ダイとバラン、ヴェルザーはロモスを去り、旧アルキード王国の地へと向かった。
文明の滅んだその地に、火を起こすものは今やいない。そこは闇に堕ちた世界の中でも、最も暗く不気味な場所と化していた。
そしてその上空に浮かぶ、不気味な廃城。特に妨害されることもなく、ダイ達はその城へと降り立った。
中へ入っても、周囲に敵の気配はない。感じられるのは城の奥深くから溢れ出る、大いなる闇の気配ばかりであった。
「ダイ、こりゃ随分な歓迎っぷりだぜ。お前の考えをよく読んでやがる。」
「イルはそういう子なんだよ。だから、ちゃんと話したいんだ。」
「・・・ダイ、そろそろ気を引き締めろ。」
階段を降りつつ、バランがそうダイに声をかける。その言葉の通り、闇の気配はまた一段と強くなる。
そして一際大きな扉の前に、ダイ達は辿り着いた。慎重に扉に手を触れると、ゴゴゴ、と音を立てつつそれはひとりでに開いた。
扉の先は、もはや一寸先も見えない闇に覆われていた。しかしダイ達が歩みを進めると、その来訪を歓迎するかのように、背後に青い炎が灯されていく。
しばらく進んだ後、ダイが足を止める。青い炎がダイを追い越し、目の前の存在を照らし出す。
それはクックック、と笑い声をあげ、ダイに向かって語りかけた。
「勇者ダイよ、なにゆえもがき、生きるのか?滅びこそわが喜び、死にゆくものほど美しい。さあ、わが腕の中で、息絶えるがよい!」
大魔王ゾーマはそう叫び、ダイに向かって突進した。バランがダイを庇おうとするが、その速度は凄まじくとても間に合いそうにない。
ダイは反応できていないのか、剣すら構えずに立ったまま、その突進を眺めている。ダイの前に辿り着いたゾーマが腕を振り上げ、それを振り下ろし、
その腕を、ダイの顔のすぐ横でぴたり、と止めた。
「・・・何故動かない?お前の目は儂の動きを捉えていた。敵わぬとしても、儂と打ち合うことは可能なはずだ。まさか、諦めたとでも言うまいな?」
冷たい殺気に晒されながらも、ダイは表情を崩さず真っ直ぐにゾーマを見つめていた。ピリピリとした静寂の中、ダイがゆっくりと口を開く。
「お前が手を止めることはわかってたよ、ゾーマ。」
「・・・何じゃと?」
「だって、イルはこの世界なんて欲していないから。イルが望んでいるのは、人と魔族が手を組んだ今の状態で、おれが魔王を倒した英雄になること。・・・そうやって、おれやバランを救おうとしてる。だから、おれを殺すことは絶対にないはずだ。」
ゾーマはダイの言葉を聞いて、無言でその手を下ろした。そして数歩下がった後、フハハ、と腹を抱えて笑い始めた。
「流石に気付くか。いや、イルも気付かれないとは思っていなかっただろうな。その通り、儂はお前を殺すことはできん。適当に楽しんで敗北するのが役目よ。」
「・・・。」
「記憶が消えていないのは、純粋にお前達の力がこの世界では飛び抜けていただけのこと。故に儂との戦いでお前達の力を消耗させ、イルに関わる記憶を今度こそ抹消する。そうやって、お前が英雄になった、という事実だけを残そうとしたのだ。」
今やゾーマから殺気は消え、愉快そうに答え合わせを進めていた。ひとしきり事情を語り終え、ゾーマは再びダイに問いかける。
「さて、剣を取れ、勇者ダイよ。お前を殺さぬとは言ったものの、他のものに関しては別だ。イルは気にしているが、儂からすればこの世界の命などどうでもよい。お前が戦わなければ、それ相応の命が失われることになろうぞ。」
「・・・いや、そうはしないよ。」
「なに?」
ダイはそう言いつつ、背中の『ダイの剣』ではなく、腰からパプニカのナイフを引き抜いた。訝しげな表情をするゾーマ。そして、ダイの次の行動を見て顔色を変えた。
ダイはナイフを両手で握り、その刃先を自分の腹に向けたのだ。
「待て!何のつもりだ!」
「イルの考えはわかったよ。でもおれは納得してない!だから、イルと会わせろ、ゾーマ!」
「儂を脅そうと言うのか・・・?正気の沙汰とは思えんぞ、馬鹿な真似はよせ!」
「おれは本気だよ・・・!何もかもお膳立てされて、それを素直に受け取って、恩人のことも忘れて生きていくなんて、おれには出来ない。こんな歪な結末がおれのせいだって言うのなら、おれは責任を取らなきゃいけない。」
ダイはナイフを持つ手にぎゅっと力を込めた。背後に控えるヴェルザーとバランも止める様子がない。まさか、この決断をこのふたりは受け入れたとでもいうのか。
ゾーマが思考を回す中、ダイは小さく息を吸い、瞳に決意を込めた。そして遂に、ナイフが動き出す。刃がダイの腹部に向かって真っ直ぐに進む。
「ッ!!!」
そして、ズブリ、と刃が食い込む音が響き渡った。