イルとダイの大冒険   作:NBRK

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第8話 絶望を前に

 

「おい、大丈夫か、小僧!」

 

「くっ、この呪文・・・やっぱりイルの・・・。」

 

 

 『マダンテ』の発動を見たダイは、咄嗟にヴェルザーを背後に庇い、『竜闘気』を全開にして迎え撃った。

 

 しかし、いかにダイの力が強力とはいえ、『大魔王』にと呼ばれる存在の全魔力が込められた一撃に対しては分が悪かった。全身からプスプス、と煙を上げ、ダイはその場に膝をつく。

 

 その姿を見て、ヴェルザーが馬鹿野郎、と叫んだ。

 

 

「どうしてオレを庇った!お前、あの呪文のこと知ってたんだろうが!正面から受けるなんて正気の沙汰じゃねえぞ!」

 

「そんなこと言ったって・・・体が勝手に動いちゃったんだよ。それに・・・イルならきっとこうしたよ。」

 

「!」

 

 

 ダイは痛む体に鞭を打ち、ふらりと立ち上がった。そして、ヴェルザーの問いかけに小さくはにかんで言った。

 

 

「ヴェルザーが昔何をしてたのかは知らないけど、おれからしたらちょっと物知りなヘルビーストと変わらないよ。それを見捨てるなんてできるわけがない。」

 

「・・・なるほど、『勇者』か。」

 

 

 ダイはそれだけ言って、『ダイの剣』を引き抜いた。相対するオルゴ・デミーラがグフフ、と邪悪な笑みを浮かべる。

 

 

「美しい光景だな。だが甘い。どこぞの漁師の息子はこの程度そよ風のように受け切ってみせたぞ。」

 

「漁師・・・?何を言ってるのかわからないけど、その呪文は全ての魔力を解き放つってイルが言ってた。そっちだって余裕はないはずだ!」

 

「ああ、そんな事か。」

 

 

 オルゴ・デミーラはつまらなそうにそう言うと、目を閉じ、祈り始めた。

 

 あたりに邪悪な力が溢れ出し、オルゴ・デミーラの魔力がみるみる回復する。

 

 

「そんな・・・!」

 

「覚えておくがいい。魔力を自在に操るからこその、『魔族』。その王たる者たちに、魔力切れなどという概念はない。」

 

 

 魔力を回復させたオルゴ・デミーラは、再び『マダンテ』の体勢に入った。

 

 解き放たれた魔力を受けて、ダイの視界がぐわんぐわんと揺れ動く。立ち上がって構えなければならないのに、体が言うことを聞かない。

 

 そんな時、ヴェルザーの叫びがその場に響き渡った。

 

 

「『ドラゴラム』!!」

 

「っ、ヴェルザー!?何を!」

 

「けっ、まさかこのオレが、こんな呪文に頼ることになるとはな・・・。小僧、お前はそこで寝てろ。ちょっとでも体力を回復させておけ。」

 

 

 ダイとオルゴ・デミーラの間に、巨大な竜が姿を現した。それはアバンが化けたものとは全く違い、荘厳な姿をしていた。ここで初めて、ダイはヴェルザーが本物の『竜族の王』であったことを実感した。

 

 

「くっくっくっ、殊勝なことだ。見かけは立派だが、その本質が矮小な魔物であることには変わりない。我の呪文を受けて、どうなるかは分かっておろうな?」

 

「フン、合理的判断ってやつだ。『竜の騎士』は気に食わねえが、このダイは少しはマシらしいしな・・・。少なくとも、黙ってテメェにやられるよりは数倍気分がいいぜ。」

 

「その強がりがどこまで続くか、見ものだな。『マダンテ』!」

 

 

 暴走した魔力が爆発を起こし、ヴェルザーに襲いかかる。それを正面から受け、ヴェルザーの体が轟音を立てつつ地面に崩れ落ちる。

 

 しかし、ヴェルザーはぐぐぐっ、と立ち上がり、再びオルゴ・デミーラに向き直った。愉快そうに笑うオルゴ・デミーラは、無慈悲にも再び祈りを捧げ魔力を回復していく。

 

 再び『マダンテ』が放たれる。ヴェルザーが倒れ、そしてまた立ち上がる。何度も繰り返されるその光景を見て、ダイの瞳に涙が滲む。

 

 

「もういいよ、ヴェルザー!!それ以上は・・・!」

 

「うるせぇ・・・!寝てろって言っただろうが・・・。」

 

「そんな、どうして・・・。」

 

「へっ、お前が言ったんだろうが・・・。体が勝手に動く、ってな。」

 

 

 何度目かも分からない『マダンテ』を受け、ついにヴェルザーの『ドラゴラム』が解けた。ちっぽけな石像に戻ったヴェルザーは、ぼろぼろの顔を不敵に歪めてそう言った。

 

 ダイはヴェルザーを腕に抱えこみ、顔を伏せて涙を溢した。しかし、無慈悲な言葉が響き渡る。

 

 

「『マダンテ』。」

 

 

 『竜闘気』を身に纏うダイ。しかし、その表情は、悔しさと悲しみに満ち溢れている。抵抗に意味がないことを、誰よりも強く理解しているからだ。

 

 この一撃を耐えたところで、またすぐに次の一撃が来る。そしてその時、もはやダイに抗う力は残っていないだろう。圧倒的な力を前にして、ダイの心は今にも擦り切れようとしていた。

 

 死を前にして、これまでの思い出がダイの頭を駆け抜ける。一際強く思い起こされたのは、この事態を引き起こした少女のことだった。

 

 

「(何でよ、イル・・・!イルは強くて、優しくて、ちょっぴり子供っぽくて・・・全部、嘘だったの・・・?)」

 

 

 イルとの思い出はどれも綺麗で、だからこそダイは、あの日のことは何かの間違いであったと信じたかった。

 

 だが、目の前の魔物の存在が、ダイの希望を打ち砕く。あんな魔物を従えられるのは絶対にイルしかいない。そしてその魔物は今、暴力と残虐性を持ってダイを殺そうとしている。

 

 この世の理不尽を嘆きつつ、ダイはじっとその時を待った。せめて逃げてたまるかと、オルゴ・デミーラから目を離さずに。

 

 しかし、その時は訪れなかった。

 

 

「『ドルオーラ』!!」

 

「っ!」

 

 

 ヴェルザーの足掻きは無駄にはならなかった。オルゴ・デミーラの背後から放たれた一撃は、その身体を大きく揺らし、『マダンテ』を逸らすことに成功した。

 

 ダイは目をぱちくりとさせながら、その呪文の主を見つめていた。その姿は記憶にあるものと大きく違うが、それでもその人物であることは本能が察していた。

 

 ダイの腕の中で、ヴェルザーが忌々しそうにその名を呼んだ。

 

 

「バランか・・・。遅いんだよ。」

 

「色々気になることはあるが・・・話は後だ。立てるな、ダイ?」

 

「うん・・・!」

 

 

 ダイはそっとヴェルザーを地面に下ろし、『ダイの剣』を背中から引き抜いた。その隣に、『竜魔人』と化したバランが着地する。

 

 『竜の騎士』と『冥竜王』。交わるはずのないその二つの存在。しかし迫り来る絶望を前にして、小さな奇跡が産声を上げたのだった。

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