ズガン、という音がして、ダイは勢いよく起き上がった。慌ててベッドから降り、窓から外を覗くと、そこでは驚くべき光景が広がっていた。
「魔物だ・・・!街が襲われてる!」
ダイが叫ぶと、呑気に目を擦っていたヴェルザーも跳ね起き、ダイの肩口から外の様子を伺う。そこでは『ガーゴイル』や『ヘルコンドル』が次々と飛来し、市街地へと攻撃を加えていた。
ダイはすぐに装備を整え、窓から街へ飛び降りようとした。しかしそこで、じっと外を見つめ続けていたヴェルザーが、ダイを呼び止めた。
「ちょっと待て、何かがおかしい・・・。」
「おかしいって・・・そんな事言ってる場合じゃないよ!みんなを助けなきゃ!」
「いや、ヴェルザーの言う通りだ。一度立ち止まって冷静に見てみろ、ダイ。」
反論するダイを諌めたのは、別室で装備を済ませていたらしいバランだった。その目は真剣そのもので、それに射抜かれたダイは昂っていた感情が萎んでいくのを感じた。
ダイは深呼吸して、再び窓の外をじっと見つめた。数秒後、ダイもその違和感に気付く。
「空が青い・・・。それに、襲われてるのは人間だけじゃない・・・?」
「そうだ。ちょっと前まで空は真っ赤だったはずなのに、今は異変の前に戻ってやがる。それに魔物同士の同士討ちまで起きていると来たもんだ。ただの襲撃とは思わない方が良さそうだぜ。」
違和感の正体が明らかになり、ダイは冷静さを取り戻した。しかし、状況は待ってはくれない。窓から見下ろすダイの目の前で、1組の親子が魔物に襲われたのだ。
母と娘の2人組は必死に逃げるが、娘がふいに地面に躓いて転んでしまう。その隙を逃さず襲いかかる魔物の姿を見て、母親は娘に覆い被さり凶刃から我が子を守ろうとした。
間に合わない、ダイはそう思った。しかしその時、どこからか飛来した赤い闘気の渦が、母娘に襲いかかる魔物を貫いた。
呆然とする母娘の前に、それを成した者がズシン、と音を鳴らして立ちはだかる。頼もしい姿で敵を威圧するその者に、ダイが喜びのこもった声で声をかけた。
「クロコダイン!」
「むっ、ダイか!お前もここに来ていたのだな。」
「ついさっきね。それより、一体何が起こってるの?」
「説明が難しいな・・・。そうだ、ついて来い。」
頭を悩ませたクロコダインは、最終的にダイ達についてくる様に促した。それに頷き、ダイは窓から飛び降りて跡を追った。バランとヴェルザーもそれに続く。
敵を薙ぎ倒しつつ、クロコダインが向かったのはロモス城だった。以前百獣騎団によって破壊されたはずの城壁は元の姿を取り戻していたが、門番はクロコダインの姿を見ると迷わずに城門を開けた。
城の内部では、兵士と魔物達が忙しなく駆け回っていた。やはりここでも、人間と魔物の競り合いは起こっていない。
不思議に思いつつ、ダイはクロコダインの後をついて行き、そして玉座の間へと辿り着いた。そこにはロモス王と、見知らぬ、どこか気品のある魔物が並び立っていた。
ダイを連れたクロコダインがふたりの前にたどり着くと、魔物が口を開いた。
「早い帰還だな。それに・・・随分と刺激の強い客を連れている。」
「そう警戒するな。このダイはロモス王も認めた 『勇者』だ。バランとは以前は対立していたが、今では手を取り合う間柄ゆえ心配は要らん。」
「・・・オレが言っているのは、その2人ではなくそこの石の竜のことだ。」
その魔物はダイとバランに小さく頭を下げた後、ヴェルザーのことをじっと見つめてそう言った。視線を受けたヴェルザーは怪訝そうな唸り声を上げた後、あっ、と気づいて言った。
「お前、確か魔界で国を率いていた奴だな。こんなとこで何してやがる。」
「それはこちらの台詞だ、『冥竜王』よ。封印はどうした?」
「あの『大魔王』気取りの小娘の仕業だよ。どうせお前もそうだろ?」
「ああ、その通りだ。まさか『冥竜王』までもがこの地上に解き放たれているとは思わなかったがな。」
勝手に会話を進めるふたりに、周囲の者はついていけない表情を見せる。それに気づいたヴェルザーは、んんっ、と咳払いして話し始めた。
「悪いな、こっちの話だ。だがお陰で、何が起きているか大体見当がついたぜ。」
「本当!?」
「ああ、こいつがそんな素直に人間と協力できるとは思えねえ。それに、さっきから感じてる違和感・・・おそらく、ここはオレ達がいた世界とは違う場所だ。」
ダイ、クロコダイン、バランの3人はその話を聞き、驚きで目を見開いた。さらに魔界の国主と称された魔物が、とどめとばかりに口を開いた。
「正解だ。さらに正確に言えば、あの小娘が『創った』世界だ。」
「世界を、創った・・・?」
「・・・ダイ。あのイルとかいう小娘は、お前の知ってる高さには居ねえのかも知れねえぞ。」
スケールの違う話に戸惑うダイ。それを横目に、ヴェルザーは僅かに恐れを含ませた声でそう呟いた。