「んっ。・・・ここは?」
目を覚ましたダイは布団から体を起こし、あたりをきょろきょろと見回した。どうやらどこかの洞穴の中らしく、薄暗い空間を、パチパチと音を鳴らす松明がぼんやりと照らしていた。
まだはっきりしない頭で状況を整理しようとしていると、入り口の方から物音がした。ダイは反射的に身構え、目を凝らしてその正体を見極めようとする。
ダイの姿を見て、物音の主はおお、と声を上げた。そしてまたダイも、その声を聞いてすぐに警戒を解いた。
「目が覚めたのか、ダイ!」
「じいちゃん!おれは・・・おれは・・・!」
「落ち着くんじゃ。痛むところはないか?ゆっくりでいい、何があったか話しておくれ。」
物音の主はダイの育ての父、ブラスだった。唐突に訪れた再会に、ダイは感極まった様子を見せる。落ち着かない様子のダイに対し、ブラスは優しい声で言葉を促した。
「・・・なるほど、そんなことがあったんじゃな。まさか、この異変の犯人がイルじゃったとは。」
「異変?じいちゃん、外はどうなってるの?」
「そうか、ダイはまだ見ておらんかったのう。ついて来い。」
プラスに促され、ダイは洞窟の外へと顔を出した。そして景色を見て、目を見開いた。
「何だこれ、空が・・・!」
「わしもあの日突然気を失ったのじゃが、目が覚めてからはずっとこうじゃ。アバン殿の作ってくれた結界も壊れてしまった。以前のように魔物達が暴走するようなことは無かったのが幸いじゃ。」
空は厚い雲に覆われており、太陽は完全に覆い隠されていた。にもかかわらず、雲から降り注ぐ赤い光が世界を照らしている。
真紅に染まった景色が、現状の異常さをこれでもなく表していた。
「雲だけではない。あれを見てみろ。」
「山がふたつ・・・?あれ、じいちゃんがいるってことは、ここはデルムリン島だよね?」
「そうじゃ。もともと島にはひとつしか山はなかったが、いつの間にかああなっていた。他にも地形が変わった場所がいくつもある。」
ブラスの言う通り、目に見える範囲でも違和感のある場所がいくつもある。幼少期から島を走り回ったダイにとっては、デルムリン島に見知らぬものがあること自体が非常事態である。
そこで、ダイはふと生じた疑問をブラスにぶつけた。
「ところで、おれはどうしてデルムリン島に居るの?イルを追って旧アルキードのあたりに行ったはずなんだけど・・・。」
「それはわからん。わしが目覚めた時には既に、おまえが目の前で眠っていたんじゃ。いつ、誰がここへおまえを送り届けたのかは見当もつかん。」
ブラスの返答を聞いて、ダイはますます頭を悩ませた。目の前の光景が異常なのはわかっている。しかし、あまりにも状況が掴めないために、何処から手をつけていいのかわからなくなってしまったのである。
うんうんと唸るダイ。そんな時、突然ダイの頭の中に声が響いた。
「(・・・こっちだ。こっちへ来い、『竜の騎士』の卵よ・・・。)」
驚いたダイは、咄嗟にブラスの方を見た。しかしブラスはダイの動きに戸惑った様子を見せている。どうやら、この声が聞こえているのは自分だけらしい。
「(・・・早く来い。今世界で起きていることについて教えてやる・・・。)」
「何だって・・・?お前は誰だ、どうしてそんな事を知ってるんだ!」
「(それはお前自身の目で確かめるがいい。急げ・・・手遅れになりたくなければな。)」
声が聞こえたのはそれきりだった。ダイは困惑しつつも、聞いた内容をブラスに話した。ううむ、と唸ったブラスは、僅かな思考の後にこう答えた。
「もしやすると、その場所は火山の麓の洞窟のことかもしれん。島の中でも、最も違和感が大きいのがあのあたりじゃ。まるで何か、強大な存在に睨まれているような感覚がある。」
「洞窟・・・レオナの洗礼で使った場所かな?どうしてそんな場所に?」
「わからん。そもそもそこが声の主の指す場所なのかどうか・・・。だが、何もしないよりはマシじゃろう。」
こうして、ダイとブラスは洞窟を調べに火山へと足を運んだ。少々景色は変わってしまっているが、ダイにとっては久しぶりの故郷である。場違いなのは自覚しつつも、ダイは少しだけ軽い足取りで進んでいった。
そして、ダイは件の洞窟へと辿り着いた。中を覗き込むと、ダイはすぐに異変に気付いた。
「この洞窟ってもっと自然な感じだったよね?なんか石像とか飾られてるけど・・・。」
「この先に何かが棲みついて居るのは間違いないじゃろう。ダイ、気をつけるんじゃぞ。」
松明を手に、ダイとブラスは慎重に洞窟を下っていく。不気味な装飾に見守られつつ進んでいくと、不思議と周囲は明るくなっていった。『バーンパレス』にも使用されていた、青白く輝く水晶によるものである。
バーンの城に使われていた、と言う事から、ダイは嫌な予感がするのを感じた。そんな中進んでいくと、ふたりの前に石でできた重厚な扉が現れる。左右を見ても、ここを開けるほかに道はない。ダイは覚悟を決めて扉を開け放った。
中は広間になっており、その中心には台座とそれに乗る竜の石像があった。しかし、他に目立ったものは見られない。ダイが立ち止まり周囲を観察していると、頭の中に再びあの声が聞こえてきた。
「(心配せずとも、何も仕掛けてはおらん。その力すら、今のオレには惜しいのだ。もっと近くに寄れ。)」
「寄れって・・・どこに?」
「(目の前にあるだろう?その像に近づけ。)」
ダイは警戒を解くことなく、ゆっくりとその像に近づいていった。そして、ダイが像の目の前に立つと、突然額の紋章が光り、そしてそこから石像に向かって光が伸びた。
「やはりこういう仕掛けか・・・あの小娘め、やってくれるわ。」
「っ! 声が・・・!?」
「礼を言うぞ、小僧。少々不恰好ではあるが、15年ぶりの自由だ。」
光が収まると、何と石像が喋り出し、ぱたぱたと小さな羽を羽ばたかせた。そして同時に生じる、強烈な威圧感。ダイが片手に抱えられる程の大きさからは想像もつかないその存在感に、ブラスが恐る恐るその名を尋ねた。
「貴方は・・・まさか。」
「名乗っていなかったな。では教えてやろう。」
広間をぐるりと滑空していた石像は、ブラスの問いに答えるために、もとの台座へと着地した。そして、堂々とした様子でその名を告げた。
「オレの名はヴェルザー。かつてバーンと共に魔界の覇を競った、竜族の王だ。」
ヴェルザー(ヘルビースト)