れることに成功した。そしてその直後、巨塔が墜落し凄まじい衝撃波が吹き荒れた。
ようやく衝撃が収まり、ダイたちは目の前に聳え立つ巨塔を呆然と見上げていた。バーンはもう居ない。いや、居たとしても、目の前の塔はバーンの思惑を外れて消滅していたのだから、バーンの意志で再び落とされたとは考えられない。
であれば、この塔を操れる存在は。
そこに思考が追いつく寸前、ダイの頭上から少女の声が降ってきた。
「流石にこれでやられたりはしないよね。安心したよ。」
「・・・イル!やっぱりこれは・・・。」
「うん。わたしの仕業だよ。」
ふわふわと空に浮かんだイルは、小さく微笑みながらそう言った。ダイが恐る恐る、といった様子でイルに問いかけると、イルはあっけらかんとして己の行いを認めた。状況を咀嚼しきれず、思わずポップは声を荒げた。
「おい、冗談きついぜ。イルが俺たちを殺そうとなんてするもんか。正体を見せやがれ!」
その言葉を聞いたイルはぽかん、とした表情で固まった。そして暫くすると、お腹を抱えて笑い始めた。ポップが顔を歪めて何が可笑しい、と再び叫ぶと、イルは笑いを堪えて言葉を返した。
「ふぅ、ごめんごめん。そう来るとは思わなかったからさ。残念だけどわたしは本物のイルだよ。」
「何だって・・・。なら、どうしてこんなことを!」
「どうして?そんなの決まってるよ。・・・この世界をぶっ壊してやりたい、そう思ったからだよ!」
イルがそう叫ぶと、その全身から赤黒い魔力が立ち上った。その様子を見て、アバンがポップに向かって叫んだ。
「ポップ!今のイルさんはどこかおかしい!何とか落ち着かせて治療を試みましょう!!」
「わかりました!悪いなイル、ちょっと痛いぜ・・・『ベギラマ』!!」
ポップは手のひらに魔力を集め、イルに向けて『ベギラマ』を放った。手加減はしてはいるものの、戦闘能力のないイルには十分な威力である。
呪文が直撃し、イルの浮かんでいた場所に爆炎が立ち上る。一瞬やりすぎたか、と思ったポップであったが、炎の中から現れたイルは予想に反して無傷だった。
「優しいね、ポップくんは。でもそれじゃあ今のわたしは止められないよ。」
「くそっ、んなこと言ったってよ・・・。」
「・・・止める気がないなら、準備は整ったしもう行くよ。『ルーラ』!」
「あっ、待て!!」
イルに手加減を咎められるも、ポップは仲間に本気で呪文を打つことを躊躇してしまう。少しの間イルはじっとその場で待っていたが、追撃が来ないことに小さくため息をつくと、『ルーラ』で何処かへ去っていった。その飛んで行った方向を見たバランが、イルの行き先を口にする。
「あの方向にあるのは旧アルキード王国か。私と接触を図った際にイルも訪れていたな。」
「嫌な予感がします。追いかけましょう!」
アバンの言葉に頷いて、ダイ、ポップ、アバン、バランがイルの後を追った。普段ならすぐに追いつける筈だが、怪しげな魔力で強化されたイルの『ルーラ』は速度まで上がっている。最後まで距離は縮まらず、ダイ達はイルの目的地への到着を許してしまった。
そこはバランの妻、ソアラの祖国であるアルキード王国のあった場所だった。『竜の騎士』の怒りに触れて滅び、今はその痕跡すら残っておらず、大陸の中央に位置する空白地帯となっていた。その中心でひとり空に浮かぶイルは、ようやく追いついてきたダイ達に向けて口を開いた。
「ねえ、ダイくんはバーンが地上を滅ぼそうとした理由は聞いた?」
「・・・ううん。バーンは人間の『弱さ』は『罪』だ、とは言ってたけど・・・。」
「そっか、バーンはね・・・。」
イルはバーンが地上を攻めた本当の理由を語った。天界の判断により、魔族のみが太陽の恵みを奪われ、奪い合うことでしか生きていけない世界に閉じ込められたこと。一方で人間が、魔族よりも『弱い』という理由だけで豊かな地上が与えられたこと。そして、バーンが地上を消し去ることで、魔界に太陽の光を降らせようとしていたことを。
「バーンのやり方は間違っていたとは思う。だからわたしはそれを止めたよ。けど、バーンは嘘はついていなかった。魔族が世界に嫌われているのも、『強さ』が迫害されるのも。それはきっといつか、ダイくんにも牙を向くと思う。」
「・・・。」
「だから、わたしは考えたんだ。どうしたら人と魔族が対等になれるのか。魔界にも太陽の光を届かせられるのか。『竜の騎士』の呪われた運命を覆せるのか。」
淡々と語るイルの声には、聞く者を惹きつける魔力があった。次々と語られる理不尽な現実の数々。それを覆す御伽話の様なことを、本当にやってのけそうな雰囲気が今のイルにはあった。
そんな都合の良いことが、真っ当な手段で行われるはずがないのに。
「だから決めたんだ。わたしが、この世界を根底から創り変えようって。そのために戻ってきたんだ。」
「・・・!」
「見せてあげる、これがわたしの出した答えだよ!!」
イルは叫びと共に、赤黒い魔力を解き放った。6つに分かれた魔力は凄まじい速度で各地へと散らばっていく。そして数秒後、世界がドクン、と揺らいだのを誰もが感じた。何が起きたのか察したアバンが、まさか、といった顔でイルに尋ねた。
「この方角に、この威圧感・・・。イルさん、まさかあなたは、『黒の核晶』を・・・!?」
「その通りです。わたしが止めたものだから、わたしが起動できるのは当然ですよね?」
「何てことを・・・イルッ!!」
恐ろしい事を告げたイルに、ついに迷いを振り払ったポップたちが全力の攻撃を仕掛けた。しかし、彼らの前に再び漆黒の球が現れる。そしてそこから伸びる
「くそっ、何て力だ・・・。」
「さあ始めるよ。世界が一つになる瞬間を!来て、『ヤミ』!!」
イルがその名を呼ぶと、これまでとは比べ物にならないほど巨大な闇の球体が空に現れ、そしてその中から、白い異形の怪物が姿を現す。
雲まで届くかと思わせる巨体。人間の様な姿かと思えば、その手足には竜の如く鋭い爪が生えており、目のないつるりとした頭は対峙した者に生理的な恐怖を植え付ける。
かつて幾つもの世界を滅ぼしてきた、最悪の魔物。『狭間の闇の王』がここに再誕した。
イルは闇の王の顔の横へ移動すると、最後に残った『黒の核晶』を放り投げた。世界各地に散らばった『黒の核晶』が六芒星の魔法陣を作り出し、そしてその魔力がその中心にある最後の核晶に集まってくる。
その莫大な魔力を用いて、『狭間の闇の王』が呪文を練り上げていく。禍々しく、そして神々しいその様子に、遂にはダイ達も武器を下ろし、黙ってそれを眺める他なかった。
名もなき呪文が完成する。その瞬間、イルと『狭間の闇の王』を除く、全ての生命の意識が失われた。
それはまるで、矛盾を隠すための世界の防衛機構の様であった。観測者のいない中、空間が歪み、境界が壊れ、隔離された2つの世界が一つに統合されていく。
「ヤミ。」
「わかっておる。ククク、貴様に目覚めされられた時は気でも狂ったかと思ったが・・・我の想像を超えた愚か者だな、貴様は。」
イルが闇の王に声をかけると、邪悪な笑い声を上げた闇の王はイルの周囲に3つの漆黒の球を作り出した。そしてそれぞれの中から、これまた凄まじい威圧感を放つ魔物達が姿を現した。
「『ゾーマ』、『デスタムーア』、『オルゴ・デミーラ』か。どれもそれぞれの世界において、一度は世界を支配してみせた強者達だな。」
「うん、ピッタリでしょ?よろしくね、みんな。」
イルの言葉に頷き、大魔王達は各地へと散っていった。最後にイルは一つの『魔法の筒』を取り出し宙に放り投げた。
限界を超えたものが収納されていたらしいその筒は、イルの号令を待つ事なく中から弾け飛び、そして巨大な城の魔物、『ヘルクラウド』が姿を現した。
『ヘルクラウド』は徐々に高度を下げ、そしてかつてアルキードの城があった場所に着陸した。その中は、イルが
城に着地したイルはとことこと歩き、そして玉座にぴょんと飛び乗った。モンスター達は自然と玉座の周りに集まり、膝をついて頭を垂れる。
新たな『大魔王』は、ぷらぷらと揺れる足を組み、高さの合わない肘掛けに腕を乗せて呟いた。
「さあ、試練の時だね。ダイくんはここまで来れるかな?」
そう言って、彼女は『勇者』の目覚めを待つのだった。