デルムリン島にて。
<戦いのあとに>
ハドラーが去ったあと、イルとポップ、ブラスの3人はダイ達の治療に追われていた。
ダイは戦いの後気を失ってしまったが外傷は少なく、今はブラスが様子を見ていた。しかしアバンの傷は回復呪文でもすぐには治せない重症であり、魔法力の尽きた中での治療は難航した。
そんな中、手際がよかったのはポップだった。負傷したアバン本人からもアドバイスを受けつつだが、慣れた手つきでアバンの身体に包帯を巻いていく。イルは『特やくそう』をすり潰しながら、感心したようにそれを見ていた。
「アバンさん、どうぞ。」
「ありがとうございます、イルさん。ポップもありがとうございます。固定してだいぶ楽になりました。」
「ポップくん上手だね。こういうの慣れてるの?」
「そんなことはねぇけど、必要なことだってよく先生が教えてくれてたんだ。回復呪文もあるし、先生の手当てをすることになるなんて思わなかったですけど。」
「ははは。私も昔はよく怪我をしましたし、今回のように回復呪文が使えないこともざらでした。魔法に頼らない技術は身につけていて損はないですよ。」
その会話を聞いたイルはなるほど、と頷いた。モンスターマスターという役職上、イル本人が怪我をすることはあまり多くなかった。その上、万が一の時はルーラでマルタへ帰れば安全に治療を受けられたことから、今までイルは怪我をした時の備えというのはそこまで重視していなかった。
しかし今は違う。ここにはふしぎな扉が無く、ルーラでマルタへ向かおうとしてもかき消されてしまっていた。回復呪文の使えないイルには今後こうした技術も必要であった。
「でもそれこそイルも、よく特やくそうなんて持ってたな。高級品だろそれ?」
「戦いが始まったらわたしは何もできないからね。道具くらいは持ってないと。他にもいろいろ持ってるよ。」
そう言ってイルは、『ふくろ』の中から色々な道具を出してみせた。
「おや、この葉はまさか、『せかいじゅのは』ですか?」
「『せかいじゅのは』!?それって使えば死人だろうが蘇るって伝説の!?なんでそんなもん持ってんだ!?」
「えっと、買ったり、拾ったり?」
「お前もしかして貴族の娘かなんかか?しかも拾ったってなんだよ・・・?」
確かにイルは大牧場の娘として裕福な方ではあるが、お金は自分で得たものを使っているし、拾ったものは拾ったものなので他に言いようはない。いずれにせよ、イルは自分の持っている道具のいくつかはこの世界では気楽に見せない方がいいことを察した。
「すぐじゃないと効かないし、寿命とかで亡くなった人には意味ないからそんなに便利なものじゃないよ。一枚いる?」
「うわっ、そんな適当に放るな!」
「アバンさんもどうぞ。怪我にも効いたらよかったんですけど・・・。」
「おや、よいのですか?では一枚いただきますね。これは使う時どうすればいいのでしょうか?」
「えっと、亡くなった人や魔物の胸元に乗せて、こう、祈るときらきら光って生き返ります。」
「なるほど、薬の類ではなく神の奇跡を起こす触媒に近いのでしょうか、これは興味深い・・・。」
イルが『せかいじゅのは』を渡すと、ポップは壊れものを触るように恐る恐る、アバンは興味深そうにしながらそれを手に取った。しばらく手元の葉を眺めていたポップがふと疑問を口にする。
「こんなもんが必要なほど過酷なのか?イルの世界は。」
「今はそんなことないけど、前に大変な時期があってね。それによく、モンスターマスターの戦いは始まる前に決まってるって言われてるんだ。だからこそ出来るかぎり魔物を強く育てるのはもちろんだけど、お金でできる準備はしておこうって決めてるの。」
「金言ですね。ポップも見習わなくては。そろそろダイくんと一緒にスペシャルメニューに参加しますか?」
「うぇっ!?い、いや〜俺はもう少し基礎を固めてからの方がいいんじゃないですかね〜?」
「あはは、頑張って!ポップくん!」
「イル、お前まで〜。」
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<モンスターマスター体験?>
「ピッ、ピッ!」
「ふんふん、へぇ〜そうなんだ!だからあの時・・・。」
「あれ、イルとゴメちゃんだ。何してるの?」
怪我も良くなったことで散歩をしていたダイは、何やら楽しそうに話す2人に声をかけた。声をかけられたイルはビクッ、と少し驚いたようにして振り返った。
「わっ、ダイくん。もう怪我は大丈夫なの?」
「うん、もう全然平気だよ。寝転がってるのも飽きちゃって散歩してたんだ。そしたらふたりの声が聞こえて、どうしたのかなって。」
「ちょっとないしょの話を・・・ね?」
「ピッ!」
ダイが再び尋ねるも、イルとゴメが答えてくれる様子はなかった。蚊帳の外にされて少しもやっとする一方で、ダイはあることに気づいた。
「そういえば、イルはゴメちゃんの言ってることがわかるの?」
「うん、なんとなくだけどね。ダイくんもそうでしょ?」
「そうだけど、おれはこの島にずっといるから。イルはすぐにわかって凄いなぁ。」
「ふふん、これでもモンスターマスターだし当然だよ!ダイくんももしかしたら向いてるかもよ?」
「そうかな。でもどうせならおれは戦士とか勇者がいいなぁ。」
「えー、確かに勇者はかっこいいと思うけど、モンスターマスターだっていいところが沢山あるんだからね!」
ダイも魔物のことは好きだが、彼らに指示をして戦うよりは自分で戦う方が性に合っていた。しかしイルはダイの返答が不満だったらしく、小さく頬を膨らませていた。そしておもむろに「そうだ!」と手を叩いて言った。
「ダイくん、暇だったらわたしと戦ってみようよ!」
「えっ?おれとイルが?」
「そう!モンスターマスターのいいところを見せてあげる!そうだなぁ、3対3で、わたしは3匹魔物を探してきて、ダイくんはお供に2匹魔物を連れて来るってのはどう?」
「へー、ちょっとおもしろそうかも。いいよ、やろう!」
「そうこなくっちゃ!じゃあ30分くらいしたらここに集合で!」
そうしてイル達はがさがさと森へ入っていった。そして30分後、それぞれが魔物を連れて戻ってきた。
ダイが連れてきたのは島の力自慢であるゴーレムと、素早さが自慢のキラーパンサーであった。以前ニセ勇者一向に攫われたゴメを取り戻す際にも同行していた2匹である。
一方でイルが選んだのはドラキー、ももんじゃ、ベビーサタンの3匹であった。ダイのチームに比べ頼りない印象の3匹だが、イルは自信ありげな表情を浮かべている。
互いのチームが向かい合ったところで、審判役に呼ばれたブラスが号令をかける。
「お互いにやりすぎないよう気をつけるんじゃぞ。それでは、始め!」
「がうがうっ!」
真っ先に飛び出したのは、ダイチームのキラーパンサーだった。疾風のごとくももんじゃに飛びかかろうとしたが、その時イルが叫んだ。
「どらきち、『ドルマ』!」
「がうっ!?・・・クーン。」
横から飛んできた闇の魔力弾が直撃し、キラーパンサーが地面に転がった。ブラスによって撃破判定が下され、ダイチームは早々に不利に陥った。
「今のは呪文!?いつの間に!?」
「ふふふ、ドラキーがドルマをすぐに覚えるのは基本だからね。予想通りちょっと教えたらすぐに出来ちゃった。今度はダイくんに『ドルマ』!」
「くっ、でもこれくらいなら!はぁぁっ!」
「流石っ!でも甘いよ、ももたん、『すなけむり』!」
「うわっ、目がっ!」
続けてドルマを放つが、ダイは素早くそれをかわし、呪文を唱えた後の隙だらけなドラキーへと向かった。しかしももんじゃによって巻き上げられた砂が目に入り、ダイがドラキーへ振り下ろした木の棒は空を切った。
別でベビーサタンへ殴り掛からんとしていたゴーレムも『すなけむり』の影響を受けうまく攻撃が当たらない。もたもたとしているうちに、ベビーサタンの『イオ』を足に受け膝をつき、やはりブラスによって撃破判定を下されてしまう。
一方で1人になったダイはぼやける視界の中攻撃を繰り返し、砂煙を生み出し続けるももんじゃをようやく倒すことに成功した。
2対1とはいえ、視界が回復したダイが有利かと思われたその瞬間、イルの口から信じられない言葉が放たれた。
「ベビタン、『イオナズン』!」
『イオナズン』と言えば、ハドラーも用いていたイオ系の上級呪文である。そんな馬鹿な、とダイは思ったが、指示を受けたベビーサタンのフォークの先には、黄色く光る魔力の塊が形成されていた。
まさか本当に、と思ったダイは、反射的に腕で顔を覆って身構えた。そしてフォークの先の魔力は輝きを増し、
ボスンッ!とその場で爆発した。
「へっ?」
顔をあげたダイの視線の先には、自分の魔法の暴発で黒焦げになったベビーサタンがいた。そして気の抜けたダイに、こっそり回り込んでいたドラキーが飛びかかった。
「キーーッッ!」
「うわぁ!!」
「そこまでっ!イルの勝ちじゃ!」
「やった!」
ブラスの声でダイの撃破判定がなされ、勝利が決まったイルはぴょん、と跳ねて喜んだ。そのまま自分のチームの魔物たちを労るイルに、恨めしそうな目をしたダイが声をかけた。
「イル〜。最後のはずるいや!」
「あはは!ごめんね、ドラきちの『ドルマ』で驚いてたし、多分信じてくれるんじゃないかなって思ったから試しちゃった。」
「もー、おれ本当に焦っちゃったよ。」
「ごめんってば。それでどう?モンスターマスターと戦ってみて。」
「うーん、思ったより姑息!!」
感想を聞かれたダイは率直な今の思いを述べ、その言葉にイルはガーン、とした表情を見せた。割と自業自得ではあるが、自覚がなかったイルは本気でショックを受けているようだった。
いや、でも、となんとか挽回しようとするイルの姿に、ダイは少し溜飲を下げて言った。
「まあでも、凄いなって思ったよ。戦いながらあんなに色々考えるなんておれにはできないや。」
「そんなことないって!ダイくんもちょっと勉強すればきっとできるようになるよ!」
「そうかなぁ。まあそれならちょっとくらい勉強してみたいかも?」
「いいと思う!何からがいいかな、まず魔物には8つの系統があってね・・・」
ダイが興味を持ったことが嬉しいのか、イルは前のめりに魔物についての知識を話し出した。ダイも集中してそれに耳を傾けた。
そして10分後。
「や、やっぱりおれはモンスターマスターはいいかな。」
「あ、あれー?」
テンションの上がったイルの早口解説に疲れきったダイと、やはり自覚のないイルなのであった。