イルとダイの大冒険   作:NBRK

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第14話 神はいない

 

「ぐぎゃあ!」

 

 

 そんな情けない声と共に、ダイの剣を受けた幻魔王は倒れ、そして青い光となって消滅した。

 

 それを見送ったダイ達は、ふう、と乱れた息を整え、それぞれの武器を収めた。

 

 

「強かった・・・けど、少しあっけなかったわね?」

 

「ああ。強かったが、普通戦いとなれば己の死力を尽くして戦うものだ。それが目的を果たすためか、己の死を恐れるが故かはそれぞれだが・・・奴にはそう言った必死さがなかったな。」

 

 

 マァムとクロコダインは、顔を見合わせてそう話し、不思議そうな表情を浮かべた。そして黙って青い光を見送っているダイに声をかけた。

 

 

「ねえ、ダイはどう思った?」

 

「・・・え?あ、ごめん、何だっけ?」

 

「大丈夫・・・?そういえば、敵もそうだけど、ダイも様子が変だったわね。何というか、集中できてない感じがしたわ。」

 

「ごめん。そう見えたんだね。ちょっと気になることがあって・・・気をつけるよ。」

 

 

 ダイはそれだけ言って、ばつが悪そうに目を伏せた。悩みがあるのは明白だが、その言葉にはどこか壁を作るような雰囲気があり、マァムは踏み込むのを躊躇ってしまう。

 

 それでも、と口を開こうとした瞬間、突然轟音が鳴り響き、ぐらぐらと地面が揺れ始めた。ぱたぱたと飛んで辺りを調べていたヴェルザーが焦った様子で叫ぶ。

 

 

「やべぇ、逃げるぞ!あいつが倒れたことで狭間が崩壊を始めやがった!地上まで急げ!」

 

 

 叫びに応じて、ダイ達は瞬時に出口へと向かって駆け出した。ぱらぱらと天井から瓦礫が落ちてくる中、一行は全力で地上を目指し走り抜ける。

 

 そして、ダイ達が外へ出た直後、ズズン、という音と共に洞窟は完全に崩落し、その痕跡を完全に消した。ぜえぜえと肩で息をする中、苦しげに下を向いていたダイはふとある事に気付き顔を上げた。

 

 

「(そうだ、ネイル村は・・・。)」

 

 

 ダイが辿り着いた時、ネイル村は既に滅ぼされた後だった。そして助けた時の様子からして、マァムはおそらくその事を知らない。

 

 マァムが受けるだろうショックを想像して、ダイは己の振る舞いを恥じた。己の悩みに没頭して、仲間のケアをする事が頭から抜け落ちていた。

 

 一足早く息を整えていたマァムは、ダイに背を向けて立ち尽くしている。ダイは慎重にその背中に声をかけた。

 

 

「その、マァム・・・。本当にごめん、おれ、間に合わなかったんだ・・・。レイラさんもきっと・・・。」

 

「えっと・・・ダイ、何の話かしら?」

 

「えっ?・・・えっ!?」

 

 

 しかしダイの予想に反して、マァムの口調は悲しみに満ちたものではなく、むしろダイの言葉に困惑した様子だった。ダイは伏せた顔を上げて、そして見えた景色に言葉を失った。

 

 

「あらあら、帰ってたのね、マァム。それにダイ君も。」

 

「母さん!」

 

「おいおい、そう来やがったか・・・。」

 

 

 マァムに声をかけたのは、村ごと姿を消していたはずのマァムの母、レイラだった。そして彼女の歩いてきた方向には、かつての姿そのままのネイル村が、心配したダイを嘲笑うかのように存在していた。

 

 クロコダインも頭に疑問符を浮かべ、ヴェルザーも流石に驚いた様子でぶつぶつと何かを呟いている。

 

 さらによく見れば、元通りと見せかけて、村の中には魔族の姿が散見される。その事実が、さらにダイの困惑を悪化させた。

 

 

「どういう、ことなのさ・・・。」

 

 

 ダイの言葉に答えてくれる者は、そこにはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさま、デスタムーア。」

 

「ふむ、中々面白い余興だったのう。もう少し遊んでやってもよかったが・・・。」

 

「わかってるよ、わたしのお願いを聞いてくれたんだよね?ありがとう、やりすぎないでくれて。」

 

 

 ヘルクラウド城の玉座の間へと帰還したデスタムーアは、ちょこんと座るイルと楽しげに談笑していた。イルの側に立つゾーマもまた、愉快そうにクククッ、と笑って口を開く。

 

 

「しかし、『ぐぎゃあ!』とは傑作だったな。案外余裕がなかったのではないか?」

 

「うるさいわい!わしとて好きでやっとる訳ではないわ!あの忌まわしい魔神のせいで、癖になっておるのかのう。」

 

「ああ、そういえば向こうでは模擬戦でよく奴と戦っていたか。道理であんな・・・ククッ、すまんな。」

 

 

 ゾーマの揶揄いに、デスタムーアが額に青筋を浮かべる。不穏な空気が流れたところで、同じくイルの側に控えていたオルゴ・デミーラがごほん、と咳払いをして話題を変えた。

 

 

「ところで・・・楽しむのはいいが、結局計画は成功したという事で間違いないか?」

 

「うむ。万事問題はないぞ。無事に『夢の世界』はわしの敗北とともに崩壊し、同時に夢の世界の精神は現実世界の精神と融合され、新たな形へと生まれ変わった。」

 

「そっか。それなら後はしばらく様子を見るしかないね、『価値観の書き換え』が上手くいったかどうかを。」

 

 

 待つしかない、と口では言ったものの、イルの仕草からはどこか落ち着かない様子が見て取れる。それを見たゾーマが、ふむ、と顎に手をやって呟いた。

 

 

「しかしまあ、随分と回りくどいやり方をしたものだな。物質世界では肉体を傀儡化し、強制的に人と魔族を共存させ仕組みを整えた。そして精神世界・・・『夢の世界』で、全人類と魔族の精神に細工をし、自主的に共存、共闘した経験を積ませた。そして最後にそれらを統合する、か。」

 

「協力したわしが言うのもアレだが、やはり過保護なやり方だのう。お主がそこまでやる価値が、本当にこの世界にあるのか?」

 

「あるよ。友達の・・・ダイ君のためだもん。」

 

 

 イルはその問いに即答した。目を閉じて浮かべるのは、この世界で友誼を結んだ沢山のものたちの姿だった。

 

 アバンにポップ、マァム、ヒュンケルといった人間の仲間。クロコダインやモルグ、ザムザといった魔族の仲間。そしてそのどちらにも属さない、『竜の騎士』のふたり。

 

 その全てを恒久的に救うには、種族を超えて手を取り合うことが必要だと、この世界の歴史が証明している。そして、そんな不可能を可能にすると、イルはかつてバーンの前で宣言した。

 

 その答えが、イルの今の行動に現れている。イルの感情に呼応するようにして、メラメラと赤黒い魔力がその身体から立ち昇った。

 

 

「好き放題やってみたけど、わたしを止める存在はいない。この世界に神さまはいないみたいだね。だから、わたしはこの世界の歪んだ仕組みを正すよ。それが、よそ者のわたしが出来る最大限のことだから。そう、わたしはこの世界の神になる。」

 

 

 イルの放った大言壮語に、魔王達は心がビリビリと震えるのを感じた。

 

 イルは人間だ。それも、脆弱な子供にすぎない。しかし、それでも名だたる大魔王達が従う理由が、今のイルの姿にこれ以上なく詰まっていた。

 

 果てなき野望。手段を選ばずそれを成す力を求める姿勢。その全てが、魔族の美学をこれでもかと擽るのだ。

 

 イルは進む。無意識に統率を強めながら。

 

 例えその先に待つ結末が、誰にも理解されなくとも。




最終章も、ようやく次から終盤戦に突入です。

週一投稿になり進みが悪くて申し訳ありません。もう暫く、イルとダイの戦いにお付き合いいただければ幸いです。
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