イルとダイの大冒険   作:NBRK

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第18話 切腹

 

 ダイとバラン、ヴェルザーはロモスを去り、旧アルキード王国の地へと向かった。

 

 文明の滅んだその地に、火を起こすものは今やいない。そこは闇に堕ちた世界の中でも、最も暗く不気味な場所と化していた。

 

 そしてその上空に浮かぶ、不気味な廃城。特に妨害されることもなく、ダイ達はその城へと降り立った。

 

 中へ入っても、周囲に敵の気配はない。感じられるのは城の奥深くから溢れ出る、大いなる闇の気配ばかりであった。

 

 

「ダイ、こりゃ随分な歓迎っぷりだぜ。お前の考えをよく読んでやがる。」

 

「イルはそういう子なんだよ。だから、ちゃんと話したいんだ。」

 

「・・・ダイ、そろそろ気を引き締めろ。」

 

 

 階段を降りつつ、バランがそうダイに声をかける。その言葉の通り、闇の気配はまた一段と強くなる。

 

 そして一際大きな扉の前に、ダイ達は辿り着いた。慎重に扉に手を触れると、ゴゴゴ、と音を立てつつそれはひとりでに開いた。

 

 扉の先は、もはや一寸先も見えない闇に覆われていた。しかしダイ達が歩みを進めると、その来訪を歓迎するかのように、背後に青い炎が灯されていく。

 

 しばらく進んだ後、ダイが足を止める。青い炎がダイを追い越し、目の前の存在を照らし出す。

 

 それはクックック、と笑い声をあげ、ダイに向かって語りかけた。

 

 

「勇者ダイよ、なにゆえもがき、生きるのか?滅びこそわが喜び、死にゆくものほど美しい。さあ、わが腕の中で、息絶えるがよい!」

 

 

 大魔王ゾーマはそう叫び、ダイに向かって突進した。バランがダイを庇おうとするが、その速度は凄まじくとても間に合いそうにない。

 

 ダイは反応できていないのか、剣すら構えずに立ったまま、その突進を眺めている。ダイの前に辿り着いたゾーマが腕を振り上げ、それを振り下ろし、

 

 その腕を、ダイの顔のすぐ横でぴたり、と止めた。

 

 

「・・・何故動かない?お前の目は儂の動きを捉えていた。敵わぬとしても、儂と打ち合うことは可能なはずだ。まさか、諦めたとでも言うまいな?」

 

 

 冷たい殺気に晒されながらも、ダイは表情を崩さず真っ直ぐにゾーマを見つめていた。ピリピリとした静寂の中、ダイがゆっくりと口を開く。

 

 

「お前が手を止めることはわかってたよ、ゾーマ。」

 

「・・・何じゃと?」

 

「だって、イルはこの世界なんて欲していないから。イルが望んでいるのは、人と魔族が手を組んだ今の状態で、おれが魔王を倒した英雄になること。・・・そうやって、おれやバランを救おうとしてる。だから、おれを殺すことは絶対にないはずだ。」

 

 

 ゾーマはダイの言葉を聞いて、無言でその手を下ろした。そして数歩下がった後、フハハ、と腹を抱えて笑い始めた。

 

 

「流石に気付くか。いや、イルも気付かれないとは思っていなかっただろうな。その通り、儂はお前を殺すことはできん。適当に楽しんで敗北するのが役目よ。」

 

「・・・。」

 

「記憶が消えていないのは、純粋にお前達の力がこの世界では飛び抜けていただけのこと。故に儂との戦いでお前達の力を消耗させ、イルに関わる記憶を今度こそ抹消する。そうやって、お前が英雄になった、という事実だけを残そうとしたのだ。」

 

 

 今やゾーマから殺気は消え、愉快そうに答え合わせを進めていた。ひとしきり事情を語り終え、ゾーマは再びダイに問いかける。

 

 

「さて、剣を取れ、勇者ダイよ。お前を殺さぬとは言ったものの、他のものに関しては別だ。イルは気にしているが、儂からすればこの世界の命などどうでもよい。お前が戦わなければ、それ相応の命が失われることになろうぞ。」

 

「・・・いや、そうはしないよ。」

 

「なに?」

 

 

 ダイはそう言いつつ、背中の『ダイの剣』ではなく、腰からパプニカのナイフを引き抜いた。訝しげな表情をするゾーマ。そして、ダイの次の行動を見て顔色を変えた。

 

 ダイはナイフを両手で握り、その刃先を自分の腹に向けたのだ。

 

 

「待て!何のつもりだ!」

 

「イルの考えはわかったよ。でもおれは納得してない!だから、イルと会わせろ、ゾーマ!」

 

「儂を脅そうと言うのか・・・?正気の沙汰とは思えんぞ、馬鹿な真似はよせ!」

 

「おれは本気だよ・・・!何もかもお膳立てされて、それを素直に受け取って、恩人のことも忘れて生きていくなんて、おれには出来ない。こんな歪な結末がおれのせいだって言うのなら、おれは責任を取らなきゃいけない。」

 

 

 ダイはナイフを持つ手にぎゅっと力を込めた。背後に控えるヴェルザーとバランも止める様子がない。まさか、この決断をこのふたりは受け入れたとでもいうのか。

 

 ゾーマが思考を回す中、ダイは小さく息を吸い、瞳に決意を込めた。そして遂に、ナイフが動き出す。刃がダイの腹部に向かって真っ直ぐに進む。

 

 

「ッ!!!」

 

 

 そして、ズブリ、と刃が食い込む音が響き渡った。

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